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542 戦い終わって 6

 ブランデル王国の貴族達の間では、モレーナ王女の株が爆上げとなっていた。

 あの、女性近衛分隊設立の手際と、その裏に隠された特命部隊『ワンダースリー』によるアスカム女子爵捜索計画。


 そして今回の、僅かな手勢を率いての、『ワンダースリー』と共に最前線への参戦。

 今回の戦いに参戦した周辺諸国のうちで、王位継承権第5位以内で『アルバーン帝国、対侵略者絶対防衛戦』の最前線での戦いに参加した、唯一の者。

 

 他の王族達は、正規軍を率いて東方での『オーブラム王国王都絶対防衛戦』に出陣していたため、それは仕方ないことであった。

 しかし、最前線で王族旗を掲げた唯一の王位上位継承権者であり、年若く、可憐で美しい少女が、お飾りや安全な後方で指示を出すだけではなく最前線で戦う姿は、絵になった。

 新米ハンターとして、あの臨時編成のパーティで対魔物戦の実戦を経験していたモレーナ王女は、臆することなくオークやオーガに対して攻撃魔法をぶち込んでいた。王族は、貴族と同じく、トップブリーダー達の仕業によって、美人なだけでなく魔法の才能が大きい者の血を長年に亘り取り入れ続けているのであるから……。


 更に、王女を死なせて自分達だけが生きて帰った場合のことを想像して、必死でモレーナ王女を護り戦う貴族の少女達。

 こんな美味しい絵を、ナノマシン達が見逃すわけがなかった。

 それに、モレーナ王女はマイルの知り合いである。……一度会っただけであるが。

 なので、ナノマシンが重点的にピックアップする『大陸中の大空に映し出す、戦いの映像』に選ばれるのは当然のことであった。

 国中に、いや、大陸中に流された、モレーナ王女と女性近衛分隊の奮闘。

 その女性近衛分隊も、モレーナ王女が自ら企画し設立した部隊である。

 オマケに、大活躍している『ワンダースリー』も、モレーナ王女が設立した女性近衛分隊の一員なのである。


 魔物に接近されて恐怖に震え、泣き言を漏らしながらも一歩も退かず、仁王立ちで攻撃魔法を放ち続ける美貌の王女。

 その健気けなげな姿は大陸中に放映され、それを見た戦場に行かなかった貴族や王族達は自らを恥じると共に、もう二度とあの少女を泣かせない、自分があの少女を護るのだと、心に誓った。

 そして平民達は、自分達を護るために最前線に立つ王族の少女の姿に涙した。

 ……モレーナ王女が、大陸中の人々の心を鷲掴わしづかみにし、アイドルの座を獲得した瞬間であった。


 既に、『次の国王は、モレーナ王女がいいのではないか』、『モレーナ女王陛下に治めていただければ、我が国は安泰である』などという話が貴族や国民の間から湧き上がり、更に近隣諸国ではモレーナ王女を自国の王太子の婚約者とすべく一斉に暗躍を始めていた。

 ……モレーナ王女、モテ期到来である。


 また、女性近衛分隊の少女達も、格上の貴族家の跡取り息子達からの婚約話が殺到。

 出来て間もない女性近衛分隊が、寿退職ラッシュで空中分解しそうであった。

 しかし彼女達は、この名声を最大限に利用してもっといい縁談を掴むべく、まだ退職する気は皆無のようであるが……。


     *     *


「困りました。どうしましょう……」

 ティルス王国の王都にあるふたつの学園のうち、格下の方である、アウグスト学院。

 ブランデル王国での、マイルが通っていたエクランド学園に相当する立ち位置の学園である。

 その女子寮で悩む、平民特待生のマレエット。

 そう、『ワンダースリー』のオリアーナに相当するポジションである。

 違っているのは、オリアーナが実力で獲得した立場であるのに対し、マレエットはマイルの詰め込み教育と『専属ナノマシン』による底上げにより特待生として合格できたことである。


