442 エルフの里 8
「どうして、こうなったああああぁ~~!!」
顔合わせの後、長老は、各村からの参加者の付き添いとしてやってきた年配者達……別に参加者だけで来られるのであるが、付き添いという名目で同伴して、イベントの後で飲食の接待を受けるのが目的……と一緒に、頭を抱えていた。
既に付き添いの者達には顔合わせでの状況は説明してある。
そう、参加者の大半が『初婚は、そう急がなくても良いのではないか』、『若いうちは、里を出て人間の街に住み、色々な経験を積むのも良いのではないか』、そして『一度くらい、人間と結婚してみるのも良いのではないか』と言い出し、その話で大盛り上がりしてしまったことを……。
初婚カップルを成立させ、人間の街へ出ている若い娘達を里に戻らせる。
そして、若者達を結婚させて少子化が進んでいるエルフの人口増加に努める。
その作戦が、裏目も裏目、大裏目となってしまったのである。
里に残っていた娘達が、全員人間の街に強い興味を抱いてしまった。
それどころか、男連中までがその気になり、更に由々しきことに、何と人間そのものにまで興味を抱き、結婚相手に、などと言い出す者まで……。
致命傷であった。
ただでさえ数が減っているというのに、混血が進んで純血のエルフがどんどん減っていけば、そして皆が人間の街に住むようになれば、……数世代でエルフは消滅する。その血筋も、文化も。
御先祖様達が守り続けたエルフの血筋が、そして歴史が、無くなってしまう……。
「どうしてじゃ! 何が悪かったというのじゃ!!」
「つまらない小細工なんかしようとするからですよ……」
「え……」
長老が驚いて振り返ると、そこには『赤き誓い』の面々が立っていた。
そして、マイルが言葉を続けた。
「クーレレイア博士達は、自分から人間の街のことを喋って回ったり、他の人達を誘ったりはしていなかったのに。
そして、自分が充分満足したら、里に戻るつもりだったのに……。
……そう、若いうち、まだ子供の間だけの我が儘だと承知での、人間の街での暮らしだったのに。
それを、早く里に戻らせようとか、つまらないことを考えて色々な条件を課したりしつこくお説教をしたりするから、説明や説得、言い訳やノルマ稼ぎのために余計なことをせざるを得なくなって、その結果が、これですよ。
里を出た者を呼び戻すどころか、その楽しさや主張の正当性にあまりにも魅力や説得力がありすぎて、里に残っていた女性や、人間の街にはあまり興味を持っていなかった男性達もが軒並み里を出ることを検討し始める始末……。
そして、本当はあなた達も分かってはいるのでしょう? 若者達がそう望むのはおかしなことではないし、ごく自然なことだと。このような文明から離れて生活する閉鎖的な、閉じ籠もった小集団の末路は……」
「うるさい! 幼児が、知った風な口を利くな!!」
「「「「え……」」」」
長老の怒鳴り声に、驚いて眼を見開くマイル達。
そう、長老は、いくら若造に少々偉そうに御高説を賜ったところで、カッとなって激昂したり逆上したりするような人物とはとても思えなかったからである。
もっとこう、温厚で思慮深く、人間の小娘如きの多少の暴言は余裕で流せる。そう思ったからこそ、話を引き出すためにわざと偉そうな言い方にしたのである。
なのに、長老の予想外の反応に、戸惑うマイル達。
「人数が少ないからこそ、閉鎖的な社会を守らねばならんのじゃ! もし人間の街との積極的な交流などを進めれば、若者達は皆、里を出てゆく。そして、年を取って戻ってくる者もいれば、戻ってこない者もいるじゃろう。
そして戻ってきた者は、人間の妻や夫、ハーフの子供を連れ帰り、更に、人間達の考え方や文化を持ち帰る。……そうなれば、純血のエルフや、エルフとして受け継がれてきた文化や風習は、あっという間に消え去り、失われるじゃろう。そして、いったん失われたものは、二度と元に戻ることはないのじゃ……」
「別に、失われてもいいんじゃないですか、そんなもの……。良いものは残るでしょうし、ただの因習なら、廃れる。それだけのことでしょう?
