606 何か来た! 4
「……ってことは、何? この不気味鳥は、私達専属の『魔法の国から来た、マスコット』ってワケ?」
「……遺憾ながら……」
「魔法少女のマスコットって、もっと可愛いものじゃなかったですか?」
「……遺憾ながら……」
「せめて、もう少し何とかならなかったのかな。その、ほら、ビジュアル的に……」
「……遺憾ながら……」
もう、全員からの総突っ込みである。
前回は、ゆっくり歩くものへの案内役として来ただけであったから、見た目については誰も言及しなかった。……仕事相手への配慮として。
しかし、これからずっと自分達に随伴するとなれば、話は別である。
……まぁ、見た目は一応『小鳥』なので、魔物だと思われても、そう危険視されることはないであろう。飼い慣らしてペットにしている、とでも思ってくれるはずである。
だが、見た目が可愛いとかカッコいいとかいうならばともかく、この外見では……。
「マイル、この不気味鳥は、追い返すかアンタがテイムしたことにするか、どちらかを選びなさい!」
「……え?」
レーナに人差し指を突き付けてそう宣言され、きょとんとするマイル。
「コイツを飼っているのは私達の趣味だと思われるのが嫌なのよ! だから、アンタが個人的に飼っているということにしなさい、って言ってるのよ! 私達には関係なくて、アンタの趣味で、ってコトで!!」
「同じく!」
「私も、レーナの意見に賛同するよ!」
「えええええ!」
レーナに続き、ポーリンとメーヴィスからも非情の宣告が……。
「メカ小鳥ちゃん、おうちに帰る?」
『ソノ場合、存在意義を失ッテ、解体処分サレル……』
「えええええ! ……って、じゃあ、あのメカ狼さんは!」
「アレハ拠点警備ノ任ニ就イタ。私ト違ッテ、アレハ潰シガ利ク」
「あ、良かった……。罪悪感で眠れなくなるところでしたよ……、って、そんなこと言われたら、追い返せないじゃないですかっ! 脅迫と同じですよ、卑怯ですよっっ!!」
『ニヤリ……』
「誰にそんな反応プログラムされたのですかああああぁっっ!!」
「……仕方ないわね。仮採用にしてあげなさい」
「え?」
レーナが、何やら横から口出しをしてきた。
「しばらく様子見をして、役に立ちそうならペット枠で採用、邪魔になりそうなら帰ってもらう、ってことでいいでしょ」
レーナ、ここでツンデレ発揮であった。
ロボットというものがよく分かっていないレーナには、『追い返す』→『無能の役立たずとして解体される』と受け取られたのであろう。
そして、いくら不気味な見た目をしていても、人間と会話ができるだけの知能を持った無害なものが自分達が追い返したせいで解体されるというのは、寝覚めが悪い。
『嬉シイ、嬉シイ、感謝スル。サスガリーダー、優レタ判断力!』
胡麻を擂りまくるメカ小鳥であるが、『赤き誓い』のリーダーはレーナではなく、メーヴィスである。
『……ソシテ、頼ミガアル』
「唐突ですよっ! もう、採用確定ですかっ!
