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395 防衛戦 9

『そういうわけでしたか……』

 マイルがシッポ……ケラゴンに状況を説明すると、簡単に納得してくれた。

「うん、そういうわけで、ここには昔からの遺跡というか、資料や機械とかは何もなかったみたい。ただの地下空間と錆の塊が残っていただけ。そこにやってきたスカベンジャーがゴーレムを造り、何やら別のものも造っているらしいけれど、古竜のみんなが探しているのはそういうのじゃなくて、何というか、ずっと昔から残っているものとか、記録類とかなんでしょ?」

 マイルの言葉に、こくりと頷くケラゴン。

「じゃあ、亜人達をスカベンジャーやゴーレムと戦わせて敵対する必要はないよね? 亜人達に犠牲者が出るだけだし、下手すると、古竜や亜人達が敵だと認識されて、それが大陸中のスカベンジャーやゴーレムに広まるかもしれないよ? そうなると、遺跡調査がかなり難しくならないかなぁ」

『うっ……』

「あなたが、その責任を問われたり……」

『ううっ……』

「この世界の滅亡の原因に……」

『ぎゃあああああああっっ!!』


「こら、あんまり苛めない!」

 そう言って、マイルの頭をポンポンと軽く叩くメーヴィス。

「古竜にも救いの手を差し伸べるとは、何たる騎士道精神……、というか、図太いな、オイ!」

 えへへ、と笑うマイルとメーヴィスを眺めながら、呆れたような顔の亜人達。

 いや、それはそうであろう。人間から見れば、自分達と神との真ん中あたりに位置する高位の存在である古竜に対して、タメ口を利くとか、『そろそろ勘弁してやれよ』というようなニュアンスの物言いをするなど、考えられない。

 ……いや、それを言うならば、古竜が使い走りの舎弟のようにへりくだった態度を取る人間の存在というものが、そもそも異常なのであるが……。


「で、では、この者達の言うことは……」

『うむ、全て本当のことである。この者達の国では我らの活動は既に知られておるし、この者達はその中でも特に我らとの関わりの深い者達であり、……そして、我の恩人である。

 この場所は「ハズレ」として撤収、他の候補地の探索・調査に移行する』

 亜人達に対して、急に威厳のある喋り方になったケラゴンであるが、いささか手遅れ臭かった……。


「あ、でも、ケラゴンさん達は戦闘部隊所属じゃなかったんですか? どうして新米のベレデテスさんと同じようなことを?」

 マイルの何気ない問いに、少し肩を落としたかのように見えるケラゴン。

『……人間4人、それも女相手にボコボコにされて逃げ帰った古竜3頭だぞ? 言わせるなああああぁ~~!!』

「「「「ごめんなさい……」」」」


『しかし、困ったな……』

「え、どうかしたんですか?」

 話題を変えたケラゴンであるが、どうもあまり良い話題ではなさそうであった。

 マイルが心配そうに尋ねると……。

『いや、今回の件も、当然ながら指導者に報告せねばならぬ。指導者の命で行っている活動なのだからな。そして、再びお前達の名を耳にした指導者が、どう考えるか……』

「「「「あ~……」」」」


 前回の件だけでも、二度に亘って古竜を撃退したわけであるから、短気で馬鹿な者であれば即座に次の懲罰隊とかを出していてもおかしくはなかった。多分、他の古竜達が必死で説得して止めてくれたのであろう。

 しかし、三度目となれば……。

 いや、別に今回は古竜を撃退したというわけではないが。

 そして遺跡の調査を邪魔したわけですらないが、この後、亜人達から先程のスカベンジャーやゴーレム達の『赤き誓い』に対する態度を報告され、それをそのまま伝えられた場合、『指導者』とやらがどう考えるか、分かったものではない。

 そして、ケラゴンにも任務とか義務とかいうものがあり、前回のような取引で『個人的に、自分は敵対しない』というような約束をさせるのはともかく、自分の部族の指導者や族長、長老達に虚偽の報告をすることはできまい。古竜としての矜持とか、色々とあるであろうから……。


