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548 新天地 3

「……どう思う?」

「「「…………」」」

 レーナの問いに、思案顔のマイル達。


 あの後、3時間くらい浜辺で老人達との飲み会を続けた後、名残惜しそうにする老人達を残し、海辺の村を後にした『赤き誓い』一行。

 それ以上続けていると、仕事を終えて戻ってくる若い衆が参戦してとんでもないことになるのが明白であるため、老人達も無理に引き留めることができなかったのである。


 飲み放題食い放題で若い娘付きなどというのを漁村の若い衆が見たらどうなるかなど、火を見るより明らかであった。なにしろ、漁村の若い娘は、その大半が村を出て港町に行ってしまっているのだから……。

 なまじ徒歩2~3時間という近距離であるため、親達も引き留めることができなかったのである。

 これが、引き留められるくらい町から遠ければ。

 もしくは、村から通えるくらい近ければ。

 ……そのどちらでもない、中途半端な位置にあるショボい村、『あるある』であった……。


 そして、出していたお酒と食べ物はそのまま老人達に寄贈し、港町の方へ半分くらい歩いたところで夜営し、話し合いをしているのであった。

 既に先程の飲み会で満腹であるため、夕食はパスである。


 メーヴィスもポーリンも喋らないので、マイルがレーナに答え、状況を纏めた。

「……まず、言葉の差異は思ったよりも少なかったですね。若干のイントネーションの違いや名称の違いとかはありますが、田舎の方言だとか遠国から来たとか言えば別に不審に思われるようなこともないでしょうし、意志が通じないということもありません。

 身振り手振りも変わりませんし、もし何かあっても『うちの地元ではこうでした。すみません』で済む程度です。

 その他も、魔物の種類、周辺国の統治や貴族の状況も似たようなものですし、ハンターギルドもほぼ旧大陸と変わりません。細かい部分では少し規則が異なりますから、注意が必要ですけど。

 これは多分、大陸間の交流がなくなる前に既にギルドが存在していたか、交流が途絶えた後にどちらかから相手側に船が到達して、様々な風習や制度が伝わったのか……」


 実は、本当のことはナノマシンから聞いているのであるが、わざわざそんなことを言う必要はないため、みんなの想像に任せるマイル。

 言葉の方も、現代日本においてさえ、地方に旅行した時に地元のお年寄りから話し掛けられて全く理解できないということがあるのだから、それに較べればずっとマシであった。ほぼ支障ないと言っていいくらいである。


「そして聞き出した情報で一番気になったのは……」

「「「魔物が強い!!」」」

 レーナ達の声が揃った。

「はい。……もしくは、ヒト種が弱いか、ですね。話を聞いた相手は漁師の皆さんで、魔物と戦うことを生業なりわいとしている人達じゃないですから、他人からの伝聞から魔物の強さを過大に認識されているだけという可能性もありますが……」


 ハンター達は、自分の強さを強調するために、自分達が戦う魔物を必要以上に強く表現するものである。それは旧大陸でも普通のことであったが、それにしても先程老人達から聞いた話は、あまりにも盛り過ぎであった。旧大陸での常識から考えても……。


「ま、多少強かろうが、ゴブリンはゴブリン、コボルトはコボルトでしょ。別に、ゴブリンがオーガより強いとか、オーガが古竜より強いとかいうわけじゃないんだから、別に大した問題じゃないでしょ」

「……まぁ、それはそうだけど……」

 別にそんなことは関係ない、と、楽観的なレーナと、それにやや心配そうな言葉を漏らすメーヴィス。

 やはりパーティリーダーとしては、たとえ僅かではあっても不安要素は無視できないのであろう。


「別に、今から魔物討伐に行くわけじゃないのですから、その件は保留でいいんじゃないですか?

 どうせこの後、港町でハンター登録して色々と説明を聞くことになりますし、先輩ハンターにお酒を奢れば、色々と現場の話が聞けるでしょうし……」

「それもそうね。何も知らない者が勝手な想像をしても意味がないわね。とりあえずは、地元のハンターに話を聞くところから始めましょ」

 レーナは、自分の年齢や外見から他のハンター達に舐められないようにと、いつも強気で偉そうな態度を取っているが、別に馬鹿でもなければ無駄な意地を張ることもない。なので、マイルの意見に素直に同意した。

