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437 エルフの里 3

 そして丸々一日歩き、夕方頃になって……。

「着いたわ。ここが私達の氏族の『村』よ。全員が集まるのは何かのイベントの時くらいで、普段はそんなに人がいるわけじゃないけど、氏族の意志決定機関である『賢人会』のメンバーとかは過半数が常駐しているし、雑貨屋もあるし、まぁ、村としての機能は一応備えているわ。人間が考える『村』とは少し違うかもしれないけどね」

 エートゥルーがそう言って説明してくれた。


『赤き誓い』の前にあるのは、木造の平屋が数十軒、不規則ランダムに建てられた集落であった。そして『木造』と言っても、人間が考える木造家屋ではなく、もっと自然のままの、丸太ログを主体として一部に角材も使用した、ログハウスのようなものである。

 建物の広さや大きさを求めたものではなく、ただ雨風を避けて過ごせる、ということしか求めていないかのような、そして自然の中で、自然と闘うのではなく自然と共に暮らすとでもいうようなたたずまいの村。


「ここが、エルフの村……」

「何だか、自然に溶け込んだ暮らし、って感じで、素敵ですね……」

「想像していた通りね」

「ふえぇ……」

 人間が招かれることなど滅多にないため、エルフの暮らしぶりについてはあまり知られていない。『赤き誓い』のみんなが感動するのも無理はなかった。


「何もない、クソつまんない村よねぇ」

「退屈で退屈で、こんなところで一生過ごすなんて願い下げよ!」

「そう、私は刺激があって楽しい人間の街で暮らすのよ! そして、ひと山当てて、豪邸を建ててとうさまを呼んで一緒に暮らすのよ!」

 ……そして本音を漏らす、エルフ組。

 色々と、台無しであった……。




 村には、別に出入りする者を見張る門番がいるわけではなく、素通しであった。

 こんな森の奥で、それは少し危険なのではないか。そうマイルが尋ねると、魔物や猛獣への備えはちゃんとしてあるわよ、とエートゥルーに返された。

 どうやら、見張りがちゃんといるか、何らかの探知方法があるようであるが、さすがにそれは秘密らしい。

 防衛というものは、その詳細がバレてしまうと効果が激減してしまうものであるから、秘密にするのは当然であろう。そんなことをぺらぺらと喋るのは、馬鹿だけである。

 そして、村へと入ると……。


「おお、クーレレイアちゃんに、エートゥルーとシャラリルじゃないか! そうか、もうそんな時期か……」

 どうやら彼女達が定期的に戻ってくるのは周知のことらしく、そう言って笑顔で迎えてくれる、通り掛かった20歳過ぎくらいの男性。

 ……あくまでも、マイル達には20歳過ぎくらいに見える、というだけであり、少なくともクーレレイア博士よりはかなり年上であろうから、実年齢は……。

「で、その子達が、あの?」

 そして、興味深そうな顔でマイル達を見る、男性。


「私達が、『あの』って、どういうことかしら?」

「何か、私達についての情報が事前に流されているのですか?」

「……それは、ハンターにとっては問題となる行為ですよ?」

 レーナ、ポーリン、そしてメーヴィスまでもが、胡乱うろんな眼でエルフ組を見ていた。いや、めつけるような眼、と言った方が正しいかもしれない。

 何しろ、指名依頼を受けて行ったところに、事前に自分達の情報が流されていたわけである。受けた依頼とは全く関係ない形で……。

 それは、明らかにハンターに対する裏切り行為であり、『嵌められた』として即座に依頼主側有責での契約破棄、敵対関係となってもおかしくない行為であった。


 互いに顔を見合わせて、ばっ、と飛び退すさり、エルフ組(男性を含む)から距離を取る『赤き誓い』の4人。レーナとポーリンは杖を握り締めた右手を前方に突き出しているし、メーヴィスは剣の柄に手を掛けている。

 護衛依頼、というのが口実らしいとは思っていたマイル以外の3人であるが、まさか事前に里の者達にも根回しをしていたとは思ってもいなかったらしい。

 そしてそれは、里の者達全員でマイルを捕らえ、マイルの特殊な魔法や能力……実家の秘伝……を実力行使で聞きだそうとするつもりなのだと判断されても仕方ない行為であった。

 そう、『赤き誓い』はそれでもいきなり攻撃したりはしなかったが、『いきなり攻撃されること』を警戒するのは当たり前であった。


「「「あ!」」」

 そして、自分達の失策に気付いたらしい、エルフ3人組。

「ち、ちちち、違うわよ! 別に、おかしなことを企んでいたりしないわよ!」

「そ、そそそ、そうですよ! 私達エルフは誇り高き種族、人間を騙したりはしません!」

「ご、ごごご、誤解です!!」

 何やら、必死で言い訳をするエルフ達。

 どうやら、『赤き誓い』の反応の理由を理解したらしかった。




 そして、『赤き誓い』を警戒させないようにと、男性を追い払った後、エルフ組が必死で弁解を始めた。

 それによると、人間なのにエルフのような気配を感じる者がおり、しかも膨大な魔力があり変わった魔法を使える、ということで、里の長老への手紙(これも、定期的に報告が義務付けられているらしい)にそのことを書いてしまったらしいのである。