「う~ん、仕方ないですよねぇ……。それに、どうせいつかはやってくる、避けて通れない中ボスですからねぇ……」

「中ボス?」

「中ボスかい?」

「中ボス扱いなの? ……まぁ、その程度かしらね。マイルだから……」

 マイルの呟きに、あまり驚いた様子もないポーリン、メーヴィス、そしてレーナ。

『中ボス』という概念は、勿論、某新進気鋭の有名作家の作品により、広く周知されている。

「「「「「「中ボス……」」」」」」

 そしてどうやら、亜人達の間でも、某作家の娯楽小説は広く読まれているようであった。


「あなた達の住処、『古竜の里』とやらは、どこにあるのですか?」

『ここから南東に向かって少し行ったところだ』

「「「「え?」」」」

『赤き誓い』の4人が驚いて声を上げたが、その他の者達、つまり亜人や商人達は驚いた素振りはない。

 絶海の孤島にでも住んでいるのでない限り、何千年も同じ場所にたくさんの古竜が住んでいて、その場所を誰も知らないわけがない。目撃例が多い地域、飛び去っていく方向、そしてたまには古竜に望みを叶えてもらおうだとか竜殺し(ドラゴンバスター)の称号に憧れるだとかで、古竜の住処を探し回った者とかもいるであろう。

 なので、古竜ケラゴンの返事に驚いたのは、『古竜の里』というのを秘密の隠れ里か何かのように思い込んでいたレーナ達3人と、まさかそんなに近い場所だとは思わなくて意表を衝かれたマイルの、4人だけであった。


「こ、ここから南東方向って、わりと海が近いですよね?」

『ああ、近いな』

 顔を引き攣らせながら確認したマイルに、平然とそう答えるケラゴン。

「帝国にあったのですか、『古竜の里』……」

 確かに、その位置であれば、海岸線沿いに北上してからティルス王国に入れば『赤き誓い』が初めてベレデテス達と会った森の方角だし、海を越えて東北東へ向かえば、ケラゴン達と会った国である。別に、おかしなことはない。そして、未開の急峻きゅうしゅんな山岳地が多いこの国は、言われてみれば、このあたりでは最も『古竜が住んでいそうな国』であった……。


「……で、どうすんのよ、マイル……」

「ええと、とりあえず、ケラゴンさんが里に戻って報告して、どうなるかの結果待ち、ということで……。私達は、商人さん達の護衛任務がありますし……」

 レーナに、そう答えるマイルであるが……。

「そっちじゃないわよ! いえ、そっちも大事だけど、私が言ってるのは、ここのことをどうするか、ってことよ。この連中が引き揚げたら、兵の準備や軍需物資を蓄積しているこの国が、どう動くと思ってるのよ。

 どこかの国に攻め込もうとしていて、亜人絡みで問題が起きそうだからそっちはストップして国内用の戦闘準備に切り替えて、そしてその脅威が突然消滅。

 投入準備ができた軍隊と、集めた軍需物資。戦争景気を当て込んで、更に物資を買い集め、軍に高値で売るべく揃えている大商人達。

 ……いきなり亜人達がここからいなくなったら、どうなると思う?」

「あ……」

 まず、間違いなく、すぐに他国への侵攻が始まるであろう。この国の北東、『赤き誓い』の本拠地であるティルス王国、北方の、マイルの母国であるブランデル王国、そして北西に位置するヴァノラーク王国の、いずれかの国に対して。


「う~ん、どうすれば……」

「お気になさる必要はありませんよ」

「え?」

 考え込むマイルに、商人が横から口を挟んだ。

「元々、この国は戦争準備を進めていたのです。それが、この件で少しの間中断していただけなのですから、いずれ再開されておりますよ。この国の上層部が危惧していたように、国中の亜人達が一斉蜂起したとでもいうのであればともかく、このような理由で、この場所だけの問題であったなら、どうせ準備された兵力の大半は不要となり余ったわけですから。

 なので、どうせ時間の問題でした。皆さんが気に病まれるようなことではありませんよ」

「う~ん、確かにそう言われるとそうなんですけど……。でも、そうなると、亜人の皆さんが引き揚げた後、帝国の兵士達がここへ調査に来ますよね、亜人達がここで何をやっていたのかを調べるために。そうなると、今度は帝国の兵士対ゴーレムの戦いが始まって……」


 世間一般、というか、ティルス王国からみれば、帝国の兵士とゴーレム達が戦うのは、歓迎すべきことのはずである。魔物であるゴーレムとの戦いで、ほんの僅かとはいえ帝国の兵士達が被害を受け、軍の予算を食い、余計な仕事が増える。

 しかし、今は名目だけでも自分の配下となったゴーレム達が無駄に消耗するのを看過することは、マイルの性格的に、できるはずがない。

「うむむむむむむ……、そうだ!」

 ぴこ~ん!

 古典的な漫画表現が頭の上に幻視できるかのような、それはそれは見事な『私、ひらめきました!』と言わんばかりの、輝くようなマイルの笑顔であった……。

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― 新着の感想 ―
[一言] >中ボスですからねぇ パタ-ン的には真の敵と闘う時までには仲間にしておかなければならない中ボスですよね…
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