539 戦い終わって 3
ティルス王国に端を発した叙爵合戦は、7竦みとなり、膠着状態に陥った。
そして各国はティルス王国の抜け駆けを非難し、これではマイルが困るだけだと、自分達7カ国でじっくりと話し合うべきだと提言したのである。
マイル以外の3人は、優れた能力を持つハンターではあるが、所詮はAランクかSランク程度の強さの普通の人間に過ぎない。御使い様であり、古竜に顔が利き、女神の鉄槌に比肩する攻撃魔法の遣い手であるマイルとは、話が違う。
それに、ティルス王国に家族がいる、生粋のティルス王国人であるメーヴィスとポーリンは、引き抜きようがない。……片や商家の娘、片や伯爵家の娘なのであるから……。
しかし、マイルは国を捨てて逃げ出した……、いや、『出身国不明の、ただの流れ者のCランクハンター』なのであるから、自国が取り立ててやり貴族として召し抱えても何ら問題はない、と強弁しているわけである。
大陸中に、『またある時は女子爵アデル・フォン・アスカム』と名乗ったことは、ブランデル王国以外の6カ国に華麗にスルーされた。『国名を名乗っていないから、どこか遠くの国に「アスカム」と似た発音の貴族家があり、そこから来たのであろう』とか言って……。
また、『亡命したなら、母国に引き渡すのは人道に反する』という主張もあった。
……とにかく、どんなにこじつけや言い掛かりであろうが、他の6カ国はマイルの身柄をブランデル王国に渡すつもりなど皆無、ということである。
そして7カ国は、何日にも亘る長い長い国際会議を行った。
但し、既に通知し宣言した叙爵や叙任については、国の面子に懸けて今更撤回することはできず、そのまま有効とされてしまったのである。
* *
そして再び訪れた『凪ぎ』の期間。
とてもギルドで依頼を受けられるような状況ではなく、宿に押し掛ける大勢の人々の対処に困り、『赤き誓い』は王都から離れて、深い森の中での狩りや採取に勤しんでいた。
勿論、ずっと泊まり込みである。
「はぁ~、落ち着くわねぇ……」
「日銭稼ぎに明け暮れていた、養成学校時代を思い出しますよねぇ……」
「ああ、基本と初心は忘れちゃ駄目だよねぇ……」
「あはは……」
* *
しかし、何時までも森に籠もっているわけにはいかない。
考えてみれば、まだ帰還後に一度もギルド支部に顔を出していない。
そろそろ、ヤバい頃合いである。
王宮からも、何か連絡が来ている可能性がある。
……まぁ、ハンターなので『常時依頼の狩りと採取に出ていた』と言えば、問題はないのであるが……。
誰も、事前に約束もしていないのに、ハンターが仕事で不在にしていることに対して文句を付けられるはずがなかった。
ハンターとは、そういうものなのであるから……。
そして、数日振りに宿に戻ったマイル達であるが……。
「ん? 宿の前に、何か貼り紙が……。何々……」
『御使い様と「赤き誓い」の定宿』
『御使い様がお造りになった、「奇跡の風呂」有り〼。女性宿泊客は入浴可』
『「奇跡の風呂」に、御使い様が行われていた魔法での給水と湯沸かしの実技体験でき〼』
『「赤き誓い」と「ワンダースリー」が斬り合った時に柱に付いた剣の切り傷、見学可』
『彼女達は、うちが育てた!!』
「「「「…………」」」」
「レニーちゃんね……」
「レニーちゃんですね……」
「レニーちゃんだね……」
「あはは……」
「「「「私達、帰ってきたんだなぁ……」」」」
* *
「あ、お姉さん達、王宮から遣いの人が来てましたよ。はい、これ、預かったお手紙です。
じゃ、私、お姉さん達が戻ってきて手紙を渡したってことを伝えてきますね!」
そう言って手紙をマイルに手渡すと、だっ、と外へと駆け出たレニーちゃん。
おそらく、後払いである駄賃が貰えるのであろう。
「どうして、王宮の人はレニーちゃんの扱い方を知っているのでしょうか?」
「子供って、大体はああいうものだからよ……」
ポーリンの疑問に、そう答えるレーナ。
結構裕福な家庭で大切に育てられたポーリンには、そのあたりのことはピンと来ないようであった。
……守銭奴のくせに……。
* *
「よく来てくれた! ささ、席に着いてくれ!」
数日後、マイル達は王宮へと参内した。
そして通されたのは、謁見の間とかではなく、会議室のような部屋であった。
当然ながら、そこにいる人々には、全く面識がない。皆、知らない人ばかりの、おおよそ20人前後の年配の男性達。
皆、大きなテーブルを囲んで席に着いている。
おそらく偉い人達なのだろうな、ということは想像が付く。
上位貴族か、下手をすると大臣とか。
そう思っていた、マイル達であるが……。
「遠慮せず、座ってくれ。でないと、話が始められん」
司会役なのか、先程の男性が再度着席を勧めてくれたので、頭を下げてから席に着くマイル達。
そして……。
「よく来てくれた。私が国王だ。そしてここに列席しているのは、我が国を含めた近隣7カ国の外交官達だ」
((((王様か~い! この中で一番腰が低いやんけ~~!!))))
つい、心の中でフカシ話式の突っ込みを入れてしまった、4人であった……。
* *
「……では、その『次元の裂け目』とやらは、なぜ閉じたかの理由がはっきりしない、ということか?」
「はい。私達の攻撃により向こう側にある機械……魔法陣とか……が壊れた可能性、魔術師が死んだ可能性、星の揃いによる条件等が崩れて、元々あの時間に閉じるものであった可能性、その他諸々で、どの理由だったのかは、不明です。なので……」
「もう侵略はないかもしれないし、またいつの日かあるかもしれない、と……。
そしてその時には、お前達は既に寿命を迎えておるかもしれん、というわけか?」
「「「「「「…………」」」」」」
マイルの説明と国王の言葉に、黙り込む列席者達。
どうやら、この国の国王陛下は事態を正確に認識しているようであった。
さすが、一国の王だけのことはある。
侵略は、またあるかもしれない。
そしてその時には、今回活躍した者達はいないかもしれない。
ならば、その時、この世界は……。
「いえ、心配することはありません。
今回、侵略者達を退けることができたのです。ならば、次も、その時にいる私達に代わる勇敢な戦士達がこの世界を護ってくれるに違いありません!」
((((((お前の代わりなんか、いるものかああああぁ~~!!))))))
そして、心の中の叫びを、必死で押し止める列席者達であった……。