598 外 海 4
翌朝、夜通し続いた大宴会に付き合わされてぐったりとした『赤き誓い』は、仮の拠点としている港町へ向かおうとしていた。
村人達からはしばらく滞在するよう強く勧められたが、何となく今夜も宴会になりそうな気がしたため、さっさと退散することにしたのである。
……何しろ、足が早い魚が大量にあるのだから、誰も漁に出たりはせず、皆で消費に努めるのが当然であろう……。
そして、戦友となった4人の老人達に尋ねる、マイル。
「いいんですか、記念に海棲魔物を残しておかなくて……」
「ああ。あんなデカ物、丸ごと干物にすることも出来んからなぁ。記念に取っておきたくても、腐っちまうだけじゃし……」
少し残念そうに、そう答える老人であるが……。
「え? 出来ますよ、魔法で簡単に……」
「「「「出来るんかいっ!」」」」
そして、4人にそれぞれ1匹ずつ、魔法で水分を抜いて海棲魔物のカラカラの干物……というか、ミイラというか……を作ってやった、マイル。
干す前のポーズは色々と注文を受けて、それぞれあまり場所を取らず、かつカッコいい形に仕上げる辺り、マイルも芸が細かい。
そして『赤き誓い』は村から出発した。
……老人達と共に。
「いやー、すまんのぅ。儂らの取り分、町へ売りに行くにも運ぶのが大変じゃし、傷むからのぅ。
これだけの量じゃと、各商店への個別売りではなく、多少安くはなっても商業ギルドに纏めて卸した方が楽じゃから、嬢ちゃん達に商業ギルドで直接引き渡してもらえると助かるからのぅ」
「あはは、そりゃそうですよね〜。私達もどうせ町へ戻るのですから、手間が増えるわけじゃありませんから、気にしないでくださいよ!」
そう、船と命を失うことになるかもしれなかった今回の危険な依頼において、漁師達に対する報酬は、前金の金貨だけでなく、成功報酬として、獲った獲物の半分、というものがあったのである。
それを換金するために町へ運ぶなら、収納に入れたままついでに運んであげることに、何の問題もなかった。
そして、町で自慢話をしたくて堪らない4人の老人達は、全員が『赤き誓い』に同行することとなったのである。
……まあ、大金を持っての帰り道は危ないから、人数は多い方がいいだろう。
老人とはいえ筋肉モリモリ、そして銛やヤスを手にした凶悪な面構えの男達を襲う勇気がある者は、そうはいないと思われるが……。
ツンツン
みんなニコニコ。何の問題も……。
ツンツン
「何ですか、レーナさん! さっきからツンツン背中を突いて……」
そう言いながら振り向いたマイルの目に映ったのは、何だか複雑そうな顔をしたレーナであった。
「あれ、どうかしました?」
そう尋ねるマイルに、ボソリと呟くレーナ。
「……私達、何のために海棲魔物を狩りに行ったんだっけ……」
「え? いや、それは、ええと……、そうそう、アルリさんに手切れ金代わりにちょいと儲けさせてあげようと、ほぼ出回ることのない海棲魔物を……1匹……」
「「「「……」」」」
「そして今から、お爺さん達の取り分である膨大な量の魚が売りに出されるわよね。同じく、膨大な量の海棲魔物と一緒に……」
「「「「…………」」」」
「「「「………………」」」」
「「「「台無しだあぁ〜〜!!」」」」
戦術的な勝利は収めたものの、戦略的には大敗を喫した、『赤き誓い』であった……。
* *
どん!
どどん!
どどどどどん!!
「「「「「「…………」」」」」」
静まり返る、商業ギルドの精肉・魚介用倉庫。
商業ギルドも、解体されていない獣や魔物、大きな魚等を買い取って販売するので、そういう倉庫を持っている。勿論、断熱効果の高い構造になっており、魔法による冷凍・冷蔵機能を備えている。
なので、ギルドマスターや幹部、主立った職員達を説き伏せて、倉庫に来てもらったわけである。
今、受付窓口は若手職員達で回している。
元漁師の老人達だけでは信じてもらえなかったかもしれないが、商業ギルドの首脳陣が『馬鹿容量の収納使いがいる、新米の女性ハンターパーティ』のことを知らないはずがなかった。
勿論、守秘義務やらハンターギルドとの約束やらで職員以外の者には秘密にしてあるが、そろそろ秘密が漏れる頃であるし、今回の買い取り品を売り捌くにあたって、その出元の説明が必要であることからも、もう、秘密の厳守はここが限界であろう。
そういうわけで、『赤き誓い』が同伴している以上、それなりのものがある、と判断されたのであろう。
そしてこれはギルドと商品を売りに来た一般人との商談であるため、倉庫へついて来ようとした、その時ギルドにいた商人達は追い払っている。
「マジか……」
そしてようやく、静寂を破りギルドマスターが口を開いた。
「こっ、これは……。ハンターギルドの連中が、独占するはず……」
続いて、副ギルドマスターが。
そして、唖然とした顔の、他の職員や解体場の作業員達。
「……これ、全部買ってもらえるかのぅ……」
「「「「「「喜んで!!」」」」」」
商業ギルド側の全員の声が揃った。
「しかし……」
だが、ギルドマスターが、少し困ったような顔をした。
「これだけの量だと、傷む前に全部売り捌くのは難しいかもしれん……。
近隣の町村に運ぶのも、限界というものがあるしなぁ……」
だが、そこでマイルが助け船を出した。
「納入は、小分けしてもいいですよ。私の収納、中のものが傷みませんから……」
「「「「「「えええええええっっ!!」」」」」」
何でもないことのように言われたマイルの言葉は、倉庫内に激震をもたらした。
「あ……」
「馬鹿っ!!」
ついうっかりと、隠すことにしていたマイルの収納魔法の特異性を喋ってしまい、レーナに怒られるマイル。
「あ、いえ、その、魔法で造った氷を収納魔法の中に詰め込んで……」
「何だ、そういうことか……。それなら、この倉庫も一部は冷凍庫と冷蔵庫になっている。気持ちだけいただいておこう」
「あ、ハイ……」
何とか、誤魔化せたようである。
まぁ、馬鹿容量の上、時間停止機能付きなど、到底信じられるものではない。
そんなことを信じるくらいなら、馬鹿容量の収納魔法に氷魔法で造った大量の氷を突っ込むとか、凍結魔法をぶち込むとかいう説明の方が、ずっと信じやすい。
そして人間というものは、自分が信じたいと思うことを信じるという生物なのであった……。
3月2日(木)、『ろうきん』書籍8巻と『ポーション』書籍9巻、発売です!
よろしくお願いいたします!(^^)/
そしてそして、拙作『ポーション頼みで生き延びます!』、アニメ化決定です!!
2月24日、私の誕生日に発表されました。
これで、3作品書いて、その全てが書籍化、コミカライズ、そしてアニメ化となりました。
3打数、3ホームラン。(^^)/
これも皆、読者の皆様のおかげです。
ありがとうございます!!
そして、現在TV放送中のアニメ、『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』、よろしくお願いいたします!(^^)/




