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567 ランク 3

 さすがに『赤き誓い』の面々も、自分達が悪かったと思ったようである。

 おそらく家族持ちであろう年齢のギルマスに職を賭した無茶をさせ、そして大勢の地元のハンター達に迷惑を掛けた。

 なので、素直に謝罪した『赤き誓い』であるが……。


「でも、通常依頼だけじゃあ、そんなに稼げないわよね……」

「通常依頼だと、報酬額は依頼者次第ですからね。

 子供の小遣い稼ぎみたいなのだと、一日あたり銀貨1~2枚。駆け出しのF~Eランクの仕事だと、銀貨4~5枚。そう危険じゃないCランクの仕事で、銀貨6~7枚から、小金貨1枚ちょい。

 ……そして、危険な魔物や盗賊相手の護衛任務で、ひとり一日あたり小金貨2~3枚。

 まあ、襲撃がほぼ確実な護衛依頼とか、相手が盗賊ではなくプロの傭兵、兵士崩れとかだと、条件次第で青天井ですけど……」

「Cランクになると、さすがにEランク以下の仕事は受けられないけどね……。

 とにかく、護衛依頼や依頼料が高い仕事がそう毎日あるわけじゃないし、条件のいい依頼は奪い合いになるだろうから、ここでは新米の私達がたくさん受注することはできないし、たとえそれが可能であっても、そんなことはしちゃ駄目だからね。他のハンター達にまた迷惑をかけることになっちゃうから……」


 レーナ、ポーリン、そしてメーヴィスの言葉に、うんうんと頷くマイル。

「ならば、私達が選ぶ、問題の解決方法は……」

「「「「この町を出て、王都かもっと規模の大きな町へ移動する!!」」」」

「どうしてそんな結論になるんだよっ!!」

 4人が出した答えに、悲痛な叫びを上げるギルドマスターであった……。


 あまり大量に魔物を狩り続けられては困る。

 しかし、常識的な量(ある程度)までは狩っても問題はないし、それは危険な魔物の間引きという点でも、そして獲物を買い取るギルドの儲けという点でも、歓迎すべきことである。

 また、ギルドの収入源として、そして万一の時には支援物資の輸送や避難民への支援要員として、『赤き誓い』はどうしてもこの町で確保しておきたい。


 それに、もし他の町に移動されたりすれば、『赤き誓い』の常識外れの納入量のことを絶対に信じないであろう他の町のハンターやギルド職員達から、『金蔓、かつ万一の時に役立つ大容量収納持ちに逃げられた、馬鹿ギルド支部』として笑いものになること確実であった。

 ……『赤き誓い』が住み着いた町のギルド支部は、ほんの数日で真実を知ることになるであろうが……。


「どこに行っても同じだ! ……まぁ、王都かそれに準ずる大きな町なら、10日くらいは保つかもしれんがな……」

「「「「…………」」」」

 ギルドマスターの言葉に、黙り込む4人。

 そして……。

「「「「知ってた……」」」」

 明らかに負け惜しみの、4人の呟きが漏れた。


「オークとオーガは一日3頭。ゴブリンとコボルトは、それぞれ一日30頭までだ。薬草は制限なし。……とは言っても、根絶やしにするような真似は絶対に駄目だぞ!

 それならば、常時依頼を続けてもらっても構わない。

 そして、通常依頼は、同時にたくさん受けるのはやめてくれ。

 ……但し、受注者がいなくて塩漬けになっている依頼や、『赤い依頼』は、いくら受けてくれても構わない」


 オークとオーガは、間引きのための討伐報酬もあるが、買い取り価格が高いのはその肉や皮、角や牙などの素材価値による。

 なので、価格が暴落すると大勢が困るのである。

 特に、そうなると重い肉を持ち帰る者が激減するし、血の臭いで他の魔物が寄ってくる危険を冒して現地で解体したり皮を剥ぐ者もいなくなる。ギルドマスターが『赤き誓い』に数量制限を課する気持ちは分かる。


 しかし、売れる素材がないため討伐報酬だけとなるゴブリンや、皮をなめせば王都や他の町へ出荷できるコボルトは、多少多くても構わないし、間引き効果の方を重視すべきであった。

 それに、『赤き誓い』は自分達でコボルトの皮剥ぎをするのは嫌であるらしく、いつも丸ごと納入するため、その分の作業料がギルドに入るのは美味しい。

 そして薬草は、薬に加工して出荷すれば、他の町でいくらでも売れる。

 化学的、工業的に薬品を作ることができないこの世界では、薬草は引っ張りだこなのである。


「「「「…………」」」」

 そしてギルドマスターの言葉に反論することができず、無言の『赤き誓い』であった……。


     *     *


「まぁ、事実なんだから、仕方ないわよね……」

 ギルド支部からの帰り道、レーナがそう呟いた。

「それに、私達が大量納入あんなことをしたのは、さっさとDランクになることと、Dランクでもそこそこの依頼が受けられるように名を売るためだったからね。Cランクになれたなら、私達なら普通にやっていても充分に稼げるから問題ないわよ」

「ああ。今の私達は、昇格やお金が目的ではなく、冒険と人助け、そして困っている依頼人の期待に応えることが目的だからね」

「いえ、お金は大事ですよ!」

「あはは……」

 相変わらずの3人に、苦笑いのマイル。


「とにかく、常時依頼の納入量は、薬草以外は制限されちゃったからね。それは、まとめて狩っておいて、時間経過がないマイルの収納に入れておき、毎日規定量ずつ納入しましょう。

