表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
611/717

611 プレートアーマー

「マイル、収納魔法で保管してもらっている私のお金、出してくれないか?」

「え?」

 メーヴィスの突然の言葉に、怪訝そうな顔をするマイル。

 メーヴィスが言っている『私のお金』というのは、この大陸に来てからみんなで稼いだお金のうちの自分の取り分、という意味ではなく、メーヴィスが自分の邸を出る時に持ってきた、個人のお金のことである。


 勿論、ここに来てからみんなで稼いだお金もかなりの金額になっており、当然それを要求することも可能なのであるが、ここではメーヴィスは絶対安全な金庫としてマイルに預かってもらっている、自分の個人的なお金を使うつもりのようであった。

 メーヴィスも収納魔法を使えるようになったが、どうも本人としてはまだ自信がないのか、それとも『赤き誓い』は昔から全員がマイルを金庫代わりにしているからか、巾着袋に入れておく分以外はマイルの収納に、という習慣が抜けていないようである。


「……あ、勿論、構わないですよ。というか、私はただメーヴィスさんのお金を預かっているだけですからね。

 で、いくら必要なんですか?」

「……金貨100枚くらいかな……」

「「「なっ!!」」」

 金貨100枚といえば、ここでの金銭感覚では日本での1000万円に相当する。

 その、あまりの額に、マイルだけでなく、レーナとポーリンも驚愕の声を漏らした。

 ……特に、ポーリンが。


「メ、メメメ、メーヴィス、な、ななな、何を……」

 共有のパーティ予算ではなく、メーヴィスの個人資産だというのに、ポーリンの動揺が大きすぎる。

「いえ、ポーリンさん、それはメーヴィスさんの自由でしょう。

 いつも無駄遣いをすることのないメーヴィスさんが、それだけのお金が必要だと判断されたということです。これは、私達が口出しすることじゃありませんよ。

 ……で、何に使うのですか?」

 マイル、好奇心剥き出しである。


「……あ、ああ、実はプレートアーマーを買おうかと思って……」

「「「プレートアーマー?」」」

 マイル達3人の声が揃った。


 プレートアーマー。

 全身鎧のことである。

 フルプレートアーマーという言葉があるが、あれは比較的新しい造語であり、『プレートアーマー』というだけで、全身甲冑を意味する。

 価格は高い。メチャ、高い。地球での価値でたとえるなら、自動車並みの金額である。

 安物は普通自動車並みの価格であるが、高級品はポルシェやフェラーリ並みである。

 伯爵家の娘であるメーヴィスが身に付けるものであれば、金貨100枚なら安い方であろう。


「……実は、気付いたんだよ! 私、収納魔法が使えるようになっただろう? なら、何の苦労もなくプレートアーマーを持ち運ぶことができる、ってことに!!」

「「……ケッ!」」

 急に不機嫌になった、レーナとポーリン。


「騎士と言えば、プレートアーマー!

 だけど、ハンターは遠出するし、森や荒れ地、沼地や山岳部も移動する。そんなところに重い鎧を持って行くわけにはいかないし、装着に時間がかかるし、ひとりじゃ着けられない。従者が最低でもふたりは必要だ。だから、せっかく御使い様(マイル)から聖騎士に任命されたけど、プレートアーマーのことは諦めていたんだ。しかし……」

「しかし?」


「気付いたんだよ、収納魔法があれば、問題ないんじゃないか、って……」

「「「あ……」」」


「収納魔法を使えば、持ち運びは問題ない。特定のポーズで、装着したままの状態で収納して、取り出す時に同じポーズを取っておけば……」

「「「あ…………」」」

 メーヴィスが言わんとしていることを理解し、あんぐりと口を開けるマイル達3人。


「そう! 以前マイルがポーリンで試そうとした、『防具マン』システムだよ!

 あれからヒントを得たんだ!」


『防具マン』システム。

 それは、以前マイルがみんなの防御力を上げようとして色々と考え、試行錯誤した研究成果のひとつである。

『防具・ゲット・オン!』の決め台詞と共にマイルの収納アイテムボックスから取り出された防具が、転送により装着されたかのように自動的に装備されるという、あの、画期的なシステムである。

 ……ボツにされたが……。


 なぜあの時にポーリンで試したかというと、……マイルが『装着時に、胸が揺れないと……』とかいう、よく分からない謎の拘りを主張したからである。

 そして、体力がなく運動神経が千切れていると言われているポーリンは、装着した防具の重さで、歩くどころか立つことすらできなかったのである。


 プレートアーマーは、鎖帷子チェーンメイルと合わせて、軽いものでも30キロ近く、重いものだと40キロ以上ある。ポーリンには、絶対に無理であった。

 それに、プレートアーマーには、『重い』ということの他にも多くの欠点がある。

 動きにくい。兜のため視界が悪い。蒸れて暑い。冬場は凍るように冷たい。転ぶと自力で起き上がるのに時間がかかる。

 ……非力な者だと、自力では起き上がれなかったりする。そんな者が戦場で転べば、致命傷である。

 そして、輸送や装着に手間がかかる。


 しかし、収納魔法により輸送と装着の手間が全くかからないとすれば?

