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394 防衛戦 8

「マイル、さっきのは何よ……」

 出口へと向かいながら、レーナがそう尋ねてきた。

 マイルの最後の言葉は口頭で直接スカベンジャーに語り掛けたものであるから、当然、レーナ達にも聞こえている。なので、そう尋ねられるのは当然のことであった。

「い、いえ、ただ、お仕事に励んでいる皆さんに、ねぎらいの言葉を、と……。そういう些細な心遣いが、いつか自分に返ってくるんですよ」

 そう、マイルは前世では、交番の前に立つお巡りさんにはいつも労いの声を掛けるし、公園の掃除をしているおじさんにも声を掛ける子であった。人の顔が覚えられない海里であったが、警察官やお掃除のおじさんは見ただけで素性が分かるから、心配なく声が掛けられるのであった。

 前世では、海里が下手に男性に声を掛けると面倒なことになる可能性があることから、それ以外の者に声を掛けることは妹からきつく禁じられていたのであるが……。


「こいつらが、お返しをねぇ……」

 そう言って、前後にいる者達を見るレーナ。

 ゴーレム12体、スカベンジャー6体。

「どうして増えているんでしょう……。入る時ならばともかく、あとは出ていくだけ、という時になって……」

「謎が謎を呼ぶねぇ……」

 そう言って、不思議そうな顔をするポーリンとメーヴィス。

 メーヴィスの言葉は、とある作家がよく使う決まり文句の引用であった。


 そして出口の手前で、前衛であるゴーレム6体が先行して外へ出た。おそらく、安全を確保するためであろう。残った6体ずつのゴーレムとスカベンジャーが陣形を組み直し、マイル達を護るべく二重のダイヤモンド陣形を形成した。

「……何よ、この、王族を護るみたいな特別待遇は……」

「まぁ、マイルだからねぇ……」

「マイルちゃんですからね……」

「あはは……」

 レーナの呆れたような言葉に、全てを諦めたかのようなメーヴィスとポーリン、そして笑って誤魔化すマイルであったが……。


「うおっ!」

 穴から外に出ると、臨戦態勢の獣人と魔族達に取り囲まれていた。どうやら、出払っていた連中が戻ってきたらしい。

 そして……。

「くそっ! 魔物共め、少女達を放せ!」

((((あ~、そうなるよね~……))))


 先に出た6体のゴーレム達が半円状に広がって洞窟の入り口を守る形になっており、その内側に、先程のままの二重のダイヤモンド陣形。

 このままだと戦いが始まりそうな陣形ではあるが、ゴーレム側は自分達から積極的に戦いを仕掛ける積もりはないようであるし、亜人達は『赤き誓い』を人質に取られている形なので、やはり自分達から仕掛けるわけにはいかないようで、膠着こうちゃく状態に陥っている。

 しかし、いつまでもこうして睨み合っているわけにはいかないし、極度な緊張が続くと、そのうち誰か、精神的な耐性が低い者が耐えきれなくなって、やらかすことになる。

 そしてこの場合、先に耐えられなくなるのは、まず間違いなくゴーレム達ではなく亜人達の方である。

 勿論、マイル達はそうなるのをじっと待っているつもりなどなかった。


「うむ、見送り、御苦労! 元の任務に復帰せよ!」

 マイルの指示で、こくりと頷くような動作をした後、ささっと洞窟の中に引き返すスカベンジャーとゴーレム達。

「「「「「「え……」」」」」」

 そして、当然の事ながら絶句する亜人達と、その後ろから心配そうに見ていた商人達。

「お、おおお、お前達……」

「ど、どどど、どうして……」

「「「「「「ゴーレムに命令できるんだよおおおおおおおっっ!!」」」」」」

(((ま、そりゃ疑問に思うよね……)))


「いえ、別に命令したというわけでは……。彼らは自分達の住処を守っているだけであり、こちらから攻撃したり勝手に侵入したりしなければ、結構友好的で気のいい連中ですよ?」

「「「「「「そんなわけあるかああああぁ~~!!」」」」」」

(((そりゃそーだ……)))