 そして、通常依頼の中から、面白くて手強てごわそうで楽しい依頼を受けまくるわよ!」

「「「おおっ!!」」」


 そう、ハンターになる者には、3つのタイプがあった。

 生きるためのお金を稼ぐため。

 成り上がり、身分と立場を手に入れるため。

 ……そして、心(おど)る冒険を求め、人助けをするという、活動そのものを求める者達。

 今の『赤き誓い』は、明らかに最後のヤツであった……。


     *     *


「……で、帰りぎわに受注してきたのが、これなんだけど……」

 宿に戻り、レーナがみんなの前に出した依頼票。そこに書かれているのは……。


『家畜を襲うものの討伐 金貨3枚 ゴルバ村』


 ここから内陸側に徒歩5~6時間くらいのところにある、小さな農村らしい。

「まぁ、王都でもない地方の町で、そうそう地竜討伐とかグリフォン退治とかの依頼があるわけないよ」

「まぁ、それはそうだけど……」

「人助けですからね」


 皆が言う通り、この依頼を受けたのはボランティアである。

 貧乏村にとって金貨3枚は大金であろうが、4人パーティならば、ひとり当たり小金貨7.5枚。

 日本円で、7万5000円相当である。

 一見、そう悪くない報酬額に見える。

 ……しかし、そこには罠が潜んでいるのである。


 まず、討伐対象である魔物の種類が明確に指定されていない。

 相手は、ゴブリンかもしれないし、コボルトかもしれない。……そして、オークやオーガ、ワイバーン、マンティコア、グリフォンとかである可能性も、ゼロではない。

 そして、討伐数も雇用期間も指定されていない。

 ……つまり、何時いつまでの期間に、何を何頭討伐すればいいのか分からず、下手をすると『家畜の被害がなくなるまで』とか言われかねないのである。10日、20日、30日経っても、地ネズミに牛の尻尾が齧られた、とかいう些細な被害があるだけでも、ずっと……。


 普通であれば、そのような常識のない依頼主はいないが、意図的にこういう文面にしておいて『ちゃんと最後まで依頼を完遂していないから、完了のサインはできない』とか言って支払いを免れようとする悪質な村人とか、悪意なく、本気で『依頼料を払うのだから、全ての魔物を狩り尽くすのが受注者の当然の義務』、『雇った者は、できる限り使い倒して少しでも元を取るべきである』とか考えている村人もいるので、このような曖昧あいまいな文面の依頼に手を出すハンターはいない。

 なので、この依頼は受注者がいないためボードに貼りっ放しになっていた、いわゆる『塩漬けの依頼』だったのである。


 勿論、『赤き誓い』にもそれくらいのことは分かっている。

 しかし、ただこういう依頼を出し慣れていないために書き方がよく分からなかっただけで、悪気はなかったという可能性はある。

 普通であれば、受付嬢がちゃんとそのあたりを説明して依頼時に書き直させるのであるが、この依頼は行商人が預かって届けただけであるため、仕方なくそのまま受理して貼り出したらしいのだ。


 一応、依頼を受けた時に、受付嬢には色々と確認してある。

 そして受付嬢むこうもプロなので、『もし依頼した村がおかしなことを言い出した場合には、相手にせず戻るように』と言われている。

 もし『赤き誓い』が若い女性ばかりだからとふざけた態度を取られた場合には、ギルドからそれなりの対処がされるのであろう。


 以後の、その村からの依頼は全て受理しない。

 その村には、ギルドは素材や薬品、その他全てのものの買い取りも販売もしない。

 その村の者は、ハンター登録を受け付けない。

 別に法的な措置を取らなくても、ギルドを敵に回した小村など、どうにでもできる。

 それに気付かず、ふざけた真似をする村がたまに現れるが、実際にギルドが締め付けを行うまでもなく、村長や村の顔役達にそのことを丁寧に説明してやるだけで、大抵は解決する。

 なので、大きな問題にはならないはずであった。


 そうは言っても、大した稼ぎでもないのに時間を無駄にして嫌な思いをさせられるのはぴらなので、普通のハンターは、そんな依頼ものに関わろうとはしないのであるが……。



お知らせです!

7月7日(木)、『のうきん』17巻と、コミックス1巻、共にスクエニから同時発売ですよっ!(^^)/


コミックスは、ネーム構成:桜井竜矢先生、作画:iimAn先生(Friendly Land)によるリブートで、原作1巻冒頭からのリスタートです。

ねこみんと先生版やアニメではカットされましたエクランド学園編を、丁寧に描写。

よろしくお願い致します!(^^)/


そして小説17巻では、いよいよ最後の戦いが、そして新たなる旅立ちが!

戦闘部分を大幅加筆。

カラーピンナップは、この1枚だけのためにこの本を買う値打ちあり!

勿論、書き下ろし短編付きです。

そして、書店特典等は、以下の通りです。


01  獣 人            公式サイト掲載

02  杖              メロンブックスさん

03  もしも……          アニメイトさん

04  レニーちゃんの奮闘    TSUTAYAさん+個店さん

05  マイル、先生になる     WonderGOOさん

06  マイル、熟成させる     ゲーマーズさん

07  ワレワレハ チキュウジンダ  電子書店さん

08  怪 盗            とらのあなさん

09  露 見            BOOK☆WALKERさん

10  マルセラ、マレエットちゃんを尋問する ポスター特典(電子にも収録されます)


何と、17巻には、ポスターががが!!(^^)/


そして、特典の中にひとつ、他作品とのコラボSSががが!!


よろしくお願いいたします!(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] チュパカブ○かな?
[一言] 結構、ワガママいうギルドだな・・・。
[一言] 七夕の日が、待ち遠しいです(*´∀`*)ノ
感想一覧
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