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499 魔族の村 10

「……で、では、あなたはいったい、何の『神子』なのですか?」

 マイルの問いに、少女は、何を当たり前のことを、というような顔で答えた。

「神子なんだから、神様の御寵愛を受けし愛し子に決まってるでしょ!」

 どうやら、勿体もったいを付けた偉そうな喋り方をするのが面倒になったらしく、普通の喋り方に戻した神子の少女。

 ……所詮、子供であった。

「え?」

 そして、先程から『え』としか言っていないマイル。

「で、では、神様から直接、御託宣を?」

 マイルが、核心に迫る質問をしたところ……。


「ううん。私が直接お話しするのは神様とじゃなくて、姿の見えない御使い様とだけど、御使い様は神様の配下だから、つまり神様のお言葉を伝えてくれているということよ。だから、私は神様の御寵愛を受けし者、つまり『神子』よ!」

 それを聞いて、マイルは考え込んでいた。

(う~ん、確かに、この大陸での宗教観からいえば、その解釈は間違っちゃいないか……。

 というか、そう解釈して当然だ。もしそれが、本当に『御使い様』だったなら、だけど……)

 マイルが考えているとおり、それは本当の神の御使いではなく、『アレ』である確率が非常に高かった。


(……ナノちゃん?)

【ノーコメントです。他の者の担当事項については、勝手に情報を提供することはできません】

(いや、ソレ、言ったも同然じゃない!)

 ナノマシンのあまりの自爆振りに、呆れた様子のマイル。

 勿論、ナノマシンがわざとやっていることくらいは承知の上で、『ボケに対する、突っ込み』である。マイルは、そういうことには律儀なのであった……。


(禁則事項のうちの、『特定の勢力に便宜を図ってはならない』、『他の勢力の情報を「探知魔法」というような手段に因らずに提供してはならない』というやつか……)

 それを回避して、それとなく自分に情報を教えてくれているらしいと知り、心の中でそっとナノマシンに感謝するマイル。

(仕方ない、自分で情報収集に努めるよ)

【申し訳ありません……】

(いや、ついうっかりと聞いちゃったけど、本当はナノちゃんに聞くべきじゃなかったよ。ごめん、気にしないでね)


 マイルは元々、知りたいことを何でもナノマシンに聞いて済ませるつもりはなかった。

 それはあまりにもズルが過ぎるし、それでは人生、面白くない。

 人命に関わるとかいう場合には躊躇することなくどんな手段でも使うが、そうでない時には、なるべく『魔法の行使』という形以外でナノマシンに頼るのは自粛しようとマイルが考えるのは、決しておかしなことではないであろう。

(え~と、じゃあ、自分で聞くか。それも、レーナさん達や他の魔族の人達に聞かれることなく、ふたりだけの時に……。よし!)


(ナノちゃん、私が考える言葉をこの子の鼓膜を振動させることによって伝えることは可能?)

 技術的に可能であることは、当然分かっている。問題は、『禁則事項』とやらに抵触するかどうか、ということであるが……。

【問題ありません。我々が話し掛けるわけではなく、ただマイル様の思念によるお言葉を鼓膜を振動させることによって伝えるだけですから。拡声魔法や、空中にダクトを形成することによって声の遠距離伝達を行う魔法とかと同じようなものですよ。

 まぁ、念の為に「魔法の行使」ということにしていただけますと、より完璧ですが……】

 どうやら、問題ないらしい。元々、権限レベル3、『ナノマシンが会話することを許された者』であろうから、多分大丈夫だろうとは思っていたようであるが……。


(分かった。じゃあ、行くよ……。思念による言語を対象者の鼓膜を振動させることによって伝える秘匿交話魔法、発動!『神子さん、他の者には内密で、ふたりだけでお話ししたいことがあります。今夜、皆が寝静まった後に、家から出てきてくださいませんか。了解なら1回、嫌なら2回、せきをしてください。

 あ、この声はあなたにしか聞こえていませんから、声に出しての返事はしないでくださいね』)


「え……」

 突然、眼を見開いて声を漏らす『神子』。

「どうした?」

 父親と思われる男性が、神子の少女に怪訝そうな顔で問い掛けるが、少女はそれには反応しない。

 他の者達も、不審そうな顔をしている。

 それも無理はないであろう。神子への問い掛けはマイルひとりが行っていたのに、マイルは先程から何も喋らず、顔は神子の方を向いているものの、ぼうっとしている。それだけでも皆が不審に思っているというのに、神子の様子までおかしいとなると、怪訝に思うのは当然であった。


 硬直したまま、動かない神子。

 おそらく鼓膜を振動させて伝わった声は、今までの『御使い様』の声ではなく、周波数や波形をマイルの声に合わせてあったであろうし、その内容からも、明らかに『御使い様』ではないと分かるであろう。

