443 エルフの里 9
結局、顔合わせは、あの後、ぐだぐだになったのであった。
いや、イベントとしては、決して失敗ではなかった。皆、楽しく盛り上がり、会話も弾み、このレベルの文化で行われた若者同士の交流会としては大成功の部類であろう。
……ただ、主催者達の思惑からは完全に外れてしまったというだけで……。
男性達に女性を、特に人間の街に出ている女性達を上手く説得させて里に戻らせ、早期に結婚させ、落ち着かせる。
そのためのイベントであったのに、逆に男性達や人間の街には興味がなかった女性達が説得されてしまい、人間の街での暮らしや人間と付き合うということに憧れを抱いてしまったのである。
本末転倒、藪蛇、ミイラ取りがミイラに、とかいうやつである。
そのため、話はエルフ3人組やマイル達による人間の街での暮らし、学者としての仕事や待遇、ハンターとしての色々なエピソード、そして会ったことはないけれど噂にだけは聞いたことのあるエルフの高ランクハンター達の活躍とか、色々な話で盛り上がり、……まぁ、そういうことである。
中には、マイルとレーナにコナを掛けようとするエルフ男性もおり、エルフ3人組がカバーしてくれたり、自分達にコナを掛ける者がいないためメーヴィスとポーリンが少し落ち込んだり、それを見た博愛心溢れる者達がふたりにも声を掛けて結局断られ、『何じゃそりゃ!』と呆れたり……。
そう、たとえお付き合いをする気がなくとも、女心というものは複雑であり、色々とあるのであった……。
* *
「世話になったわね……」
さすがに、契約外のことを頼んでしまったことに後ろめたさがあったのか、殊勝な顔でそんなことを言うクーレレイア。
……全然似合っていない。やはりクーレレイアは、『んふふ!』とか、『きしし!』とか言って、悪戯っぽい顔で笑っているのが似合っている。
「ホント、ごめんなさいね……」
「色々と助かったわ。ありがとう……」
クーレレイアよりかなり年上に見えるシャラリルとエートゥルーの申し訳なさそうな顔での謝罪は、それなりに絵になっている。やはり、外見年齢というものは……、いや、シャラリルとエートゥルーが若かった頃でも、クーレレイアのような感じではなかったであろう。そしてクーレレイアも、今のシャラリルとエートゥルーくらいの外見になったとしても、やはり悪戯っぽい顔が似合う女性のままなのであろう。
大人になれば、顔も自己責任。
それは、美醜とは関係なく、顔にそれまでに積み重ねてきたものが現れるということである。
しかし、それにしても……。
「みんな美人で……」
「里にいれば、みんなが子供扱いして色々と甘やかしてくれて……」
「親がいつまでも若くて面倒をみてくれて……」
「退屈すれば、人間の街へ出ればちやほやされて楽に稼げる、って……」
「「「「エルフ、卑怯すぎ!!」」」」
「「「人聞きの悪いこと、大声で叫ぶなああああぁっっ!!」」」
『赤き誓い』の怒りの叫びに、青筋立てて怒鳴り返すエルフ3人組。
そりゃそうである。
みんな、女性の地位が低く、退屈なエルフの里に耐えられずに身ひとつで飛び出して、勝手の分からぬ人間の街で苦労し、騙して食い物にしようとする悪い人間達に付きまとわれ、やっとの思いで今の立場を手に入れたのである。
それは、確かに普通の人間の少女に比べれば有利な部分もあった。しかし、それがマイナスとなり狙われる危険は人間の少女より遥かに大きかったのである。
顔合わせでは美味しい話ばかりしていたが、勿論、3人はそのあたりのことも後できちんと説明するつもりであった。でないと、色々と悲惨なことになってしまうのが目に見えていた。
……そう、勿論、怒り狂ったエルフの極大魔法連打によって壊滅する組織とか、街が地図から消えるとか、そういう意味で……。
その類いの、人間には分からない色々な苦労をしているのに、そんなことを言われれば、それは怒るのも無理はない。
