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420 争奪戦 4

「な、ななな、何を言ってるんですかああああぁ~~っっ!!」

 マイル、激おこである。

 自分を取り合っていたふたりの男が、意気投合して、自分を置いてふたり仲良く去っていった。

 そんな場面を幻視して、混乱するマイル。

 せっかく得た、初めての親友達と、信頼できる仲間達。

 その両方に、同時に置き去りにされては堪らない。もう、殆ど涙目であった。


 レーナとマルセラは、たまたま偶然、同時に冗談半分でおかしなことを口にしてしまっただけであったが……。

((あれ? もしかして、本当にそれもアリなのでは……))

 おかしな方向で、互いの気が合っていた。

 勿論、マイルを捨てて、などということではない。

 マイル抜きで合同での依頼を受け、互いの力量、そしてマイル(アデル)にとってどちらがよりふさわしいかを相手に見せつける、という意味において……。

 そして、ふたり、こくりと頷き合い……。

「「では、そういうことで!」」

「ぎゃああああああぁ~~っっ!!」

 そして、錯乱し、泣き喚くマイルであった……。


     *     *


「……何だ、そういうことだったのですか……」

 レーナとマルセラから事情を聞き、ようやく落ち着いたマイル。

「でも、私、どちらが強いかで決めたりは……」

 少し言いにくそうにそう言ったマイルに、マルセラは微笑んだ。

「それくらい、分かっていますわよ。アデルさんは、そういう方だってことくらい……」

「も、勿論、それくらい、当たり前よ!」

 マルセラの言葉に柔らかく微笑んだマイルの様子に危機感を覚えたのか、慌ててそう言うレーナ。

 どうも、マイルのことを一番理解してくれているのは、やはり『ワンダースリー』のようである。

『ワンダースリー』との付き合いは、1年2カ月。寮の部屋は、それぞれ個室なので、別室。

『赤き誓い』との付き合いは、ハンター養成学校を含め、2年。養成学校の寮でも、宿屋でも、常に同室。

 ……しかし、なぜかマルセラ達の方が、マイルと距離が近いような気がするレーナ達。

 だが、そこで……。


「あの、マルセラさん、私のことは、『アデル』ではなく、『マイル』と……」

「「「え……」」」

 マイルの言葉に、激しく動揺するマルセラ達。

 そう、マルセラ達にとって、あくまでも、アデルは『アデル』なのである。

 今、名乗っている偽名ではなく、自分達が知っており、そして呼び慣れている、本当の名前。

 その名で呼ぶことにより、昔からの絆を、そしてレーナ達との違いを見せつけるという意味もあった。なのに、その名、『アデル』という名を呼ぶことを拒否された。

 ……それは、ショックであろう……。

「私、その名は捨てて、今は『マイル』と名乗っています。なので、『アデル』という名は、私達4人だけで、他の人がいない時にだけ……」

「「「あ……」」」


 そう、アデル、いや、マイルは現在、母国から逃げ出している状態なのである。

 命を狙う可能性があった父親と義母は処刑されて既に亡く、身の危険という意味ではもう逃げる必要はないのであるが、今度は、国王達に目を付けられたり、アスカム子爵としての義務……それも、領主としての領民に対するものだけではなく、貴族としての国への、そして王家への義務……を強要されそうな気がして、国へ戻ることなく、気ままなハンター生活を続けているマイル。そのマイルの本名を、人前で、大声で連呼されては堪らない。


 まぁ、実際には、自国の貴族家の不祥事を他国に喧伝けんでんするはずもなく、そして他国で兵士や間諜をアデル捜索のために大っぴらに活動させるわけにもいかず、『女神が宿りし貴族の少女』に国から逃げられる羽目になったことも、その存在をも他国に知られるわけにはいかないため、あまり大っぴらに国外に情報が流れているとは思えない。

 ……勿論、大通りでやらかしているから、一部の不確かな情報は漏れているかもしれないが、それだけでは、『アデル』という名の貴族の娘とは繋がらない。学園では、アデルは平民という触れ込みであったし……。

 ともかく、他国において多少『アデル』という名を聞かれたとしても、大したことにはならないであろうと思われた。

 そもそも、もし隣国の貴族家の不祥事が多少は漏れ聞こえてきたとしても、それは『アスカム子爵家』という名と、父親の名が伝わるくらいであり、娘の名などは噂話の伝達の途中で削り落とされるであろう。


 また、ハンター支部においても、過去を捨てたハンターが新たな名でハンター登録することなど珍しくもない。

 そして、それはその者の『新たな名』であり、決して『偽名』ではない。

 そう、マイルが他の名で呼ばれたとしても、誰もそれを気にする者などいなかった。

 下手にハンターの過去を詮索しようなどと考えた者は、その翌日にドブに落ちた死体が見つかったとしても、誰も驚かない。

 それは、盗賊が、襲った商隊に返り討ちに遭ったのと同じであり、それを犯罪としてとがめる者などいないのである。……たとえ警吏であっても。

 それがハンター達の暗黙の了解、常識であり、ハンターではない者達も、そのルールは皆知っており、それを尊重している。命に関わることなので、そのことは幼い子供達にも教えられており、浮浪児達にとってさえ常識となっているのである。


 しかし、物事には『万一』ということがあるし、『うっかり』とか、『不幸な偶然』とかいうこともある。この街からマイルの母国へと向かう商隊もあるし、その護衛につくハンター達もいる。不要な危険を冒すべきではないのは、当たり前であろう。

