496 魔族の村 7
とにかく、余りにも互いに関する情報量が少なすぎる状態での言い争いは、状況を混乱させるだけで話が全く進まない。
ようやくそのことに気付いた一同は、仕切り直して、互いの自己紹介から始めることにしたのであった。
「『赤き誓い』、ティルス王国を本拠地として活動している、Cランクのハンターパーティです」
とりあえず、メーヴィスがパーティの紹介を行った。
そして、パーティリーダーとしての挨拶の後、詳細説明はマイルが担当。
こういう相手に対してどこまで喋ればいいのかは、マイル以外には判断が難しい。
また、遺跡やらゴーレム、スカベンジャーやらのことをどう説明すればいいのか、あるいは丸々カットするのか等も、それらの存在について本当に理解しているわけではないマイル以外の者には、判断が難しかった。なので、マイルへの丸投げも仕方ないであろう。
「古竜が獣人と魔族の皆さんに依頼して行っている遺跡の発掘調査の件は、概ね把握しています。
そして、人間との間で揉め事にならないよう、仲裁をしたこともあります。
また、ドワーフやエルフの一部氏族や、獣人とも少し関わりが。古竜にも、ちょっと顔が利きます」
「「「「「何モンだよ、お前らああぁっ!!」」」」」
あまり交流のない他種族とは、まず話し合いの場に立てるまでが大変なのである。
相手側の村と往復するだけでも多くの日数が掛かり、そして敵対してはいなくとも、閉鎖的で互いに悪感情を抱いている相手と信頼関係を築くことなど、並大抵のことではない。
たとえトップ同士や外交官達は友好関係を築きたいと考えていても、それを良しとしない連中の反対とか、酷い時には勝手に一部の者達が使者を襲い、殺すとか……。
少なくとも、こんな小娘達にできるようなことではない。
「どうしてそんなに色々と伝手ができるんじゃ! ……特に、古竜様!!」
長老が、そう言って突っ込むが……。
「まぁ、色々とありまして……。
というか、ザウィンさん達との件は報告されているのでは?
あれ、そういえば、帝国の洞穴の件は……」
「あれも、お前達かああああぁ~~!!」
帝国のスカベンジャーの洞窟の件では、『赤き誓い』がケラゴン以外で話をした相手は獣人達で、魔族の者達とは最後の方でちょっと会っただけであり、直接は話さなかった。そのため、あの件においてはマイル達の名は魔族の村には伝わっていなかったようである。
そして、古竜は現場を任せている獣人達と魔族達の間にはあまり情報を流していないらしく、また、獣人、魔族間の直接の情報交換もされていないようであった。
古竜達にとっては重要なことらしいので、あまり情報が拡散することは望ましくないのであろう。
「そういえば、若い娘4人、とか言っておったな……」
洞窟の中でのことは魔族や獣人達には知られていないが、洞窟外のことについては、一応は報告を受けていたらしい。ようやくそれを思い出したらしい、魔族の面々。
「ん? 人間の小娘が4人?
