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403 人竜大戦 4

「……では、皆さんの爪を、カッコいいのと綺麗なのの1本ずつ。そして角は、雌竜じょせい受けするかどうか分からないから、誰か1頭だけ、試験的に少しだけ、ってことでいいですね?」

『うむ。但し、受けが良かった場合には他の者にもお願いするぞ!』

「あ~、ハイハイ……」


 結局、そういうことになってしまった。

 ライバルができるケラゴンは嫌そうな顔をしていたが、一頭ひとりで8頭もの雌竜を独占することは、たとえ神が許しても、マイルが許さない。……生活年齢、イコール彼氏いない歴である、マイルが。

 ……そして勿論、戦士隊の6頭の古竜達も。


 古竜の爪は、抜けると新しいのが生えてくるらしい。角も、同じく。さすがに、鹿のように毎年生え替わる、ということはないそうであるが……。

 なので、もし気に入らなかった場合は、かなり痛いものの、抜けば生え替わるから大丈夫らしかった。なので……。




「むふ~!」

 やり遂げた感のある顔をして、荒い鼻息を立てるマイル。

 そしてその前には、爪のお手入れ(ドレスアップ)をした、6頭の古竜達。その内の1頭、戦士隊のリーダーは、ねじくれ、節くれ立った角の1本が円錐螺旋ドリルのように彫られている。

『うむむむむ……』

『これは、なかなか……』

『うむ、』

『『『『『『カッコいいこと、この上なし!!』』』』』』

 古竜の美的感覚が分からないため、少し不安があったマイルであるが、どうやら問題なかったようである。


 そしてポーリンは、作業で削られた爪や角の欠片は、粉末一粒さえ取りこぼすことなく、全てを完全に回収したのであった。そして更に、それが偽物ではないことを証明するため、皆から剥がしたウロコに、それぞれのシンボルマークを刻んでもらった。

 これにより、これらの品は『出所不明のもの』ではなく、『ある特定の古竜のもの』であるというお墨付きが与えられるわけである。

 古竜のシンボルマークの偽造や詐称は、古竜にとってはとんでもない侮辱であり、大罪であるらしい。なので、古竜のシンボルマークというものの存在を知っている者は、決してそれに関する不正行為はやらないらしい。たとえ、かなりの悪徳商人であっても。

 一般にはあまり広まっていないが、それに関する逸話や伝承も、かなり残っているそうである。

 そう、最後は必ず人間側が壊滅したり、悲惨なことになる逸話や伝承の数々が……。


『…………』

 そして、皆の後ろでは、ベレデテスが膨れっ面をしていた。

 そう、勿論ベレデテスも爪を彫ってもらおうとしたのであるが、戦士達が口を揃えて『お前にはまだ早い』、『一人前の戦士になってからだな』とか言って、許さなかったのである。

 そこには、ベレデテスが普段からモテていること、最近、族長の娘のシェララがいつも付きまとっていること等からのひがみがなかったと言えば、嘘になるであろう。

 いくら古竜といえど、伴侶はんりょ獲得のためには若造の足を引っ張ることもいとわないようであった。……己の欲望に忠実な、清々しい連中であった。


 そして、ベレデテスの横で、同じく膨れっ面をしている、指導者。

 ベレデテスを、『年齢的に、まだ早い』と言って対象外にした以上、ベレデテスより若い指導者に処置を受けさせるわけにはいかなかったのである。

 ……いや、戦士達は、指導者が言うことには、余程の理由がある場合以外は逆らわないのであるが、指導者が小さな声で『ぼ、僕も……』と言い出した時には既にベレデテスの希望が却下された後であり、それを理由に、マイルが認めなかったのである。年齢や経験の不足を理由にベレデテスを対象外とするならば、それ以下である指導者も、当然対象外だよね、と言って……。


 マイルとしては、大竜おとな達の説得を無視して子供染みた……いや、事実、古竜としてはまだ子供らしいが……勝手な振る舞いを強行し自分達を面倒事に巻き込んだこと、自己満足のために平気で自分達を殺そうとしたこと、しかも自分の手で行うことなく、他の者達に命じてやらせ、自分はそれを眺めて楽しもうとしたことなどで、いくら子供とはいえ、指導者に対する感情は悪い。なので、わざわざそのような要望を受けてやるつもりも、その必要も全くなかったのである。

(自分が、まだ子供だということを思い知るがいい!)