 しかし、マレエットは元々優しく正義感の強い子であったし、力をお貸しいただいている女神の眷属の皆様に見捨てられるのを恐れ、決して悪事には手を染めない。

 文字通り、聖女と呼ばれるにふさわしい少女なのである。

 その彼女が、どうして困っているかと言うと……。

「婚約のお申し込みと、養女のお話が、既に100件以上……」

 そう、父親からの手紙に書かれていた、そのことであった。


 父親が中堅商家を経営している、平民の娘であるマレエット。

 しかし、マイルのせいで入学試験の日からやらかしまくり、『女神』、『水爆王女』、『爆裂聖女』、『学院の守護者』などと呼ばれ、神殿や治癒魔術師、ハンター達の間でも既に有名になっていた。

 そこに、更に御使い様とお友達、治癒魔法だけでなく攻撃魔法も規格外、その他諸々が公になり、貴族家やら大店の跡取り息子やらとの縁談が雲霞うんかの如く押し寄せているのであった。

 ……ちなみに、『水爆』というのは、水を爆発的な勢いで叩き付ける魔法のことである。

 決して、核融合とかが関係しているわけではない。


 マレエットの実家には、貴族や大店、神殿等からの圧力に耐えられるような力はない。

 かといって、大量の申し込みのどれを選んでも、他の申込者達がおとなしく諦めてくれるとは思えなかった。

 そして何より、マレエット自身が、まだ成人もしていない若さで、会ったこともない歳の離れた男性の婚約者になることなど、絶対に勘弁して欲しかった。


「どうしましょう……」

 悩むマレエットであるが……。


「あ!」


 ぴこん、と、頭の上で電球が点灯したかのような顔をしたマレエット。

「そうだ、巫女になろう!」

 何やら、打開策を思い付いたようである。


「後ろ盾のない私が単独ひとりでいるから、目立つし、狙われるのです。

 ならば、後ろ盾があって、私よりもっと目立つ人の足元にいれば、私自身は目立たないし攻撃を受けることもない! そして貴族や神殿からも文句を言われず、手出しされない場所!

 そう、御使い(マイル)様の巫女になって、側仕そばづかえの仕事をすればいいのです!

 聖女とか言われている私なら、御使い様にお仕えするのに何の問題もないし、誰にも文句は言えないでしょう。そして、巫女に婚約や結婚を強制することもできないはずです!

 マイル先生なら、絶対に私を守ってくださるに決まっています!!」

 ……どうやら、逃げ道を思い付いたようである……。


     *     *


「えええええ!」

 今回は、『赤き誓い』全員ではなく、マイルひとりが呼び出されて、王宮へ参内していた。

 ブランデル王国絡みの話か、御使い様としてのマイルとの話であれば、それも別におかしなことではない。なので、マイルひとりでやって来て、国王陛下から直々(じきじき)に聞かされた話が……。

「わ、私の、し、神殿が建立こんりゅうされるううううぅ~?」

 そう、とんでもない話であった。


「御使い様の御座所を御用意するのは、当然のことであろう?

 そして、近隣各国から文句が出ぬよう、場所は我がティルス王国と、ブランデル王国、アルバーン帝国の3国が接する場所に決まった」

 国王陛下は、一応はマイルに敬意を払ってはいるようであるが、人間が女神に対して行うような、下等生物が至高の方々に対して接する時のような態度や言葉遣いをするつもりはないようであった。

