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392 防衛戦 6

「では、入りますよ……」

 獣人達の必死の制止を無視して、穴に入ることをやめようとはしなかったマイル。勿論、レーナ達も同行する。

 マイル達が穴に入ってどうにかなろうとも獣人達には何の影響もないが、それでも少女達をみすみす死地へとおもむかせるのは自分達のポリシーに反するのか、懸命に止めようとしたのは、この連中がそう悪い者達ではないということなのであろうか……。

 しかし、マイル達の行動を止める権限があるわけでなし、もし力尽くで止めようとして拘束したなら、それは立派な犯罪行為になってしまう。

 そのため、『少女4人が獣人達に襲われた、って噂が広まってもいいのですか?』と言われては、手出しすることができなかったのである。やはり、獣人達は名誉とかそういうものを気にするらしかった。


 商人達は、色々と思うところはあったのかもしれないが、結局、口出しすることはなかった。

 そしてマイル達は、商人達に『もし自分達が戻らなかった場合、引き返して帝都へ向かい、そこで護衛を雇って帰国してくれ』と言ってある。……そんなことになる確率は非常に低い、いや、殆どないとは思っているが……。

 護衛任務の途中ではあるが、これも『帝国に関する調査の一環』として商人達の了承を得ているので、問題ない。

 そして、暗い穴の中へ、魔法による明かりを灯して入っていく『赤き誓い』。




「もう、500メートルくらい歩いたかしら……」

「まだ300メートルくらいですよ」

 この穴は、真っ直ぐ地下へ、というわけではなく、緩やかな勾配であるため、階段や梯子が必要というわけではない。そのため、普通に下り坂を歩いているだけである。それでも、山に向かって進んでいるわけであるから、急速に『土の中に潜り込む』ということには変わりない。

 そしてレーナは感覚的にもうかなり歩いたつもりであったが、自分の歩数を数えているマイルに、あっさりとそれを否定された。まぁ、暗い洞窟を歩いているのだから、そういう錯覚は仕方ないであろう。

 一行が更に暫く進むと……。


「団体さんだ……」

 6体のゴーレムに囲まれた。

 しかし、マイル達はあまり心配していない。獣人達の話から、ここのゴーレムはなるべく亜人達を殺さないよう配慮しているらしいと分かっているし、『赤き誓い』の見た目は、あまり強そうではない。そして更に、マイル達には自分達から戦いを仕掛けるつもりはなかった。あくまでも、ここに来た目的は『調査』に過ぎないのである。

 また、マイルが皆に楽観的な説明をした理由は、勿論ナノマシンによって相手側との意思疎通が可能だからである。

 前回は、あの末端装置だけではなく、スカベンジャーとも意思疎通が可能であった。そしてゴーレムは、自分の所掌範囲を超えた事態においては、スカベンジャーを呼ぶらしい。なので、獣人達がやったと思われる、侵入して出会ったゴーレムに一方的に攻撃する、というようなことをしなければ、それなりのファースト・コンタクトが図れると考えたわけである。

 そして、もしそうでなくても、逃げ出すことくらいは可能であろう。


 マイルは、こんなこともあろうかと、前回大量に供出したため少なくなっていた屑鉄の類いを、充分アイテムボックスに補充していた。

「ほれ、チチチチチチチ……」

「だから、小鳥ではないと……」

 レーナの突っ込みはスルーして、アイテムボックスから屑鉄を出し、ゴーレム達の方へと差し出すマイル。停止して、それをじっと見詰めるゴーレム。……前回と全く同じパターンである。


 そしてしばらくして、スカベンジャーが現れた。

 屑鉄を見て、じろりとマイル達を一瞥いちべつ、無造作に屑鉄を掴んで……。

「あれ? 前回よりも反応が薄い? 有難味が少ない? 折れた剣や穴の空いた鍋よりも鉄の品質が悪いのかな?」

 マイルがそんなことを言っていると、突然スカベンジャーがビクッとおかしな動きをした。そして数秒間固まっていたかと思うと、急にしゃかしゃかと焦ったように動き始め、何やらゴーレム達に指示を出した……ように思えた。