そういうことを、3人に滔々と語られて……。
「「「「ごめんなさい……」」」」
そう、レーナ達も、そう悪気があったわけではない。
ちょっぴり羨ましかっただけである。
そしてそれも、他者には分からないそれなりの苦労があると語られたのでは、謝るしかなかった。
隣の芝生は青い。隣の花は赤い。隣の糂粏味噌。
そういうものである。
「……しかし、アレ、よかったの? 何か長老さん、死にそうな顔してたけど……」
レーナが、一応は年配者のことを慮ってそんなことを言ったが、クーレレイアの返事は年寄りに冷たかった。
「いーのいーの、姑息な真似するから、自業自得よ。あのくだらない規則で、今まで私達がどれだけ面倒な思いをしてきたことか……。これで、顔合わせのために定期的に里に戻るという規則と、毎月の報告の義務を撤廃させてやるわよ。
それを認めないなら、人間の街での楽しい生活、美味しい食べ物、子供の振りをしてやり放だ……げふんげふん、とにかく、面白おかしく脚色した報告書を書いて、それを筆耕屋に10部くらい複写させて、近隣の全ての村の若い連中に送ってやる!
そうね、全部の封筒をひとつの大きな封筒に纏めて、リーベルクの奴にでも送りつけてやろうかしら。それぞれの封筒を全部の宛先に配れ、って……。
ひとつの封筒に纏めて送れば送料は変わらないし、リーベルクなら私の頼みは絶対に断らないわ。そして、その中の封筒のひとつが、長老宛の正規の報告書、ってわけよ。
これを繰り返せば、里を出たがる者がドンドン増えて……。くっくっくっ……」
「「「「悪魔かああああぁっっ!!」」」」
クーレレイアのその邪悪な笑みは、既に『小悪魔』を卒業して、立派な悪魔になっていた……。
「あ、あんまりお年寄りを苛めたり、エルフの滅亡を早めるようなことは……」
「「「ケッ!」」」
メーヴィスの心配りは、鼻で笑われた。
「自分の人生は、自分の好きに生きるわよ! どうして年寄りのために自分の人生を無駄にしたり犠牲にしたりしなきゃならないのよ。もう、時代が違うのよ!
人間もエルフも同じように森で採取生活をして暮らしていた時代じゃなくて、森の外の世界はカラフルでハイカラでお洒落でシックでイェイイェイなのよ!」
「…………」
英国海軍の巡洋戦艦娘のようなことを口にするクーレレイア。
しかし、それを言われては、家族に強制された人生を嫌がって家出したメーヴィスには何も言えない。
同じく、お家と領地、領民を放り出しているマイル、父親が残した店を母親と弟に任せて好きにやっているポーリン、そして父親が残した行商馬車を売り払ってハンターの道を選んだレーナも……。
エルフの里しか知らない者達はともかく、人間の街を知ってしまった、それも女性である3人組には、既に長老の教えや指導に対する敬意など殆ど残ってはいないようであった。
長老の締め付け方針のせいでこうなったのか、こうなることを恐れて締め付けを行ったのか。今となっては、もはやどうでもいいことであった……。
「でも、長老さんや賢人会とやらの皆さん、もっとやりようがあったのでは……。どうしてこんな頭の悪いことになっちゃったんでしょうか? 凄く年齢を重ねた賢者の皆さんなのに……」
「あ、そんなことはないらしいよ?」
「え?」
何気なく呟いたマイルに答えたのは、メーヴィスであった。さすが伯爵令嬢だけあって、そういう教育も受けているらしい。将来、どこかのパーティーとかでエルフに会う場合に備えてであろうか……。
「5~6歳の仲良しさんが10人くらい、他の誰にも会わずに、平和で衣食住に不自由しない小さな村で安楽に暮らしていたとしよう。歳を取ることもなく、何の苦労をすることもなく、いつも同じ仲間としか話をせず、外から新しい情報がはいることもなく、そのまま100年暮らしたとして……」
