543 戦い終わって 7
「「「えええええ!」」」
王宮から戻ったマイルの報告に、驚愕のレーナ達3人。
「そ、そそそ、それって……」
「マ、マママ、マイルちゃんが……」
「ハンターを引退して神殿に住む、ってことだよね?」
「「「何じゃ、そりゃああああああ!!」」」
みんなに、思い切り叫ばれた。
勿論、それを予想してマイルが事前に遮音結界を張っておいたので、安心である。
「マ、マママ、マイル、あ、あああ、あんた、女神様になる気なの!」
「『新世界の神』ですかっ!」
「教祖様かな?」
みんなに驚かれるのは予想していたが……。
「あんたがいないと、『赤き誓い』が分解しちゃうじゃないの!」
「儲けが激減しちゃいますよっ!!」
「ああ、今、マイルに抜けられると、荷物や獲物の運搬や、食事が……」
少し驚き過ぎのレーナとポーリン、そして割と落ち着いた感じのメーヴィス。
「……え?」
そして、レーナ、ポーリン、メーヴィスの言葉に、きょとんとするマイル。
「いえ、私も皆さんと別れたくはないですけど、その、皆さんがハンターになられた目的って、もう全部終わっちゃってませんか? Aランクを目指していたレーナさんとメーヴィスさんも、自分の商会を作るためにお金を貯めていたポーリンさんも……」
「「「え?」」」
マイルの指摘に、ぽかんとするレーナ達。
「そ、そう言われれば……。
確かに、私はハンターとしての目標であったAランクどころか、その上のSランクになっちゃったし、更にその先の目標であった騎士としての叙任も、既にマイルの守護騎士、聖騎士に任命されたからねぇ。
会ったこともない、ただの年寄りの人間に過ぎない国王とかから任命されるよりも遥かに価値のある、『御使い様からの、聖騎士の叙任』を受けたというのに、騎士としてこれより上の身分はないよねぇ……。
もう、騎士を目指す者としての全ての目標、全ての望みを叶えちゃったのか……」
「そういえば、私もAランクになるって目標、叶えちゃったんだ……。
当初の予定以上に名を売れたから、自伝を書けば出版してもらえるわよね……」
レーナの悲願である、自分が有名になって自伝を出すことにより『赤き稲妻』の功績を歴史の中に刻み込み、後世に残すこと。
Sランクとなった今、後は執筆し、出版社に依頼するだけである。
「あ、本の出版なら、いい出版社を紹介しますよ。売れそうならば自己資金は必要ありませんけど、売れそうにない本を出すなら、必要経費を自費で賄っての出版になります。
まぁ、以前にちょっと見せてもらったレーナさんの原稿なら、今の知名度があれば出版社が飛び付くのは確実ですよ!」
メーヴィス、レーナ、そしてマイルがそんなことを言って盛り上がる中、暗い表情のポーリン。
「みんな、自分達の夢ばかり叶えて……。
私は! 私の夢はどうなるんですかっっ!!」
そして、いきなり叫び始めたポーリン。
「いや、あんたも伯爵様になるんだから、自分の領地で商売を始めればいいじゃないの。
領主様直営なら自分で色々と優遇できるし、他領や他国との取引もやりやすいでしょ、強力なネームバリューと信用度で……。
資金も、領地の予算や今回の報奨金とかで充分じゃないの? 領地の振興のための領主直営の商会なら、領の予算を使っても問題ないでしょ?
それに、マイルに頼めば、神殿が『聖女屋』って屋号使うの許可してくれるんじゃないの?