……でも、まぁ、言ってみてください」
マイルも、レーナが決めたなら採用決定だと思い、そのまま話を進めた。
『名前ガ欲シイ。今マデハシリアルナンバーデ呼バレテイタ。
ソシテココデ呼バレル「メカ小鳥」トイウ呼称ハトモカク、「不気味鳥」トイウノハ許容シガタイ』
「そりゃそうか」
「……悪かったわよ……」
レーナは、自分が悪かったと思えば、相手が小鳥であろうがロボットであろうが不気味鳥であろうが、ちゃんと謝れる子であった。
「マイル、当然のことだけど、アンタが名付けてあげなさい」
レーナの言葉に納得できない者はいない。なので、マイルが名付けることになったのであるが……。
問題は、マイルにはそういう才能が全くないことであった。
「う〜ん、名前ですか……。メカ小鳥だから、縮めて、『メカコ』。『メカドリ』……」
『…………』
「「「……」」」
メカ小鳥、明らかに不満そうである。
そして、人選を誤ったか、と後悔する、レーナ達。
「チカはマズいし、チコは『そのチはどこから湧いたんだ!』って責められるだろうし……」
「誰も責めないわよ! そして、どうして『チカ』はマズいのよ!」
「好きな名前を付ければいいのでは……」
「ワケが分からないよ……」
レーナ達の突っ込みはスルーするマイル。
そして……。
「いい名前を思い付くまで、暫定的に、『メカ小鳥(仮)』で!」
『ワカッタ。我慢スル……』
斯くして、『メカ小鳥(仮)』の試用期間が始まったのであった……。
「あ、メカ小鳥ちゃん、この近くにたくさんのスカベンジャーがいる拠点って、ある?」
『徒歩ノ人間ノ平均速度デ17日ノトコロ』
「う〜ん、人間が1日に歩けるのは、30キロくらいかなぁ。
それで17日だと、510キロくらい? 確か、東京〜大阪間が、直線距離で400キロ、道路や新幹線ルートだと500キロくらいだっけ?
クルマで時速100キロで高速道路を走れば5時間の距離かぁ。近いような気がしなくもないなぁ……」
『……休マズニ歩キ続ケテ』
「不眠不休ですかっ! それじゃ、人間は死んでしまいますよっ!!」
機械に睡眠や休憩というものはない。
ちゃんとそこを説明してくれただけ、メカ小鳥は人間というものを理解しており、優秀であった。
「人間は休憩時間を除いて1日に8時間も歩けば多い方ですし、坂道とかもありますし……。
不眠不休で坂道ロスを計算に入れなくて17日なら、実際にはその3倍、1500キロですよ!」
今までのマイルとメカ小鳥の会話には、レーナ達には意味が分からない単語がいくつかあったが、今更そんなことを気にするようなレーナ達ではない。まだ、何となくマイルが言おうとしていることが推察できるだけ、マシな方であった。
「気軽に行くには、ちょっと遠いわよね……」
「あ、ハイ。またいつか、そのうちに、ってとこですね」
レーナが言う通り、片道1500キロ、往復で3000キロの道のりは、徒歩か馬車しか移動手段がない『赤き誓い』にとっては、些か遠すぎた。どこかそちら方面へ移動する時についでに、というのであればともかく、ただそこへ行くだけのために往復するのは、あまりにも大変すぎる。
「まぁ、この街を仮の拠点にしている間は、行くのは無理だよねぇ」
メーヴィスが言う通りであった。
『赤き誓い』が移動する場合には……。
(まあ、休暇の時に私ひとりで『水平方向に落ちる』やつで移動すれば、大丈夫か……。
あれなら、日帰りも可能だし……)
そして、そんなことを考えているマイル。
マイルは、あの重力の方向を曲げて水平方向へ落ちるという移動方法は、自分ひとりでしか使わないと決めている。
さすがにレーナ達には刺激が強すぎるし、『赤き誓い』が移動手段としてあれを常用するようになるのは、あまりにも問題がありすぎると思ったので……。
そもそも、そんなに速く移動できる……情報が伝えられる……などということが貴族や王族に露見した場合、その軍事的・政治的利用価値を見逃してもらえるとは思えなかった。
なので、アレは秘密なのであった……。
『ポーション』小説版のイラストを担当していただいております、すきま先生による『ポーション』スピンオフコミック、『ポーション頼みで生き延びます! ~ハナノとロッテのふたり旅~』、第5話が講談社の無料webコミック誌『水曜日のシリウス』(ニコニコ静画内)にて更新されました。(^^)/
4月28日追記.
すみません、告知を忘れていました。
来週、再来週の2週間、恒例のGW休暇を取らせていただきます。
2回、お休みです。(^^)/