589 その頃…… 6
「何だ、そりゃ……」
マルセラ達の会話に、呆れた様子の『冬の城』リーダー。
「……あの、今のオークの戦い方。あれが普通ですの?」
「ん? ああ、いつもあんなもんだが……。それがどうかしたか?」
(やはり、あれが普通のようですわよ……)
(魔術師がいないパーティにはキツそうですね)
(それって、行く先々での私達への勧誘合戦が、更に激化するってことですよね……)
(((はあああァ〜〜……)))
小声で話し、そしてため息を吐くマルセラ達。
「……って、そうじゃありませんわよ! どうやら私達、思い違いをしていたようですわ……」
マルセラの言葉に、こくりと頷くモニカとオリアーナ。
「ハンター達が弱いのではなく……」
「「「魔物が強い!!」」」
ようやく、真相を悟った『ワンダースリー』であった……。
「身体能力は変わらないのに、戦術を用いるという頭の良さ! これじゃあ、Cランク下位のパーティでは荷が重いですわ……」
「いや、だから最初からそう言ってるだろうが! 何を今更……」
「……」
マルセラの呟きにそう突っ込みを入れるリーダーであるが、その通りであるため、反論できないマルセラ。
「……じゃあ、次に私達だけで狩りますから、皆さんは万一の場合に備えて護衛をお願いしますわ」
「あ、ああ、それは構わないが……」
オークの肉体的な防御力が前の大陸のものと変わらないことは、既に確認済みである。
では、なぜわざわざマルセラが自分達の手の内を晒すような真似をするかと言うと……。
(ここで私達の戦闘能力を証明しておかないと、この町で討伐依頼が受けられないし、合同受注してくださる若手パーティもいませんわ。
年配のベテランパーティも、この2パーティのようなお人好しでない限り、小娘のお守りなどという面倒で稼ぎの少ない依頼は受けてくださいませんし……)
マルセラはそんなことを考えていたが、自分達の収納魔法のことが知られれば合同受注の申し込みが殺到するであろうことが、頭から抜けていた。
いくらマルセラでも、たまにはボケることもある。
「じゃあ、次に……、あ、収納!」
そして、消える3頭のオーク。
ぱっかりと口をあけて呆然と立ち竦む、『冬の城』と『女神の勇者』のメンバー達。
「……あら? 私の収納魔法のこと、言ってませんでしたかしら?」
「「「「「「聞いてねーよ!!」」」」」」
* *
あれから収納魔法について色々と突っ込まれ、かなりの大容量であることを教えたマルセラ。
使えるのはマルセラだけ、ということは特に言わなかったが、そもそも、ひとりいるだけで驚愕される収納魔法使いである。『他のふたりは使えるのか』などという質問が頭に浮かぶことすらなかったようである。
「常軌を逸した大容量の、収納魔法使い……。
お前達が、碌に荷物を持たずに行動している理由は、それか……。
杖と短剣と水筒以外は小さなバッグしか持っていやがらねぇから、夜営とかどうすんだよ、って思っていたんだがよ……。
オーク3頭が平然と入れられるなら、夜営用の防水布や毛皮くらい入れてるか……」
そんなことを呟くリーダーであるが……。
「ええ、テントやベッド、毛布とかは持っておりますわよ?」
「ベ、ベッド……」
百歩譲って、テントと毛布は、まぁ、分からないでもない。
しかし、ベッド。
……それはない……。
マルセラの言葉に、虚ろな眼をして立ち尽くす、『冬の城』と『女神の勇者』のメンバー達であった……。
* *
今回、マルセラ達は探索魔法は使っていない。
あくまでも今回は『地元のハンターの実力確認』であったし、これだけのベテラン前衛職がいれば、奇襲……モンキー系の魔物による樹上からの攻撃や、ゴブリン、コボルトによる木陰からの突撃等……を受けても第一撃は凌げるであろうし、それだけの時間を稼げれば、マルセラ達の防御魔法でどうとでもなるので、危険は少ないと判断したためである。
それに、探索魔法のことは秘匿するつもりであるため、もし魔物を探知したとしても、それを他のパーティに教えることはできない。
なので……。
「オーガだ! 4頭……、まずい、気付かれた!」
オーガは、2頭で行動する場合が多い。
そして、今の魔術師込みの2パーティであれば、お荷物の『ワンダースリー』がいてもオーガ2頭くらいであれば問題ない。
そう考えていたのに、まさかの4頭。しかも、既にこちらに気付かれている。
撤退しようにも、森の中でオーガの追跡を振り切れるわけがない。
蒼白になる『冬の城』と『女神の勇者』のメンバー達であるが……。
「これって、アデルさんお得意の台詞、『風下に立ったが、うぬが不覚よ!』というやつですわね……」
「逆です、マルセラ様。こちらが風上ですよ……」
まるで危機感のない、『ワンダースリー』。
「俺達が時間を稼ぐ。お前達は逃げ……」
「ロック・ジャベリン!」
「ウォーター・カッター!」
「ホット・ミスト!」
ほぼ同時に放たれた、詠唱省略魔法。
オークより強靱なオーガの筋肉を貫くため、アイス・ジャベリンではなく難度の高いロック・ジャベリンを選択したマルセラ。
アイス・ジャベリンは空気中の水分を凝結させて槍の形に形成してから凍結させるか、先に凍結させてから槍の形に削るか、人によってやり方が違うものの、攻撃魔法としてはそう難度が高いわけではない。
……ちなみに、後者の方が強度が高い。
しかし、ロック・ジャベリンは、近くに硬い岩がない場合、土から岩を創り出すのも、遠距離から取り寄せるのも、共に難度が非常に高い。
そしてモニカが選択したウォーター・カッターも、ただの水流ではなく、中に研磨剤として炭化ケイ素を混ぜることによりその効果を飛躍的に高めているが、同じく、炭化ケイ素の作製には非常に高度な想像力が要求される。
そしてそもそも、氷であればともかく、『水で硬いものを切断する』などという発想自体が、この世界の者には思い付かないはずである。
オリアーナが選んだホット・ミストは、魔力が弱いオリアーナが使える一番効果的な攻撃魔法であった。
マイル……アデルと共に開発した、カプサイシンによるホットな霧。
化学兵器にかかるコストが安価なのは、どの世界でも共通であった。
マルセラとモニカの攻撃を受けたがまだ絶命したわけではない2頭と、残りの無傷の2頭。
それら全ての戦闘力を奪い、混乱させるための範囲攻撃魔法。
これで、再攻撃のための時間が充分に稼げた。
「ロック・ジャベリン!」
「ウォーター・カッター!」
「アイス・アロー!」
「ロック・ジャベリン!」
「ウォーター・カッター!」
「アイス・アロー!」
詠唱省略攻撃魔法の連打。
火災防止のため、森では火魔法は調理か暖を取るため以外では使わないのが常識である。
しかし、『ワンダースリー』はそれ以外にも自身で使う魔法に縛りを入れていた。
オーガは、オークと違い食用肉だけではなく他の部分も素材として値が付く。
そのため、なるべく素材価値を落とさないよう、ズタズタになるような攻撃魔法は避けるという余裕。
「何なんだよ、コイツら……」
そして、『冬の城』のリーダーの呟きと共に、4頭のオーガは地に沈んだ。




