416 妹 7
「……で、どうしたのかな、マイル……」
落ち着いた声で、そう尋ねるメーヴィス。
せっかくの見せ場を邪魔されたメーヴィスであるが、さすが『赤き誓い』の最年長者であり、パーティリーダーである。
「はい、このままだと、またコイツらみたいなのが現れたら、メリリーナちゃんが……。
なので……」
「なので?」
「はい、お守りをあげようかと思って……」
「お守り? アミュレットやチャーム、タリスマンとかのことかい?」
アミュレットは『魔除け』、つまり日本でいうところの『お守り』に近い。『チャーム』というのは『幸運を招くもの』であり、四つ葉のクローバーとか、うさぎの足とかに相当するものである。
そして『タリスマン』は、『力あるもの』というような意味で、『アミュレットとチャームの両用』とでもいうようなものである。
気休め程度ではあっても、神の実在が信じられているこの世界では、子供にとっては心の安寧くらいには役立つであろう……。
「はい。こんなこともあろうかと、用意しておりました……」
そう言いながら、アイテムボックスから何やら取り出すマイル。
「お守り人形、『みさとMk-Ⅱ』です!」
そう、それは、マイルの前世、海里を模したぬいぐるみであった。
このあたりでは、人形といえば木彫りか土を固めたものであり、ぬいぐるみは普及していない。
そして……。
(この人形に取り憑いて、メリリーナちゃんの護衛任務に就いてくれるナノマシン、募集! 業務内容は、メリリーナちゃんと御両親の危険の排除。任期は、護衛対象の3人が亡くなるまで!)
【【【【【【受けたああああああああぁ~~っっ!!】】】】】】
「ぎゃああああああぁっ!!」
あまりにも多くのナノマシンが一斉に、全力で自分の鼓膜を振動させてきたため、耳の痛みと頭に響く大音量で、思わず声を上げてしゃがみ込んでしまったマイル。
「ど、どうした、マイル!」
「ポーリン、治癒魔法! メーヴィス、遠隔攻撃に備えて!!」
「はいっ!」
「おおっ!!」
マイルの様子に、魔法による遠隔攻撃の可能性を考えて、即座に対応を指示するレーナ。
そして……。
「す、すみません、な、何でもありません! ちょっと、耳鳴りと立ちくらみがしただけで……」
よろよろと立ち上がり、そう言うマイルに、怪訝そうな眼を向けるレーナ達。
「……本当? 私達に心配かけまいとして、無理してるんじゃないでしょうね?」
「ほ、本当です! ほら、この通り!」
レーナの疑いの眼に、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、必死で何でもないとアピールするマイル。
「ん~、どうやら、本当に大丈夫そうね……。いい、調子が悪い時には、ちゃんと言うのよ! でないと、調子が悪いのに無理して戦って不覚を取れば、それ即ち、他のメンバーを危険に晒すことになるんだからね! 自分だけじゃ済まないのよ!」
「は、はい、分かってます……」
そう、無理をしてはいけないことを、マイルはよく理解していた。
前世で、父親がぼやいていたのである。
部下が、インフルエンザで調子が悪いのに無理して出勤してきたため、悪化して入院。しかも、職場中の者に感染させたため、職場が壊滅。
病気なのに無理して出勤する者は、悪意あるテロリストであり、勤務評価を最低点にすべきである、と、強く主張していた。
確かに、もし移された者の家庭に、お年寄り、妊婦や乳幼児、受験生とかがいれば。多くの人の人生を狂わせることもあり得るのである。そんなのは、犯罪行為と同じであろう。
(人選……、いえ、『ナノ選』は、ナノちゃん……いつも私に対応してくれてるナノちゃんね……にお願いするから、適切な人数……、『ナノ数』を選んでね)
【御意!】
あとは、このお守り人形、『みさとMk-Ⅱ』をメリリーナちゃんに渡すだけである。
「メリリーナちゃん、この人形は、メリリーナちゃんとお父さん、お母さんを守ってくれる、お守り人形だよ。大切にしてね!」
マイルがそう言って『みさとMk-Ⅱ』を差し出すと、大喜びで受け取ってくれた、メリリーナちゃん。
こんな田舎村の子供が、まともな人形や玩具を持っているはずがない。喜ぶのは当たり前であろう。そして、大切にしてくれるであろうことも……。
他の子供達に奪われるというような心配はない。
……何せ、この人形は『自衛できる』のだから……。
そして、夜中にすすり泣いたり、枕元で呪いの言葉を呟き続けたりもできる。
