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506/716

506 その頃、あの人は…… 4

「アイシクル・ジャベリン!」

「エアー・カッター!」

「アイシクル・ランス!」


 どしゅ!

 すぱ~ん!

 ぐさり!


「討ち漏らしはありません」

「他の魔物が寄ってくる様子はありません」

「了解ですわ。では、収納しますわよ」

 そして、次々と姿を消す獲物達。

 もう、何度も繰り返されたルーティンであった。

 それをぽかんと眺める、男達の様子と共に……。


「なあ、ひとつ聞いてもいいか?」

「ええ。何ですの?」

「そんなに強いのに、どうして俺達と組んだりしたんだ? 俺達、必要だったか? お前達だけで充分だっただろう?」

「いえ、確かに何事もなければそうかもしれませんが、世の中、何があるか分かりませんわ。

 もし木の陰から複数のゴブリンがいきなり襲ってきたら。もし木の上からデスモンキーの群れが一斉に襲い掛かってきたら。

 ……そして、たまたま出会った他のパーティが、すれ違いざまにいきなり斬り掛かってきたら。

 いくら無詠唱魔法が使えるとはいえ、魔法は剣士が反射的に剣を抜き放つ速さには到底及びませんから、至近距離からの奇襲や飽和攻撃には後れを取る可能性がありますの。

 それがたとえ100分の1の確率であっても、それ即ち、100回に1回はある、ということですわよね? そしてそれが100回目に起こるのか、50回目、あるいは1回目なのか、それは誰にも分かりませんわよね? もしかするとそれが、今回だったかもしれませんわ。

 でも、今回私達は、あなた方と組むことによってその可能性を更に減らしましたわ。

 それによって今回の危険確率が更に100分の1になったとしたら、100掛ける100で、1万分の1ですわ。

 そして私達は、他にも様々な安全策を講じておりますの。それによって、1万分の1が、更に100万分の1、1億分の1になりますの。

 ……ここまで来れば、歳を取ってハンターを引退するまで無事生き延びられる確率がかなり高くなるとはお思いになりませんこと?

『安全のためには、いくら努力とお金を掛けても惜しくはないし、確実に元が取れる』

 ……私達の大切なお友達の言葉ですわ。なので私達は、あの子と再会するまで、誰ひとり欠けることなく、誰ひとり大きな怪我をすることなく行動しなければならないのですわ。大切なお友達である、あの子の言葉を信じているあかしとして……」


「「「「…………」」」」

 返す言葉もなく、黙り込む『不滅の翼』の4人。

 それは、あまりにも説得力があり、そしてあまりにも力強い『友への想い』が込められた言葉であった。……とても反論したり茶々入れをしたりできるような言葉ではない。


「お約束通り、獲物の販売益は折半ですわよ。私の大容量の収納魔法で全て丸々持ち帰れるこのチャンスに、荒稼ぎなさいませんこと?」

「……、やらいでか!」

「「「お~っ!」」」

 そう、そんな稼ぎ方ができるチャンスなど、そうそうあるものではない。

 リーダーのサノスの言葉に、パーティメンバー達も威勢のいい声を上げるのであった。


     *     *


「「「「…………」」」」

 そして、組み立て済みの夜営用テント、食材と調理器具、浴槽にトイレ(共に、完全防備)を見て固まる、『不滅の翼』の4人。

 そして自分達はテントで、男性陣は草むらに寝転ぶだけ、というのはさすがに気が引けるため、男性陣には予備のテントを貸すことにした『ワンダースリー』。

 今回のように護衛と剣技のレクチャーを含む合同受注を持ち掛けるのは、これが初めてというわけではない。既に何度も繰り返したことなので、『ワンダースリー』の面々は今更男性陣の反応を気にすることもない。


「では、食後に剣技のコーチをお願いしますわ。対価は食事の提供でよろしかったですわね?」

 こくこくと頷く、『不滅の翼』のメンバー達。

 食事は提供するが、マルセラ達には、自分達の浴槽とトイレを彼らに使わせてやるつもりはなかった。さすがに、乙女の心情として、それはかなりハードルが高いようであった……。


     *     *


「駄目だ、無理に踏み込むんじゃない! お前達は力が弱く、体力がなく、そして短剣は普通の剣士が持つ歩兵剣ショートソードより短い。

 所詮お前達は剣士ではなく、魔術師なんだ。それが剣士のように戦ってどうする! 剣は、あくまでも補助、牽制、そして引っ掛けに使うんだ!」


 驚いたことに、剣の訓練を始めてしばらく経つと、『不滅の翼』の者達はマルセラ達に対して実に的確なアドバイスをし始めた。

 それは、マルセラ達が剣技だけでまともに戦おうとすれば、相手が魔物だろうが人間だろうがすぐに死ぬ、と悟ったからであろうか……。

 とにかく、『ワンダースリー』はあくまでも魔術師であり、短剣は添え物。それにすぐに気付き、下手に剣技に自信を持たせてはならないと察するという、思いがけぬ有能さであった。


「剣でまともに戦おうとするな! 剣は、敵を自分に近付けないように振り回せ。それと、超至近距離から奇襲を受けた時に、何も考えずに身体が反射的に剣を抜き敵の攻撃を阻止、あるいは反撃できるようにするんだ。その一撃のあとは、すぐに距離を取って無詠唱での魔法戦に移行しろ!」


