424 合同受注 3
「そ、そんな……」
愕然とする、レーナ達3人と、マイル。
木々の間からオークを視認した瞬間に、魔法名のみで放たれた、3つの詠唱省略魔法。
相手が魔法名から攻撃内容を知ることができる人間ではなく、また、充分に離れた場所からの奇襲攻撃であったため、わざわざ威力が落ちる完全無詠唱にする必要がなかったので使われた、魔法名だけは声に出して唱える、詠唱省略魔法。
そう、もし必要ならば、完全な無詠唱で放つことも簡単であったろうと思わせる、無造作に放たれたその魔法。
……そして、モニカが放った2発目は、1発目との間隔が短すぎた。あまりにも……。
もし『赤き誓い』が攻撃していたとしても、ほぼ同等の結果となっていたであろう。
レーナとポーリンが魔法攻撃による一撃でそれぞれ1頭ずつ仕留め、メーヴィスがウィンド・エッジで傷を負わせ、そのまま突っ込んで剣でとどめを刺す。もしくは、レーナかポーリンが魔法の2発目でとどめを刺す。
……同等。
ポーリンはともかく、何年も『赤き稲妻』のみんなに鍛えてもらい、ソロで活動し、半年の養成学校を経て、Cランクパーティとして1年半も活動してきた自分と、幼い頃から何年もの間、凄腕の家族に鍛えてもらったメーヴィスが、苦労知らずの学園出のお嬢様達のお遊びパーティと、同等……。
いや、モニカの脳内詠唱速度は、間違いなく、自分達より速い。
「くっ……」
しかし、今は何も言うべき言葉はない。
そう、今は、行動で、そして結果で示すべき時であった。
「ふ、ふぅん、結構やるじゃないの。じゃあ、次は私達の番ね!」
そう言って、メーヴィス、ポーリンと共に、『ワンダースリー』の前に出て歩き始めたレーナ。次はマルセラ達より先に獲物を見つけ、自分達が仕留めるつもりらしかった。
「……待ってください!」
しかし、すぐにマイルに呼び止められた。
「何よ!」
立ち止まり、少し不機嫌そうにそう言うレーナであるが……。
「獲物を放置して、どうするんですか!」
「「「あ……」」」
「じゃ、これで……」
本当であれば、オークを解体し、一番高く売れるところを持てるだけ持って引き揚げるべきところである。
しかし、今回は『力較べ』という目的があるため、『帰投時に、持ち帰るべきオーク肉と同じ重さの砂袋を運ぶ』ということにして、狩ったオークについては一旦『状況外』とし、マイルが収納に収めた。演習における、統裁官判断、というやつである。
マルセラ達にここで限界ぎりぎりの大荷物を持たせて『赤き誓い』の行動に付き合わせるわけにはいかないし、オークを中途半端に解体するのも、持ち帰るのがぐちゃぐちゃの血塗れの肉塊になってしまうため、願い下げであった。なので、マイルの裁定に文句を言う者はいなかった。
そして、再び狩りのため先へと進む一同。
小動物や鳥、売り値が安い植物等はスルーし、大物を探して先頭を進む『赤き誓い』の3人。
しばらく経って……。
「目標、視認! オーガ4頭!」
「よし、貰ったわ!」
いつものように、マイルが探査魔法を使わない時には一番早く獲物を見つけるメーヴィスが、獲物を発見した。『ワンダースリー』が倒したオークと違い、更に強いオーガが4頭。『赤き誓い』の力を見せつけるには、充分な獲物であった。
「パターンS-1!」
レーナの指示が飛ぶ。
パターンSは、他者の眼を気にすることなく、出し惜しみせずに全力を出す場合のことである。
マイルが、自分達にも教えていないことを教えている『ワンダースリー』である。自分達がマイルから教わった『実家の秘伝』を見られても問題はないと判断したのであろう。
いや、それどころか、それを見せつけるためなのかも知れなかった。マイルから秘伝を教えてもらっているのはお前達だけじゃないぞ、ということを見せつけるために。
