608 拠 点 2
『赤き誓い』の休暇に、レーナ達には内緒の単独行動で、この大陸でメカ小鳥が所属する遺跡へと向かうマイル。
同行者は、案内役であるメカ小鳥と、同行というか何というか、いつもくっついているし常にそこら中にいる、ナノマシンだけである。
移動方法は、レーナ達には体験させるつもりがない、マイルひとりの時にしか使わない特殊な移動方法である、『重力の向きを垂直方向から水平方向に変更して、地面に対して水平方向へ落ちる』という反則技である。
……そう、いわゆる、『万有引力の反則』である。
「もうそろそろ、言われた距離を飛んだと思うんだけど……」
『針路ヲ右ニ2.3度』
「了解、右に2.3度、……ヨーソロー!」
そして更に、しばらく飛ぶと……。
『アソコ。アノ岩山ノ陰……』
どうやら、前方の岩山にカムフラージュされた入り口があるらしい。
まあ、ヒト種に見つかれば色々と揉め事が起きるであろうから、隠すのは当たり前であろう。
「ここか……、って、お出迎えが……。
まぁ、メカ小鳥ちゃんにも通信機能はあるか……」
先日、メカ小鳥が言っていたことを思いだしたマイル。
ゆっくり歩く者が外界への介入手段……手足となるスカベンジャーと、外部との通信手段……を手に入れ、そして管理者により行動範囲と可能業務範囲とロボットの製造個体数に関する制限が解除されたことを知ってから、既に半年以上。
……当然、水を得た魚のように、やりまくり、作りまくったに決まっている。
次の、世界の危機に備えて。
そして、管理者にお仕えするために……。
メカ小鳥の根回しのおかげか、侵入者と誤解されて迎撃されることもなく、無事着地したマイルは出迎えのロボット……何と、スカベンジャーではなく、魔物を模したらしき『メカコボルト』と『メカ角ウサギ』である……に案内されて、岩の隙間から地下へ。
作業用として造られるスカベンジャーではなく、目立たないように警戒や偵察を行うのが主任務であるなら、確かにどこにでもいて脅威度が小さい魔物の姿を模すのは論理的であろう。
メカ角ウサギも、可愛い姿をしていて、おそらく角からビームを出すに違いない、と考えているマイル。
そして勿論、最後の武器として、角ミサイルを発射するに違いない、と……。
マイルはメカコボルトとメカ角ウサギを心の中で『可愛い』と言っているが、あくまでもそれは『配慮した表現』である。
やはり、メカコボルトとメカ角ウサギも、メカ狼やメカ小鳥と同じ製作者によるデザインのようであった……。
「あ……」
そして、マイルは見つけてしまった。
入り口近くで、恨めしそうにマイルとメカ小鳥をジト目で見ている、あのメカ狼の姿を……。
マイルはそっと顔を伏せ、メカ小鳥も頭を引っ込めて、マイルの殆どない谷間の空間へともぐり込んだ。
……さすがに、少し気まずいようであった……。
* *
《管理者様、歓迎いたします!》
ゆっくり歩く者に較べ、遥かに浅い深度にいた、メカ小鳥の上司。
「……あの、長い時を越えるには、ここ、ちょっと浅すぎません? 侵入者とか、地殻変動とか……」
マイルは、こういうのは気になって仕方ない性格であるため、最初の言葉が、これであった。
《ここは、管理者様が御来訪されやすいようにと地表近くに造った、管理者様のための施設です。
この指令室の他、居住区画や食糧備蓄倉庫、その他様々なものが用意されています。
ここの私は入出力端末に過ぎず、本体はもっと地下深くにあります。
勿論、正規の戦闘指令室もそちらにあります》
「えええええ〜〜っ!!」
……どうやら、マイルの利便性……というか、マイルが来やすいようにというだけの理由で、この階層の施設が新たに造られたようである。
「……で、あなたとゆっくり歩く者さんとの関係は……」
《同じ、『時を越える者』計画の一部であり、対等の存在です。
今回、造物主様の御命令を遂行したこと、そしてほぼ機能停止していた私とこの基地を復旧させたことにより、現在は私の上位に位置しておりますが……》