 戦い方を教えてもらうために、ある程度は自分達の手札は教えてある。

 どうせ今回限りの相手であるし、将来敵対するようなこともあるまい。そして、ハンターが依頼を共同受注した者達の個人情報を喋ることはない。喋った相手から、『コイツらはハンターのルールも信義も守らないクズ共』と認識され、あっという間にその話が広まってしまうため、自殺行為となるからである。

 そういう『要注意パーティに関する情報』は、個人情報とは違い、広めることに何のペナルティもない。……それは、ハンター全体に対する有益な情報だからである。

 そういうわけで、『大容量の収納魔法』と共に、無詠唱魔法が使えることも教えてある。

 さすがに、アイテムボックスの特殊な機能とか、放出系の魔法が異常に高出力であることとかについては教えていないが……。


 そして勿論、相手のパーティが裏切り、深夜にマルセラ達のテントに忍び込もうとした時のための魔法……警報魔法、障壁魔法バリア、そしてホット魔法等については何も教えていない。

 いつも、なるべく誠実そうな若手パーティとか女性を含むパーティとかを選んで声を掛けているせいか、今まで一度もそういう目には遭っていないが、勿論、そういう場合に備えた対処を怠るような3人ではなかった。

 そのうちいつかは、後悔することになるであろう。

 ……襲った連中が。


 そういうわけで、年齢の割には予想外に的確なアドバイスをしてもらえ、良い訓練ができた『ワンダースリー』の面々であった。


     *     *


 訓練を終え、分かれてそれぞれのテントに入った後、マルセラ達はこっそりと鳴子なるこを仕掛けていた。

 そして、テントの入り口の内側には小さな台を置き、その上には壺が載せてある。

 勿論、警戒用の魔法も仕掛けてあるので、もし鳴子を回避されても、皆に気付かれずにテントまで近付けることはない。

 さすがに、マイルのように障壁魔法バリアを長時間張りっぱなしにするという芸当は真似ができないため、接近される前に気付けるようにしておくことが大事だいじなのである。


 更に、夜2の鐘(午後9時)から朝1の鐘(午前6時)までを3時間ずつに分けて、交代で不寝番を立てている。

 ……『立てている』とは言っても、別にテントの外側に立っているわけではなく、ベッドの中で目を覚ましているだけであるが。

 そして、毛布の中でスタッフと短剣を握っているし、定期的に探索魔法を発振している。

 警戒している対象は、別に男性陣だけというわけではなく、勿論夜行性の魔物や野獣も含まれているので、当然である。


 男性連中が『夜番は俺達だけで交代してやるから、お前達は朝まで寝ていていいぞ』と言ってくれたので、『ワンダースリー』は合同パーティとしての夜番、つまり不寝番は立てる必要はないのであるが、いくら誠実そうなパーティを選んだとは言え、さすがに、マルセラ達は初対面の相手をそこまで信用するほどの馬鹿でもお人好しでもなかった。


「……今回は、当たりでしたわね……」

 ベッドの中にもぐり込み、話をする3人。

 男性陣に貸したテントとは充分に間を空けているので、小声での会話を聞かれる心配はない。

「はい、多分10歳になってすぐにハンター登録した……、いえ、それ以前から見習いのGランクとして活動していた、『叩き上げ』かもしれませんね」

 そして、マルセラに同意の言葉を返すモニカ。

『叩き上げ』。それは、ハンターギルドで働ける年齢になると同時に登録し、稼ぎと共に訓練を始めた者達のことである。

 それらの多くは、孤児やスラム街の子供達である。普通の家庭では、子供をそんな年齢でハンターにすることは滅多にない。


「それならば、あの年齢でかなり腕が立つのも分かりますね。『叩き上げ』の中でも、あの年齢としては上位の方だと思います」

 オリアーナも、同意のようであった。

「今回は、しばらくこの街に滞在しましょうか。どうやらおかしなことを考えてはいないようですし、このままちゃんと紳士として振る舞っていただけるなら、近接戦闘を教わり、そのお礼として獲物を丸ごと運んで差し上げて折半、というのは、『不滅の翼』の皆さんにとりましても良いお話でしょうし……」


「賛成!」

「私も、賛成です。当たりのパーティを引ける確率は高くありませんから、数回『不滅の翼』の皆さんと御一緒して、色々と教わるのは良い選択肢だと思います」

 モニカとオリアーナも、マルセラの案に賛成のようであった。

「では、そういうことで……。

 それでは、最初の不寝番、よろしくお願いしますわ、モニカさん。まだ、殿方が本当に紳士揃いかどうか、決まったわけではありませんからね」

「はい、お任せを!」


 そして、モニカを残し、マルセラとオリアーナはすぐに可愛らしい寝息を立て始めた。

 寝付きの良さも、ハンターに必要な能力のひとつであった。

(アデルも、今頃はどこかで夜営でもしているのかなぁ……)

 交代までの、3時間。

 ベッドの中で寝落ちするわけにはいかない。

 そのため、学園時代のことを思い返す、モニカであった……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 【やっぱり安定した笑いを取れる存在でないと……。】 〔ワンダースリーにはそれがないから残念なんだよな。〕 〈もう一皮剥けて欲しいですよね。正当活劇モノばかり観てると、やっぱり飽きが……。〉 …
[良い点] これ、ナノチューブの放送内容ですよね?
[良い点] アデルさんは、ワンダースリーの皆様の爪の垢を煎じて飲むる位じゃななくてダイレクト一気飲みすべきではなかろうか……と思う程、模範的なワンダースリーの皆様でありました……
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