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386 帝国での依頼 7

「「できるわけがねぇだろうがああああぁっっ!!」」

 料理人ふたりが、叫んだ。

「「「「あ、やっぱり?」」」」

 

「いや、調理法そのものは、他の方法で代用することが可能かもしれません。しかし、下味を付けるためのタレはともかく、その『カラアゲ粉』とやらを、実家の秘伝、のひと言で済まされたのでは、どうしようも……」

 だが、何と、3人の中で一番若い料理人が、そんなことを言い出した。

 頭から不可能と決めつけるのではなく、あのマイルの調理法を他の方法で代用することを考え、そして下味をつけるためのタレぐらいは自分で作ってみせる、と。

(うん、料理人は、こうでなくっちゃねぇ! 困難を前にしても、心折れることなく挑戦する! これは、将来が期待できるかも。よし、いつか美味しい料理を発明してくれることを期待して、サービスしてあげよう!)

 そう考えて、カラアゲ粉の成分を教えてあげることにしたマイル。別に傷みやすいものが含まれているわけではないから、食中毒の原因になったりはしないであろう。


「ええと、カラアゲ粉の成分はですね、小麦粉、でん粉、塩、にんにく粉末、オニオンパウダー、パプリカ色素、酵母エキス粉末、アミノ酸系の試作調味料、ベーキングパウダー、乳化剤、粉末醤油(試作品)、ぶどう糖、砂糖、黒胡椒……」

 マイルの説明の後半あたりで顔色が悪くなり、そして最後のあたりで、がっくりと地面に膝をついた、若手料理人。

「聞いたことのない素材の数々、高価な稀少品、そ、そして、黒胡椒……。国王陛下の食卓じゃあるまいし、そんなの使えるわけがねぇ……」


 そしてその後も、冷却魔法と攪拌かくはん魔法を併用してのアイスクリーム作り。砂糖ザラメを魔法で熱して溶かし、バリアで覆って加圧、そしてバリアにたくさんの小さな穴を開けて、そこから細い糸状に噴出させる、綿菓子作り等、到底真似のできない料理やお菓子の数々が……。

「本当は回転させて遠心力で噴き出させるのですが、魔法の組み合わせが面倒になるので、今回は圧力で噴き出させています」


 ……ぽきん!


「「「あ、折れた……」」」

 気の毒そうに心折れた若手料理人を見る、レーナ達3人であった……。

 そして、雇い主であるヴェブデル氏も、自分達で再現することが絶対にできない調理法の数々に、がっくりと肩を落とすのであった。


 勿論、別に嫌がらせをしたり料理人の心を折ったりするのが目的ではないので、マイルは、後で普通に再現が可能な料理やお菓子の作り方をいくつか料理人に教えてやった。一応は依頼内容に含まれているのだから、そう無下にすることもできまい。




「……しかし、ガレイダルさんも、馬鹿な真似を……。いくら戦争景気で軍需物資による大儲けの匂いがしてきたとは言っても、まだまだどうなるかは分かりませんし、美味しいところは大店が独占して、私共のような中小には下請け仕事しか回っては来ませんのに……。

 まぁ、だからこそ、うちを潰すか併合して、とお考えになったのかもしれませんが……」

 料理が一段落し、子供達から少し離れたところでひと休みしていたマイル達に、寂しそうな顔をしたヴェブデル氏がそう言って話し掛けてきた。

((((美味しそうな情報源、キタ~~!!))))

 別に、『赤き誓い』には情報収集の義務はないし、依頼内容にも含まれてはいない。しかし、やはり雇い主の役に立つならば、得られる情報は得ておく、という主義であった。

 なので、ヴェブデル氏の話を興味津々で聞く、マイル達。


 しかし、いくら機密情報とかではないとはいえ、他国の者にそんなことをぺらぺらと喋っても良いものなのか。ある程度の者は知っており、暗黙の了解なのかもしれないが……。

 マイル達がそう考えていることを察したのか、ヴェブデル氏は苦笑しながら先を続けた。

「……まぁ、戦争とは言っても、別に他国に攻め入るわけではありませんから……」

「「「「えええええええっっ!!」」」」

 超重要情報である。

 まさか、こんな情報が、こんな場所で得られるとは。

 愕然とするマイル達。


「た、他国には攻め入らないって、じゃあ、内乱とかですか? 皇帝の後継者争いとか、簒奪とか、地方の有力者が帝国からの独立を掲げて反旗を、とか……」

 帝国は、とても、広い。

 山脈は、とても、デカい。

 そのため、帝都から遠い外縁部で、辺境伯とかが反旗を翻してもおかしくはないだろう。

 ちなみに、辺境伯は『伯』という字があてられてはいるが、実際には侯爵相当であり、場合によっては侯爵を凌ぐ権勢を誇る場合すらある。だから、他国に攻め入らない戦争、と言われれば、後継者争い、簒奪と合わせて、思い付く原因ベストスリー、不動の御三家である。

 なので、何気なくそう尋ねたポーリンであるが……。


「なっ! ななな……」

 急に慌てた様子のヴェブデル氏が、急いで周りを見回し、関係者以外がいないのを確認して安心したように大きく息を吐いてから叫んだ。

「不用意なことを言うんじゃない!!」

 自分から振ったネタのくせに、丁寧な喋り方をすることも忘れて怒鳴ったヴェブデル氏に呆れる『赤き誓い』であるが、考えてみれば、こんなところで商人が他国の者や凶悪犯の家族と一緒になって『内乱』、『後継者争い』、『簒奪』、そして『地方における反乱』などという話をしていることがどこかに漏れれば、大事おおごとである。おそらく、処刑を待つガレイダル氏以上の大惨事になることは、間違いない。


((((じゃあ、そんな話題を自分から振るなよ!))))