 しかも、毎回報告書に書くネタに困っていた3人が、揃いも揃って、全員そのネタで1回分の報告書の大部分を埋めてしまった、と……。

 そして里から手紙が来た、と。『次の帰省時に、その者を連れて帰れ』と……。

 なので、決して何かを企んでいるとかではなく、ただ長老に会ってもらおうとしただけである、と言って頭を下げるエルフ組であったが……。


「だから、仲が悪いのに3人一緒だったのですね……」

「そんなことだろうと思ったわよ……」

 呆れたようにそう言う、ポーリンとレーナ。そしてマイルは……。

「それって結局、護衛依頼だと騙して私達をおびき寄せた、ってことには変わりないですよね? そして、その長老さんとやらが何を企んで私を連れて来させたのかということも、分かりませんよね? もしかすると、本当に私達を捕らえて実家の秘伝を無理矢理喋らせようとする可能性も、全くなくはありませんよね?」

「いえ、私達エルフは、そんなことは決して!」

「でも、護衛任務だと私達を騙してここに連れてきたじゃありませんか!」

「うっ……」

 マイルの指摘を必死で否定したエートゥルーであったが、それも、マイルに斬って捨てられた。

 マイルは、お人好しで寛大な方であるが、それはあくまでも『相手に悪気がない場合』の話である。

 そう、マイルは決して、盗賊の人権を尊重して、仲間や罪のない村人の命を危険に晒すようなタイプではない。そのあたりは、海里の時からの判断基準をそのまま引き継いでいた。


「ギルド規約違反ね。ハンターを嘘の依頼で騙して、仲間のところへ誘き寄せる。ハンターと、依頼を仲介するハンターギルドに対する宣戦布告ね。

 いくらエルフが優遇されるといっても、これはただじゃ済まないわよ。

 王宮あたりは何とか穏便に済ませようとするかもしれないけれど、ハンターギルドはそんな指示は無視するわよ。良くて、今後、ここの氏族絡みの依頼は全て受注拒否。悪ければ、ここと関わっている商人とかも仲間とみなして全て受注拒否の対象になるかもね」


「え……」

 レーナの指摘に、愕然とした様子のエルフ達。

 そんなことになれば、人間の街で買い物をすることができなくなってしまう。小売り商から買うのも、立派な『商取引』なのであるから……。

 エルフに物を売るとハンターギルドを敵に回すことになると言われて、僅かな売り上げのために危険を冒す者がいるはずがない。

 いくら森での自給自足に近い生活をしているとはいえ、エルフ達も全く街での買い物をしないというわけではない。やはり農具や狩りのための武器は金属製のものを使いたいし、他にも使い慣れてしまった人間の道具は手放せない。

 そしてそれらは壊れることもあるし、新製品が欲しいこともある。また、たまには珍しい食材や調味料とかも買いたい。

 ……つまり、自分達のせいでエルフの里が街の商人達に縁を切られたりすると、大変なことになるのであった。


「「「…………」」」

 エルフ達は、まさかそれ程のことだとは思ってもいなかったようである。

 しかし、3人共、実年齢はかなり行っているであろうに、そしてハンターの禁忌についてもある程度は知っていたはずなのに、なぜそんなに安易に考えていたのか。逆に、レーナ達の方が驚きであった。

 レーナ達も、護衛が指名依頼だったのはマイルをエルフの里へ連れて行きたかったからかな、と思ってはいたが、それはあくまでもこの3人の思惑だと考えていたため、マイルにゴマをすって色々と教えてもらおうとしているだけだと思っていたのである。

 その程度であれば、まぁ、大したことはない。マイルがお礼代わりに『これくらいなら教えてもいいかな』と考える範囲で少し教えてやるのも、許容範囲内であろう。もし行き過ぎだと思えば、自分達が止めてやればいい。……そう考えていたのである。

 しかし、事前に根回しがしてあり、里ぐるみでの企みであったなら。

 そして、マイルを連れ込むのが、この3人の考えではなく里の指導者からの指示によるものであったなら。

 ……その場合は、話が全く違う。

 それは、完全な『罠』である。


「「「……」」」

 追い詰められて、どうしようかと困り果てた様子のエルフ達。

「「「…………」」」

「「「………………」」」

 村の入り口近くで立ち止まったまま、固まる一同であったが……。

「とりあえず、立ち話も何ですから、どこかに落ち着きませんか?」

 そして、第一当事者というか被害者というか、とにかくこの場で一番文句を言う資格があるマイルの言葉に、全員が頷いたのであった……。



12月14日(土)、『のうきん』のスピンオフ小説、遂に発刊!!(^^)/

『私、能力は平均値でって言ったよね! リリィのキセキ』

完全書き下ろし

著:赤井紅介先生、イラスト:亜方逸樹先生

『のうきん』世界に、ニューヒロイン、『リリィ』爆誕!!(^^)/


よろしくお願い致します!(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] 元凶は駄目エルフな三人、だけど長老が全部悪いって事にして手打ちにしたげれば丸っと収まる~かもっ!(超無責任)
[一言] エルフの村までいけば、もしかしたら胸の大きなエルフもいるかも。 ならば、マイルにもまだ可能性が。
[良い点] 何の企みもないなら脅すネタが手に入ったって事でエルフ幼女1人あたりで手を打てばいいじゃない。 だが平均値の元となった頂点権限レベル10の存在が古龍ではなくエルフの誰かなんて事は無いよね・…
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