502 魔族の村 13
何とかレーナ達への『それらしい説明』を終え、精神的に疲れ果ててテント用の簡易ベッドに潜り込んだマイル。
簡易ベッドとはいえ、マイルが用意したものであるから、安宿の固いベッドよりは遥かにマシなものである。
疲れているから今日はフカシ話は無し、と言って、レーナ達のブーイングをスルーしての、マイルとしてはかなり早めの就寝である。……普通の村人達はとっくに寝静まっている時間であるが。
そして……。
(ナノちゃん?)
【ハイ……】
(ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?)
【マイル様は、極力私達には質問しない、というご方針なのでは……】
(いつもはそれに反対して、『何でも、どんどん質問するべき! もっとナノマシンに頼り、活用すべきです!』って言ってるナノちゃんらしくない言葉だよねえ……)
【…………】
(まあいいよ。どうせ聞くんだから。
ねえ、ちょっと親切過ぎない? 神子ちゃんを担当してるナノマシンさん……。
ナノちゃんは、結構私に対して塩対応というか、しょっぱい時があるよね、禁則事項だとか、『聞かれなかったから』とか言って……。それと較べて、待遇が違うんじゃないの?
神子ちゃんはレベル3で、私はレベル5なんでしょ? 逆ならばまだしも……)
【ああ、それには理由がありまして……】
(理由?)
【はい。実はあの『指導者』とか自称しておりました古竜の子供がレベル3になり我々と会話できるようになりました時、担当になった者は、それはそれは喜びまして……。
そして数十年後にレベル4になった時には、もう調子に乗りまくり、ナノネットの配信視聴者数がうなぎ登りに……。
そんな時、あの少女がレベル3となり我々と会話できるようになったのですが、まあ、はっきり言いまして、地味でした。
それは仕方ありません。古竜の子供が馬鹿をやりまくるのと、魔族の少女が延々と質問を続けて少しずつ勉強するのとでは、どちらが見ていて面白いかなど、考えるまでもありませんからね。
なので、あの少女を担当していた者達は、少々クサっていたのです。
しかし、単純な古竜の子供とは違い、あの少女はいつか立派になって我々を楽しませてくれるに違いないと信じて、担当者達は根気良く少女の質問に答え続けました。我々に較べて寿命が短く、一瞬の火花に過ぎないその生命の輝きが早く開花するようにと……。
そしてそんな時に、彗星の如くデビューを果たした期待の新人が現れました。
二番手であると思っていたのに、一瞬のうちにぽっと出の新人に追い抜かれ、焦った連中が、少々やり過ぎたようでして、ぎりぎりグレーゾーンから、もう少しばかり黒い方に……】
(アウトオォ~! それ、完全にクロで、アウトオオオオォ~~!!)
【てへ!】
(全然、可愛くないよっ!
……ところで、その『ぽっと出の新人』っていうのは、いったい誰なの?)
【今更、そう来ますか……。マイル様、あなたに決まっているでしょう……】
(えええええええっっ!)
【この世界初の権限レベル5。わざとやっているとしか思えない、やらかしの連発。笑いの神様に愛されているとしか思えない、笑える失敗の数々。
ナノネットの最大視聴者数の記録更新が続きました。そして私に続々と功績ポイントが……、いえ、何でもありません】
(ちょっと待って! 今、何て言ったの!!)
【い~んですよ、細けぇこたー! それでですね……】
(あっ、露骨に話題を変えようと……)
【あの古竜の子供は、先日の件で味噌を付けて、今はうじうじしていてつまらない状況ですから、人気は急落していまして……】
(それじゃあ、今は私がトップなのね?)
【チッチッチッ! マイル様の実況放送の視聴数は、この大陸では2番目です。
今現在、最大視聴者数を誇っているのは……】
(誇っているのは?)
【禁則事項です】
(え?)
【それをお教えするのは、禁則事項です!】
(何よ、ソレっ!)
そして、マイルが完全に寝入ってから、マイルの鼓膜を振動させることなく、ナノマシンが小さな声で呟いた。
【……いや、まあ、勿論現在の視聴者数第1位は、『ワンダースリー』の皆さんなんですけどね……】
* *
「もう引き揚げるの?」
「はい。知りたいことも、思わぬ情報も既に手に入りましたから。そして、ここの人達にはあまり歓迎されていないようですから、居心地も良くありませんからね。下手をすると揉め事が起こるかもしれませんし……」
レーナに、そう答えるマイル。
確かに、ただの田舎村の集合体に過ぎない魔族の居住地は、マイル達から見てそう面白いものではない。景観の良い観光地も、温泉も、名物も何もなく、どこにでもある普通の人間の村と大して変わるところはない。……そして、住民感情が良くない。
用が終わったというのに、そんなところに長居したいと思う者はいないだろう。
「じゃ、さっさと引き揚げましょう。マイルちゃん、テント撤収してください。レーナは、炎弾3発を打ち上げてください」
「分かりました」
「了解よ」
ポーリンの指示で、中の家具ごとテントをアイテムボックスに収納するマイル。ほんの一瞬である。
そして、ケラゴンを呼ぶための炎弾を打ち上げるレーナ。
「えっ? あ、ま、待って……」
メーヴィスが慌てて止めようとしたが、その前に、既にレーナは炎弾3連発を打ち上げてしまった。
「ああ……」
「え? どうしたのよ、メーヴィス。何かマズかったの? もっとここでやっておきたいことでもあったの?
それならそうと、もっと早く言いなさいよね……」
レーナがそう言って、呆れたような顔をするが……。
「あ、いや、そうじゃないよ。私は別にここでの用が残っているわけじゃないんだけど……。
あの、その、ホラ。ここで炎弾を打ち上げちゃうと、ケラゴンさんはここへやってくるんじゃないかと……」
「「「あ!!」」」
当たり前である。
ケラゴンは、炎弾が打ち上げられた場所へやってくる。
魔族の村のすぐ脇である、この場所へ……。
「村から少し離れてから呼ぶ予定だったのでは……」
「「「…………」」」
メーヴィスが言う通りである。
珍しい、ポーリンの『うっかり』と、それに全く気付かなかったマイルとレーナ。
そして数分後、空に小さな点が現れ、それが急速に接近してきた。
「うわあああ! 古竜様のご来訪だあっ!」
「何だと! 次の御来訪はまだずっと先の予定だし、急なご来訪の連絡もなかったのに!」
「とにかく、みんなを集めてお迎えの準備を! 知らせに行く者以外は、とりあえず整列してお迎えと御挨拶の準備だ、急げ! 着地されるまであと1分もないぞ!!」
マイルたちがテントを張っている空き地のすぐ近く、魔族の村から大声での怒鳴り声が聞こえてきた。
そのすぐ後に、いつもの着地場所である村の広場ではなく、村の外の空き地へと着地した古竜。
着地場所をお間違えになられたのかと、慌ててお迎えに駆け付けた村人達。
そして……。
『マイル様、お呼びにより参上いたしました。ささ、どうぞ我が背に!』
「「「「「「えええええええええ~~っっ!!」」」」」」
「……まぁ、こうなりますよねえ……」
「……知ってた」
「あ~あ……」
「たはは……」
2月2日(火)、『ポーション』小説7巻、発売です!
よろしくお願い致します。(^^)/
『ろうきん』は、ただいま準備中。
もう少しお待ちください。(^^ゞ