565 ランク 1
「では、次に、ランクの件について考えましょう!」
「「…………」」
結局、レーナは亜空間を開くことには成功したものの、容量はバケツ2~3杯程度に過ぎず、しかもマイルが少し話し掛けただけで魔法が崩れ、中身が全てその場に放り出される始末。
……とても『収納魔法の使い手』を名乗れるようなものではない。
というか、この程度の未熟者ならば、まともな収納魔法の使い手の何十倍、何百倍もいる。
勿論、何の役にも立たない。
とは言え、数百万人の中の数百人には入っているわけであり、努力を続ければ一人前になれる可能性は充分にある。
ポーリンは、少し維持時間が延びたものの、やはり他のことに意識が向くと崩れてしまう。
抜け荷で、関所を通過する間の、ほんの僅かな時間だけ維持するのが精一杯である。
……マイルがそう言うと、ポーリンは『やりませんよっ、抜け荷なんか!』と言っていたが、誰もその言葉を信じてはいなかった。
「さすがに、Fランクのままでは通常依頼や護衛依頼の受注に支障が……、って、いい加減にしてくださいよっ!」
ふて腐れたレーナとポーリンに、さすがのマイルも怒りの声を上げた。
「仕方ないでしょうが! ……いえ、期待させた私も悪かったですけど……」
マイルは、ふたりの魔法の才能を高く評価していたし、おまけに普通の人間の中には殆どいない、権限レベル2となったのである。
あの古竜の大半と同じ、権限レベル2!
それは、権限レベル1の普通の人間の中にも使い手がいる収納魔法くらい簡単に使えるようになると思っても仕方ないであろう。
同じ権限レベルが2である、あのケラゴンも収納魔法を使えることは、竜の宝玉や色々なものを出し入れしているところを何度も見ているため、知っている。
ならば、自分がコーチすれば、このふたりであれば簡単に収納魔法を会得できるはず。
なのに、その思惑が完全に外れ、そして思いもせぬメーヴィスの登場である。
(でも、メーヴィスさんの収納に野営に必要なものを入れておけば、私が長期間に亘り別行動を取っても、みんなの活動には支障ない。
私のアイテムボックスと違い時間停止機能はないから、採取物や狩った獲物、食料等の保管日数には注意しなきゃならないけれど、6畳間相当の広さというのは、相当なものだ。小さくて軽いものにすれば、浴槽や便器、折り畳み式の簡易ベッドとかであれば、収納できる……)
マイルは、収納魔法の振りをしてアイテムボックスを使ったり、本当に収納魔法の方に入れたりと、両方を使い分けている。
そして実はマイルも、収納魔法自体はそんなに馬鹿げた容量……東京ドーム数個分とか……があるわけではない。なので、大きいもの、冷めたり傷んだり劣化したりするもの、滅多に使わないもの等は全てアイテムボックスの方に入れて、収納魔法の方には一部のものしか入れていない。
いくらマイルでも、常に魔力的な負担がある通常の収納魔法に、そう無駄なものを入れておきたいわけではないので……。
なので、マイルから見ても、メーヴィスの収納魔法の容量は充分広いと思えた。
事実、旧大陸においては国で1~2を争う大容量であろう。……マイルを除けば。
(……しかし、メーヴィスさんは、どれだけ凄いんだろう……。
私達みたいな『なんちゃって貴族』ではなく、由緒正しい伯爵家の生粋のお嬢様だし、剣技に優れ、ウィンド・エッジやメーヴィス円環結界を使う魔法剣士であり、口付け治癒を使いこなし、騎士道精神に満ち、……そして正義と真実の使徒であり、オマケにカッコいいことが大好きで、厨二病に溢れている……。
こんな好物件、ちょっとないですよ!
……ああ、メーヴィスさんが男性だったらなぁ……)
まだ、『メーヴィスさん』でさえあれば性別などどうでもいい、と考えるほどには達観していない、マイルであった……。
「いやいや、今はランクの話ですよっ!」
頭をぶんぶんと振って、思考をリセットするマイル。
「ここのハンターギルドには、スキップ申請という制度はありませんでした。
……でも、規約をよく調べてみると、もうひとつ、ない制度があるんですよね……」
マイルの振りに、え、という顔のレーナ達。
「気が付いたんですよね、私……。ここのギルド規約には、ランクの昇格条件に、『前ランクにおける、最低限の経過年数』という項目がないことに……」
「「「えええええっ!!」」」
驚きの声を上げる、レーナ達3人。
それも無理はない。
それが意味するところは、『難度の高い依頼や、高額の採取依頼を大量にこなせば、さっさと昇格できる』ということなのである。
旧大陸において、実力や功績ポイントではとっくにBランク相当でありながら、『赤き誓い』がずっとCランクのままであった理由である、『前ランクにおける、最低限の経過年数』という縛り。
……それが、ここにはない。
旧大陸においても、今はその縛りはなくなっているが……。
「……チョロいわね」
「……チョロいですね」
「……チョロ過ぎないかい?」
「……チョロいです……」
「「「「……我ら、魂で結ばれし4人の仲間、……『赤きチョロい』!!」」」」
「……いや! いやいやいやいやいや!!
何言ってるんですか、皆さん!」
そう言って、皆を窘めるマイルであるが……。
「アンタも言ってたじゃないの、ノリノリで……」
「ううっ……」
レーナにそう指摘され、轟沈したのであった。
* *
「買い取り、お願いします!」
「おぅ、そこに出してくんな!」
どばどばどばどばどば~~!!
マイルの収納から換金窓口前の床にぶちまけられた、大量のオーク、オーガ、角ウサギその他の魔物の死体と、高く売れる採取物の数々。
「な、何じゃ、こりゃあああああ~~!!」
買い取り担当のおっさんの叫び声に、ギルド中の視線が集中した。
まだFランクであるため、魔物の討伐依頼は角ウサギくらいしか受けられない。
なので、通常依頼ではなく、事前の受注の必要がない、素材売却のみの常時依頼でお金と功績ポイントを稼ぐことにした『赤き誓い』であった。
とりあえず、これを続けてDランクになれば、一応の通常依頼は受注できるようになる。
……但し、いくら受注が可能とはいえ、Dランクのパーティを単独で護衛に雇う者はいないし、条件が厳しい依頼は受けられない。
ならばどうするか?
そう、それまでに名前を売って、Dランクであっても受けさせてもらえるように、そして指名依頼が来るようにすれば良いのであった。
そのためには……。
* *
「買い取り、お願いしま~す!」
どばどばどばどばどば~~!!
* *
「買い取り、お願いしま~す!」
どばどばどばどばどば~~!!
* *
「買い取り、お願いしま~す!」
どばどばどばどばどば~~!!
そして連日、『赤き誓い』による大量の魔物や採取物の納入が続いたのであった……。