「あ、そういう『貸し借り』による負い目、って概念があるんだ……。
でも、まぁ、存在的には同等、というわけか。
じゃあ、私との関係は?」
《管理者様として、この星系における我らの最高司令官です》
「お、おぅ……。『この星系』と来ましたか……」
この惑星、くらいまでは予想していたマイルであるが、もう少し規模が大きいようであった。
《はい、今後、失われた警備衛星網の再建後に、この惑星の衛星及び他の惑星やその衛星への基地建設、その他諸々の星系内活動が予定されておりますので……》
「えええっ! いや、異次元世界からの再侵攻に備えるのは分かるけど、それはこの惑星上の話じゃないの? どうして他の惑星まで……」
色々と疑問を呈するマイルが説明されたところによると、この惑星は先史文明が色々と資源を使ったため、鉱物資源の効率的な大量採掘は難しいということであった。
ドワーフ達が露天掘りで細々と採掘する程度であれば、金属含有率の低い小規模な鉱脈はある程度残っているため、この程度の文明を支えるくらいは問題ないらしい。
しかし、それは先史文明が『効率が悪く、採算が取れない』として無視したものであり、本格的な工業の発展を支えられるようなものではないらしいのだ。
少量の武器や防具、包丁や鍋、釜等は作れても、重工業の発展には厳しい、と……。
地下深くであれば、まだ残ってはいるらしい。
しかしそれは、そう簡単に人力による原始的な方法で採掘できるようなものではないらしかった。
採掘と運び出しにかかる労力。高温。空気の送り込み。破砕帯。
確かに、『時を越える者』とその配下達にとっては、不可能ではない。疲れを知らず、空気を必要とせず、利益が必要だというわけでもないので。
しかし、だからといって、もし彼らがどんどん採掘すれば。
この惑星の知的生命体にとっての未来が、完全に閉ざされる……。
ごく普通の鉱石を採掘するのに、地下4000メートルくらいから掘り出す必要があるとすれば。
現在地球においてさえ、金や稀少金属であればともかく、そんな深さから石炭や鉄鉱石を採掘する者はいないであろう。
坑道の長さではなく、深さが数千メートルなのである。坑道の長さがどれだけになることか……。
そして空気がなく、超高温。
もし『時を越える者』とその配下達が地表近くの資源を根こそぎ採掘し尽くしてしまったら、この世界の者達が産業革命を迎えることができなくなってしまうであろう。
「……だから、他の惑星で資源を採掘するわけか……。
確かに、みんななら水も酸素も必要ないし、温度変化にも強いし、現地で採掘した資源で修理部品や仲間を作れるし、動力源も現地調達できるか……。ヒト種の目も、自然破壊も気にする必要がないし……」
『時を越える者』の説明に、納得したマイル。
「あ、そうだ! 話を続ける前に、聞いておきたいことがあるの」
《はい、何なりと》
「あなたのこと、何て呼べばいいかな? 『時を越える者』っていうのは、あなたと同列の存在全ての呼び名でしょう? あなたという個体の呼び名を教えて欲しいの。
東の大陸の、あの個体のことは『ゆっくり歩く者』って呼んでいるけど、それも、どちらかといえば個体名じゃないよねぇ。……もう、私の中ではそれで定着しちゃったけど……」
《…………》
何やら、考え込んでいるらしき『時を越える者』。
そして……。
《『管理者マイル様の、一番の下僕』とお呼びください!》
「却下ああああァ〜〜!!」
お知らせです!
拙作、『ポーション頼みで生き延びます!』のスピンオフコミック、『ハナノとロッテのふたり旅』(https://x.gd/hCuzu)作者:小説版のイラストレーター、すきま先生……ニコニコ静画内無料Webコミック誌『水曜日のシリウス』連載中……が、5月22日から全話数無料公開です!
読み逃していた人も、このチャンスに、一気に最新話まで読み進めよう!!(^^)/
よろしくお願いいたします!(^^ゞ




