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547 新天地 2

「じゃ、行きましょうか……」

 港町の近くにある森に降りた『赤き誓い』一行は、この大陸にある古竜の里に挨拶のため顔を出してから旧大陸の古竜の里に戻る、と言っていたケラゴンを見送った後、港町ではなく、そこから少し離れた場所にある小さな村へと向かって歩き始めた。

 そりゃそうである。言葉も習慣も常識も知らない国で、いきなり大きな街へ行くのはリスクが大き過ぎる。いくら元の言葉が同じであっても、長い年月の間に単語の意味が変わっていたりするかもしれないし、挨拶のつもりで軽く右手を挙げたら、それは相手を侮辱する行為だったりするかもしれない。

 アレである。降伏の合図として白旗を掲げたら、それは向こうにとっては『必ずお前達を殲滅してやる!』という宣戦布告と挑発の行為であったりするやつ……。


 それに、あまりにも無知な状態で大きな街へ行くのは、馬鹿や悪い奴らに絡まれたり騙されたりする確率が高過ぎる。今の『赤き誓い』は、その危険性が人々に充分周知され理解されているパーティではなく、ここの人達にとっては、ただの小娘4人組に過ぎないのであるから……。

 おまけに、とりあえずの生活資金を手に入れるため、マイルのアイテムボックスに入っているものを少し換金する予定であるため、小悪党に目を付けられる確率も高かった。

 それに、ここでの商品価値も知らないのでは、いいカモである。

 なので、とりあえず最初は小さな村でチュートリアルを、というわけであった。

 それならば、多少の失敗をしても、その話は村の中だけにしか広まらないであろうと考えて。


「まぁ、そこまで極端な違いはないと思うのですけどね……。元々、同じ言葉、同じ風習、同じ常識の、ひとつの文明圏だったのですから……。

 文明がかなり衰退するまでは、船での交流が続いていたでしょうし、通信機器も生きていたでしょうから。

 それらが全部駄目になった頃には既に大半の技術や知識は失われていて、今と大して変わらない状態になっていたでしょうから、旧大陸と似たようなものだと思いますよ」

「そうならいいんだけどね……」


 マイルの楽観的な話に、メーヴィスが懐疑的な言葉を返したが、勿論マイルはナノマシンからある程度の情報を仕入れているので、根拠のない希望的観測というわけではない。

 いくら安易に何でもかんでもナノマシンに聞くことを是としないマイルであっても、ファースト・コンタクトで誤解による致命的な大惨事を招くのは嫌であったらしく、そのあたりはきちんと確認済みであった。


     *     *


「……簡単に入れましたね……」

 マイルがそんなことを言うが、ここは塀に囲まれているわけではなく、門番が立っているわけでもない、小さな漁村である。それは、誰でも自由に入れて当然であろう。

 大きな港町から徒歩2~3時間の場所にあるこの村は、漁業専門の村のようである。

 ……自分達で食べるための野菜は少し作っているようであるが、小麦とかの大規模な農業をやっている様子はない。

 おそらく、獲れた海産物を大きな港町や内陸側の町へ売り、そのお金で穀物その他を買い入れるのであろう。肉はあまり食べず、穀物と魚介類中心。ごく普通の、漁村であった。


「宿屋は……、無さそうね……」

 レーナが言う通り、そんなものはありそうになかった。

 無理もない。近くに大きな町があるのだから、宿泊はそちらにするに決まっている。町からこの村に用事で来る者も、日帰りするに決まっている。

 この村は、町に近すぎるため、宿屋がやっていける程の宿泊客など到底望めそうになかった。


「まぁ、それは問題ないよね。村から離れたところで夜営すればいいだけの話だからね。その方が、小さな村の宿屋とか村長の家に泊めてもらうより、ずっと快適だし……」

 メーヴィスが言う通り、普通のハンターならばともかく、『赤き誓い』はその方がベッドもトイレもお風呂も、ずっと快適である。なので、少し村の人達と話をして情報を得れば、そのまま港町へと向かい、その途中で夜営すれば済むだけのことであった。

 そういうわけで……。


「じゃあ、第一村人とのファースト・コンタクト目指して、れっつごー!」

「はいはい……」

 ちなみに、『れっつごー』というのは、『にほんフカシ話』にたまに出てくる言葉であるため、レーナ達には意味が分かっている。他にも、『レッツラゴー』、『吶喊とっかん』、『くぞペガス』等の同義語も理解しているようである。




 そして、暇そうにしている老人に話し掛け、マイルがアイテムボックスから取り出したお酒と摘まみを振る舞って、色々と話を聞いた。

 もう歳を取り過ぎて漁労に従事することはできず、ぼんやりと海を眺めていた老人は、若い女性に話し掛けられた上に酒と摘まみを提供されたものだから、もう、喋る喋る!