 それに思い至らず、今まで他の者の前で何度も『アデル』と呼んでしまったことを後悔し、そしてそれ以上に、もう人前で『アデル』という名で親友を呼べなくなったことに落ち込み、どんよりとした顔で俯くマルセラ達。

 あまりにも酷いその落胆振りに、さすがのレーナも揶揄やゆの言葉を控えたくらいであった。


 自分達だけの時には、昔と同じ、『アデル』という名で呼べる。

 そうは言っても、マルセラ達のショックは大きかった。

 自分の飼い猫だと思っていたのに、実は本当の飼い主は別にいて、自分の家はただ『飼い主がいない時や暇で退屈している時のための、別宅』だったと知った時の……、いやいや、マイルは別にマルセラ達の飼い猫というわけではないが……。


 黙り込んでしまったマルセラ達を見て、空気が読める心遣いの人メーヴィスが、慌てて話題を変えた。

「み、皆さん、夕食前にお風呂に入られては……。この宿、このレベルの宿屋としては珍しく、お風呂があるんですよ!」

「「「…………」」」

 無言で、こくりと頷くマルセラ達、3人。

 お風呂の存在は嬉しいが、大喜びするような精神状態ではないのであろう。

「マイル、案内してあげなさい!」

 レーナも、どうやら鬼ではなかったらしい。気落ちしたマルセラ達に気遣って、マイルに一緒に行くよう促した。

「あ、は、はい!」

 そして、マイルと一緒にお風呂へと向かう『ワンダースリー』一行。


「……でも、マイルは渡さないわよ……」

 マイル達が去ってから、ポツリとそう言うレーナ。

「いや、それを決めるのは、私達じゃないよ」

 先程は、つい動転して勝手なことを言ってしまったが、頭を冷やして落ち着けば、至極尤もなことを言うメーヴィス。さすが、常識人であり、『赤き誓い』の良心である。

「「…………」」

 そして、それを聞いて、不満そうな顔のレーナとポーリン。

 ふたりも、分かってはいる。しかし、Aランクを目指しているレーナも、お金を貯めることを目指しているポーリンも、マイルを手放したくはなかった。

 勿論、自分達が得られるメリットとしての打算だけではなく、今まで2年間、共に学び、共に戦い、共に助け合ってきた仲間としても……。


 マイルにとって、レーナ達3人は、マルセラ達に続き2番目にできた大切な『お友達』であるが、それを言うならば、物心ついた頃には既に父親とふたりで行商の旅をしていたレーナにとっても、貴族のお嬢様として家族に守られて大切に育てられていたメーヴィスにとっても、そして中規模商家のお嬢様として育てられていたポーリンにとっても、皆、本当に腹を割って話せる『気の置けない友』、『親友』、そして『仲間』というものを得たのは、今回が初めてかもしれなかった。

 ハンター養成学校での、半年間の寮生活。そしてそれに続く、宿屋や野営での1年半。

 常に寝食を共にし、助け、助けられた2年間。

 マイルがマルセラ達ともレーナ達とも別れたくないのと同じく、レーナ達もまた、マイルと離れたくはなかった。

 そしてそれは、期間が1年2カ月と『赤き誓い』よりは短いものの、マルセラ達にとっても同様であった。


 自分達の望み。

 マルセラ達、『ワンダースリー』の望み。

 そして、マイルの望み。

 それぞれが望むことと、それぞれの『本当の幸せ』に至る道が同じとは限らない。

 望む道を進んだ結果としての、不幸。

 意に沿わぬ道を進んだ結果としての、思わぬ僥倖と、本当の幸せ。


 誰も、他人の人生に口出ししたり、強制したりはできない。

 そう、誰も、その責任を取ることなどできはしないのだから。

 だが、自分が望む道、進もうとする道が、他者の道によって塞がれていたならば。

 ……その時には、自分の道を通すために、他者の道をぶった切ってもいいのではないか?

 法律が許す範囲内において……。



次話、お風呂回。(^^)/


台風前日の11日、秋葉原へ行ってきました。

……遊びや買い物ではなく、お仕事。(^^)/

書泉ブックタワーで、マイルの等身大看板(ポップ?)にサインするため。

フェア終了後は、読者にプレゼントされるとか。

等身大フィギュアとかだと160万くらいするのに、何と、ただで貰える!

一家にひとつ、便利なマイルを!

早めに応募だだだ!!(^^)/


そして、「せっかくだから、俺はこの赤い本にサインするぜ!」ということで、ちょっとサインしてきました。

……130冊。〇| ̄|_

1巻から12巻まで、満遍なく……。

12巻だけ、20冊。(^^)/

サイン本が店頭に並ぶのは、14日(月)からです。

つまり、もう1日過ぎている……。(^^ゞ

いつ頃までサイン本が残っているかは分からないけれど、もし、よろしければ……。(^^)/


そして、今夜は『のうきん』アニメ、第2話放映だだだ!(^^)/

1話には尺が足りなくて泣く泣く外したオープニングが、やっと観られる!

画面を観ながら、みんなで踊ろう、わっほーわっはー!!(^^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] >置き去りにされては堪らない。もう、殆ど涙目であった。 ポ-リン{あの時のlわたしの気持ちわかりました?」
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