535 戦いの肖像 8
次元の裂け目に撃ち込まれる、古竜達のブレスと防衛衛星からのビーム攻撃。
古竜達のブレスは湧き出てくる魔物達を潰す役目に。
そして防衛衛星からのビームは、裂け目の向こう側に対する攻撃に。
古竜達は意識していないであろうが、うまく役割分担され、魔物達が湧き出すペースが落ちてきた。
「魔物が打ち止めになったのか、それともビーム攻撃のおかげで一時的に遮断されただけなのか……。
まあ、どちらにしても、この状況が続けば……」
しかしマイルの言葉が終わらないうちに、3本のビームのうちの1本が、すうっと消えた。
「え……」
【攻撃していた3基の衛星のうち1基が、爆散しました。やはり、老朽化が激しすぎたのでしょう。
そして、充分な安全マージンを取ることより、攻撃に参加することを優先した結果かと……】
「……乗っていたのでしょう?」
【はい?】
「乗っていたのでしょう? 私の配下が。
この日のために。ヒト種とこの世界を護るために悠久の刻を過ごしてきた、スカベンジャー達が……」
【はい……】
そして、もう1本のビームが、再びすうっと消えた。
「あ……」
【ビーム兵器が損傷したようです。衛星自体は無事のようですね】
「よかった……。でも、稼働できるのは1基だけか。これじゃあ……、え?」
厚い雲を貫き、大地へと向かう光点。
……そしてそれは、次元の裂け目へと突入し、爆発した。
【先程の、ビーム兵器が損傷した衛星です。武器を失って役立たずとなり、自らの存在意義をなくしたため、己が持つ最後の武器を使用したのでしょう。
造物主と管理者に対する忠誠心という、最後の武器を……】
「え……。え……」
ナノマシンが何を言っているのか、ワカラナイ……。
そして、雲を斬り裂き空から次々と降りそそぐ、光の点。
【ここの上空へと辿り着き、武器の修復に努めていた衛星達です。皆、造物主と管理者への忠誠心厚き、立派な被造物達です……】
少ししんみりした様子のナノマシン。
次々と裂け目へと突入する衛星。
それに続く、爆発音。
……しかし、次元の裂け目が消える様子はない。
「……させるか……」
【はい?】
「スカベンジャー達の『死』を、無駄にさせるもんか……」
ぎりり、と歯を食いしばるマイル。
「馬鹿だった……。
確かに、厚い雲を透過したあとの太陽光では、エネルギーが足りない。
ならば、雲を透過する前に集束させればいいだけのことだったんだ……。
……ナノマシン! アイ、コマンド、ユウゥ……。
この戦域にいるナノマシンは、そのまま、友軍の魔法行使に対応!
戦域外にいるナノマシンは、全力で上昇! ……できるだけ多く、できるだけ高く!!」
このあたりのナノマシンは、魔物達との戦いのために必要である。
なので、ここでの戦いとは直接関係のないナノマシン達に、レベル7の権限で上昇を命じたマイル。
上へ、上へ、上へ……。
戦域外での魔法の使用効率が一時的に大きく低下するであろうが、そんなことはどうでもいい。
今はただ、この戦いに全てを懸ける!
「ナノマシンは、5つのグループに分かれて、第一から第三までは雲を抜けて宇宙空間へ!
第四と第五は雲の下へと移動!
そして第一グループは巨大な反射板を形成、反射光を第二グループが形成したレンズに向けて! 第二グループはレンズを形成して太陽光を集束!
第三グループは第二グループにより集束された光の焦点に位置して、光の束が再度拡散せずに直進するように屈折させる!