何となく、メーヴィスの話の落ちが見えてきたマイル。
「100年後、幼児の姿のままのその連中は、100歳以上の齢を重ねた賢者のようになっていると思うかい?」
「何も進歩せず、ただ同じ毎日を過ごすだけですよね、それって……。幸せは幸せなのかもしれないですけど……」
「……使い物にならない、ゴミね」
「クズですね」
マイルはともかく、レーナとポーリンの言い様はちょっと酷い。
「そうだ。人間であれば、短い人生、すぐにやってくる『老い』と『死』に怯えながら必死で生き、少しでも幸せになりたい、少しでも楽な生活をしたい、そして子供達により良き人生をと、考え、工夫し、努力を続けて少しずつ前へ進み、そして子供達がそれを引き継ぐ。それは、都会に住む者であろうが、田舎の小さな農村に住む者であろうが、程度の差はあっても、皆同じだ。
しかし、森の中に引き籠もり、強い魔力を持つため楽に生活でき、人間の10倍以上の寿命を持ち、しかもその人生の大部分を壮年期の肉体で過ごすエルフは……」
「「「『永遠の子供』と同じで、進歩がない……」」」
やはり、マイルが思った通りの結論であった。
「そうだ。だから、エルフは高齢であっても、別に哲学者でもなければ思索家でもなく、人格が優れているわけでも、ましてや賢者などでは決してない。なので、エルフは気位が高いだけで偏屈、そしてなまじ魔法による戦闘力はあるものだから、扱いには注意し、決して怒らせず、何を言われても相手を立て、煽て、うまくあしらうこと、というのが貴族の間での最優先事項だ。
だから、そのことは子供にもちゃんと教えられている。……こうして私が知っているようにね」
「「「…………」」」
「あ、クーレレイア博士達が頽れてる……」
「エルフに対する他種族からの評価、知らなかったのかしらね……」
「「「「なむなむ……」」」」
『転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております』第1巻、昨日発売!
みんなでオリコンにのせて、更新速度が上がるよう、作者さんにプレッシャーをかけるのだだだ!!(^^)/
レーナ「あんたが勧めるの、全部、貧乳主人公の作品ばかりじゃないの!」
フィーア「うるさいわっ!!」
マイル「あ、他の人に流れ弾が……」
メーヴィス「レーナ、それを言うと、マイル、カオルさん、ミツハちゃんの立場が……」
マイル「メーヴィスさん、何、他人事みたいなことを言ってるんですか! メーヴィスさんも、『貧乳側の人間』なんですからね!」
メーヴィス「人を、神側の人間みたいに言わないでよっ!」
ポーリン「あの、しゃわしゃわする飲み物……」
マイル「それは、『三ツ矢サイダー』。(^^)/」
ポーリン「あ、ここで臨時ニュースです。本作品のイラストレーター、亜方逸樹先生のサークル『はぁと饅頭マニア』さんが今回のコミケットで発刊されました、のうきんアニメ化記念本が、『同人ショップさんにて通販始まりましたー』とのことです。
お店は、メロンブックスと、とらのあな、というところらしいです」
レーナ「とらのあな? プロレスラーでも養成してるのかしら?」
メーヴィス「おお、あの、亜方先生が描かれたのうきん漫画と、書籍1~12巻とスピンオフの『リリィのキセキ』、全13冊全ての表紙候補ラフが4種類ずつ、全部載っているという、凄い資料的価値がある……」
レーナ「ええ、毎回4つの表紙案が出されて、それをみんなで検討して今の書籍の表紙になったわけね。その、没になった候補ラフが全て見られるのよ。どんな候補があったのか、気になるわよね」
ポーリン「私達の、初期設定ラフもありますね」
マイル「ええっ、私、こういう髪型になっていた可能性もあったんですね……」
レーナ「髪型くらい、いつでも変えられるでしょ。今度、結ってあげるわよ!」
マイル「……あ、はい。えへへ……」