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538 戦い終わって 2

 あれから数日後。

 マイル達『赤き誓い』は、平穏な日々を過ごしていた。


 ……いや、そんな日々がいつまでも続くわけがない。

 マイル……アデルの正体が大陸中に露見したのである。その実力と、女神の加護があるというおまけ付きで。


 ブランデル王国からは、ティルス王国に対し自国の貴族家当主の身柄返還要求が来るに決まっているし、他の国々からも招聘しょうへいやら爵位授与やらの話が出るであろうし、神殿勢力が御使い様の身柄確保に動かないはずがない。

 また、真面目な国からは、若き天才思索家ミアマ・サトデイル氏を自国に招きたいという声も出るはずであった。

 ミアマ・サトデイルは、娯楽小説だけではなく、『王権論』、『貴族とは』、『思考実験:資本主義経済について』等の、玄人向けの本も出していたのである。


 ……嵐の前の静けさ。

 それを理解していない者は、『赤き誓い』の中にはひとりもいなかった。


 あまりにも今回の件はスケールが大き過ぎ、そして東方での戦い、『オーブラム王国王都絶対防衛戦』における各国の派遣軍の被害が大き過ぎた。

 軍の再編成、遺族への補償、……そして『御使い様』という、あまりにも大きな戦利品トロフィー


 自国民、しかも自国の貴族であると主張し、強硬にマイルの引き渡しを求めるブランデル王国。

 アデル・フォン・アスカムという名の、ブランデル王国から逃げ出した貴族など知らぬ、そして自国でハンター登録をし、自国のハンター養成学校を国費で卒業したマイルというCランクハンターは、間違いなく我が国の国民である、と主張するティルス王国。

 国家など関係なく、御使い様は神殿の保護下にあるのが当然であると主張する神殿勢力。

 御使い様が出現し、世界を護るために戦われたのは我が国であるから、当然、御使い様の所属は我が国であると言い張るアルバーン帝国。


 これでは話が纏まるはずもなく、国際会議は膠着こうちゃく状態に陥っていた。

 ……なので、今現在はどこの国もマイルに手が出せない状況であった。

 そのため、『台風の眼』とでもいうべき、一時的な凪ぎの状態となっているだけなのである。


     *     *


「えええっ! 私達が、きっ、貴族に叙爵?」

 突然王宮からもたらされた、『赤き誓い』に対する叙爵の知らせ。


「はい。マイル殿、メーヴィス殿、レーナ殿、ポーリン殿の4名に、此度こたびの世界の危機を救った功績に対し、伯爵位が与えられる運びとなりました。おめでとうございます!

 まあ、皆様が挙げられました御功績に対してであれば当然のこと、いえ、本当であれば侯爵位であってもおかしくはないところなのですが、そこまで行きますと、色々とうるさい者共も湧きますもので。そこは、お察しいただきたい……」

「は、はぁ……」

 使者の人が本音をぶっちゃけたが、悪い人ではなさそうであった。

「「「「…………」」」」


     *     *


「ど、どどど、どうしよう……」

「ど、どどど、どうしましょうか……」

「ど、どどど、どうすりゃいいのよ……」

「ど、どどど、どうすれば……」

 使者が帰ったあと、動揺のあまり、まともに喋れない4人であった。


 そしてお茶を飲み、なんとか普通に喋れるようになった4人。

「……で、どうするのよ?」

「国王陛下からの叙爵を断るとか、国に叛意はんいがあると思われたり、不敬罪で斬首刑か地下牢に幽閉モノだよ!」

「「「「…………」」」」

 貴族であるメーヴィスの言葉には、説得力があり過ぎた……。

「受けるしかないか……」

「「「「…………」」」」


     *     *


「え? 陞爵のお知らせ?」

「は。アデル・フォン・アスカム女子爵殿は、この知らせを受け取られました本日ただ今をもちまして、侯爵位に陞爵なさいました」

「……」

「「「「…………」」」」


 ブランデル王国からの使者が現れ、マイル……アデルに対する陞爵の知らせをもたらした。

 こちらは、アデルが元々平民ではなく貴族、それも子爵家の当主であったため、単なる2階級特進であり平民が貴族になるのとはわけが違うことと、その後のこと、つまり王族か上級貴族との婚姻を視野に入れてのことであるため、侯爵位への陞爵に反対する者は皆無であったらしい。

 おそらく、ティルス王国が伯爵位を叙爵したという情報を得て、それより上に、とでも考えたのであろう。


 そして、侯爵への陞爵でありながら、領地についての話は、ひと言もなかった。

 まあ、そう簡単に侯爵領にふさわしい領地が空くとも思えないが、爵位だけ侯爵になり領地が子爵領のまま、というのは、普通、考えられない。

 おそらく、下手に広い領地を与えて領地の内政に専念されては困るため、敢えて領地はそのままとして代官に管理させ、マイル自身は一種の法衣貴族のようにして王宮に滞在させるつもりなのであろう。王族か上位貴族の子弟とめあわせるために……。


 この使者……子爵家当主らしい……は、ただの伝達役に過ぎない。既に決定したことを伝えるだけの、伝書鳩である。

 なので、辞退するとか断固拒否するとか言っても、仕方ない。ただ伝言を伝えるだけで、他には何の権限もない使い走り(パシリ)に過ぎないのだから……。


     *     *


「マイル殿、アルバーン帝国の名誉伯爵に叙爵されました」


「マイル殿、オーブラム王国の侯爵位に叙爵されました」


「マイル殿、マーレイン王国の伯爵位に叙爵されました」


「マイル殿、トリスト王国の伯爵位に叙爵、近衛魔法師団顧問に叙任されました」


「マイル殿、ヴァノラーク王国の伯爵位に叙爵、王族親衛隊名誉隊長に叙任されました」


「マイル殿、教皇様から『御使い』と『大聖女』として正式に認定され、枢機卿に任命されました」


「あああああああああ!!」


     *     *


「どうすんのよ……」

「ど、どう、と言われても……」

「どうするつもりなんだい?」

「そう言われても……」

「私が設立する商会の倉庫役と荷馬車役、どうしてくれるつもりなんですか!」

「「「いや、その詰問きつもんはおかしい!!」」」


「……というか、皆さんも伯爵様じゃないですか!」

「「「あ……」」」


「「「「どうすんだよ、コレ……」」」」

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― 新着の感想 ―
メーヴィスが助けたエルトレイア姫も隣国に立てた亡命政権でなく 本来の身分のままであったなら大英雄のメーヴィスに山盛りの爵位をくれてたでしょうね 大決戦にも来てくれましたが王位を簒奪した叔父に見つかると…
[良い点] 貴族位のインフレが止まらない(*´▽`*)
[一言] うーん、めでたしとはやっぱりマイルたち側はいきませんよねぇ…。
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