レーナ達の実力であれば、ただオーガ4頭を倒すだけならば、別にマイルから教わったことを使うまでもないはずであった。
モニカのように探査魔法を使っていたわけではないので、獲物との距離は、さっきのオークの時よりもずっと近い。しかしそれも、射程距離が短い、ポーリンの最凶範囲攻撃魔法を使うには丁度良かった。
そして『赤き誓い』には『ワンダースリー』と違い、敵を塞き止めてくれる前衛がいるので、何の問題もなかった。
「ホット・トルネード!」
「アイシクル・ダーツ!」
「ウィンド・エッジ!!」
普通の攻撃魔法は得意ではないポーリンが、自分が放てる最凶の攻撃魔法であるホット魔法を躊躇いもなく行使。
レーナは、森の中とあって火魔法が使えず、かつ敵の数が多いことから、ポーリンと同じく範囲魔法を選択し、7~8本の投げ矢状の氷が飛び出す攻撃魔法により敵全体の戦闘力低下を狙う。
そしてメーヴィスは、とてもオーガを倒せるような威力ではないが、せっかくだからと、敵中に突っ込む前にウィンド・エッジを放っておいた。
しかし、メーヴィスはすぐに敵に突入することはできない。
そんなことをすれば、ポーリンの魔法の余波をモロに受けて、オーガ達と一緒に悶え苦しむことになってしまう。なので、もう少し待機である。
ポーリンのホット魔法に苦しむオーガ達はこちらに突っ込んでくる余裕はとてもないらしく、時間的余裕は充分にある。
オーガは、レーナのアイシクル・ダーツを複数受けた上にメーヴィスの攻撃を受けた1頭が倒れ、残り3頭は、まだ立ってはいるものの、とてもまともに戦えそうな状態ではなかった。そしてそこに、魔術師組の第2弾が放たれた。
「アイシクル・ジャベリン!」
レーナの単体攻撃魔法。
「ウィンド・ストーム!」
そしてポーリンが、風魔法でホット・トルネードの残滓である赤い空気を吹き飛ばした。
レーナが確実に1頭を仕留めたため、残るオーガは2頭。
そして、声を上げることなく敵に突っ込むメーヴィス。せっかく敵の眼と鼻を潰したというのに、わざわざ声を上げて、攻撃の予告をした上に、こちらの位置を教えてやる必要はない。
そして、範囲攻撃魔法であるため1頭あたりへのダメージは少ないとはいえ、碌に眼も見えず鼻も利かず、負傷した状態のオーガなど、マイル特製の剣と左腕を持つメーヴィスの敵ではなかった。
間違っても敵に後方へ抜けられてレーナ達が危険に陥ることのないよう、オーガとレーナ達との間に位置するよう気を付けて、一気に2頭を斬り捨てるメーヴィス。
……危なげなく殲滅。完璧であった。
3頭のオークを、3人で、4発の攻撃魔法で倒した『ワンダースリー』。
4頭のオーガを、3人で、5発の魔法と剣で倒した、『赤き誓い』。
何となく互角のように思えるが、実際には、オークに較べずっと頑丈なオーガを攻撃魔法で倒すにはかなりの威力が必要であり、もし相手を入れ替えたなら、『ワンダースリー』の攻撃ではオーガを一撃では倒し切れていなかった可能性があった。
しかし、そんな『もし』を理由にしてどうこう言えるようなレーナ達ではない。なので、今のところ、互角。
だが、『赤き誓い』と互角である『ワンダースリー』はいいが、素人だと甘く見ていた『ワンダースリー』と互角である『赤き誓い』は、心中穏やかではなかった。
そして、その後は大した獲物に遭遇することなく、両方のパーティがそれぞれ夕食用の角ウサギを数匹狩っただけであった。
どちらのパーティも、デカいオークやオーガを夕食だけのために捌いて肉を切り取るのは、あまり気が進まなかったらしい……。
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ああ、私の人生のピークが、あと2カ月で終わる……。(^^ゞ