 ……それに、『赤き誓い』は普通より強い魔物(・・・・・・・・)というやつには、既に慣れている。


 そしてその後は、これからの行動計画や目標の相談をし、恒例の『にほんフカシ話』が始まるのであった……。


     *     *


「着きました……」

 翌日、まだ朝のうちに港町に到着した、『赤き誓い』一行。

城郭じょうかく都市としじゃないんだ……」

 マイルがそんなことを言っているが、この文明レベルでは、地方の港町が城郭都市であることは、そう多くはない。


 今後、港町の重要性が上がり、船舶の建造技術や艦載武器が発達して海側からの侵略・攻撃手段が発展すれば話は変わるであろうが、今現在においては『敵は陸側から攻めてくるもの』である。

 なので、国境からは王都を挟んで反対側、他国からは一番遠い場所であるこの港町に現時点で敵が来るということは、とっくに王都が陥落しているということであり、この町を大金を掛けて城郭都市にする意味は全くなかった。


 また、位置的にも産業的にも政治的にも兵力的にも、敵国が間諜を送り込むような理由が全くない町であるため、町への出入りもフリーパスである。

 そしてここから先は海しかない行き止まりであるため、この町を通過する商隊というものはない。

 ここへ来る商隊は全て、この町へ荷を運び、この町の産物を王都や他の領地、そして内陸方面の他国へと運ぶ商隊であるため、税は優遇されており、かなり安い。そのため、危険を冒して抜け荷を企む者などおらず、検問とかもない。


「港町らしく、自由でおおらかな感じですね……」

「ああ、雑多な感じで、余所者も住みやすそうだね」

「ちょっと変わった者でも、目立たず紛れ込めそうです」

「……私達の『始まりの町』としては、悪くはないわね……」


 まだ時刻は朝2の鐘の(午前9時)頃である。

 町に入り、大通りの歩道部分に腕を組んで偉そうな感じで立っているマイル達は働きに出る人達の邪魔になっていたが、どう見ても明らかに余所者のおのぼりさんであろう可愛い少女達を邪険にする者はおらず、みんな微笑ましいものを見るような顔で、黙ってマイル達を避けてくれていた。


「まだ午前中だけど、先に宿を押さえておこうか? 夕方になってから探し始めて、全ての宿に『満室です』と言われたり、怪しげな宿にしか空室が残っていなかったりするのは嫌だからねぇ……」

「そうね。この大陸での初めての宿屋が外れだったら、ちょっと残念よね……」

 マイルとポーリンも、メーヴィスとレーナの意見に異議はなく、こくこくと頷いた。

 特にマイルは、宿屋に……、いや、宿屋の受付の者に対しては拘りがあるため、じっくりと選ぶつもりであった。

 そして他の3人は、そんなことは最初からお見通しなのであった……。


     *     *


「ここです! ここにしましょう!!」

「はいはい……」

 はしゃぐマイルに、諦めたような顔のレーナ。

 宿の良し悪しは、泊まってみないと分からない。

 せいぜい、玄関周りの清掃状況や出入りする客層から判断するくらいであり、食事やサービス、内装やベッドの良し悪しとかは、一見いちげんの客に泊まる前から分かるわけがない。

 なので勿論、マイルの選択基準は『受付をやっているのが、幼女、もしくは自分より年下の少女であるかどうか』しかなかった。


 本当は、マイルにとってはもふもふの獣人の幼女であれば最高なのであるが、そんな宿屋がある確率はかなり低く、ハンターギルド支部からそう遠くない範囲では見つけることができなかったのである。

 入り口の扉を開けて中を覗き込み、受付カウンターの方を見てからパタンと扉を閉めるという、いささかマナーに反する行為を繰り返していたマイルであるが、おそらくこれ以上探しても無駄であろうと、さすがに諦めたようである。

 そしてマイルが妥協して選んだのは、7~8歳くらいの普通の人間の少女が受付カウンターからぴょこんと顔を出している、宿屋としては小さめのところであった。


 勿論、貴族や金持ち相手の高級宿ではなく、そして底辺職の者達の溜まり場となるような治安状況の悪い店でもなく、……言うならば、『普通』。

 商会主や大番頭とかではない、仕事のために移動している下級の番頭や手代とか、ハンターの内の少し稼ぎの良い連中……Cランク上位からBランクなかばくらい。それ以上は、もっと良い宿に泊まる……とかが利用するような宿。

 つまり、旧大陸で『赤き誓い』が定宿にしていた、あのレニーちゃんの宿屋と同じくらいのレベルの宿である。

 そう、『赤き誓い』の新たな門出における定宿として相応ふさわしい宿であった……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いきなり宿とって、お金換金したっけ?
[一言] 昔のRPGならレニーちゃんとおなじキャラグラが当てられてるに違いない
[一言] ブレない……どこまで行ってもブレない。
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