 そして、硬直が解けて動きを見せる神子。


「ふぁ」

「……ふぁ?」

 咳による合図ではなく、何かを言おうとする神子。

「ふぁ……」

 何を言うつもりなのか。

 それは、ここにいるみんなに聞かれても大丈夫なことなのか。

 止めるべきなのか。

 マイルがどうするべきか躊躇っていると……。


「ふぁあ~~っくしょい!」

「咳じゃなくて、くしゃみですかああああぁ~~っっ!!」


「ごほん!」

 どうやら、先程のくしゃみは意図したものではなかったらしく、少し顔を赤らめて、改めて咳をした神子。回数は1回。了解の合図である。

 ……まぁ、それ以外の返事はないであろう。

 神子が今まで『御使い様』と話していたのと同じ方法で、しかし異なる声と喋り方、そして明らかに『御使い様』からのものとは思えない内容で話し掛けられたのである。


 そもそも、声質と現在の状況から、この声……鼓膜の振動によるメッセージ……の発信者が、自分の目の前にいる銀髪の少女だということは丸分かりのはずである。

『御使い様』と同じ方法で自分に話し掛ける謎の少女からの、他の者には内密の話をしたいという申し出。無視できるはずがない。少なくとも、自分が神子だと信じている子供には。


 他の者が大勢いる今は、これ以上は話せることはない。あとは、夜のお楽しみである。

 なので、マイルはもう用は終わったと長老に告げ、早々に引き揚げるのであった……。


     *     *


「……で、どうだったのよ?」

 村の外に出したままになっているテントに戻り、お茶を飲みながらそうマイルに尋ねるレーナ。

 首尾がどうだったのかは、神子と呼ばれる少女と『レーナ達には意味の分からない会話』を少し交わしたマイルにしか分からない。なのでレーナがマイルにそう尋ねるのは当然のことであるが、マイルは少し考え事をしながら、答えた。

「……今晩。今晩確認しますから、もう少し待っていてください……」


 マイルは、勿論神子とは自分ひとりだけで会うつもりであるが、そのことをみんなに隠して、内緒でこっそりと会うつもりはない。

 ひとりでテントを抜け出すのがバレないはずがないし、敵地でみんなに睡眠魔法を掛けるわけにもいかない。

 ……いや、たとえ敵地でなくとも、そしていくら障壁魔法バリアを張っていても、それは『やっちゃ駄目なこと』である。仲間に、勝手に睡眠魔法とかを掛けるのは、攻撃行為というか、騙し討ちというか……。とにかく、どうしてもそうしなければならない理由がない限り、軽々しくやっていいことではない。


 それに、神子と一対一(タイマン)での話し合いをすることは、仲間達に知られても何も困らないし、逆に、そのことを隠していたら後で話の整合性が取れなくなる可能性があり、却って自分の首を絞めることになる。

 なので、話し合いの存在自体は正直に伝え、あとで結果を報告する時に、その内容を一部省略したり、大幅に加筆修正すればいいだけである。なるべく、嘘は少なくして……。

 勝負は今夜。


「なので、昼間は魔族の村や周辺部を見物しましょう!」

 そう、まだ朝2の鐘(午前9時)も過ぎていないのである。夜までには、まだまだ時間がある。

 そして、せっかく来た遠方の地、魔族の里である。見物しなきゃ損、と考えるのが当たり前。

「そうね、古竜に運んでもらわない限り、もう二度と来ることもないわよね……」

「一生に亘って、何度も繰り返し話して聞かせられるネタですよ、隅々(すみずみ)まで見て廻りましょう!」

「うん、貴重な体験になるだろうからね。今後、魔族と会う機会があれば、この経験がきっと役に立つだろうと思うよ」

 マイルの提案に、全員が賛成した。

「じゃあ、午前は村の中を見て廻り、午後は村の外、周辺部を廻るわよ。そして村の外では、いい値が付きそうなものを見つけたら、狩ったり採取したりする、ということでいい?」

「「「おおっ!」」」


 そしてマイルは、夜の話し合いに期待をかけていた。

(神子ちゃんから、役に立つお話が聞けるかな……)



いよいよ、来年1月7日、『のうきん』14巻発売です!

私の休暇による休載中の発売なので、忘れないよう、スケジュールにメモしておいてくださいね!

φ(..)メモメモ


そして、既にお知らせしております通り、14巻からは出版社が代わり、スクウェア・エニックスの新レーベル、『SQEXノベル』の創刊タイトルとしての発刊です。

責任重大……。(^^ゞ

創刊タイトルを担わせていただくのは、講談社の『Kラノベブックス』に続き、二度目となります。今回も、お役に立てればいいのですが……。(^^ゞ


そういうわけで、出版社別の売り場やら新刊案内やらでトラップに引っ掛からないよう、お気を付け下さい。(^^)/


そして、休暇による休載のお知らせです。

すみません、いつものように、年末年始休暇として、2週間のお休みをいただきます。

休暇中は、ゆっくりと書籍化作業を進めておきます。(^^ゞ

いえ、今はまだ締め切りに追われているわけではないのですが、『何もせずに休む』というのに慣れていないため、仕事をしていないと落ち着かない……。〇| ̄|_

そういうわけで、『締め切りに追われているわけではない仕事』をちょこちょことやりながら、のんびりと……。


では、来年も、引き続きよろしくお願い致します。

皆様、良いお年を!(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] 神子さんのナノマシン、もしかしてハクショ〇大魔王?
[良い点] なんと、気の力で次元を切り裂いて、リアル幼女ほいほいしているとは、、。 こちとら娘をマイルの髪型にしたら、妻にあほっぽいと苦笑されたというのに。
[一言] 神子が夜遅すぎて寝て起きない可能性
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