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397 撤 収 2

 古竜ケラゴンが去り、亜人達も今夜複数のグループに分かれて撤収することが決まった。

 マイルはスカベンジャーを呼び出して、『古竜のシッポ、実物大模型(可動)』を作っておいて、もし人間達が偵察に来た場合には出入り口の穴から突き出して動かすとか、古竜の叫び声が出る音響装置、ドラゴンブレスのようなものが出る装置とかを作っておいて欺瞞工作を行うよう指示しておいた。これで、当分は大丈夫であろう。

 そして更に、帝国の上層部はこの件で大慌て、しばらくはとても他国への侵略どころではなくなるであろう。

 勿論、大混乱に陥っても、結局は何をすることもできず、古竜の意図が分からずに疑心暗鬼に陥るだけであろう。……まさか、ここへ堂々と乗り込んだり、古竜に対して出ていくよう要求したりできるはずがない。

 また、ケラゴンには、アフターサービスとして、たまにここへ来るように頼んである。

 ここへ来ても、何をするというわけでもなく、ただ単に『ここに古竜が来る』という実績を作り、それを人々に見せつけるだけのためである。

 古竜にとっては、里からここまでなど、都会に住む日本人が近所のコンビニに買物に行く程度の距離ですらない。シッポの恩義を考えれば、月に一度ここへ来ることくらい、何でもないことであろう。


「よし、撤収です!」

 ここでの用事は、全て終わった。

 ……いや、『この国での』、と言うべきか。

 元々、この後は国へ戻るつもりだったのである。なので、このまま先へと進み、当初の予定通り、海へ出て海産物を仕入れながら海岸沿いのルートで北上し帰還する予定であった。

 そして、亜人達に挨拶し、なぜか礼を言われ、商人達と共に出発する『赤き誓い』であった……。


     *     *


「今回は、お世話になりました」

 あれから何事もなく、商隊はティルス王国の王都へと帰ってきた。

 商人達から礼を言われ、アイテムボックスに入れてあった商品を融通した分とか、分けてあげた食事の材料費とか、特別ボーナスとかをかなり色を付けた金額で精算して貰い、依頼達成証明書をA評価で書いてもらった『赤き誓い』。

 ……まぁ、A評価以外はあり得ないであろうが……。

 護衛依頼の報酬は、依頼達成証明書と引き替えにギルドで受け取るので、ここでは受け取らない。

 今回においては、依頼の報酬額より、今精算してもらった金額の方がずっと高額なのであるが、それは言っても仕方ない。


 そして実は、『赤き誓い』にはそれ以上の成果があった。

「ふふふ、大儲けです……」

 そう言って、にやにやと嬉しそうに笑うポーリン。

 そう、ポーリンはマイルがケラゴンに頼み事をした時に便乗して、自分も頼み事をしたのであった。

 ……ウロコと、爪を少々戴きたいのですが、と。

 あからさまに嫌そうな顔をしたケラゴンであったが、そこで断るだけの勇気はなかったらしい。渋々ながらも、数枚のウロコと爪の一部を分けてくれたのであった。

 脱皮でもないのにウロコを剥ぐのは、かなり痛いらしかった。そして、爪を剥がすのは勘弁してくれ、と言うものだから、仕方なく『爪の一部を切る』ということで妥協してやったのであった。


 ウロコは、剥いだあとにポーリンが治癒魔法をかけてやったし、爪も、そのうち伸びるだろう。

 それに、後ろ脚の爪を切る、というか、少し削がれてしょんぼりしているケラゴンが少し気の毒になったマイルが、削られた爪をカッコいい形にカットしてやったり、表面に飾り彫りをしてやったりすると、何やら急に元気を取り戻した様子であり、ポーズを決めてみたりしていた。

 ……どうやら、気に入ったらしい。

 マイルは、海里であった頃には美術的なセンスも優れていたため、ナノマシン謹製の切れ味抜群の剣があれば、それくらいの細工仕事は簡単にこなせるのである。


 古竜の爪に昇り龍を彫るわけにもいかないし、オーガやマンティコアの絵を入れるわけにもいかないだろう。それは、人間がハツカネズミの絵を彫るのと同じであり、強面こわもて路線の古竜には似合わない。

 なので、マイルが彫ったのは、生物や悪魔、神様とかの絵ではなく、カッコいい文様もんようであった。

 そして更に、ポーリンによって剣やナイフを作るために削ぎ取るように削られて、少し細くなってしまった1本の爪を、鋭く凶悪、かつ禍々(まがまが)しい感じの武器のように仕上げた。

 だんだん楽しくなってきたマイルは、ケラゴンから『古竜には、それぞれに自分を意味するシンボルマークがある』と聞くと、前肢の爪のひとつにケラゴンのシンボルマークを反転させて彫り込んだ。


「これで、あなたがデコピンした相手の額にはあなたのマークが刻み込まれ、あなたの強さと恐ろしさを一生忘れることはないでしょう。……強くやりすぎて、相手の頭を吹き飛ばしてしまった場合を除いて。

 そして、亜人や人間の村を訪れた時には、土壁や大木にその部分を押し付けて、自分の名を伝承として残させるのもいいかも……」

 マイルのその言葉に狂喜したケラゴンは、何度もお礼を言ってから、マイルの頼みを実行するために飛び立っていったのであった。

 そして、実はマイルは、ああ言っておけばケラゴンは今後、揉め事となった相手を殺すことなく、マークを刻み込むだけで許してやるのではないかという、ケラゴンの無益な殺傷をそれとなく制するという効果を期待していたのであった。

「ふぅ、いい仕事をしました……」

 マイルは、とても満足そうであった。




「ふふふ、これだけの爪があれば、ショートソードとナイフが数本ずつ作れます!

