422 合同受注 1
「というわけで、合同で依頼を受けるわよ!」
「何が、『というわけで』ですかっ!」
マイルの突っ込みはスルーして、こくりと頷く6人。
「とりあえず、互いの実力を見ないことには、話ができませんからね。こちらとしましても、異議はありませんわ」
マルセラの言葉に、こくこくと頷くモニカとオリアーナ。
こうして、『赤き誓い』と『ワンダースリー』の、合同受注が決定したのであった……。
* *
「じゃ、行きますか……」
「「「「「「おお!!」」」」」」
翌朝、朝食を終えて少し休憩したあと、7人揃って出掛ける『赤き誓い』と『ワンダースリー』の、臨時合同チーム。
食後すぐに激しい運動をするのは良くないので、少し休み、それからゆっくり歩いて行けば、狩り場に着いた頃には丁度いい状態、というわけである。
普段であれば、早くギルド支部へ行かないとめぼしい依頼がなくなるとか、依頼の物色の間に時間が経つとかで、朝食を摂ったあとはすぐに出掛けるのであるが、今日はその必要はない。
今回の目的から、特定の依頼を受けるのではなく、フリープレイ、つまり依頼を受けるための事前手続きの必要がない、常時依頼や素材採取等を行き当たりばったりでこなす予定なのである。
行き先は、Cランクの下位から中堅あたりのパーティが狩り場としている森であった。
そこは、オーガが出るため、Dランク上位に毛の生えた程度の実力しかないCランク下位のパーティにはお勧めできない狩り場である。
たとえオーガを倒すことができても、パーティメンバーがひとりでも大怪我をすれば、アウトである。
重傷者を担いで戻るとなれば、獲物を運ぶ余裕など殆どなくなる。そして、治療費、完治までの活動の休止、その他諸々……。
それでも、完治すれば、まだマシである。
後遺症や部位欠損による、引退。死亡。
そんな危険を冒すようなパーティは、最初の1~2カ月で姿を見なくなる。
なので、ハンターが受ける討伐依頼は、95パーセントの確率で全員が無傷、4.99パーセントの確率で、軽傷者がひとりかふたり出る程度。そういう依頼だけである。
いくら実力があろうと、そしていくら簡単そうな依頼であろうと、物事、『100パーセント』とか、『絶対』とかいうようなことはない。残り0.01パーセントは、そういう、『不幸な出来事』の分であり、それをいかに減らすかが、パーティリーダーの手腕であり、危機に陥った時に発揮されるパーティの本当の力というものであった。
但し、護衛依頼に関しては、襲われる確率や襲ってくる敵の強さが千差万別であるため、襲われなければ勿論全員が無傷であるが、襲われ、戦いになった場合は負傷や死亡の確率が跳ね上がる。
なので、勝負にならないと思った時は、最初から降伏する場合が結構多かった。
とにかく、7人揃っての、常時依頼への出撃である。
(7人の淑女が、常時依頼の準備完了。レディジョージィ?)
そして相変わらず、わけの分からないことを考えているマイルであった……。
「いい? 一応はみんなで合同パーティのように行動するけど、思わぬ敵が現れて危険に陥ったりしない限り、それぞれ別のグループとして戦うわよ。互いのことをよく知らないのに共闘するのは危険だからね」
皆、レーナの言葉に頷く。擦り合わせもしていない者同士がいきなり共闘したりすると、前衛の攻撃パターンが読めず、魔術師が味方撃ちしてしまう確率が跳ね上がるのである。あの、『女神のしもべ』のような妙技は、メンバーが入れ替わることなく長年の訓練と実戦を続けた賜物であり、そうそう簡単に真似できるようなものではない。
「そしてマイルは、私達の誰かが要請しない限り、一切の手出しもアドバイスもしないこと! でないと、力比べの意味がないからね!」
「は、はい、分かりました……」
最初は、置いていかれそうになったのである。頼み込んで、何とか連れていってもらえるようになったマイルには、拒否権などなかった。
「では、今、この瞬間から、2泊3日、『赤き誓い』と『ワンダースリー』による常時依頼及び採取の合同受注による行動を開始します!」
一応、改まった顔でそう宣言するレーナ。
『開始するわよ』ではなく、『開始します』と、きちんとした言い方をするあたり、レーナの本気というか真面目さというか、とにかく、真剣さが表れていた。