混血化にしても、別に種族が滅びるわけじゃなし、新しい血を取り入れ、新たな種族となって繁栄していく、と考えればどうですか? 小さな、閉鎖した先細りの種族を少々延命させるより、人間に混じって、共に発展していくのは……。
まぁ、考えは人それぞれですけど、年寄りが自分達の考えを若い世代に強引に押し付けて、若者の一生を縛り、自分達の思い通りにさせようとするのは……」
「駄目なのじゃ! それでは、駄目なのじゃ!! たとえ儂らはそれで良いと考えても、それは許されんのじゃ、我らエルフ、ドワーフ、獣人、妖精、古竜、そして魔族を創られし、偉大なる方々の御意思が、お考えが……」
「「「「え?」」」」
しまった、という顔をして黙り込む、長老。
付き添いの、他の村の者達も『赤き誓い』と同じように、ぽかんとしている。
……ということは、今の話は、エルフの中でも長老のみ、もしくは長老と賢人会クラスの者達しか知らない話なのであろうか……。
「……偉大なる方々? そういえば、以前、『七賢人』とか『7分の1計画』、『スーパーソルジャー計画』とかいうパワーワードを聞いたことが……」
「き、貴様、どこまで知っている!!」
長老が、血相を変えてマイルに詰め寄った。
しかし、マイルは考え事に集中しており、長老のことは完全にスルー。
「どうして、いまの話では『神々の被造物』の中に人間が含まれていないのだろうか。そして、それにも拘らず、獣人と魔族はともかく、なぜ妖精と古竜が含まれているのか。
そんなのを入れておきながら、ただ単に『人間』を入れ忘れたとか、その他諸々として省略したとは思えない。おそらく、何度も言い慣れた定型句なのだろうから……。ということは……。
そもそも、神々のことを『偉大なる方々』なんて言うだろうか。神は『至高』であって、『偉大』はもっと下、『偉大な業績を収めた人間』とかいう使い方をする言葉だよねぇ……」
「黙れ! それ以上、ひと言も喋ることは許さん!」
そう言いながら、手にしていた杖を振りかぶって殴りかかってきた長老を、慌てて取り押さえる付き添いの者達。
いくら長老とはいえ、納得できる理由もなく客人である人間に、それも彼らから見れば幼児に等しい少女達にいきなり得物で殴りかかるなどということは、到底看過できなかったのであろう。
無理もない。下手をすれば、人間との間で大問題になりかねない不祥事である。
「……済まぬ。分かったから、放せ」
どうやら、一時的に激昂しただけのようである。取り押さえられた長老はすぐに落ち着きを取り戻し、付き添いの者達も大丈夫だと思ったのか、取り押さえていた手を離した。……但し、念の為か、いつでも再び取り押さえられる位置取りをしている。
「それを、どこで聞いた……」
落ち着きはしたものの、その件はどうしても確認せねばならないことらしかった。なのでマイルも、今回はいつもの『実家の秘伝』で誤魔化すことなく、真摯に、きちんと答えることにした。
「省資源タイプ自律型簡易防衛機構管理システム補助装置、第3バックアップシステムさんから聞きました」
「…………誰だ、そりゃ……」
そう、それを聞いても、マイル以外の者に理解できるはずがなかった……。
「先史文明の知識の残滓を御存じの方です」
「なっ……」
そう、コンピュータだの人工知能、人工知性だのと言っても、理解できるわけがない。なので、聞いた相手は意思疎通ができる者、つまり人間、もしくは先程種族名が挙がっていたエルフ、ドワーフ、獣人、妖精、古竜、そして魔族のいずれかであるとしか説明できない。
しかしマイルはこういう重要なことに関して不必要な嘘を吐くことは好まないため、嘘にはならない程度で相手に理解できるような言い方にして答えたのである。
「その相手は……」
「あなたが言い伝えの内容を私達に教えてくれないのと同じ理由により、何もお話しできません」
「なっ……、あ、ああ、分かった……」
守らねばならない秘密を抱えた者は、『秘密を守る』ということの意味と責任、そしてその重みを知っている。なので、形振り構っていられない本当の非常事態でもない限り、他者に無理な強要を行うことはないのであろう。
長老はただ、居合わせていた付き添いの者達に対して、『今聞いたことは他言無用。長老権限によりSランク秘匿事項とする』という旨の指示を出しただけで、この話を終わらせた。
その指示に、蒼白になった男達をスルーして……。
後でマイルがクーレレイアに『エルフのSランク秘匿事項って、どれくらいのものなの?』と尋ねたところ、『どうしてそんなこと知ってるのよ!』と驚いた後、まぁ秘密の内容というわけじゃないから構わないか、と言って教えてくれた。
それによると、『もし漏らしたら本人は処刑、家族は里から追放』というものであり、エルフの秘匿魔法を他の種族に漏らしたりすると、これに該当するらしかった。
さすがに、人口が少ないエルフ社会で『一族郎党、全て』とかになると里が崩壊してしまうためそこまではできないらしいが、本当であればそうしたいくらいの大罪であるらしい……。
本日は、『私、能力は平均値でって言ったよね!』のなろう連載開始から、丁度4年目です。
そして4年前の8日後、アース・スターノベルから書籍化のオファーが……。
3週間前にアニメのTV放映が終わり、本当に、「一段落だなぁ」という感じです……。
『祭り』が終わって寂しいけれど、次の『祭り』が来ることを祈って、もうひと頑張り、行きまっしょい!(^^)/
そして、今週の木曜日、16日には、私のお気に入り作品、『転生前は男だったので逆ハーレムはお断りしております』が発売に。(^^)/
私が今まで「お気に入り」として発売前に紹介したのって、
『魔王の秘書』(コミックス)
『ライドンキング』(コミックス)
『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』
『私が発火と唱えると、隣の黒子がマッチを擦る』(短編。未書籍化)
とかですよねぇ。
うむ、中々のヒット率である。(^^ゞ
そして、予想以上の売れ行きで流通在庫がほぼ尽き、書店で全く見当たらなくなっていました『のうきん』のスピンオフ小説、『リリィのキセキ』の重版分がようやく出荷され、今頃は各地の書店に並び始めている頃です。年末年始を跨いだため、遅くなりました……。
お待たせしました。そして、よろしくお願い致します!(^^)/
そして、先週金曜の『ろうきん』コミック更新、最新ページに前回の『色紙プレゼントの告知』がスライドしていたために更新に気付かない人が多かったのか、閲覧数が伸びない……。〇| ̄|_
ちゃんと、先週の金曜日に更新されていますからね。(^^)/
現在は、最新話が最新ページに設定し直してある模様。
以前にも、同様のことがあったんですよねぇ。
告知系のは常に最新ページになるように、という意図は分かるけれど、そのやり方はニコニコ静画には相性が悪そう……。(^^ゞ
あ、ニコニコ静画の『ろうきん』コミックですからね、『のうきん』じゃなくて。(^^)/