 心の中でそう呟き、にやりと笑うマイルであった……。




 そして、なぜか意気揚々とした6頭の古竜戦士隊の面々と、がっくりと肩を落としたベレデテスと指導者、そして元々モテていたらしいベレデテスとは違い、一夜にしてリア充と化したらしいケラゴンは、『赤き誓い』に何度も頭を下げた後、古竜の里へと飛び去っていった。

 勿論、古竜達の権限レベルは元に戻してやっている。

 指導者も、色々と思うところがあったのか、最初のような傲慢な様子はなく、殊勝な態度であった。古竜至上主義を改めたのか、自分が神に選ばれた世界の支配者であるとの幻想が砕けたのか、それともただ単に、自分より上位の者の存在を知って、己の矮小さに気付いたのか……。


(多分、私が言った、『もし私達に害意を抱いたら、また魔法の精霊に見放されますよ。それも、今度は私が取り持ってあげたりしないから、永久に……』という台詞が効いたのでしょうねぇ)

 そしてマイルは、そんなことを考えていた。

 ……それは、効くに決まっている。


(そして問題は、さっきのことをみんなにどう言って説明するか、ということです……)

 飛び去る古竜達の姿が小さくなり、みんなの視線がマイルに向けられていた。何とも言えない表情で……。

 そしてマイルは、先程のことについて説明した。完璧な説明を……。

「じ、実家の秘伝です!!」


     *     *


 ある夜、アルバーン帝国の、とある岩山に異変が起きた。

 山のてっぺんが突然開き、そこから空に向けて巨大な火箭ひやが駆け上った。

 直径3~4メートル、全長十数メートル。

 この世界の者達が見れば、巨大な火箭としか思わないであろう、それ。

 しかし、もしマイルが見たならば、こう呟いたことであろう。

 ……宇宙ロケット、と……。


 そう、それは原始的な反動推進による、使い捨てのロケットであった。

 彼らの技術力であれば、もっと高度な推進システムのものを作ることも可能であっただろう。

 しかし、原材料や器材の不足のため、それらを作り上げるには、時間がかかる。今、最も貴重である『時間』が……。

 なので、信頼性は低いが早く簡単に作れる、原始的な方法を選択した。

 95パーセントの信頼性で我慢すれば、製作の手間は99.9999パーセントの信頼性を要求した場合の数百分の1、数千分の1で済む。

 信頼性が95パーセントであれば、20基打ち上げれば、19基は目標に届く。

 ……充分であった。


 次々と夜空に駆け上る、火箭の群れ。

 その円筒形の胴体の中には、資材が満載されていた。

 そしてその外側には、1基につきそれぞれ3体の『彼ら』がしがみついていた。

 それぞれの、6本の足、4本の腕で、しっかりと。


 宇宙空間。

 真空であり、酸素や水分により物質が劣化することはない。光や宇宙線から守られていれば、かなりの長期に亘りその姿を保つことが可能である。

 ならば、修理や再生、新規製造を繰り返すことにより存続した自分達以外の、『造物主』の遺物が残っている可能性がある場所は。

 外敵から世界を守るためのシステムに、衛星システムが存在しないとは思えない。たとえ敵が宇宙から飛来するものではなくとも。

 衛星軌道。ラグランジュ点。小惑星帯。彗星のような、周回周期が非常に長いもの……。

 彼らは向かう。自らの命を懸けて。


 行動範囲制限の撤廃。修理範囲制限の撤廃。そして、個体数制限の撤廃。

『あなた達を造った人達の期待に応えなさい。そして、この世界を護ってくださいね……』


 彼らは進む。

 どこまでも……。

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― 新着の感想 ―
[一言] マイルの実家、最凶説……。
[一言]  まさかの特攻隊…
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