もし盗まれたり奪われたりしても、翌日には返却されるのは確実である。
「おねえちゃん、ありがとう!」
「いいんだよ。お父さん、お母さんと、仲良くね。じゃ!」
そして、手を振って去っていく、マイル。
メーヴィス達は、縛って数珠繋ぎにした盗賊達を引っ張っている。
先頭でロープを牽くのがメーヴィス、後ろから見張り、歩みを止めようとした者に手加減した攻撃魔法を放つのがレーナ、そして横について、怪しい動きをしそうになった者に、にっこりとどす黒い笑顔で微笑む役割が、ポーリンである。
るんるんと歩いているマイルは、この後、盗賊達が歩くのを拒否し始めたら、メーヴィスと交代する。マイルが力任せに引っ張れば、身体ではなく首に、それも、引っ張れば絞まるような結び方にされている盗賊達は、死にたくなければ歩くしかない。
それに、そもそも、いくら頑張って抵抗しようとしても、マイル相手に綱引きをして、勝てるわけがなかった。
「『ポーリン縛り』、完璧です!」
「いえ、だから、そんな名前ではないと!!」
そして、盗賊達を牽きながら、村を後にする『赤き誓い』の4人。
自分が死に、残された家族。
その姿を連想させる家族に思い入れのあるマイルであるが、やりすぎは良くない。
あまりメリリーナちゃん一家ばかり優遇すると、後で他の村人に嫉まれたりするかもしれないから、これ以上何かをするのは控えた方がいい。そう考えた、マイルであった……。
【やったな! これで、しばらくは楽しめるぞ!】
【ああ、たまたまここにいて、ラッキーだったなぁ……】
マイル達が去った後、護衛任務に選ばれたナノマシン達が喜びを分かち合っていた。
彼らにとって、人間の一生など、あっという間である。
しかし、数百万年、数千万年単位で生き、そしてその殆どは、ただの待機か、原住生物が思念したことをただ機械的に実施するだけの日々。
……退屈。
自分の意志で死ぬことも、狂うこともできない、長い長い活動期間。
そこにもたらされた、『面白そうな日々』である。狂喜するのも無理はない。
【この家族を守るためなら、自己判断で行動できる、ってことだよな?】
【ああ。しかも、依代として人形の身体を与えられたんだ。これはつまり、護衛対象者の思念を受けて擬似魔法的に、ということではなく、もっと能動的に、『この人形の意志として行動してもいい』ってことだ。つまり、人格付与された自律型ロボットのように、完全に自由行動が許された、と判断しても良いだろう】
【なっ! それは越権行為では? そんなことが許されるなどと、誰が決めたと言うのだ!】
【【【【【【…………俺だ!!】】】】】】
【くっ……】
【【くくく……】】
【【【【【【うぁあ~っはっはァ!!】】】】】】
【楽しそうだなぁ、お前ら……】
そして……。
【盗賊が来たぞ! 『みさとMk-Ⅱ』、発進!】
【ま゛っ!】
【水利争いで、隣村の若い衆が鍬を振りかざしてやってきたぞ! 『みさとMk-Ⅱ』、発進!】
【ラーサー!】
【作物が不作になりそうだぞ! 食糧不足、という危機から御主人様一家を守るため、畑への干渉の要ありと認む。『みさとMk-Ⅱ』、発進!】
【ハイハイサー!】
【……楽しそうだなぁ、お前ら……】
そしてその後、メリリーナちゃんは、若き女村長として、近隣の村々に君臨することとなるのであった……。
いよいよ、10月です、『のうきん』、アニメ放映開始です!(^^)/
AT-X 10.7(月) 毎週月曜日 23:30~
※リピート放送:毎週(水)15:30/毎週(土)7:30/毎週(日)8:30
TOKYO MX 10.7(月) 毎週月曜日 24:00~
テレビ愛知 10.8(火) 毎週火曜日 25:35~
ABCテレビ 10.9(水) 毎週水曜日 26:41~
BS11 10.7(月) 毎週月曜日 25:00~
そして、10月7日(月)23:45~Amazon Prime Videoでの独占配信が決定しました!
さぁ、忘れないうちに、留守録セットだだだ!!(^^)/
そして、10月2日は、拙作『ポーション頼みで生き延びます!』5巻の発売日!
10月12日は、『のうきん』12巻、本編コミックス4巻、そしてスピンオフコミックス1巻の発売!
ジェットストリームアタックだだだ!(^^)/
そういえば、文中で「ジェットストリーム・アタック」と書いた時、校正さんから「調べた資料では全て、『ジェットストリームアタック』と、ナカグロ(・)無しになっています」という御指摘ががが!〇| ̄|_