 マイルとしても、その方がありがたい。

 そして、3国が接する場所と言えば……。

 ……そう、元アレイメン男爵領、そして今はケルビン・フォン・ベイリアムが治める、あの場所であった。


「3国が接する地点を中心とした、半径1000メートルの円内。それをどの国からの干渉も受けない聖域として、その中心に神殿を建立する。

 そして神殿の周囲には神官や信徒達の居住区や、遠方から参拝のために訪れる信徒達のための宿屋、商店等を造り、外周部は広場や公園、畑等にする。

 その中を細い川が1本流れておるから、井戸と併せて、水に困ることもあるまいて……。

 そして我が国のマイル・フォン・(・・・・・・・・)アスカム伯爵領(・・・・・・・)の領地は、それに接した我が国側の一帯だ」


 ちなみに、帝国におけるアスカム伯爵領も、同様に聖域に面した一帯である。

 両国共に、元々その一帯を治めていた複数の貴族を好条件で他の領地に転封てんぽうして、かなり強引なことをやったらしかった。

 しかし、転封された貴族はより良い領地を貰えたし、マイルに領地を譲ったという事実は、かなりの政治的カードを入手したことでもあり、不満どころか大満足であったらしい。

 また、住民達は、自分達が住む領地をあの救世主である御使い様が治めると聞いて、大喜びでお祭り騒ぎだとか……。


 信用できる代官も国から派遣されるらしく、少なくとも、領地関連での問題はなさそうであった。

 ……そもそも、御使い様を騙したり裏切ったりする者がいるとも思えないが……。

 もしそういう者がいたとしても、仲間を増やそうとして最初に声を掛けた者に捕らえられ、警備隊に突き出されるのは確実である。


 ブランデル王国だけは、元のアスカム子爵領を侯爵領としただけであり、聖域からはかなり離れている上、到底侯爵領と呼べるような広さの領地ではなかった。

 これは、すぐにマイルを王族か大貴族に嫁がせるため侯爵としての領地は不要であるという意見が大勢を占めたことと、愛着のある先祖代々の領地の方が重し(・・)になるであろうこと、そして領地が聖域と離れていた方が、マイルが聖域に引き籠もることなく国内を頻繁に移動するであろうこと等の理由によるものと思われた。


「な、ななな……」

 どうやら、既に各部への話は付いているようであった。

 マイル本人を除いて……。



12月7日(火)、いよいよ、『のうきん』16巻、刊行です!


もうすぐ決戦! 戦いの前夜を、書き下ろし短編、カラーピンナップやモノクロ挿絵と共に、加筆修正された書籍版で!!(^^)/

そして、各種特典等は、次の通りです。


『私、能力は平均値でって言ったよね! ⑯』書店様特典


SS1『ポーリン』⇒TSUTAYAさん等


SS2『奇跡』⇒メロンブックスさん


SS3『獣人の村』⇒ゲーマーズさん


SS4『チョロイン』⇒アニメイトさん


SS5『シンデレラバスト』⇒とらのあなさん


SS6『職業紹介』⇒BOOKWALKERさん


SS7『正義の味方』⇒電子書店さん


SS8『にほんフカシ話』⇒WonderGOOさん


電子版特典(電子書籍巻末に収録)

『マイル、吠える』


公式サイト書き下ろしSS

『試 食』


レーベル一周年記念、書き下ろしSS

『一周年』



そして、何と、『のうきん』の新コミカライズ、SQEXからリブートのお知らせです!(^^)/

ネーム構成:桜井竜矢先生、作画:iimAn先生で、新しい『のうきん』コミカライズが始動!!


12月1日、午前零時に連載開始!

連載場所は、ガンガンONLINEのアプリにて。

2週間遅れの15日から、ブラウザ版も公開開始!!

よろしくお願い致します。(^^)/


そして、のうきんスピンオフ漫画、『私、日常は平均値でって言ったよね!』を描いていただきました、森貴夕貴先生のコミカライズ新連載、『捨てられおっさんと邪神様の異世界開拓生活~スローライフと村造り、時々ぎっくり腰~』第1話、色々な電子書籍サイトで大好評公開中!(^^)/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「メーヴィスが救ったエルトレイア姫が率いる、王国近衛軍。」 王位継承権第1位だったのでは? 『精強、近衛第一小隊』立ち直っただろうか?
[一言] >どうやら、既に各部への話は付いているようであった。 >マイル本人を除いて……。 男の人(おうこうきぞく)っていつもそうですね…! 女の子(まいる)のことなんだと思ってるんですか!?
[気になる点] > 3国が接する地点を中心とした、半径1000メートルの円内。それをどの国からの干渉も受けない聖域として、その中心に神殿を建立する。 彼らがそんな知識を欠いているので仕方がないが、半…
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