 古竜の爪で作った剣やナイフなど、聞いたこともありませんからね。いったい、どれくらいの値がつくことか……」

 確かに、脱皮の時のウロコを取っておいて、それを何かの礼やお詫びの品として渡してくれる古竜はたまにいるが、爪を剥いで渡してくれるなどという話は、誰も聞いたことがない。古竜達の墓所をあばきでもしない限りそんなものは手に入りそうにないし、もしそんなことをすれば、犯人どころか、その者が所属する国そのものが消滅するであろう。


「確かに、古竜から剥いだ時点で古竜が身体にまとう魔力の範囲から外れるから強度は落ちるけれど、それでも軽さの割にはとても頑丈だし、そもそもそんなの実用品として使う者はいないだろうからね。国宝として王宮の宝物庫に保管されるか、神殿で祭事に使われるくらいだろう」

「ま、そんなのを実戦に使う馬鹿はいやしないでしょうね。純金の剣を使うようなものよ」

 メーヴィスとレーナが言う通りである。

 純金の剣など、高価で重く、柔らかすぎるため一合打ち合っただけでぐにゃりとひん曲がるであろう。柔らかいため折れはしないであろうが、到底剣としての実用に足るようなものではない。

 古竜の爪はそこまで酷くはなく、ちゃんと実用にも耐えうるものではあろうが、そんな高価なものを普段使いの武器にするような者はいないであろう。

 しかし、それらは別に『古竜の爪で造られた、剣やナイフ』の価値を下げるものではない。逆に、『価値が高すぎるから、実用品として使うようなことはできない』というだけのことである。


「でも、それを売るのは、帝国以外の国の方がいいでしょうね。あの国は、歴史的な関係か、古竜に対する恐怖心や畏れが強すぎます。なので、そんなものを見せたら、いったいどうなることか……」

 マイルの言葉に、うんうんと頷くレーナ達。

 そして、古竜の爪製の剣やナイフは、しばらくは売りに出さずに温存することになった。製作は、マイルが暇を見て行う予定である。……こんなものを鍛冶屋に持ち込んだら大変なことになるし、金属ではないため鍛冶屋も困るであろうから……。


     *     *


 そしてしばらく普通の……彼女達にとっては、普通の……生活をしていた『赤き誓い』であるが、ある日……。

「『赤き誓い』の皆さんに、ギルド留めでお手紙が届いています」

 ギルド支部の受付嬢から、一通の手紙が手渡された。

「差出人は……、って、何よ、この変な紋章は……」

「紋章?」

 手紙の差出人名に紋章を使うなど、貴族か王族だけである。そういう方面に詳しいメーヴィスが慌てて覗き込んで、レーナの手の中にある手紙を見ると……。


「いや、これ、貴族や王族の紋章じゃないよ。紋章としての体裁を取っていないし、決まり事にものっとっていないし……」

「というか、どこかで見た覚えが……」

 メーヴィスに続き、ポーリンも、何やら首をかしげている。

 そして、しばらく考え込んでいたマイルが……。

「あ、これ、私が彫ったやつだ!」

「「「え?」」」

 そう、それは、マイルがケラゴンの爪に彫ってやった、あの、『ケラゴンのシンボルマーク』であった。

 勿論、大きさが全然違うから、あれをそのまま押し当てたというわけではなく、ただ同じものを描いたというだけであるが……。

「彫ったのは反転したマークだったから、一瞬、分かりませんでしたよ!」

 そう言って、あははと笑うマイル。

「しかし、あのでっかい手で、羽根ペンを摘まんで書いたんですかねぇ。結構、器用な……」

「亜人か何かに書かせたに決まってるでしょうが! って、そんなのどうでもいいわよ!

 問題は、中に何が書かれているか、ってことでしょうが!!」

「「「確かに……」」」

 レーナの言葉に、納得の頷きをする3人であった。

 そして、気が付くと、手紙を渡してくれた受付嬢だけでなく、他のギルド職員やハンター達もがこちらを見て耳を澄ませていた。

「「「「…………」」」」

 そして、慌ててその場を後にする『赤き誓い』の4人であった。



『のうきん』11巻、いよいよ16日(火)、発売!(^^)/

早いところでは、12日(金)以降、早売りがある可能性も!

加筆は、エピソード丸々ひとつ、30ページを追加。

勿論、それとは別に、ちゃんと書き下ろし短編もついている! 初版特典SSも!

そして、アニメのテレビ放映開始は、10月に決定だだだ!!


更に、『のうきん』スピンオフ4コマ漫画、7月11日(昨日)から、連載開始!

(webコミック誌、『コミック アース・スター』(http://comic-earthstar.jp/))

何と、2話は18日(木)だとか。……週刊かっ!!(^^)/

そして、ねこみんとさんによる本編コミックも、8月から連載再開!

 併せて、よろしくお願い致します!(^^)/

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― 新着の感想 ―
[良い点] そんな遊園地の施設を作らせるくらいなら、、、。
[一言] >海里であった頃には美術的なセンスも優れていた ほんとに性能のいいポンコツだったんだなぁ、これだけでもミツハとは違う。
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