419 争奪戦 3
マイルは、マルセラ達『ワンダースリー』と一緒にハンターとして活動することなど、考えてもいなかった。
彼女達は皆、家族がおり、ちゃんとした生活基盤がある。そう、危険な底辺職であるハンター稼業などとは縁のない少女達なのだから……。
なので、『戦闘に従事して、目立つところで魔法を使いまくるようなことはあるまい』と思い、『魔法の真髄』として、様々なことを教えたのである。つまらないことで命を失って欲しくなかったから……。
元々魔法の才能があまりなく、お嬢様として生きていくであろうマルセラ達であれば、口外禁止、とさえ言っておけば、教えたことが他の人々に拡散したり、大きな影響を及ぼすというような心配はない。マルセラ達は、友達と交わした約束を破るような者達ではないのだから。
……そう思ったからこそ教えた、『魔法の真髄』なのである。
それに対して、レーナ達は、仲間であり信頼してはいるものの、元々優れた資質を持つ者達であり、常に戦いの場に身を置く者達である。そんな者達に『魔法の真髄』を教えたりすれば、すぐにそれらを研究し、応用を始めるに決まっている。
また、自分だけでなく、現在の、そして未来の仲間達を守るためにそれを活用し、知識と技術が拡散するだろう。
だからこそ、『ワンダースリー』に教えた基本的なことを『赤き誓い』の3人には教えず、基礎にも応用にも繋がらない、わざと大切な部分を省略して『その魔法の、その部分にしか使えないような、歪な教え方』による伝授に留めたのである。
……それにも拘らず、皆、それぞれ自分で色々と研究し、ある程度の応用を始めており、少し焦り始めているマイルであるが……。
「……私、あの、マルセラさん達と一緒にハンターをやることは、考えていませんでした……」
マイルの言葉に、ほら見ろ、というような、得意そうな顔のレーナ達と、それとは対照的に、愕然とした表情のマルセラ達。
「レーナさん達とは、ハンター養成学校で出会いました。つまりそれは、私とは全く関係なく、元々ハンターとして名を上げることを目指していた皆さんだということです。
でも、マルセラさん達は、ハンターになるつもりなんか、これっぽっちもありませんでしたよね?
貴族の娘であるマルセラさんも、商家の娘であるモニカさんも、村の英才として将来を嘱望されているオリアーナさんも……。
なのに、私のせいで皆さんの人生をねじ曲げて、危険に晒すなんて、……そんなこと、できるわけがないですよっ!!」
そう言って、視線を下げ、申し訳無さそうな顔をするマイル。
「「「…………」」」
マイルにそう言われては、反論することができない、マルセラ達。
自分達でも、分かってはいるのである。
元々自分達は荒事、つまり魔物との戦いや護衛任務での対人戦闘とかが得意なわけでも、それらを積極的にやりたいというわけでもないということは……。
ただ単に、アデルから教わった『魔法の真髄』のおかげでそれらをそつなくこなすことができるのと、……『アデルと行動を共にするために』という理由だけで、その途を選んだというだけなのである。別に、ハンターとして身を立てるとか、高ランクを目指しているとかいうわけではない。
「だから、マルセラさん達は、無理して今からハンターになろうなどとは考えずに……」
「え? いえ、私達はハンターになってから既に2年近く経っておりますし、今は全員がCランクですわよ?」
「……え?」
「「「「えええええええ~~っっ!!」」」」
驚愕の叫びを上げる、『赤き誓い』の4人。
それはそうである。養成学校もない国で、学園を卒業したばかりの13歳の少女達がCランク、それも3人揃ってなど、そうそうあるものではない。それも、今の恰好はともかく、卒業までハンターなどとは縁がなさそうだった、3人が……。
しかも、2年前といえば、マイルがハンター登録した頃と殆ど変わらないし、下手をすると、養成学校に入学してからFランクとして登録したメーヴィスやポーリンより先輩である。……さすがに、Cランクになったのは、『赤き誓い』の方がずっと早いが……。
「……この前にお会いしました時に、言っていませんでしたっけ? ハンターとして活動しているということを……」
「「「「聞いてないよっっ!!」」」」
まぁ、それは、先程マイルが言った『マルセラ達とは一緒に行けない』という理由とは関係ない。DランクであろうがCランクであろうが、状況が変わるわけではないのである。
「ま、まぁ、それはともかくとして、皆さんは国元へ帰り、安全で幸せな人生を……」
「ただの駒として、すぐに政略結婚させられて、籠の鳥ですわよっっ! そりゃ、安全は安全かもしれませんけど、私の望み、私の『幸せ』とは、別問題ですわよ!」
「同じく!」
「奨学金返済免除のために、仕事先に縛られて、飼い殺しですよ!」
あの、細い眼のオリアーナまでもが、眼をカッと見開いての怒鳴り声。
決して不幸な未来ではないはずであったが、一度手にしかけた『メチャクチャ楽しそうな数年間。そしてそのあとでも、結婚先には困らない!』という夢を簡単に諦めるには、13歳という年齢は若すぎた……。
『赤き誓い』と『ワンダースリー』で一緒にパーティを、という提案は、誰からも出なかった。
それも、無理はない。
剣士、ひとり。魔法剣士、ひとり。魔術師、5人。
……バランスが悪いにも、程がある。
貴族、3人。商人の娘、3人。平民、ひとり。
偏りが酷いのにも、程がある。
リーダー的な者、ふたり(メーヴィスを除く)。腹黒そうな者、ふたり。お金に汚そうなの、ふたり。お人好し、ふたり。(重複あり)
役割重複にも、程がある。
「「「…………」」」
レーナ達は、自覚していた。
今の自分達は、マイルに依存し過ぎている。
戦闘力としては、それぞれ、それなりの自負はある。
しかし……。
収益力と、ハンターとして活動するに際しての生活面においては。
……そう、マイルの『特製の収納魔法』は、便利過ぎた。あまりにも、便利過ぎた……。
「「「…………」」」
マルセラ達は、察していた。
今の自分達は、アデルには必要ないのではないかと。
いくら学園時代は仲良しだったとはいえ、あれからもう2年。
アデルは新たな仲間を得て、新たな生活、そして新たな居場所を得ている。
そこに、今更自分達がのこのこと現れて、無理に割り込み、仲間達との仲を裂こうとしている。
既に自分達より長い付き合いとなっている、新たな仲間達との仲を……。
しかし、『ワンダースリー』にとっては、アデル抜きなど、ハンターを続ける意味すらなかった。
国を飛び出し、理由をこじつけての旅など、アデルが一緒だと思えばこその無茶である。
……最低だ。
共に、そう思った『赤き誓い』と『ワンダースリー』の6人。
しかしどちらも、マイルを、アデルを抜きにして、3人だけでハンターとしてやっていける自信はない。
だが、自分達だけでやっていけないような者が、マイルに、アデルに頼ってハンター生活を続けるなど、恥ずべきことである。
ならば、どうすれば……。
マイルに、アデルに頼らずともやっていけるということを証明し、胸を張って一緒にハンター生活を続けられるようになるためには……。
レーナとマルセラが顔を見合わせ、そして同時に叫んだ。
「「マイル(アデルさん)抜きで、私達6人がパーティを組めば……」」
「どうして、そうなるのですかああああぁ~~っっ!!」
マイルの怒鳴り声が、宿中に響き渡ったのであった……。
……それは、本末転倒である。
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