 戦闘開始の寸前に、一瞬で装着。転んだら収納し、立ち上がってから再度装着。

 戦う時だけの装着であれば、暑さや重さも、今のメーヴィスであれば耐えられる。

 しかも、メーヴィスには体内のナノマシンを使った身体強化魔法(本人は、『気』の力だと認識している)である『真・神速剣』と、ミクロスによるドーピング、『EX・真・神速剣』がある上、ナノマシンによる人体強化処置済みである。


「……行ける、かも……」

 マイル、メーヴィスの発想力に脱帽であった。

 そして、収納魔法のあまりの便利さを再認識させられ、悔しさのあまり歯噛みする、レーナとポーリン。

 ふたりも、毎晩訓練してはいるのである。

 特に、亜空間を開き、物の出し入れができるところまで進んでいるポーリンは、もう少しなのであるが……。

 そしてポーリンは、収納魔法のことだけではなく、金貨100枚という大金を使うということに、他人のお金であり自分には関係ないにも関わらず、なぜか酷く動揺するのであった……。


「……あ、でも、うまく行くかどうか、プレートアーマーを買う前に試験をしてみた方が……」

「「「確かに!」」」


     *     *


 そういうわけで、近くの森で試験をすることになった、メーヴィス。

 試験に使うのは、以前マイルが作って皆で装着試験を行った、あの『防具マン』である。

 皆にボツにされ、マイルのアイテムボックスに死蔵されていたそれが、再び日の目を見ることに……。

 装着試験に使われるだけであるが。


 そして、メーヴィスがマイルから受け取った自分用の試作アーマー、『防具マン』を装着し、収納魔法による着脱用のポーズ……カッコ良さではなく、毎回確実に同じポーズが取れるよう、単純な姿勢……を取り。

除装リリース!」

 しゅん!

 防具が、消えた。


「「「おおおおお!」」」

 マイルだけでなく、レーナとポーリンも、称賛の表情でメーヴィスを見詰めている。

 収納魔法のことは妬ましいが、メーヴィスがいつでも一瞬で頑丈なアーマーを着脱できるとなれば、『赤き誓い』の戦力は大幅に向上する。ここは、悔しいなどと言っている時ではなかった。


「凄いです、メーヴィスさん!」

 マイルの賞賛の言葉に、満面の笑みを浮かべるメーヴィス。

 そして……。

「じゃあ、装着するよ」

 そう言って、先程の除装時と同じポーズを取るメーヴィス。

「防具・ゲット・オン!」


 どこん!

「ぐはぁ!」


 現れた防具に弾き飛ばされて、地面に倒れるメーヴィス。

 そしてその上に、かなりの重量がある、金属製の試作防具が……。

「ぐえっ!」


(ナノちゃん、これって……)

【マイル様のアイテムボックスは、異次元空間ですからね。次元の位相をずらして移動させますから、我々のアシストがあれば収納も装着も可能です。ちゃんと装着した時の形で収納されていれば……。

 しかし、この世界のヒト種が使っております収納魔法は、異次元空間ではなく、ただの亜空間ですし、我々も出し入れの簡単な操作しかしておりません。

 ですから、収納時には剥ぎ取るような形で収納できても、取り出す時には……】

(あちゃー……)


「……マ、マイル、防具を退けて……。そ、そして、治癒魔法を……。

 ほ、骨が折れたみたい……」

「あわわわわ!」

 慌てて防具を収納し、メーヴィスに治癒魔法を掛けるマイル。




 こうして、メーヴィスの野望はくじかれ、プレートアーマー購入は断念されたのであった。

 そして、自分のお金でもないのに、100枚の金貨が使われることがなくなったことに、嬉しそうな様子のポーリンであった……。



6月14日(水)、いよいよ『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』アニメBD-BOX発売です!

書き下ろし小説を始め、様々な特典あり!

よろしくお願いいたします!(^^)/


そして、同じく『ろうきん』のAmazon|オーディブル《a u d i b l e》(朗読小説)6巻が、6月23日(金)に、配信開始!

『聞き放題プラン』と『ダウンロード配信(単品売り)』の、どちらでも可!

ナレーターは、平井祥恵さんです。もう、予約は開始されています。

家事や仕事をしながら聞ける。

目が悪くても聞ける。

疲れ目でも、眼を閉じたままでOK。

通勤時に。

寝る前に、ベッドに横たわって。

文字とは違う楽しみ方が……。


続巻を、どんどん制作中です。

『ポーション頼みで生き延びます!』と併せて、オーディオブックでミツハとカオルの活躍をお楽しみください!(^^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 1. プレートメールをパーツに分け関節部などに磁石を付ける 2. なんとかシューターに収納しておく 3. 掛け声とともに体から少し離して取り出す 4. 磁力で合体 換装パーツもだんだん増やし…
[一言] ナノちゃん謹製コンバットスーツ蒸着ができたら戦隊も夢じゃないのにね
[良い点] 聖闘士星矢みたいにパーツ毎に装着出来ると良いんだけどねえw ジャンプして四肢広げた状態でスポスポスポって。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