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549 新天地 4

 まだ午前中であるため、部屋の予約だけしてすぐに宿を出たマイル達は、そのままハンターギルド支部へと向かった。

 まずは新人として登録しなければならないのは勿論であるが、ここの通貨を持っていないため、とりあえずマイルのアイテムボックスに入っている素材を売却して当座のお金を確保する必要があったからである。

 宿は、予約の時点では前金を取られることはなかったが、部屋に入る前には払わなければならない。なので、その前に現金を入手する必要がある。


 そしてマイルは、予約の時に受付の少女……明らかに、宿屋の娘……に自家製の飴玉を渡し、しょぱなからあからさまな餌付け行為を行っており、レーナ達が肩を竦めていたのであった……。


「よし、入るわよ!」

「「「おお!」」」

 ギルド支部の前で、小さな声で気合を入れる、『赤き誓い』一同。

 今の『赤き誓い』は、新規登録に来た新人である。なので、扉を開けて、いきなり大声で挨拶したりはしない。……それは、修業の旅で各地を回るパーティがやることであり、新規登録に来た新人がやることではない。

 なので、そっと扉を開け、静かに受付カウンターへと向かう『赤き誓い』であるが……。


 じろり

 ジロジロ……


 思い切り、注目を集めていた。

 それも無理はない。

 ここは、国の一番端っこである。いくらこの辺りでは大きい町とはいえ、わざわざ他の町からハンターが訪れるような場所ではない。地方の町のハンターが目指すのは王都であり、決して近隣の同じような地方都市ではないからである。

 そして地元の新人や、ハンターを目指して10歳未満の時からギルド支部に顔を出して半端仕事を引き受けている子供達の顔は、大抵のハンターやギルド職員が知っている。


 そこに、明らかに一度見たら忘れるはずのない少女4人組、しかも身に着けている防具や衣服が板に付いており、買ったばかりのものではなさそうな感じとなれば、興味を惹かれて当然であろう。

 しかし、マイル達は初めてのギルド支部でジロジロと見られたり絡まれたりするのには慣れているため、別に何とも思ってはいない。

 そして……。


「新規登録をお願いします」

「「「「「「…………」」」」」」

 受付カウンターでそう言ったメーヴィスに、ハンターやギルド職員達の視線が更に集中した。

 勿論それは、この4人の武器や防具が新品ではなく、かといって新人が中古品を身に着けたような不自然な感じは全くなく、もう何年も身に着けて完全に身体に馴染んだかのようであったからである。

 ……そういう連中が、新規登録。

 それは、皆の注目を集めても仕方ないであろう。


「……新規登録、ですか?」

「……新規登録、です……」

 受付嬢からの胡散臭そうな問いに、にこやかにそう答えるメーヴィス。

「…………、どうぞ」

 そして、そっと差し出された登録申請書を受け取るメーヴィス。

 個人登録用が4枚、パーティ登録用が1枚である。

 まあ、この状況から、この4人がパーティ登録をしないなどと思う者はいるまい。


 どうやら、この受付嬢も、明らかに新人らしからぬこの4人が新規登録、というのをいぶかしんでいるようであったが、かといって登録を拒否できるだけの根拠があるわけではない。

 なので、規定通りに受け付けるしかなかったのである。


 ……尤も、若く真面目そうな少女の4人連れなので、不正登録とかの心配をしているわけではない。

 この年齢であれば、まだ何の根拠もない『自分達が大成功を収める未来』を信じているであろうし、不正行為による小銭稼ぎを企むならば、ハンターギルドを敵に回すという危険を冒すような馬鹿な真似をしなくとも、この4人の若さと器量であれば、もっと簡単に、楽にお金を稼ぐ手段などいくらでもあるはずだからである。

 なのに若い女性が選べる安易な手段に走ることなくハンターになろうとするのは、……クソ真面目な者だという証拠であった。


「……はい、お願いします」

 みんなが書き終えた登録申請書を纏めて、パーティ登録申請書と共に受付嬢に渡すメーヴィス。

「あ、はい……」

 そして、受け取った申請書を確認する受付嬢。

「ええと、……はい、これで問題ありません。では、受付処理が終わるまで、掲示物か依頼票でも御覧ごらんになってお待ちください」

 どうやら、文字も問題なかったようである。

 いや、漁村で一応確認はしていたのであるが、スペルが少し違っている可能性はあったので、少し心配していたのであるが……。


「あ、あの、実技試験や、スキップ登録の確認とかは……」

「はぁ? 実技試験? スキップ登録?」

 同じ失敗を繰り返さないようにと質問したマイルに、何ソレ、という顔の受付嬢。


「いえ、その、ハンターとして必要な戦闘力の確認とか、自信がある新人に、飛び級で登録させる制度とか……」

「え? いえ、新人は素人なんですから、戦闘力はなくて当然ですよ。なので、それで登録拒否なんかしませんよ。ハンター登録してから、色々と経験を積んで強くなっていくんですから……。