第四グループは、雲を突き抜けてきた光の束を受けて拡散させ、魔物の群れを掃射。
第五グループは第四グループが拡散させたビームのいくつかを反射させて、高ランクの魔物や、味方が危ないところへと狙い撃ち!」
そう、栗原海里が前世で得た知識……ソーラーシステム、集束魔法、ホーミングレーザー、スプレーザー光線、そして反射衛星砲等の知識を全てぶち込んだ、究極魔法である。
「太陽の光が雲に遮られるなら、雲より上で集束させればいい。
そうすれば、雲如きに大して減衰させられることなく、強力なビームが地上まで届く。
こんな簡単なことに、どうして気付かなかったのかな……」
【マイル様、発射準備完了しました!】
「よぅし! サンシャイン・デストロイヤー、ファイエル!!」
戦場の遥か上空、宇宙空間に形成された、巨大な反射フィールド。
それによって反射された太陽光が、同じく宇宙空間に力場によって形成された巨大なレンズに注がれ、集束される。
その集束光の焦点で、拡散しないように平行に修正されたビームが厚い雲を易々と貫き、雲の下でナノマシン第四グループが形成する光学的プリズム場により拡散、何十本もの光のビームが地上を掃射した。
そして、そのうちのいくつかのビームを受けて反射、大物や乱戦中の魔物を狙撃する第五グループ。
「よし、後続が断たれた上、Bランク以上の魔物はほぼ殲滅。完全にこちらが優勢になりましたね。
あとは、次元の裂け目を潰すのみ!
……でも、対広域魔物掃討用の拡散光線砲モードでは次元トンネルの向こう側に対する効果は望めない……。
拡散魔導砲……、いやいや、拡散光線砲じゃ、魔物は倒せても次元の裂け目は潰せません! ここは、全てのビームを集束させて、裂け目の中心核を狙わねば!
ナノマシン、拡散光線砲チームは衛星反射砲(狙撃)チームと合流、第二段階レンズからの集束ビームを拡散させずにそのまま反射、次元の裂け目に叩き込んで、ぐりぐりと全力掃射!
向こうの世界を滅茶苦茶に切り裂いて、次元の裂け目を作り出しているシステムを破壊して!」
ナノマシンへの指示を脳内ではなく口頭で叫んでいるマイル。
そんなことを気にしていられるような状況ではない。
マイルは、自分の知識の全てを絞り出し、この一撃に懸けた。
「次元の裂け目を破壊します!
物質を破壊する、などという生易しいものではなく、次元空間そのもの、時空連続体を引き裂き破壊する凶悪な兵器には、この名がふさわしい。
……死の猛禽類、発射用意!!」
勿論、マイルは昔のスペースオペラが大好きなので、元ネタが『破壊者』だということくらいは知っている。
「撃てっ!!」
空から送り込まれた全エネルギーが、次元の裂け目の中へとぶち込まれた。
「ぐりぐり、ぶん回せ~~っっ!!」
そして、ビームを振るナノマシン達。
次元の裂け目を形成するトンネルがどのような構造なのかは分からないが、トンネルの壁に当たったビームは反射し、何度もトンネル内の壁に当たりながら向こう側へと進んでいった。
おそらく、時空間的な不連続体は電磁波を通さないのであろう。
……これならば、トンネルを抜けたビームは四方八方へと滅茶苦茶に飛ぶであろう。
周囲にある、全てのものを切り裂き、破壊しながら……。
「行っけええぇ~~!!」
サンシャイン・デストロイヤー……新名称、死の猛禽類……は、マイルが口頭でナノマシンに命じているだけであり、マイル自身への負担は皆無である。
そしてナノマシンは少々のことで壊れるようなこともなく、もし壊れたとしても、後詰めはいくらでもいる。
なので、この攻撃はいつまででも続けられる。この星系の恒星が燃え尽きるまで……。
後続のない魔物達は急激にその数を減らし、もはや大きな脅威ではなくなり、残敵掃討の様相を呈している。
そして……。
ばしゅん!
次元の裂け目が、……閉じた。
「……やった、のか……?」
まだ魔物が残っているというのに、動きを止め、呆然としてそう呟く何人かのハンターや兵士達。
「馬鹿野郎、油断するな! ここまで来て死んだら、笑いものだぞ!」
そして、それを指摘し、フォローしてくれるベテラン達。
しかし、戦いの手は止めないものの、皆の思いは同じであった。
((((((……終わった。……勝った……))))))
しかし、とても勝利の実感などない。
楽観的なことを言ってはいたが、本当に生きて帰れるなどとは思ってもいなかった。
おそらく、そういう連中ばかりだったのであろう。
「もうひと踏ん張りだ、死なず、怪我をせず、安全策で慎重にいくぞ!」
「「「「「「おおおおお~~!!」」」」」」