587 その頃…… 4
『ワンダースリー』が、攻撃力はBランク並みなのに総合力はCランク下位と判定されるのには、勿論理由がある。
体力がないため、戦いが長引くと急激に動きが悪くなる。
移動速度が遅い。
近接戦闘能力が低い。
紙装甲のため、一撃を喰らっただけで戦闘不能になる。
対人戦闘の経験が殆どない。
見た目で舐められる。……いくら優勢であっても、降伏勧告に応じてもらえることは、まずない。
誘拐目的で襲われた場合は、相手に殺意がないため対処しやすいが、戦場で命の遣り取りをしている時には、女子供だからといって手加減してもらえたりはしない。
……駄目駄目である。
これでは、いくら攻撃力だけが優れていても、ハンターとしての総合評価は低い。
いや、勿論、専属ナノマシンの存在と権限レベル2による魔法の威力の増大、そしてマイルから教わった『魔法の真髄』から自分達で考案した数々のオリジナル魔法の存在以外にも、『ワンダースリー』にはいくつもの利点がある。
脳内詠唱による『なんちゃって無詠唱』ではなく、本当の無詠唱魔法が使える。
遠距離での先制探知と遠隔魔法攻撃による、一方的な敵の殲滅。
アイテムボックスによる輸送能力。
外見により相手の油断を誘える。
ハンターだと悟られないことによる利点。
女性に対する秘匿密着護衛が可能。
……しかし、どうしても、色物扱い、際物扱いされるのは仕方なかった。
まともな商人であれば、商隊の護衛に『ワンダースリー』を雇おうとは思わないであろう。
可愛い少女が3人も付いているなど、盗賊避けどころか、却って撒き餌になってしまう。
マルセラ達も、勿論自分達の利点と欠点はちゃんと認識している。
なので、全員が攻撃魔法、防御魔法、支援魔法、治癒魔法を使え、攻撃力がBランク並みであっても、少しでも危険や不安要素がある依頼を受ける場合には、前衛職主体のパーティと組むという慎重振りであった。
どんなに危険が少なくとも、……誰かひとりが大怪我をする確率がたとえ100分の1であったとしても、それは『100回やれば、1回は当たる』ということである。
そんな依頼を3日に1回受けていれば、かなりの高確率で、1年以内にそれを引き当てるということである。
そしてそれは、100回目だとは限らない。50回目かも。10回目かも。……そして1回目かもしれないのである。
なので、どうも自分達の認識とはズレているらしきここでの常識を知った以上、自分達だけで討伐依頼を受けるつもりは全くなかった。
いや、それを知る前から、見知らぬ場所での初仕事を自分達だけでやるつもりはなく、あの少年達のパーティに声を掛けたわけであるが……。
「とにかく、ここのハンターがなぜそんなに弱いのか、その理由を確かめる必要がありますわね。
この大陸でも私達の魔法の威力が変わらないということは確認しましたから、あと考えられるのは、ここで使われている魔法がレベルの低いものである、呪文が不適切、ハンターの魔力が弱くて数発しか撃てない、使える魔法の種類が少ない……」
他の者に聞こえないよう、顔を寄せ合い、小声でそう話すマルセラ。
「でも、魔法が弱体化していても、前衛や中衛による物理攻撃だけでも、Cランクが4〜5人いればオーク数頭くらい問題なく狩れるのでは? 剣士ふたり、槍士ひとり、弓士ひとり、とかいう構成なら……」
「そうですよねぇ。更にそれに魔術師がひとり加われば……。いくら攻撃力が弱くても、目潰しとか支援魔法とかをうまく使えば、問題ないはずですよねぇ……」
オリアーナの言葉に、モニカが賛同する。
「まぁ、不確定要素があることは把握しましたわ。あとは……」
「「「現場で確認するのみ!」」」
「……と言いましても、ここのハンターの実力や戦い方を確認するのに、私達だけで依頼を受けても何の役にも立ちませんわ……」
「ここは、適当なパーティ……先程お声掛けした人達より強い、中堅パーティをお誘いするしか……」
マルセラとオリアーナの呟きに、モニカがにやりと笑った。
「程良い強さで、合同受注の申し込みを受けてくれそうな、いいパーティに心当たりがあります」
そして、それを聞いて、ポンと手を打つマルセラとオリアーナ。
「「ああ!」」
* *
「すみません、私達、勉強のためオーク狩りというものを見学したいのです。
なので、合同受注をしていただけません?
討伐報酬は要りませんわ。皆さんがお持ち帰りになる素材を剥ぎ取られた後に残ったものをいただければ、それで充分ですわ」
そう言って、先程マルセラ達に忠告してくれた、あの先輩ハンターに声を掛けたマルセラ。
先輩ハンターは、驚いて目を丸くしていたが、その背中を仲間のハンターに突かれて、慌てて返事をした。
「……お、おう。慎重なのと勉強熱心なのは、いいことだ。それが、自分達を長生きさせてくれる。
で、見学ということは、お前達は戦わない、という解釈でいいか?」
その問いに、こくりと頷くマルセラ。
「なら、俺達だけじゃ、ちょっと心配だな。
いや、俺達だけなら、問題ないんだ。万一の時に、お前達を護って全員無傷で、というのには、ちぃとばかし自信が無ぇ。
……だから、もうひとつのパーティにも声を掛けていいか?」
マルセラ達に負けず劣らず、慎重である。
ハンターは、それくらいでなければ中堅になるまで生き延びられない。
見たところ、このパーティには魔術師がいない。
ならば、おそらくは魔術師がいるところへ声を掛けるつもりである確率が高いので、それはマルセラ達にとっては大歓迎であった。
前衛職による物理攻撃だけでなく、魔術師のレベルも確認できるのであるから……。
なので勿論。
「構いませんわ。……というか、大歓迎ですわよ!」
斯くして、『ワンダースリー』によるこの大陸での初めての魔物討伐(見学)が決定したのであった。
* *
「Cランク、『女神の勇者』だ。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
先輩ハンターのパーティ……『冬の城』……の5人に、『女神の勇者』の4人。
共に、Cランクでも上位に当たるパーティらしかった。
『冬の城』は、剣士、槍士、弓士(短剣も使う)等の物理オンリー。『女神の勇者』は、前衛ふたり、攻撃系魔術師ひとり、治癒・支援系魔術師ひとりと、魔術師による先制攻撃や前衛への支援に頼った、少し変わったパーティのようであった。
……というか、魔術師が不足しており引っ張りだこであるハンター業界において、4人中ふたりが魔術師であるなど、……しかもふたり共が女性であるなど、他のパーティから羨ましがられているのは確実であろう。
元々、『冬の城』とは交流があったようであるが、『女神の勇者』が誘いに応じたのは、魔術師ふたりが『ワンダースリー』に興味を抱いたからのようであった。
確かに、女性魔術師としては、まだ未成年である少女の魔術師ばかりの3人組など、危なっかしくて見ていられないであろう。
たまたま自分達は一人前になれたけれど、その途中で、魔物に、そして人間に襲われて消えていった、大勢の女性ハンター達を見てきたであろうから……。
((この子達は、私が護る!!))
むふ~、と鼻息も荒い、ふたりの女性魔術師であった……。




