575 塩漬けの依頼 8
「……で、今からケラゴンを呼ぶの? 少し時間が掛かるわよ?」
「いえ、別口を当たります」
「別口?」
マイルの返事に、怪訝そうな顔をするレーナ。
「はい。ケラゴンさんが帰る前に、言われていましたよね。『この大陸にある古竜の里に挨拶のため顔を出してから、旧大陸の古竜の里に戻る』って……。
そして私には、ケラゴンさんから貰った、名誉古竜と名誉評議委員を名乗れる証の、竜の宝玉があります。ということは……」
「「「この大陸にも古竜がいて、旧大陸の古竜との親交がある! そして、頼みを聞いてくれる可能性は、割と高い!!」」」
そう、かなり期待できそうなのであった。
「では、早速……」
(ナノちゃん、お願い!)
【……分かりましたよ……】
かなり不満そうではあるが、仕方ない、というふうに、マイルの頼みを聞いてくれるナノマシン。
【ここから一番近い古竜の里に、映像と音声を送ります。交渉は、御自分で行ってください】
(分かった! ありがとう、ナノちゃん!)
【…………】
マイルに頼られ、礼を言われるのは嬉しいが、通訳の仕事を古竜に奪われるのは面白くない。
そんな複雑な思考ができるナノマシンであるが、それは言葉にすることなく、マイルに頼まれた仕事を忠実にこなした。
【ここから最も近い場所にある古竜の里に、双方向で映像と音声の伝達回線を形成しました。どうぞ、お話しください】
そして、マイルの前にスクリーンが開いた。そこに映っているのは……。
『グルル! グラ、ゴロレリス、ゴルラ!!』
驚いた様子で何やら叫ぶ、古竜達の姿であった。
どうやら、古竜達が集まっている場所の少し上空にスクリーンが形成されたようである。
「あ〜、そりゃ、突然謎の画面が現れたというだけで、最初からヒト種の言葉を喋ったりはしないですよね……。
私達は、ヒト種、人間です! 今、魔法で遠くから話し掛けています。代表者の方はおられますか?」
マイルの呼び掛けに、ますます混乱が広がっている様子の、古竜達。
そして、しばらくして、その中の一頭の古竜が話し掛けてきた。どうやら、この中で最上位の立場の者らしい。
『人間が、許可もなく我ら古竜に話し掛けるとは、何たる無礼!』
「「「「あ〜……」」」」
この大陸の古竜は、旧大陸における『赤き誓い』の活躍のことも、マイルのことも知らないはず。
ならば、この反応は、至極当然のものであった。
……しかし、マイル達には、武器がある。
「あの、別の大陸から来た、ケラゴンさんという古竜をご存じありませんか?」
『……何? で、では、まさかお前達が、ケラゴン殿が言っていた……』
マイルの言葉を聞いた途端に、かなり動揺した様子の、古竜。
まだ若造であるケラゴンに『殿』を付けているのは、他の大陸にある氏族からの表敬訪問とみなされ、使者扱いだからであろう。
「ケラゴンさんが何を言ったかが分からないので、それが私達のことかどうかは分かりませんが、ケラゴンさん達の氏族から名誉古竜の称号をいただいたのは、私です」
これで、一応話は聞いてもらえるはず。
そう考えたマイルであるが……。
『あ、あの、戦士隊を打ち負かし、神の命を受けて、東の大陸に住む我ら古竜の氏族が造物主様から賜った使命を果たすことに協力したという、神の使い、「名誉古竜マイルと、その下僕達」かっ!』
「「「誰が下僕かっ!!」」」
レーナ達、激おこである。
『そして、戦士隊と評議員の爪と角に飾り彫りをして、雌達からモテモテになるようにしたという、あの……』
「個人情報、ダダ漏れですやん! ケラゴンさん、いったいどこまで私のこと言い触らしてるのですかっ!」
* *
『……分かった。では、すぐにそちらへと向かおう。ゴルバ村の近くにある、人間共が「入らずの森」と呼んでいるところだな?』
「あ、ハイ。よろしくお願いします……」
そして、通話のための回線を閉じた、マイル。
「う〜ん……」
「どうしたのよ?」
話がトントン拍子に進み、喜ぶべきところなのに、マイルは何やら思案している様子。
狼達も、どうしたのかな、と、新入りであるボスの愛人の様子に、少し心配そうな顔をしている。
「いや、だから、私は狼の愛人にはなりませんよっ!」
狼達の様子に、何となく状況を察したマイル。
「というか、さっきのマイルの魔法を見てもあまり驚いていないよね、狼達……。
いくら魔法の窓越しとはいえ、古竜の姿が見えていたというのに……。
実際には近くにいるわけじゃないから、魔力とか威圧感とかが感じられないからかなぁ……」
メーヴィスが言うとおり、狼達にもスクリーンは見えていたはずなのに、あまり動じた様子がない。
「それもなのですけど、あの古竜さん、『ゴルバ村』とか『入らずの森』とか、ご存じでしたよね?
普通、古竜さん達って、人間の街や村の名前とか、人間が勝手に付けた地名とかは覚えようともしませんよね。自分達が付けた名前しか使いませんから……。
そもそも、自分達の呼び方にしても、『西の街』とか、『湖の側の森』とかいう感じで、固有名詞はあまり使わないそうですし……」
「「「あ……」」」
勿論、レーナ達もそれくらいのことは知っている。
なので当然、マイルが言わんとしていることにも気が付いた。
「あの古竜達、この辺りのことに特別な関心を持っている?」
「だから、あんなに簡単に頼みに応じてくれたのか……。普通、人間に通訳を頼まれて、ホイホイと引き受けるような古竜なんか、……あ、ケラゴンさんを除いて……、いないよね?」
「そして、『すぐにそちらへと向かおう』とか言ってましたよね? 『向かわせよう』じゃなくて。
……それって、下っ端を寄越すということじゃなくて、あの場で一番上位らしかったあの個体が、自分で行く、ってことじゃあ……」
「「「「…………」」」」
「古竜さんが来れば、直接聞けば済むことですよ!」
「まぁ、それはそうなんだけど……」
マイルの言葉に、一応の納得の返事をするレーナ。
そして……。
【古竜に通訳をさせると言っても、狼と古竜の間を思考波の解析により意思疎通させるのは我々なのですから、狼とマイル様の間を通訳するのが、狼と古竜の間の通訳と古竜とマイル様の間の会話になるだけで、余計な手間が挟まるだけですよね……。何の意味もないですよ……】
間に古竜を挟んでも、結果的には、ナノマシンが通訳したことになる。
しかし、表面上は古竜が通訳したように見え、マイルが直接会話するのも、通訳に対して感謝するのも、その相手はナノマシンではなく古竜になる。
【…………】
そして、それが面白くない、ナノマシン達であった……。
お知らせです。(^^)/
9月12日(月)に、本作のスピンオフコミック『私、日常は平均値でって言ったよね!』を描いてくださいました森貴夕貴先生のオリジナルコミック、『女神と魔王(♀)から迫られて生まれて初めて女の子とフラグが立ったので、意地でも異世界転生を回避したい件!?? (1)』(アース・スター コミックス)が刊行されます。
まぁ、『日常~』も、ネタやストーリーは全て森貴夕貴先生が考えておられたので、あれもほぼ森貴先生のオリジナルなんですけどね。(^^ゞ
そういうわけで、『のうきん』のスピンオフコミックでデビューされた森貴先生のオリジナルコミックス第1巻、よろしくお願いいたします!(^^)/




