600 外 海 6
「そんなあぁ〜〜」
「そっ、そこを何とか!」
老人達が縋るが、マイルもここは譲れない。
「私達が同行するか、充分な強度を持った鋼鉄船がない限り、どうしようもないでしょう?
そして、私達はハンターですからずっとこの街にいるわけじゃないですし、頑丈な鋼鉄船の建造技術、造船所、技術者、予算、大量の鉄、その他諸々、どうやって用意するっていうんですか……」
「「「「…………」」」」
黙り込む、老人達。
さすがに、自分達が無茶を言っている自覚はあったようである。
それは、何十年も漁師をやっているのであるから、当然といえば当然のことであろう。
しかし、『分かっている』ということと、『諦めがつく』ということは、また別の話である。
老人達のあまりのしょんぼり具合に、居たたまれない様子の『赤き誓い』。
……そう、何だかんだ言っても皆、幼女と少年と猫と老人には弱いのであった……。
「……ああ、もう、分かったわよ! 私達がこの街を離れて遠くへ行くまでは、あと何回か付き合ってあげるわよ!
いいわね、みんな?」
「「「おおっ!!」」」
「「「「おおおおお〜〜っ!」」」」
『赤き誓い』の唱和に、喜びの声を上げる老人達。
みんなに合わせているが、マイルは、自分ひとりであれば『赤き誓い』がかなり離れた場所に拠点を構えてもなんとかなるな、と考えていた。
あの、重力制御による『水平方向に落ちる』という荒技を使えば……。
さすがに、レーナ達をその移動法で、というのは自重するマイル。
一週間くらいの休暇の時に自分ひとりで来て、港町でCランク上位かBランクくらいのハンターを4~5人雇えば、マイルがいれば、一隻ならば何とかなる。
それに、マイルの治癒魔法は、おそらくこの世界でトップの腕前である。もし雇ったハンターが海棲魔物に腕を食い千切られたとしても、何とかなるであろう。
それだけ派手な部位欠損だと、完治には一ヵ月くらいはかかるであろうが、ショボい治癒魔法しか掛けてもらえなかった場合、ただの骨折や靱帯損傷、内臓損傷とかでもそれくらいの安静期間は必要なので、文句を言う者はいまい。
……というか、涙を流して感謝してくれるはずである。
しかし部位欠損の修復は、『その噂が周囲に広まった場合』の面倒を伴う。
(その場合、部位欠損の目撃者には全員に固く口止めして、怪我をした姿を見せないようにそのパーティにはすぐに1カ月くらい遠征に出てもらう、とか……。
そして、怪我をした人は他のパーティメンバーが稼ぎに出ている間、ずっと宿に籠もっていてもらうとかすれば……。
あ、その間、変装もしてもらうか。そして、治ったら、何気ない顔をして戻ってくればいい。
私達『赤き誓い』は遠くにいることになっているし、私は光学的に変装ができるし、私の分はギルドを通さずに依頼主と直接契約する、自由依頼にすれば問題ないか。
漁村の人達が私の情報を売ることは、まずあり得ないだろうし……。
もし情報が漏れたら、二度とここには来なければいいだけのことだ。
……う~ん、でも、面倒だなぁ、部位欠損の怪我人を出すと……。
絶対に、重傷者は出さないようにしなきゃ……)
ずっと先のことまで考えて、色々と悩んでいたマイルであるが……。
「……ま、先のことは、その時に考えればいいか。それまでに状況が変わるかもしれないし。
その時までずっと悩んでいるより、悩むのはその数日前からにして、それまでは楽しいことだけ考えていた方がいいですよね!」
「……また、あんたはそう、いい加減なことを……」
「マイルちゃん、何を考えているのかは知りませんけど、何か約束をするのは、それを実現できる目途が立っている時だけですよ!」
「マイル……」
3人に胡乱な眼で見られ、俯くマイル。
「と、とにかく、『第二次攻撃隊発進ノ要アリト認ム』、というのは分かりました。また、その時になりましたら……、って、2〜3日後とか、4〜5日後とかに来ちゃ駄目ですからね!」
「「「「…………」」」」
「ああっ! あんた達、どうして眼を逸らすのよっ! さては……。
そんなに立て続けに大量納入すると、商業ギルドが困るでしょうが! 買い取ってもらえなくなるわよ!