 心の中でそう突っ込む『赤き誓い』一同であるが、ここはそれを置いておいて、情報収集に努めるのが、乙女の嗜み。

「で、では、どのような相手と?」

 おかしな企みをしているわけではないと証明するためにも、ここは正直に答えてくれるはずである。居もしない皇帝陛下の間諜やら女神の眷属やらが盗み聞きしているのではと怯えているなら、絶対、確実に。


「べ、別に、秘密というわけではありませんよ。わざわざ宣伝しているわけではありませんし、あまり触れて廻るようなことでもありませんから、知っている者は多くありませんし、平民の間で話題に上るようなことはないでしょうけど……」

 そう言いながらヴェブデル氏が話してくれたのは……。


「「「「亜人との戦い?」」」」

 亜人。

 そう、ヒト種である人間、エルフ、ドワーフと似た姿形をしており、会話による意思疎通ができるにも関わらず、なぜかヒト種とは認められず『亜人』として差別……、いや、全く別の生物として扱われている者達、獣人と魔族。

 ヒト種ではないのだから、迫害されようが殺されようが、それは『差別』ではない。魔物や野獣を殺すのと同じこと。

 人間が野良犬を蹴り飛ばせば、それは『差別』か?

 動物愛護的には決して褒められたことではないが、少なくともそれは『差別』とは言われないだろう。……そして、もし蹴り殺したとしても、殺人罪に問われることはない。決して……。

 そう言って、狩られ、殺され、奴隷にされていた時代もあったが、今ではヒト種と同権であり、一応は対等の関係として、僅かながらも友好的な交流もある。……互いに深く心の底に根付いた、どろどろとした感情が溢れ出すのを何とか抑え込みながら。


「でも、獣人や魔族は氏族単位で暮らしていて、国家を形成していたりはしないのでは?」

 マイルの問いに、ヴェブデル氏が再度説明してくれた。

「いえ、ですから先程言ったでしょう、『別に他国に攻め入るわけではありません』と……。

 相手は、我が国に散在する亜人達ですよ。具体的にいうと、魔族と獣人。そしてそれらの者達とヒト種とのハーフ、クォーター等の混血のうち、彼らと行動を共にしている者達ですね。

 尤も、先程マイルさんが言われました通り、亜人達は氏族単位でしか集団を形成しませんから、今回の相手はこの国に集落を作って住んでいる亜人達のうちの、ほんの一部だけですけどね。

 ……今のところは」

「今のところは?」

 ポーリンの問いに、状況を理解したらしきマイルが答えた。

「……つまり、その戦いによって亜人排斥の機運が高まり、国中で、いえ、大陸中で亜人達との争いが始まるかも、ってことですよね。ハンター養成学校で教わった、『亜人大戦』のように……」


 亜人大戦。

 それは、大昔に起きた戦争であり、人間、エルフ、ドワーフによる『ヒト種連合』と、魔族、獣人、そしてそれらに手を貸す妖精族やその他の少数種族達との戦いであった。

 正面からぶつかる戦いでは、数にものを言わせる人間が加わっているヒト種連合が健闘したが、個体としての戦闘力では、魔族と獣人が圧倒的に上。そして更に、森や山岳部等での奇襲や各個撃破に出られると、夜目が利き、圧倒的な身体能力差がある亜人達にはヒト種連合は到底敵わず。

 そのため、ヒト種は森や山岳部へは一切立ち入れなくなり、更に平野部においても、多くの兵士を伴わない限り安全に行動することができなくなった。

 それはつまり、城塞都市から出られなくなるということである。農民も、猟師も、鉱夫も、……そして商人達も。

 しかも、亜人達の主力が潜伏している場所を森ごと焼き払おうとしたヒト種連合に古竜が激怒、亜人側に味方し、ヒト種の街をいくつか壊滅させた。

 ……詰み、であった。

 そのため、大きな人数差があるにも関わらず、ヒト種の方が大きく譲歩しての講和が成立。ここに、亜人とヒト種との対等、つまり同権が認められたのであった。

 そして、互いに遺恨は残ったものの、共に再び戦いが起きることは避けたいという考えの一致により、戦いの火種となりそうな愚かな行為には厳罰を処するということで、現在の『消極的な友好状態』が維持されているのであった。ちょっとした悪意があれば簡単に壊されそうな、もろい『平和』が……。


「……それって、大事おおごとなのでは……」

「大事でしょうね……」

「大事だろうね……」

「「「「ですね~!」」」」



『のうきん』コミック、連載再開&連載開始!(^^)/


本編コミック(ねこみんと先生)、8月に連載再開です。

御病気から回復されたばかりなので、あまり無理はしないで下さいね、ねこみんと先生……。


そして、スピンオフ4コマ、7月11日に連載開始!(森貴夕貴先生)

連載場所は、勿論、本編と同じく、無料で読めるwebコミック誌、『コミック アース・スター』。

詳細は、アース・スターノベルのHPにて。(^^)/

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マイルは読み物なら市販の唐揚げ粉とかの成分表も読んで、しかも覚えてるの、、、?
[一言] >そして、もし蹴り殺したとしても、殺人罪に問われることはない。決して…… 殺人罪はありえないけど、動物愛護法できるまえでも器物破損にはなりましたから、文明レベルがあがれるにつれ厳しくなってい…
[一言] > ……ぽきん! 「「「あ、折れた……」」」  気の毒そうに心折れた若手料理人を見る、レーナ達3人であった……。 しかしせっかくの人材をつぶすマイル、それでも這い上がってきたらこの世界…
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