その屋号使えば、敵なしでしょ」
「あ……」
今回のことだけでも充分だというのに、以前の『アスカム領、奇跡の撤退作戦』の話が国中に広まっている帝国においては、それこそ無敵の知名度である。それも、大勢の自国兵士の命を救ったという、好感度MAXの……。
「それに、皆さん、領地を与えられるんじゃないですか? それ、管理しなきゃならないのでは?」
「「「あ……」」」
そう。マイル……アデルの母国ブランデル王国は、アスカム家の爵位を上げたものの、領地はそのままであった。平民であるモニカとオリアーナには、女準男爵という、『平民としての、名誉称号』が与えられただけである。
しかしここ、ティルス王国では、『赤き誓い』のメンバーは皆、身分に関係なく全員同じ、伯爵位が与えられている。……ちゃんとした、領地付きで……。
伯爵領など、そうそう空いていたり、簡単に与えたりできるものではない。
なのでこれは、ティルス王国の『絶対、コイツらを手放さない!』という、強い決意の表れであろう。
まぁ、王命であるオーブラム王国への派兵を断ったり、領軍を派兵して手薄になった周辺領に手出しした貴族達が降爵やお取り潰しになったため、領地や爵位に空きができたことも、4つもの新規貴族家、それも伯爵家の新興を可能としたのであろう。
マイルを侯爵位ではなく伯爵位に留めたのも、『同じパーティメンバーであるのだから、同じ扱い』ということにするためであったのかもしれない。
その方が、一般国民からの受けは明らかに良いであろうから……。
このあたり、頭の固いブランデル王国と違い、やり方が上手いようである。
ちなみに、ポーリンには、例の事件でお取り潰しになったポーリンの実家がある領地が与えられた。元子爵領であるが、隣接する男爵領を併合して、少し小さな伯爵領としたらしい。
元子爵領は、お取り潰しの後、国王が派遣した代官が腐敗した領内を立て直していたが、それが一段落したことと、たまたま隣接した男爵領が今回の件で爵位剥奪となったため、丁度良かったらしい。
また、メーヴィスには、オースティン領に近い領地が与えられた。
父親や兄達に色々と助けてもらえるようにとの配慮であろう。
レーナには、ポーリンとメーヴィスの領地の中間付近にある、伯爵領としては少し小さなところが与えられた。
……やや小さめではあっても、立地と肥えた土地で、良い領地であった。下手に広いだけで痩せた土地より、余程いい。
さすがに、救世の大英雄におかしな土地を押し付けては国の沽券に関わると考えたのであろう。
それぞれの領地は互いに少し離れており、王都を挟む形で国の四方にかなり散っている。
これらはおそらく、4人を近くに纏めると他の地方から文句が出るであろうことと、あまり4人を一箇所に纏めると何かやらかしそうで、何だか不安なためであろう。
それに、王都を挟んで分散させておけば、互いの中間点である王都に来る回数が増えるであろうし、互いの領地を訪問する時にも、王都を通過することになる。
……色々と考えが回る、王宮上層部であった。
さすがに、マイルの領地は、神殿建設予定地に隣接したところであるが……。
とにかくそういうわけで、もう、マイル達はハンターとしての生活は続けられそうになかった。
……マイルのように、自領を放り出して他国へ逃げ出しでもしない限り……。
しかし、マイルの時と違い、今は4人全員の顔が大陸中に知れ渡っている。
どこに行こうが、『赤き誓い』は一介のハンターパーティとしてではなく、『御使い様御一行』、『救世主様方』として扱われ、とても普通の依頼や危険な依頼を受けさせてもらえるとも、しつこくつきまとうことなく放っておいてもらえるとも思えなかった。
そしてそれは、『赤き誓い』の活動不能、つまり『解散』を意味していたのであった。
「「「「…………」」」」
そして、それに気付き、呆然と立ち尽くす4人であった……。
12月7日、『のうきん』書籍16巻、刊行です!(^^)/
そして、9日には、『ろうきん』と『ポーション』のコミックス9巻が刊行!
併せて、よろしくお願いいたします。(^^)/
また、『のうきん』のコミカライズが、リブート!!
ガンガンONLINEのアプリにて、既に連載が開始されています。
15日から、ブラウザ版も公開開始予定!!
ネーム構成:桜井竜矢先生、作画:iimAn先生で、新しい『のうきん』をお楽しみください!(^^)/
そしてそして、大ニュース!!
『スレイヤーズ』、『ロスト・ユニバース』等でお馴染みの、大御所、神坂一先生と私との対談が、SQEXノベルのブログにて公開!
12月7日の午前零時に公開予定なので、もう既に読めるはず……。
対談の時間は1時間弱の予定だったのに、話が盛り上がりすぎて、2時間に。
でも、話の内容がアブナくなりすぎて、ボークやビーンボール連発。そのため、大幅にカットされてしまった……。(^^ゞ
試し読みや書き下ろしSSも載っている、SQEXのサイトへ。
そして、一周年特設サイトで神坂一先生との対談を!(^^)/
https://magazine.jp.square-enix.com/sqexnovel/1st_anniversary/
間もなく創刊一周年を迎えるSQEXノベルと、『12~13歳くらいに見えるちっぱい少女3部作』、引き続き、よろしくお願いいたします。(^^)/