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561 追 跡 5

 お茶会の後は客室でくつろぎ、その後、夕食会。

 なぜか護衛という名目の『ワンダースリー』も、護衛としての位置(いつでも抜剣できる体勢で、護衛対象のやや後方に立つ)ではなく、モレーナ王女の横に席が作られていた。

 ……明らかに本当の護衛とは思えないメンバーなので、お付きである上級貴族の娘達だとでも思われたのであろう。

 また、モレーナ王女と引き離すと不興を買うと判断したのかもしれなかった。


 国王側は家族総員……国王、正妃、王子5人、王女4人……プラス大臣らしき人物6名の、計17名での総力戦であったが、モレーナ王女と『ワンダースリー』が積極的に会話するのは、王女達と国王、正妃の6人だけであり、大臣には向こうから話を振られた時にのみ対応、王子達はほぼスルーであった。

 王子達は主賓しゅひんであるモレーナ王女にのみ話し掛け、マルセラ達は身分差があるからか完全に無視していたため、そうなるのも当然であった。


 そして夕食会も当たり障りのない会話で無難に終わった。

 おそらく国王達は、モレーナ王女をどう扱えばいいのか分からなかったのであろう。

 王女達は、お茶会である程度気心が知れていたためか、普通に楽しく歓談していたのであるが。

 そして籠絡を指示されていたのかもしれない王子達は、完全に空回りしていた。

 マルセラ達を見下した態度を取る者に、モレーナ王女が好意的になるわけがないので……。


 客室へ戻った後、モレーナ王女がメイドに封書を渡した。

『これを第三王女に渡してください』と言って……。


     *     *


 しばらくして、第三王女がモレーナ王女達の客室へとやってきた。

 勿論、メイドに頼んだ封書に『部屋に来て欲しい』と書いてあったからである。

 当然、あの封書は第三王女より先に国王が見たであろうが、それ以上のことは書いていないので、何の問題もない。

 そして、皆が第三王女に呼んだ理由を説明すると……。


「えええええ! め、女神様にお願いして、わ、私に、収納魔法を授けるゥ?」

「「「「し~~っ!!」」」」

 当然、この部屋の左右の部屋から、そしてドアの向こうからも、壁やドアに耳をくっつけた盗聴要員が耳に全神経を集中させているだろう。なので、今の叫びは、絶対に聞かれたはずである。

 しかし、一応は内緒話の体裁を取ってはいるものの、後で第三王女から全てを聞き出すであろうから、聞かれていても別に問題はない。

 第三王女だけを呼び出して話しているのは、みんながいるところで『第三王女だけを選びました。他の方々はりません』と言うわけにはいかないので、心遣いとして、そうしただけなのである。


「はい。収納容量は、2メートル四方、高さも2メートルです。但し、これは普通の収納魔法として使うのではなく、特殊な用途に使うためのものです。

 その用途というのは……」


 そしてマルセラが、詳細を説明した。

 自分達3人が母国とこの国を行き来するための出入り口(ゲート)として使用すること。

 もう片方の出入り口(ゲート)役は、モレーナ王女が務めること。

 毎日一度は必ず中を確認すること。(中に新しく入れられたものは、分かるようになっている。)

 メッセージが書かれた紙が入っていたら、それに書かれている時刻に再度中を確認し、入っているであろう『ワンダースリー』の3人を取り出すこと。

 ……ちゃんと、問題のない場所で、他の者にバレないように。

 メッセージを読んだ後は、指定時間が問題ないかどうかの返信を書いた紙を入れること。都合が悪い場合は、時間を変更する。


 ……そして、『緊急避難所』としての使い方。

 襲われたり、誘拐されたり、溺れたり、崖から落ちたり、遭難したり。

 そういう時でも、一瞬で避難でき、体感時間ゼロで救い出される。その後、『ワンダースリー』かマイル001経由で古竜ケラゴンに頼み、母国へと運んでもらえば済むことである。

