540 戦い終わって 4
褒美や式典、みんなの扱いとかについてはこれから検討する、という言葉と共に、何とか王宮での説明会は終わった。
『私達の扱い?』と疑問の声を漏らしたマイルであるが、ブランデル王国の外交官にぎらつく眼で見詰められ、全てを悟って顔を引き攣らせるのであった……。
* *
「……どうしようか……」
「どうしようって言ったって……」
「どうしようもありませんよね……」
「たはは……」
そう、7カ国による国際会議の結果を待たないと、どうしようもなかった。
「……じゃ、とりあえずギルドに顔を出しますか!」
「「「あ……」」」
そういえば、戻ってきてから、まだギルド支部に顔を出していなかった。
さすがに、そろそろ顔を出さないとマズいであろう。
……というか、既に完全にマズい状況である。
確かに、今回はギルドで受けた依頼というわけではないから、完了報告の義務はない。
しかし、そんな正論が通るわけがなかった。
「「「「…………」」」」
それに気付いて、あちゃ~、という顔をする4人であるが、これ以上後回しにしても、状況は悪化するばかりである。
「行きましょうか……」
「「「うん……」」」
* *
「「「「「「ばんざ~い! 『赤き誓い』、ばんざ~~い!!」」」」」」
ギルド支部に入った途端、万歳の声と拍手で迎えられた、『赤き誓い』一行。
なるべく人の少ない時間帯を選んで来たのに、これである。
「『赤き誓い』の皆さん、お疲れさまでした! ギルドマスターがお待ちです、どうぞこちらへ!」
満面の笑みを浮かべて、受付嬢がカウンターの向こうから飛び出してきた。
そして、先頭にいたマイルの手を握り、さぁ、さぁと引っ張るため、みんな揃って2階のギルドマスターの部屋へと向かった。
「どうして、戻ってすぐに来ない! 宿に行くより先に、うちに顔を出すのが普通だろうが!
それを、こんなに何日も待たせやがって……」
部屋に入る早々、そう言ってギルドマスターに怒鳴られたが、別に本当に怒っているわけではない。その証拠に、ギルドマスターの顔はすぐに笑みで崩れた。
「よくやってくれた! 世界のありとあらゆるものを救ったお前達に、俺如きが礼を言っても何の意味もないかもしれんが、それでも言わせてくれ!
ありがとう。感謝する……」
そう言って、立ち上がって深く頭を下げるギルドマスター。
こういう時には、マイル達は謙遜したり、『そんな! 頭を上げてください!』などと言ったりはしない。
相手の気持ちを否定する必要はない。ただ黙って、感謝の気持ちを受け取るだけである。
そして、一同は席に着いた。
「悪いが、早速、事務的な話をするぞ。お前達の立場をはっきりさせとかないと、色々と齟齬が生じるからな」
ギルドマスターの尤もな言い分に、こくりと頷く『赤き誓い』一同。
「まず、お前達はSランクになった」
「「「「……え? えええええええ~~っ!!」」」」
「……い、いや、ランクアップには功績ポイントだけじゃなくて、前ランクでの活動期間が必要でしたよね、各ランクごとに決められた、一定期間の……。
そしてそれは、たとえ貴族であっても破られることのない規則だと……」
マイルの言葉にレーナ達が頷くが、ギルドマスターは首を横に振ってそれに答えた。
「それには、『国を救った国家的英雄でもなければ』、という但し書きが付いている」
「「「「あ……」」」」
そう。マイル達は確かに、以前そう聞いた記憶があった。
そして、今回のことがその『国を救った国家的英雄』という条件に合致しているかといえば……。
「あは、あはは……」
マイルの口から、乾いた笑い声が溢れた。
「お前達がSランクでなきゃ、他のSランクの奴らは恥ずかしくて全員引退しちまうよ! そして、未来永劫、もう誰もSランクにはなれねぇよ!! 他のハンター達のことを考えろ。
……なので、辞退は許されない」
「「「「…………」」」」
分かる。その説明は、よぉく分かる。
世界を救ってもSランクになれないならば、Sランクになるにはこの恒星系か、銀河宇宙を救わねばならない。
「本当は、他のSランクの奴らの気持ちに配慮して、Sランクの更に上のランクを創ろうという話も出たんだが、Sランクは『Aランクより上』という、上限のないランクだからな。
それに、以後、お前達以外になれる者がいるとも思えない。なので、『Sランクは人外』ということで、上のランクを創る話はなくなった」
「「「「…………」」」」
「そして、今回のお前達のことには関係ないが、ハンター昇格における『前ランクにおける最低活動期間』の縛りはなくなった。
これは、以前からそう提唱する者達がかなりいたことと、ティルス王国の上層部から強い要望が出ていたため、既にギルド会議で内定しており、正式発表を待っている状態だったのだ。
それを、お前達のSランク昇格に合わせて前倒しで発表することになった。
そうすれば、残っていた反対派も、ぐうの音も出ないだろうからな」
「「「「…………」」」」
みんなが、……特にメーヴィスとレーナが憧れ、目指していたAランクハンター。
それが、BランクもAランクもすっ飛ばしての、いきなりのSランクである。
ハンター全ての夢であり、憧れである、生きた伝説、Sランク。
「わ、私達が、生きた伝説である、Sランクハンターに……」
気持ちが追いつかないのか、呆然としてそう呟くレーナ。
「いや、お前達、Sランクハンターにならなくても、もう既に『生きた伝説』になってるからな!」
「「「「確かに……」」」」
言われてみれば、その通りである。
「……しかし、お前達、どうしてあんなに全ての情報をぶちまけちまったんだ?
これじゃあ、これから先、困ったことに……、いや、もうとっくになってるか……」
ギルドマスターの言葉に、がっくりと肩を落とすマイル達。
「あの時は、戦いに赴くのはたった4人だけだと思っていたので、まさか本当に生きて帰れるなんて思ってもいませんでしたから……。
なので、後のことなんか考えずに、少しでも多くの人に信じてもらえるようにと、信用度が高くなるネタは惜しむことなく全部ぶっ込んじゃったんですよ……」
そう言って、たはは、と笑うマイル。
「そうよねぇ。あんた、貴族としての名前だけじゃなく、私達には隠しているつもりのミアマ・サトデイルの名前まで出しちゃってたしねぇ……」
「……え?」
ぎぎぎ、と首を回して、愕然とした顔でレーナを見るマイル。
「レ、レレレ、レーナさん、ま、まさか……」
「当然、ずっと前から気付いてたわよ。メーヴィスも、ポーリンもね」
「ど、どどど、どうして……」
「いや、逆に、どうしてあれでバレていないと思ってたんだい?」
「まさかマイルちゃん、『実はバレバレなんだけど、みんなが気付いていない振りをしてくれているネタ』をやってたんじゃなくて、本当にバレていないと思っていたってことは……、ない……、わよね……」
「が~~ん!!」
マイル、痛恨の一撃!
「だって、本のネタが『にほんフカシ話』と結構被っていたし、言い回しとかお約束ギャグとかが同じじゃないの……。
ハンター養成学校のみんなにもバレていたでしょうし、あんたが昔通っていた学園の連中も、みんな気付いていたんじゃないの?
あんた、よく色々な話をみんなに聞かせていたから……」
レーナの追い打ちに、がっくりと頽れるマイルであった……。