494 魔族の村 5
「……あんた、どの種族の村へ行っても持ち上がるわね、その『ハーフじゃないか疑惑』……」
「知りませんよっ!!」
レーナの指摘に、むくれるマイル。
しかし、今回は『胸が慎ましやかだから』とか『エルフ臭い』とか言われないだけ、まだマシであった。それらに較べれば、『魔力通信を傍受できるから』という理由は、何と心安まるものであろうか……。
「とにかく、私の両親はどちらも貴族の本家筋ですから、少なくともここ10世代くらいは他種族の血は入っていませんよ! 人間の貴族は、血筋に拘りますから……」
「「「え……」」」
さすがに、魔族もそれくらいのことは知っていたらしく、驚いた様子である。
「そもそも、それ以前の問題として、コイツには角がないからなぁ。我ら魔族でも、魔信が感知できる者はそう多くはないし、それも角があればこそ、だからな。いくら魔族の血を引いていても、『角なし』では、あり得ん……」
(角なし。角なし……。どこかで聞いた覚えがあるフレーズ……)
そして、何やら考え込んでいるマイル。
(百鬼帝国? いや、違うなぁ。ええと、ええと……、ああ、『ボルテスV』!!)
何だか、スッキリした顔になったマイル。
「ええと、やっぱり角がない者は差別されているのですか?」
「「「え?」」」
マイルの唐突な質問に、怪訝な顔をする魔族の3人。
「どうして、角がないと差別されなきゃならないんだ?」
「お前達人間は、髪がないとか、背が低いとか、腹が出ているとか、胸が小さいとかいうような外見的な理由で同胞を差別したりするとでもいうのか?」
「「「「すみませんでしたああああぁ~~!!」」」」
なぜか突然土下座して謝り始めた4人の少女達に、動揺を隠せない魔族達であった……。
* *
「……じゃあ、あとは頼んだぞ!」
「おう、任せとけ!」
合図……魔信……で駆け付けたふたりのうちの片方に見張り役を頼み、最初に会った魔族、ララークがマイル達を村へと案内してくれることになった。
もうひとりは、村に知らせるために、既に出発している。
いきなり村に人間を、それも4人も連れて行けば、絶対、騒ぎになる。そのため、先触れとして知らせに行ったのである。
まぁ、マイル達は普通に歩いて行くから、駆けていった先触れの者が村人に知らせる時間は充分にあるであろう。村長や長老、村の有力者達、そして剣士レルトバード、リーダーのザウィン、あの兄妹とかに……。
ララークには、呼び寄せたあのふたりに先触れ役と案内役を頼み、自分は見張り役を続ける、という選択肢もあったであろうが、やはり発見時の説明をする必要があること、そして何より、退屈な見張り役よりもこっちの方が面白そう、ということで、当然の如く先触れ役と見張り役をあのふたりに押し付けたのであった。
あのふたりも魔信の送受信ができるので、見張りを任せても何の問題もない。そのための、『緊急時の支援要員』であり、待機配置に就いていたのだから……。
そしてひとりに先触れ役を頼むと共に、もうひとりに自分の代わりにこの担当場所での見張り役を頼みたい、と言った時、両者が何か言いたそうな顔をしていたけれど、知らん振りしてスルーしたララークであった。
当たり前である。みんな、退屈な見張り役よりも、『面白そうなこと』の方に関わりたいであろう。そして、せっかくその場に立ち会えそうだったのに、選りに選って、伝令役と居残りでの見張り役である。それは、愚痴のひとつも言いたくなるであろう。
……しかし、これは一族の一員としての、重要な任務である。ぐぬぬ、と悔しそうな顔をしながらも、一応は明るく元気に振る舞って『任せとけ』と言うあたり、見張り役を引き受けた男は、立派な『一人前の男』と言えるであろう。
「……ララーク、後で詳しく聞かせろよ……」
「お、おう……」
「酒と摘まみは、お前の奢りな……」
「……お、おう……」
恨みがましそうな顔でそんなことを言う見張り役となった男と、少し引き気味のララーク。
……それ程立派な男ではなかったようである。
* *
村へ向かって移動しながら、少しでも情報を、と考えたのか、ララークがマイル達に話し掛けてきた。
「レルトバードに招待された、と言っていたが、奴とはどんな関係だ? そして、どんな理由で招待されたんだ?」
「「「「…………」」」」
答えづらいことを聞かれた。
そしてその質問に答えられるのは、メーヴィスだけである。
「……あ、あの、か、関係は、『剣で全力で戦った仲』で、理由は、その、私に会いたいから、ということらしい、……です……」
「ほほう……」
本人から直接聞いたわけではないので、断言することはできない。もしあれがあの少女の誇張が含まれたものであった場合、あの剣士に迷惑がかかるかもしれない。しかも、それはマイルが望んだ『魔族の村訪問』を実現させるための方便に過ぎず、メーヴィスが本当に望んで招待を受けたわけではない。
そう考えると、自信のない言い方しかできないメーヴィス。
しかし、魔族の男は、当然のことながらそれを『メーヴィスが照れている』としか受け取らなかった。
……まぁ、仕方のないことであろう……。
「ええと、メーベルはおかあさま、メーヴィスはわんこ属性、メリーベルは銀のばら……」
そして、何やらぶつぶつと呟いているマイルと、その呟きの中身に、口元をひくつかせるメーヴィス。
「貝割れ、貝入れる、買い入れる……」
メーヴィスの反応には全く気付かず、呟き続けるマイル。
そして……。
「思い出した!」
ぴこん、と、頭の上に電球が点灯したかのような顔をして、手を打ち合わせるマイル。
「……何を、かな?」
そして、まだ少し口元のひくつきが残っているメーヴィス。
「あの兄妹の名前ですよ! ほら、お兄さんがレーナさんに気があって、妹さんが招待してくれた!
確か、メーリルちゃんと、『カイレルにいさま』だったはずです。
えへへ、私、結構記憶力がいいんですよ」
「余計なことを思い出すなああああぁ~~!!」
そして、真っ赤な顔で怒鳴りつける、レーナ。
「何だか、ハーフが増えそうだ……、ヒッ!」
何気なくそう呟いた魔族の男は、殺しそうな眼でレーナに睨み付けられ、顔を引き攣らせた。
マイル達には、それがツンデレの照れ隠しだと分かっているが、そういうのが分からない魔族の男にとっては、死の恐怖を感じさせる悪鬼の視線なのであった。
「どうどうどう……」
「馬かっ!」
マイルに宥められ、却ってヒートアップするレーナ。
そして、いつものようにぐだぐだになりながら魔族の村へと進む、『赤き誓い』一行であった……。