そしてレーナの言葉に、こくりと頷く5人。
……マイルは、対象外であるので、頷かずに傍観しているだけである。
そして、宿から出て、狩り場の森へと向かう7人。
(…………)
マイルは、最後尾について歩きながら、気になることがあるためそわそわしていた。
しかし、レーナから『緊急時と要請があった時以外、任務行動に関する一切の手出しやアドバイスは禁止! それらに全く関係ない話や、休憩時の普通の会話は許可する』と言われているため、それを口にするわけにはいかなかった。本当は自分達だけで行くつもりであったレーナに、何とか連れていって貰えるよう頼み込んだ時に出された条件なので、それは仕方なかった。
なので、最後尾から、前方の『ワンダースリー』と『赤き誓い』を黙って眺めるマイル。
自分達の荷物を背負い、腰に水筒を提げた『ワンダースリー』と、剣や杖以外は何も持っていない『赤き誓い』の姿を……。
* *
「じゃあ、そろそろ昼食にしましょうか。その後、狩りを始めるわよ。採取は、売り値が高めの薬草や高級食材の群生地を見つけた時以外は、スルーでいいわよね?」
「ええ、それでよろしいですわ」
狩り場の森に着いて、ある程度奥へと進んだところでレーナがそう提案し、了承するマルセラ。
まだ昼1の鐘にはやや早いが、狩りを始めてすぐに昼食、というのも効率が悪いので、その方が良いのであろう。
そして、背負った荷物を降ろし、中から保存食を取り出すマルセラ達。
保存食ではあるが、魔法で簡単にお湯や火が出せるマルセラ達は、温かいスープの準備や加熱調理が簡単にできるため、他のパーティに較べ、野外での食事は遥かにマシなものが用意できる。
3人も魔術師が揃っており、しかも魔法効率が良いために、あまり魔力を節約する必要がないのである。これが、普通の魔術師をひとりだけ擁したパーティだと、そんな贅沢のために、これから戦闘を控えているという時に貴重な魔力を浪費したりすることが許されるわけがない。
そして……。
「じゃ、うちも……。今日は、何にしようかしら? マイル、今日のお勧めは何?」
いくらお湯を使ったり加熱調理できるとはいえ、マイルが暇なときに時間をかけて作った料理の数々とは較べようもない。ふふん、といった顔でマイルにそう言ったレーナであるが……。
「ありません」
「え?」
マイルの返事に、何を言われたのかが一瞬分からず、呆けた顔のレーナ。
「いえ、ですから、私は『任務行動に関する一切の手出しやアドバイスは禁止』ですよね? それは勿論、2泊3日の任務行動において大きな要因である、食事についても……」
「「あ!」」
マイルの言葉の意味を理解し、愕然とするメーヴィスとポーリン。
レーナは、完全に固まっている。
そして、メーヴィスが蒼い顔をして呟いた。
「も、もしかして、野営の準備とかも……」
こくり。
「「「…………」」」
武器と防具以外は、完全に手ぶらである『赤き誓い』の3人。
今までの旅では宿屋を利用していたとはいえ、万一に備え、最低限の装備は持ち歩いている『ワンダースリー』の3人。
「あら、どうかなさいましたの?」
そう言って、にっこりと微笑むマルセラと、モニカ、オリアーナ。
最初は、マイルを連れていくつもりがなかったくせに。
マイルに依存し過ぎることを警戒し、マイル抜きでの依頼を試したことがあったくせに。
駄目であった。
……駄目駄目であった。
普通であれば、困った者がいたならば自分達の食料を分け与えるであろう、『ワンダースリー』。
しかし、今は『普通』ではなかった。
互いの優劣を競い合う場で、それも、決して負けるわけにはいかない場で、わざわざ相手を助けたりはしない。助けるのは、勝負が決まった後である。
「「「………………」」」
『赤き誓い』、幸先の悪いスタートであった……。
いよいよ、『のうきん』アニメ第3話放映開始!
終わったところも、今、放映中のところも、まだのところも、みんな、よろしくね!!(^^)/
そして今週の木曜日は、webラジオ、「私たち、ラジオは平均値でって言ったよね!」の第2回が!
『赤き誓い』の4人の声優さん達が繰り広げる、ハチャハチャ放送を、是非!(^^)/