592 商人の少女 2
「……で、あなたは商人を目指していると?」
「いえ、もう既に商人ですよ。自由商人とはいえ、ちゃんとした商業ギルドの一員ですから!」
「「「「…………」」」」
すぐに断ればいいものを、なぜかあれから、常軌を逸した『自称、商人』の少女に更に色々と話を聞いている『赤き誓い』。
怖いモノ見たさというか、自分達には理解できない人種に興味を持って、人間というものに対する勉強をしようとしたのか……。
そして、商人の少女からこんな質問が放たれた。
「あなた達、オークとオーガは一日3頭までしかギルドに納められないのでしょう? ギルド側の勝手な都合で、価格調整のために制限を設けられて……」
「え? あ、はい、そうですけど……」
別に隠しているわけではないが、わざわざ触れて廻っているわけでもないため、それはギルド職員以外にはあまり知られていないはずである。
そしてギルドとしては、自分達の都合でハンターに制限を強いるというのは体裁が悪いため、わざわざそれを広言するとは思えない。おそらく、職員には口止めしているはずである。
「どうしてそんなこと知ってんのよ!」
なので、マイルは何の気なしに認めてしまったが、レーナはそれを聞き咎めた。
しかし……。
「商人が、大切な情報源をぺらぺらと喋り教えるとでも?」
「くっ……」
いくら駆け出し、かつ常識外れとはいっても、さすがに商人としての大事なところは押さえているようであった。
そう言われては、父親とふたりで行商の旅を続け、自分も一端の商人であると思っているレーナには文句が言えない。
そして……。
「せっかく規格外の収納魔法持ちで荒稼ぎできるというのに、それじゃあ宝の持ち腐れ。
そこで、ハンターギルドの納入制限に縛られることなく、それとは全く関係のない私に直接、大量の素材を卸していただければ……」
「「「「なる程!」」」」
「「「「「「おいおいおいおい!」」」」」」
「「「「「「やめろオオオォ〜〜!!」」」」」」
納得の声を上げる『赤き誓い』。
おそらくギルドとしては内緒にしたかったであろうネタを大声で喋るという暴挙に、呆れ声の居合わせたハンター達。
そして、広めたくない話をぺらぺらと喋られた上、せっかくの価格調整をぶち壊し、台無しにされる悪だくみをギルド内で堂々とされ、悲鳴を上げる職員達。
「……オマエら、ちょっと来い!」
そして、いつの間にか後ろに立っていたギルドマスターに、5人揃ってドナドナされるのであった……。
* *
「ふざけんなよ、オマエら!!」
激おこの、ギルドマスター。
「いや、その、別に私達は……。
ただ、この商人の子から指名依頼を持ち掛けられて、その内容について色々と聞いていただけで……」
メーヴィスがそう言って『自分達は悪くない』と必死で説明するが……。
「うるさいわ! あんな大声で、ぺらぺらと喋りやがって!
ギルドの都合で所属ハンターに仕事の制限をかけるなんざ、恥ずかしいことなんだよ! 察しろよ、そのあたり! 常識で考えれば分かるだろうが!!」
残念ながら、そのあたりの常識には疎い、『赤き誓い』であった。
それに、それはハンターがギルド側から怒られるようなことではない。
ギルドが『恥ずかしい』と思うということは、それ即ち、ギルドの力不足、ギルドの恥だからであろう。
なので、ポーリンがそこを追及したところ……。
「だー! そんなこたぁ、分かってるんだよ! だから、羞恥と自己嫌悪で、怒鳴りでもしないとやってられないんだよ!!」
そんなことを言うギルドマスターであるが……。
「大人が、みっともないですね……」
「醜態……」
「憂さ晴らしで罪のない少女を怒鳴りつけるなんて……」
「恥の上塗り……」
タコ殴りの、袋叩きであった。
「すみません、うちのギルマスが馬鹿なせいで……」
そして勿論、脳筋のギルマスを補佐するために付いている受付嬢さんから謝罪の言葉を受ける『赤き誓い』と商人の少女。
「……で、本当に勘弁してくださいね?」
「え?」
「ほ・ん・と・う・に、勘、弁、し・て・く・だ・さ・い・ね!」
受付嬢さんは微笑みを浮かべていたが、眼が全然笑っていなかった。
「「「「は、ははは、はいっ!!」」」」
レーナ達は引き攣った顔で即答したが、商人の少女は答えない。
まぁ、このチャンスに商人としての人生を懸けているとすれば、たかが受付嬢に睨まれたりガンを飛ばされたりしたくらいで、簡単に儲け話を諦めたりはしないであろう。
……いや、人生を懸けていなくても、商人が他者からの横槍程度で儲け話を諦めるはずがない。
それも、他の商人が『一時的に魔物の素材が過剰供給され、すぐに元に戻ったこと』をあまり深く考えず、高ランクのハンターパーティが数日間街に滞在し去って行ったのであろうと軽く流していたところを、自分だけが真実に辿り着いての、一世一代の大金星である。
それを、易々と手放し、諦めるはずがなかった。
なので……。
「では、場所を移して、ハンターギルドとは関係なく商業ギルドの加盟者である私と仕事の話を……」
「「やめんかあああっ!!」」
受付嬢とギルドマスターが、コメカミに青筋を立てて怒鳴りつけた。
それを見て、受付嬢もあまりギルドマスターのことは言えないのでは、と思う『赤き誓い』一同であった。
そして、このままではギルド側と少女の主張は永久に平行線であり話が進まないと思った『赤き誓い』が、ギルドが制限を掛けた理由はちゃんと理解しているからギルドが困るようなことはしないと約束し、少女を連れてハンターギルドを辞去したのであった……。
お知らせです!(^^)/
来週、1月23日(月)から、『ポーション頼みで生き延びます!』のスピンオフコミックが連載開始ですよっ!(^^)/
漫画家の先生は、『ポーション』の小説版のイラストを担当していただいている、すきま先生。
『ポーション頼みで生き延びます! ~ハナノとロッテのふたり旅~』
初回は、1・2話同時更新の、大サービス!(^^)/
無料Webコミックサイト、『水曜日のシリウス』にて、1100に掲載開始予定です。
よろしくお願いいたします!(^^)/