 いや、声を出したわけでも身振りで示したわけでもないけれど、スカベンジャーの挙動が変わった途端にゴーレムの行動に変化が現れたのだから、そう考えるのが妥当であろう。

 そして、ゴーレム達が位置を変えた。マイル達を取り囲む陣形から、3体が通路の奥側に、そして残り3体が入口側に、それぞれ鏃形アローヘッド陣形に……。


「マ、マイル、これって……」

「はい、護衛陣形か、もしくは……」

「も、もしくは?」

「……前後を押さえて、『絶対逃がさんぞ陣形』?」

「「「……」」」


 そして、スカベンジャーの先導で、案内されるままに奥へと進んでいく『赤き誓い』。

 暫くして辿り着いた先は……。


「……鍛冶場?」

 レーナ達にはそうとしか見えないが……。

「工場?」

 マイルには、そう見えた。

 レーナ達には、金属が加工され火花を散らしているのは、『鍛冶場』以外には思い付かない。それ以外の施設を見たことも、聞いたこともないので。

 しかし、これは明らかに『鍛冶場』というレベルのものではなく、もっとずっと高度なもの、つまり『工場』であった。それも、マイル達が予想していたような、ゴーレムを修理・製造するための小規模なものではなく、もっと大規模な……。

 また、前回のように『生き残った制御システム』のところへ連れていかれると思っていたマイルは、予想を裏切る展開に、つい尋ねてしまった。


(……ナノちゃん。ナノちゃんがここへ連れてくるよう指示したの?)

【いえ、今回は、まだ向こうとは一度も接触していません。マイル様が自由に行動されることのお邪魔になってはいけないと思いまして……】

(あ、うん、ありがと。そうしてもらえると助かるよ。……で、現状の推測はできる?)

 仕方ない。このままでは何も分からないので、ここでナノマシンを頼るのは、仕方のないことなのである!

 そう自分に言い聞かせるマイルであった。


【はい、マイル様が考えておられるであろう通り、ここもまた、残された遺跡のひとつです。そして、修理担当のスカベンジャー、防衛担当のゴーレム、そして建造中の、あの機械群……。

 ここには、前回の末端装置のようなものは存在せず、スカベンジャーの判断で活動している模様です】

(え? それじゃあ、どうして亜人達への対処があんなに甘いの? 一般的なゴーレムの生息地では、敵対者は平気で殺すでしょ? それに、私達に対するこの特別待遇は、いったい……)

【聞きたいですか?】

(え……)

【聞きたいですか?】

(……き、聞きたい、デス……)

 やむなく、ナノマシンに事情の確認をお願いしてしまったマイル。


【……配下でした】

(え?)

【配下でした。この遺跡と、遺跡にいるスカベンジャーとゴーレム全て、マイル様の配下でした】

(いや、わけ分かんないよ! もっと分かるように言ってよ!)

 混乱するマイルに、噛んで含めるように説明してくれるナノマシン。


【あの遺跡で、マイル様は『管理者』の権限を引き継がれましたよね?】

(う、うん……。あの機械知性体達に、少しでもやり甲斐というか、心の安寧あんねいが与えられるなら、と思って……)

【その意図は、充分に反映されています】

(そうか、良かった……)

【そして、いくつかの制限を撤廃していただいたおかげで、あの者達は行動範囲が広がり、機能を停止した他の遺跡へ修理隊を派出、現地でスカベンジャーの増産を行い、遺跡の機能修復を始めました。ここも、その内のひとつです。なので……】

(な、なので……?)

 何となく、嫌な予感がし始めたマイル。

【ここも当然、マイル様の管理下にあり、マイル様がここの支配者となります】

「やっぱりいいいいィ~~!!」

 悪い予感はよく当たる、マイルであった……。

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[一言] うん、知ってた。
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