 マイルが説明し、亜人達がそれを否定し、レーナ達がその反応は尤もだと納得する。

 このままでは、永久にこのサイクルが続きそうであった。

 どうしたものかとレーナ達が考え込んでいると……。

「おお、来られたか!」

 ひとりの獣人がそう言って空を見上げ、一斉にその方向を見る亜人達。

 ……そう、何かがやってきた。ばっさばっさと、空力くうりき的に明らかにそれだけで飛べるとは思えない羽ばたきをして、空を飛んで……。

「あ~、オールスターキャストだぁ……」

 そしてマイルの呟きは、完全にスルーされた。


「我らには、古竜様を呼ぶ方法があるのだ。大した用もないのに乱用するわけにはいかんが、今回はやむを得まい。何せ、我らより詳しい情報を持っている人間が現れたのだからな、古竜様にその真偽を確認していただき、御判断をあおぐしかあるまい……」

 確かに、それは納得のゆく説明であった。特に、メーヴィス、レーナ、ポーリンの3人にとっては、久し振りに聞く『心安まる、普通の説明』なのであった……。


 そして、古竜がマイル達のすぐ側に舞い降りた。

 あまり風が強く吹き付けることもなく、砂塵が舞い上がることもなかったことから、やはりただの空力的な作用だけで飛んでいるわけではなく、魔法的なものが作用しているらしかった。


『緊急呼び出しを行うとは、何事だ! どのような問題が発生したというのだ!』

 少し不機嫌そうな、しかし心配そうな様子も交じった態度で皆をめつけていた古竜の視線が、一箇所でぴたりと止まった。

 びくり。

 そして、硬直。

 皆が無言のまま、永遠にも思える十数秒が過ぎ……。

『マイル様ではございませんか! こんなところでお会いするとは、こりゃまた奇遇でございますねぇ! あ、いや、もしかすると、マイル様がお呼びになられたので? ならば、何なりとお申し付けください!』

「「「「「「何じゃ、そりゃあああああああ~~!!」」」」」」


 亜人、商人、総突っ込み!

 当たり前である。いつも尊大な態度の古竜が、人間の小娘相手にまるで使い走り(パシリ)の舎弟並みの低姿勢なのだから、信じられるはずがない。

 そしてそれは、マイル達にしても同様であった。

「……誰?」

 怪訝そうにそう尋ねるマイルに、古竜は、え、というような顔をした。

『私ですよ、私!』

 そんなことを言われても、無理である。同種の魚や鳥の顔を見分けろと言われても無理なのと同じく、古竜の顔の区別などつくはずがない。

『私です、ケラゴンですよっ!』

「……いや、だから、誰?」

 自分が忘れられているのが余程心外だったのか、少しムッとした様子の古竜。

『あ……、そういえば、あの時、名乗らなかったかも……。私です、シッポをくっつけていただきました……』

「「「「ああ!」」」」

 そう言われて、ようやく思い出した『赤き誓い』の4人。

『思い出していただけたようですね。で、此度こたびは、どのような御用件でしょうか?』


 そう言われても、用事があって古竜を呼んだのは、自分達ではない。なので、亜人達の方を見た『赤き誓い』の4人であるが……。

 亜人達は、全員が口を開けて呆然と立ち尽くしており、使い物になりそうになかった。

「「「「だよね~……」」」」


 そして、マイルは考えていた。

(ドラゴンのケラゴン? もう少し、何とかならなかったのだろうか……。そして、ドラゴン界にも、DQNネームとか、キラキラネームとかが存在するのだろうか……)



本日、『平均値』アニメのサイトと公式Twitterがスタート!(^^)/

2019年10月、テレビ放映開始です!

新情報は、順次追加予定。


とうとう。

とうとう、この日がやってきた……。(T_T)

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― 新着の感想 ―
[一言] 絶対にケラゴンは揉み手をしながら、尻尾を股の間に挟んでる。(犬だな、コイツ)
[一言] 海外にもDQNネームはあるらしいですから、ドラゴン界にあってもおかしくはないでしょうけど・・・ ケラゴンという名前は、DQN名というより、桃太郎とか金太郎とか万太郎とかすたみな太郎とか言うの…
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