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579 約 定 2

「大変だあぁ! 魔物の暴走スタンピードだあああぁ!!」

 村の外柵の見張り番が、血相を変えてそう叫びながら、村の中心部へと駆け込んできた。

「「「「「「えええええええええ〜〜っっ!!」」」」」」


 村人達が悲鳴を上げるが、どうしようもない。

 これが王都から来た調査団による知らせであれば、まだやりようもある。

 防備を固めるなり、どこかへ避難するなり……。

 しかし、外柵の見張り番が視認したというのでは、知らせと魔物の到着までの時間差は、僅か数秒しかない。良くて十数秒であろう。

 そんな短時間では、家に入って扉を閉めるのが精一杯である。

 そして魔物の暴走スタンピードの前に、粗末な木造の家など、濡れた障子紙ほどの防御力しかない。


((((((終わった……))))))

 村の者達がそう考え、全てを諦めた時に、ソレ(・・)が、……いや、ソリ(・・)がやってきた。

 ……一台の、ソリ。

 それを牽く、数頭の犬……ではなく、狼。

 更にその後ろに続く、二十数頭の狼達。

 そしてソリの上には、見覚えのある4人の少女達と、一頭の真っ白な仔狼が乗っていた。

 どうやら、先程の『魔物の暴走スタンピード』というのは、これを見間違えたらしかった。

 そうと知り、ひと安心の村人達……。


「……って、安心できる要素が、欠片もないわあぁっ!」

「何だよ、この状況は!!」

 騒ぐ村人達。

 そして、マイルが口を開いた。

『悪い村長はいねが〜! 悪い顔役はいねが〜!』

「「「「「「ぎゃあああああああ〜〜!!」」」」」」


     *     *


「……で、狼達から話を聞いた、と?」


 あの後、村人の殆どが集まった広場で、『赤き誓い』と村長、村の顔役達との話し合いが行われていた。

 建物の中だと狼達が入れないし、村長一派と対立している者達や、その他の中立の者達も立ち会いを要求して退かなかったため、話し合いの場所をここにせざるを得なかったのである。

 ……つまり、今ここには、村人の大半が集まっているのであった。

 当初は狼達を怖がっていた村人達も、マイル達に従順な様子や、群れのボスと思われる白い仔狼がマイルの隣にちょこんと座っている様子から、まだ完全に警戒心を解いてはいないものの、一応は落ち着いた様子である。


「その通りです! 狼達は、『にんげんのむらには、いっていない』って言っています。

 ハンターギルドに虚偽の依頼を出すということは、ギルドを騙し、ハンターを危険に陥れるという重罪です。罰金や叱責程度で済むような問題じゃありませんよ。

 ギルドからの罰則だけではなく、ハンターを故意に危険に晒したということで、殺人未遂。官憲からの逮捕・犯罪奴隷の対象ですよ」


 マイルの言葉に、ぎょっとした様子の村長と顔役達。

 それくらいのことは、当然、子供でも知っていることである。


「い、いや、しかし家畜の被害が……」

 必死でそう言い募る村長であるが……。

「あれれ〜? おかしいなぁ〜」

 マイルが、ウザそうな言い方で、その言葉を遮った。


「『入らずの森』には、狼達が狩るのに適した動物や魔物が、たくさんいましたよ。

 なのに、わざわざこんな遠くまで狩りに来る必要があるとは思えませんよねぇ……。

 それに、私達がこの村に来た時に説明してくださいましたよね? 夜のうちに家畜が毎回一頭ずつ殺されて、翌朝、死体が残っている、って……。

 おかしいですよね?

 これだけの群れで、毎回一頭ずつ? しかも死体を引きずって持ち帰らない?

 巣には仔や、それを護るために残った雌とかがいるのに……。

 それって、本当に森から来た狼や魔物達の仕業ですか?」

「「「「「「…………」」」」」」

 黙り込み、顔色が悪くなってきた、村長一派の者達。

 そして、マイルが言わんとしていることが理解されてきたのか、他の村人達の顔には、怒りの表情が浮かび始めている。


「な、何の証拠があって、そのようなことを……」

「じゃあ、家畜を襲ったのが人間ではなく、狼達だという証拠を出していただけますか?

 まさか、何の根拠も証拠もなく狼達の仕業だと言い張って、ギルドに虚偽の依頼を出されたなどということは……」

 村長の反論は、マイルによって叩き折られた。


「それに、そもそも本人……本狼(ほんろう)達によって、それは完全に否定されていますから、議論するまでもありませんけどね」


(ここだ!!)

 非常にマズい立場に追い込まれつつあった村長は、起死回生のチャンスを掴んだ。

 相手がミスを犯し、虚言を口にした。

 ならば、そのひとつの虚言を暴きさえすれば、他の部分も全て虚言だと言い張れる。

 そう考えた村長は、迷わずそこを衝いた。

「狼の言葉など、分かるものか! つまり、お前が言っていることは全て嘘、でたらめだということだ!!」


 ……にやり。

 マイルの口の端が、少し歪んだ。

 そう、それは、『わざと作られた穴』なのであった。

 村長が『この、ひとつの嘘さえ暴ければ』と考えたのと同じく、逆から見れば、『自信たっぷりに反論してきたものが、完膚無きまでに叩き潰されれば』ということである。


「いえ、ちゃんとお話しできますよ?」

「では、それをここで証明してもらおうか!!」

 どうしようもあるまい、と勝ち誇る村長。

 そして……。

「いいですよ。じゃ、証明しますね」

「え?」


 ぽかんとする村長を無視して……。

「ザルムさん、出番です!」

 ここには、そんな名のものはいない。

 村長達には何やらわけの分からない独り言を喋る、マイル。

【ハイハイ、分かりましたよ!】

 そして少し不満げに、それを村の近くで待機しているザルムに伝達するナノマシン。

 その数秒後、広場の上空に2頭の古竜が現れた。


「「「「「「うわああああああぁ〜〜!!」」」」」」

 パニックに陥り、叫び声を上げるものの、皆、身体がガクガクと震えるだけで、誰も動こうとはしなかった。

 ……無理もない。逃げ出そうにも、もし古竜が襲い掛かって来れば、とても人間の足で逃げ切れるものではない。

 それに、村人達にとっての逃げ場などなく、せいぜい自宅に飛び込んでかんぬきを掛けるくらいである。そんなもの、古竜に対しては何の役にも立ちはしない。

 村人達が、村の滅亡と自分達の死を自覚し始めた時、古竜(ソレ)の一頭

が口を開いた。

『悪い人間はいねが〜。悪い村人はいねが〜……』


 そう、超低空を飛行して人間に見つからないよう村に近付き、その後は静かにゆっくりと歩き、至近距離まで来て潜んでいた2頭の古竜達である。

 そしてマイルに台詞を仕込まれたザルムは、ノリノリであった……。



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― 新着の感想 ―
ナノマシンほどじゃないが退屈なんだろうな古龍
[良い点] 古龍の『悪い人間はいねが〜。悪い村人はいねが〜……』はコワイ(;^ω^)
[一言] 秋田県のご当地ヒーロー超神ネイガー。 名前の由来は、ナマハゲの叫び声「泣ぐ子(ご)は居ねがぁ!」から。※Wikipediaから抜粋。 どなたもネイガーに触れてないので書いてみました。
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