 ……これは、大きい。非常に大きい。

 即死でない限り、どんなことがあっても確実に救出されるのである。

 しかも、その時に同行している者達も一緒に。

 それに、継承争いにはまず関わりそうにない第三王女を暗殺しようとする者は、あまりいないであろう。いるとすれば、誘拐してどうこう、という連中だけであり、それならば何の問題もなくこれで脱出できる。


「戦争やクーデターとかで王宮が襲われた時とか、王族と大臣、上位貴族とかを脱出させられますわよ。それって、とてつもない安全装置だとは思われませんこと? ごくたまに、ほんのちょっとした面倒事を引き受けることに対する報酬としては、国家レベルの破格のメリットだとは思われません?」

「た、確かに……」

「このお話、お受けいただけますか?」

「受けます!!」


 即答であった。

 ……まあ、それ以外の返事はあるまい。

 おそらく国王から、何か持ち掛けられた場合は、余程のことでない限りは受けるようにと言われているであろうし、もしそうでなくとも、女神に収納魔法を賜るというとんでもない名誉、女神と古竜にコネがある異国の王女との強固な繋がり、そして自分や周囲の者達の身の安全の確保。

 これを断るような王族、いや、人間はいないであろう。


 アイテムボックスは異次元世界を利用するため、実際には容量無限大である。

 しかし、そんなものを一国の王女に与えてしまえば、大変なことになってしまう。使い方によっては、軍事利用も可能なのであるから。

 そのため、移動用にしか使えないよう、ナノマシンがソフトウェア的に制限を掛けて2メートル四方しか使えないようにしたのである。

 2メートル四方であれば、馬車1~2台分に過ぎないし、ごくごく少数ではあるが、それに近い容量の収納魔法が使える者もいないわけではない。


 そして、このふたりのアイテムボックス転移は、他の者を移動させることはできても、本人同士は移動できない。

 ……いや、移動できないわけではないが、その場合、戻るためには古竜ケラゴンを呼んで運んでもらわなければならない。

 マルセラ達であればともかく、さすがに両王女には、それは無理である。


 但し、『ワンダースリー』の誰かが一緒に移動すれば、『ワンダースリー』の共用アイテムボックスで戻ることができるため、ごくたまに相手国を訪問することができないわけではない。

 ……『ワンダースリー』の共用アイテムボックスについては、両王女にはまだ秘密であるが。


「では、儀式を行います。モレーナ王女、エストリーナ王女の横へ」

 マルセラの指示に、すっとエストリーナ王女の横へと移動するモレーナ王女。

「女神の名の許に、マルセラが乞い願う。ナノ魔神ましんよ、このふたりに共用の収納魔法アイテムボックスを授けたまえ!!」


 この件については、事前にマイル001と調整済みである。なのでこの儀式は形だけのものであり、打合せ通りの仕様でふたりにアイテムボックス(機能限定版)が付与される手筈になっている。

 ……実際には、ふたりにアイテムボックス操作専門の専属ナノマシンが付くわけであるが……。

 マイルがマルセラ達に対してやったことを、マイル001が両王女に対してやるわけである。遥か遠くから、遠隔指示によって……。

 マルセラが行っている儀式は、ただのフェイク、形だけのものである。

 モレーナ王女とエストリーナ王女は、超真剣、かつ感動に打ち震えているが……。


     *     *


 翌朝、朝食後すぐに、引き留める国王達を後に、さっさと引き上げることにしたモレーナ王女一行。

 モレーナ王女をひとりでケラゴンに乗せて帰すわけにも行かず、また長期の旅の前に色々と片付けておかねばならないこともあるため、今回は『ワンダースリー』も一緒に帰国するのである。