 普通であれば、見知らぬ余所者に話し掛けられれば少しは警戒するものであるが、もう人生の元は取っており、いつお迎えが来ても構わない老人にとっては、我が身の心配よりも、若い女性と話せることの方が遥かに重要であったらしい。……しかも、酒と摘まみ付きである。


 老人は、少女達が若干言葉のイントネーションがおかしかったり、時々知らない単語を喋ったり、変に物知らずだったりすることなど、気にもしていなかった。

 他国から来た者や、国内であっても遠くの山奥から来た者などは、方言がキツかったり、かなりの物知らずだったりするのはごく普通のことである。王都民でもあるまいし、このあたりではそんなことを気にする者などいない。

 割と大きめな港町に近いとはいえ、ここは王都から遠く離れた国の端っこであり、王都民からは田舎者呼ばわりされる地域なのである。……そう、同じ『田舎者仲間』なのであった。


 そして、マイル達が老人から色々と情報収集をしていると、わらわらと集まってきた。

 ……他の老人達が。

 若い衆は小舟で漁に出たり、岩場の方に魚介類や海藻類の採取に行ったりしているらしく姿がないが、年寄り連中は海辺や屋内で網の修理やら魚介類の加工やらをしていたらしく、年寄り仲間のひとりが何やら若い女と酒をんでいるらしいと察知し、仕事を放り投げて集まってきたらしいのである。

 そして……。


「飲みねえ飲みねえ、酒飲みねえ! 食いねえ食いねえ、肉食いねえ!」

 酒も食べ物も、アイテムボックスに充分ある。

 新大陸では収納魔法の遣い手が旧大陸より多いのか、マイルの収納魔法……の振りをしたアイテムボックスを見た老人達は、少し驚きはしたものの、そう派手に驚愕したわけではなかった。精々、凄いのぅ、羨ましいのぅ、と言った程度である。


 そして、マイルは幼女と老人には甘かった。

「摘まみは、オーガの肉を有機的に加工した、オーガニック料理ですよ!」

 ……ちなみに、有機農法オーガニックとは、何の関係もない。

 勿論、お酒を飲んでいるのは老人達だけであり、マイル達は果実ジュースである。

 この国でも、別に飲酒に年齢制限があるわけではないらしいが、こんな時にお酒を飲むような『赤き誓い』ではないし、元々、マイル達はまだお酒が美味しいと思えるような年齢ではなかった。

 なので、飲むとしても、せいぜい食前酒アペリティフに軽く口を付ける程度である。


「ほほぅ、若い衆はみんな、漁師を嫌がって近くの港町やら王都やらに行ってひと旗揚げようと?」

「そうじゃ。元手も伝手つてもない、無知な田舎者が都会へ出ればひと旗揚げられるなら、港町や王都にゴロツキやチンピラ、貧民やスラムの住人なんかがいるはずがないじゃろうに……」

「「「「ですよね~!」」」」

 まあ、田舎の若者達が都会に夢と憧れを抱くのは、仕方のないことである。

「儂のように、夢破れてこの村に舞い戻ってくるのが関の山じゃというに……」

「「「「爺さんも、行ったんか~~い!!」」」」

 ……そりゃ、ジジイにも『若かりし頃』はあったであろう。

 仕方ない。仕方ないことであった……。


 色々と話を聞く『赤き誓い』であるが、4人共、次第に何か違和感を覚え始めていた。

 それは……。

(あれ? お爺さん達、話を盛ってる?)

(聞いている話は実話のはずなんだけど、何か、魔物が強過ぎるというか、ハンターや傭兵、軍の兵士達が弱過ぎない?)


 ……そう。

 何だか、語られるエピソードの多くが、ヒト種側がそう大したことのないはずの魔物相手に苦戦する話なのであった……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 盛った話ではなく、この大陸の魔物が強いのでは?ガクガク:(´◦ω◦`):ブルブル
[気になる点] れっつ・ラ・ゴーと行くぞペガスは少し違うんじゃないかと・・・
[一言] 「レッツラゴー」は、「レッツラゴン」にしてほしい。 世代的に。赤塚不二をが一番尖っていたマンガだと思う。 海里は、読んでないか。
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