4人の小娘。4人、4人……、あ!」
突然、ぶつぶつと何かを呟き始めたかと思うと、すうっとその顔が蒼ざめた村長。
「ち、ちちち、長老様、も、ももも、もしかして……」
「ん? 何じゃ、急に……」
長老はまだピンときていないようであるが、他の有力者達は村長の言葉に思い当たることがあるようであった。
「も、もしや……」
「古竜様から御通達があった……」
「「あ……」」
(あ~、そういえば、私達のことは『安全のために』各部に連絡しておく、って言ってたわね……)
(言ってましたね……)
(言ってたねぇ……)
(言ってたですね……)
「……すまんが、もう一度、名を名乗ってくれぬか……」
村長が、そんなことを言ってきたので……。
「ハンターパーティ『赤き誓い』、リーダーのメーヴィス・フォン・オースティン!」
「同じく、赤のレーナ!」
「同じく、ポーリン!」
「同じく、いさか……マイル!」
さすがに、ここでは攻撃と誤解されかねない爆発や閃光、カラースモーク等は自粛するマイル。
そして……。
「「「「「すみませんでしたああああぁ~~!!」」」」」
(土下座って、かなり普及してるんだ……)
どうでもいいことを考える、マイルであった……。
* *
「……というお話じゃったぞな……」
マイル達『赤き誓い』が、古竜から『手出しするな、逆らうな、関わった場合は友好的に振る舞って便宜を図り、早く帰ってくれるよう祈れ』と警告されていた、古竜でさえドン引きの『災厄』であることに気付いた村長達と、それを慌てて耳打ちされた長老が手の平返しをし、マイル達の要望通りに魔族の間に伝わる伝説を話してくれたのであった。
勿論、話しても問題のないもののみであろうことは、マイル達も承知している。
さすがに、脅して無理矢理、というつもりはない。
リーダーだったザウィン、剣士レルトバード、カイレル少年の3人は、『お前達はもういいから、帰れ』と言われ、懸命の反論も虚しく、既に追い払われている。
なので、今ここ村長宅にいるのは、『赤き誓い』と、長老、村長、村長を補佐する3人の有力者の、9人だけであった。
そして、魔族の伝承シリーズを聞いたマイル達の感想は……。
「大筋は他の種族の言い伝えと似ているのですが……」
「でも、内容が無茶苦茶偏ってたよね……」
「これじゃあ、ヒト種から嫌われるはずです……」
「どうしてそんなに『魔族至上主義』なのよ……」
そう、不評であった。
いや、物語としては、そう面白くないというわけではない。他の種族のものと同程度には神話や英雄譚としての要素や物語性を備えており、魔族の子供達に語り継ぐには全く問題ないであろう。
……ただ。
あまりにも『魔族ヨイショ』、『他種族下げ』が過ぎるのである。
そう、レーナが言った通り、あまりにも露骨な『魔族至上主義』。
人間、エルフ、ドワーフの『ヒト種』が嫌うわけである。……獣人が仲良くしているのが不思議なくらいであった。
まぁ、獣人はヒト種から差別されていたから、同じように獣人を見下す相手ではあっても、あくまでもそう認識しているだけであり実生活においての差別……奴隷狩りとか、排斥とか、嫌がらせとか……をすることはなく表向きは平等に接してくれる魔族は、ヒト種よりは遥かに付き合いやすい相手だったのであろう。
それに、魔族は別に獣人だけを見下しているわけではない。
自分達以外の、全てのヒト形生物、つまり人間、エルフ、ドワーフ、獣人、妖精等、全てを見下しているので、獣人達にとっては、獣人だけを見下すヒト種の連中よりは余程マシな相手であったのだろう。
「……私なら、そんな相手とは関わりたくないわね」
「私も、必要最低限のこと以外には、あまり関わりたいとは思えないね……」
「契約事項を守り、ちゃんとお金を払ってくれるなら、まぁ、何とか我慢しますけど……」
「何ですか、『エルフやドワーフ、妖精とかの失敗作が続き気落ちされた神々が、それらの失敗を糧にして、最後にお造りになった成功作。それが魔族である』とか……。
究極生命体? 完全生物? 『柱の男』ですかっ! 考えるのをやめればいいんですよっ、そんな連中……。
世界を導くべき種族? 選民思想にも、程がありますよっ!」
一見、みんなまともそうなのに。
それに、今まで発掘現場等で出会った魔族達は、敵対してはいても、皆、紳士的な態度であった。
「それが、どうしてこんなクソ思想に塗れているのですかっっ!」
「あの、古竜のクソガキ……クソお子様と同じですよねぇ……」
「ポーリン、それ、全然お上品に言い直せてないわよ……」
「あはは……」
そして、真っ赤な顔をしてプルプルと震えている、長老や村長たち。
みんな、本人達を目の前にして、ちょっと言い過ぎであった……。