 どんなベテランでも、最初は皆、初心者でしょう? 実技試験をして、弱いからといって登録拒否なんかすれば、誰もハンターになれませんよ、元々強い人以外は……。

 それに、いくら強くても、薬草採取の基礎や角ウサギの狩り方、解体の仕方も知らないようでは、ハンターは務まりませんからね。

 いつ森の中で仲間が大怪我をするか、いつ移動できない状態で助けを待たねばならない状況になるか分からないのに、現場で薬草を探せなかったり、小動物を狩れなかったりする戦闘馬鹿をいきなり高ランクで登録させたりするものですか! そのあたりをよく分かっていない馬鹿がたまにいますけどね!」


 受付嬢の大きな声に、首をすくめる何人かのハンター。

 おそらく、以前何かそういう失敗をしたか、自分は強いからさっさとランクを上げろと談判したか、何かそういう黒歴史持ちなのであろう。

 そして勿論、この受付嬢はわざと大きな声で言うことによって、他のハンターに対する威嚇いかくというか警告というか、とにかく『てめーら、勘違いするんじゃねーぞ!』という教育効果を狙ったのであろう。

 新人への教育という形であれば、大声で言い聞かせても角が立たないため、良い機会とばかりに利用したものと思われた。


「「「「え……」」」」

 スキップ登録という制度がない。

 ということは、一番下のランクからのスタートである。

 その驚愕の事実に、思わず驚きの声を上げた4人であるが……。


「それも、面白いじゃないですか!」

「薬草採取と、角ウサギ狩りからかい? 基本に返って、のんびり行くのもいいか……」

「ま、別に一般依頼を受けなきゃ高ランクの魔物を狩れないってわけでもないしね。自由依頼で勝手に狩って、素材の売却益だけ貰えばいいだけのことよ」

「ぐぬぬ、依頼料なしというのは業腹ですが、一般依頼を受けて採取や角ウサギ狩りをするよりは、素材の売却益のみの自由依頼でオークでも納入した方が稼ぎになりますか……」


 それを聞いて、やはり新規登録ではあっても魔物狩りの経験はあるらしいと判断した受付嬢。

 この様子ならば、年齢や見た目によらず、早死にすることなく育ってくれることが期待できそうである。そう思って安心したのであるが……。


「じゃあ、ハンター証ができるまで、情報ボードや依頼票でも見ていましょうか」

「あ、その前に、素材を売って金策をしないと……」

「忘れてたわ……。そこが換金場所のようね。マイル、お願い」

「はいっ!」


 マイルの提言で、とりあえず当座の現金を手に入れなければならないことを思い出したレーナ。

 そして、その指示で換金場所へと向かうマイル。

 ここは、素材を買い取るところ、換金窓口が別棟ではなくギルド本館の各種受付窓口から少し離れた場所にあった。ここで買い取った後、裏の方へと運ばれるのであろう。

 勿論、換金『窓口』とは言っても、受付窓口とは違い、獲物や採取物をドンと置ける大きな台があるし、床も獲物の血が流れても問題ないようになっており、床への直置じかおきもできる。

 素材買い取り場所、と言った方がイメージに近い。


「すみませ~ん、買い取り、お願いしま~す!」

「おぅ、そこへ置いてくんな!」

 新人であっても、可愛い少女相手とあっては、おっさんの機嫌も悪くない。

 そして、言われた通りに、獲物を床へ置くことにしたマイル。

 ……台の上だと、台が壊れるかもしれないと思ったので。

 そして……。


 ででん!


 一頭のオークが現れた。


「「「「「「……」」」」」」


「「「「「「…………」」」」」」


「「「「「「………………」」」」」」

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ここは、国の一番端っこである。いくらこの辺りでは大きい町とはいえ、わざわざ他の町からハンターが訪れるような場所ではない。地方の町のハンターが目指す そして前のパートでは、  そし…
[一言] 受付嬢「なっ 何ですか、この魔物は! ぶ ぶた?!」 4人「「「「えぇえええええっっっっ」」」」
[良い点] 金貨「新人かー。ボクには関係ないかな」 銀貨「付かず離れずよいお付き合いをしますかね」 銅貨「彼女らが来てから、なぜか震えが来るんですけど」 金貨「銅貨のマグカップにヒビが!」 銀貨「銅貨…
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