「ケラゴン様、用件は終わりました。よろしくお願い致します」

 マルセラの言葉に鷹揚おうように頷き、話していた学者風の者達やウロコの掃除をしていた子供達、その他の見物人達に離れるよう指示をしたケラゴン。

 そして……。


『幼生体共よ、大儀であった。褒美に、これをやろう』

 そう言って、ケラゴンは収納から取り出したウロコ2枚を子供達の方へと投げてやった。

 さすが権限レベル2の古竜だけのことはあり、収納魔法が使えるようである。

 そして、人間に褒美をやる時に備えて、以前脱皮した時のウロコを常に収納に入れて持ち歩いていたようであった。

 おそらく、その場で身体から剥がして渡すのは、痛いからかそこの部分が禿げるのが嫌なのか、とにかく避けたかったようである。

 ウロコ掃除をしていた子供達のことは、地球の大型動物が体表面の寄生虫をついばむ小鳥を優しそうな眼で見ている時のような、そんなふうに思っているのであろう。


「「「「「「ウ、ウロコ! 古竜様のウロコ、それも美品が2枚も!!」」」」」」

 周囲の見物人達の間から、悲鳴のような叫びが上がった。その中には、おそらく商人も含まれているのであろう。

『奪うでないぞ。高く売って、代金を子供達で均等割りにせよ。……お前が責任を持って差配せよ、よいな?』

「ははっ! この命に代えましても!!」

 先程までケラゴンと話していた学者風の男が、名誉な任務を授けられたかのように、興奮した様子でそう宣言した。

 ……いや、本当に、名誉なことだと思っているのであろう。古竜から信用されて、大金が絡むことを一任されたのであるから……。


 ウロコの掃除をしていた子供達は、その大半が孤児院の子供達と、河原や廃屋に住む孤児達である。

 ……ひとりあたり、いったい何枚、何十枚の金貨を手にすることになることか……。

 危険で汚い重労働だと、その作業を孤児達に押し付けて自分達の子供には関わらせなかった者達が後悔していたが、自業自得である。


 そして、モレーナ王女一行を乗せたケラゴンは、周囲の人間を風圧で吹き飛ばさないよう、翼の羽ばたきは抑え、魔力を主用して垂直にゆっくりと上昇し、充分な高度を取ってから、高速で飛び去ったのであった。


 人々は、神にも等しい古竜をこの国に連れて来て、その叡智の一端を授け、そして孤児達を救うこととなった今回の出来事の立役者である4人の少女達をたたえた。

 王宮からも、この国は古竜の友である美貌の王女と親交を結んだことを大々的に公表した。

 そして2枚のウロコは、勿論王宮が破格の高値で買い取った。


 ただでさえとんでもない価値のものが、それはもう正気を疑うほどの金額となったのであるが、もし後に古竜に『ウロコはちゃんと売れたか』、『幼生体達にいくら渡ったか』とか聞かれた場合に備えて、高額買い取りするしかなかったのである。

 そして勿論、商人に買い取られて他国の手に渡るようなことは許されないし、古竜との親交の証として活用しなければならないため、他の選択肢はなかった。


 ……更にその後、他国から『古竜に乗った4人の少女、「竜巫女四姉妹」に助けていただいた』という船乗りの話が伝わり、モレーナ王女の人気が更に上昇するのであった……。



この土曜日(14日)で、『私、能力は平均値でって言ったよね!』の1巻刊行から6年。

つまり、私の小説家デビューから6周年です。


ラノベ作家のデビューから5年後の現役生存率は40パーセントと言われている中(それでも、作家全体から見れば驚異の高率)、6年経っても現役でいられることの幸運。

これは全て、読者の皆様のおかげです。

ありがとうございます!


引き続き、拙作を読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。(^^)/

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― 新着の感想 ―
これアデルに対する裏切りじゃないの?誰にも教えないって言わなかったっけ?私の記憶違い? 百歩譲ってモレーナはギリギリセーフだとしても他大陸のマイルの知らない奴にアイテムボックスを教えてるのヤバくないの…
[良い点] あぁ~~モレーナ様ご一行勘違いされるのね(*´▽`*)
[一言] マ「マイルが請い願う!ナノ邪神よ、我が腕の中にケモミミ幼女を…」 【誘拐ですよ】 マ「創造ならいいよね?フレッシュゴーレム、専属ナノマシン…」 【のったあぁぁ!】
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