少なくとも、今回の納入分が全部捌けて、小売り段階まで全て消費され、市場が次の入荷を受け入れられるようになってからよ!
せっかく狩ってきた海棲魔物や魚を無駄に腐らせるというのは、漁師としての矜持を傷つけることになるんじゃないの?」
「うっ、それは、確かに……」
マイルの指摘に眼を泳がせた老人達にレーナからの突っ込みが入り、それを認めざるを得ない老人達。
やはり、レーナが指摘した通り、そのあたりは漁師としては許容できないようであった。
海棲魔物はともかく、普通の魚は、漁師達にとっては自分達が生きるために『命を押し戴く相手』である。無為に腐らせるなど、到底許されることではないのであろう。
……そしてレーナ、ハンターギルドにはあまり配慮しないくせに、商業ギルドにはきちんと配慮しているようである。
『赤き稲妻』が壊滅した後、少女がひとりでハンターとしてやっていくために、虚勢を張り攻撃的にならざるを得なかったが、レーナは本当は他者に対する気遣いができる子なのであろう。
……レーナを馬鹿にしたり、自分が敵だと判断した者以外に対しては。
そして老人達は、何度も礼を言いながら村へと帰っていった。
マイルは、大金を持ち帰る老人達にもしものことがあってはと、村まで護衛しようかと思っていたのであるが、その必要はなかった。
老人達が、獲物を売った代金を村へ持ち帰ると思っていたマイル達であるが、老人達曰く、『そんな馬鹿なことはしない』、ということであった。
村の中では、貨幣による売買など殆どないそうで、村の者が貨幣を使うのは、その大半がこの港町でのことらしいのだ。
ならば、往路、復路において小銭狙いのチンピラ達に絡まれるのを防ぐには、どうすればよいか。
……そう、商業ギルドに口座を作って、預けておけばいいのだ。
老人達の個人口座と、村の共同名義での口座。それぞれに入金しておいて、町に来た時に必要な分だけおろせばいい。
今回村の共同名義の方へ入れたのは、村人の稼ぎの一部を村の運営費として納める、住民税のようなものである。ここから、領主様に納める税金や、村の運営に必要なお金が支出される。
保存性の良い小麦で物納できる農村とは違い、漁村は生ものである魚で物納できるわけではないので、そのあたり、色々とあるのであった。
「あ〜、これで、一件落着ですね。後は、数カ月に一度、少し外海に出てひと狩り付き合えば……。
次からは、今回みたいに大量にではなく、そこそこ獲ればいいでしょう。
村のお年寄り達が一巡すれば、熱狂も少し収まるでしょうし……」
宿屋へと戻りながら、そんなことを言うマイルであるが……。
「そうかなぁ……」
「本当に収まりますかねぇ……」
「マイル、あんたは人間ってものが分かってないわ……。まぁ、今更だけどね……」
マイルの楽観的な言葉に、懐疑的なことを呟くメーヴィス達。
そう。マイルは、前世でも今世でも、他者の考えを推し量るのは苦手であった。
そして、宿屋に着くと……。
「あ、お帰りなさい! 今日の獲物は何ですかっ!」
「あ〜……」
「いましたねぇ、コイツが……」
「すっかり忘れていたよ……」
「今回の仕事の、そもそもの原因……」
「「「「アルリ……」」」」
『のうきん』小説18巻、リブートコミックス3巻、そして『ポーション』コミックス「続」1巻……園心ふつう先生による、九重先生版9巻の続き。10巻にあたります……、先週刊行されて、好評発売中。よろしくお願いいたします!(^^)/
そして、『ろうきん』アニメの復習と予習のため、前半戦振り返り&後半ちょい出し「前半、弾幕薄いよ!何やってんの」特番の配信が決定!
……というか、もう公開されてる。(^^ゞ
https://roukin8-anime.com/
そしてそして、今回で、『のうきん』、連載600回です!(^^)/
連載開始から、7年と2カ月。
今は週イチ更新ですが、初期は毎日更新、その後しばらくは週2回更新でした。
1年52週。年に3回、2週間のお休みをいただくので、今は年に46回更新。
書き始めた頃は、200話とか300話とか書いておられる先人の方々を見て、「はえ~、すごいなぁ~。到底真似ができないや……」と思っていたのですが、いつの間にやら、自分も600話に……。(^^ゞ
小説、コミックス共々、引き続き、よろしくお願いいたします!(^^)/




