364 出発大作戦 7
「何だと! オーク3頭を瞬殺、だと……。それは本当か!!」
「わざわざギルマスにこんな嘘を吐いて、どうなるって言うんですか……」
「…………すまん」
依頼完了手続きを終えて『ワンダースリー』と別れた後、ギルドマスターに報告に来た、『真名の雫』の面々。
せっかく厚意で報告に来てくれた者に対して、些か礼を失する言葉であった。そう思い、素直に謝罪の言葉を口にするギルドマスター。
……勿論、『真名の雫』の面々は、依頼完了後に『ワンダースリー』の面々を夕食に誘ったのであるが、『この程度の稼ぎで打ち上げパーティーなんかやってたら、いつまで経ってもお金なんか貯まりませんよ!』と言って、断られたのであった……。
「しかし、Bランクに匹敵しそうな魔法の腕だと? しかも、3人共が……。まだCランクになったばかりだと言っていただろうが! しかも、実戦経験が殆どないと……」
「異常な程の速さの、そして威力があり命中精度の高い詠唱省略魔法。打合せをした様子もないのに、タイミングぴったりで目標が重複することのないコンビネーション。動揺や躊躇いの欠片も感じられない、冷静な判断。
……あれは多分、相手がオーガだったとしても、ほぼ同じ結果だったと思いますよ。
スキップ申請でハンター登録する時、試験官を務めた者が、実戦経験がない未成年の少女をいきなりCランクにするのを躊躇ったのでは? だから、Dランクで登録することになったのでは?
そして、彼女達が言っていた通り、身分の高い子供の護衛依頼特化で2~3年くらい経ち、功績ポイントが貯まり、最低年数をクリアして、魔物との戦闘経験がないままランクアップしてしまった、ってことなんじゃあ……。
そして、竜種は、実戦経験なんかなくったって、最初から強いですよね……」
「なっ……」
ハンター登録をした時点で。
つまり、最初から強かった。Bランクに匹敵するくらい……。
なので、『実戦経験が殆どない』ということなど、関係ない。
経験などなくとも、元々強かった……。
だから、本当に、『オークやオーガ相手は初めてだから、簡単に勝てるとは思うけれど、念の為、前衛主体のパーティと合同で受注しようと思っただけ』。『あくまでも、念の為に』……。
「はは。ははははは……。
本当に、余計なお世話だったってわけか……。そりゃ、ウザがられて、機嫌を損ねるはずだよなぁ……」
全てを理解して、がっくりと肩を落とす、ギルマス。
「そんなの、分かるかよっ! どうしてそんな化け物少女パーティが、ふたつもあるんだよおおおおぉっっ!!」
* *
それから1週間。
『ワンダースリー』は、毎日日帰りの討伐依頼を受け、オークとオーガの討伐をこなしていた。
そして……。
「……なかなかアデルさんに出会いませんわねぇ……」
「はい。受注や完了報告、素材売却等の時間帯を、一般的な、混み合う時間帯にしたり、逆に空いている時間帯にしたりしましたし……」
「宿も、アデルちゃんが選びそうなところを転々としたのにね……」
「長期依頼で、町を離れているのかしらねぇ……」
すぐに会えると思っていたのに、アデルとなかなか出会えない。
自然な出会いを待っていたマルセラ達も、さすがに焦れてきた。会えるのをわくわくと楽しみにしているのにも、さすがに限度というものがある。
そして遂に、マルセラが決断した。
「受付で、聞いてみましょう!」
こくり
オリアーナとモニカも、頷いた。
「あの、この町に『赤き誓い』という女性ばかりのパーティがいると聞いたのですけど……」
(来た来た……)
「はい、この支部に所属されていますよ」
マルセラにそう尋ねられた受付嬢は、予想していた質問に、驚いた素振りもなくにこやかに答えた。
こんな、『異常なまでの才能を持っている、少女だけの少人数Cランクパーティ』が、そうそういるわけがない。そして、それが2パーティも、同時期に同じ場所に現れるなどということが、偶然とは思えない。
……同じ穴の狢。
仲間か、関係者。
そう思われても仕方なかった。
なので、今までその質問や話題が出なかった方が不思議であり、かといってギルド職員の方から『彼女達』との関係を尋ねるわけにもいかず、職員達の間で話の種になっていたのである。
「彼女達は、今、どこにいますの?」
普通であれば、他のハンターの動静を、しかも若い少女達のことをぺらぺらと喋るような受付嬢ではない。しかし、尋ねてきたのが12~13歳くらいの少女達であること、そして、明らかに『関係者』であると思われたため、受付嬢は特に気にせずに喋ってしまった。
別に特別なことでもなく、正確な居場所を教えるわけでもないので、特に問題はないと考えたのであろう。そしておそらく、他のギルド職員達も同様の判断をしたであろうと思われる。
「『赤き誓い』の皆さんは、貴女方『ワンダースリー』の皆さんと同じく、修行の旅に出られています。お戻りになるのは、いつになるか……」
「「「えええええええっっ!!」」」
思わず叫び声を上げ、愕然とする『ワンダースリー』の3人。
「西方への旅を終えて、本拠地へ戻ったのではなかったのですか……」
そう、西方への旅の往路と復路で、エクランド学園の女子寮に寄ってくれたのである。そのまま、『赤き誓い』が本拠地にしているこの町へ戻ったと考えるのが普通であった。そして、旅を終えたならば、当分は次の旅には出ないであろう、と考えるのが……。
新米Cランクパーティの、修行の旅。
それは、半年かかるか数年かかるか分からない、自由気ままな行き当たりばったりの旅。
そして、二度と戻らないパーティも、決して少なくはない。
気に入った街を見つけて、そこに拠点を移し、移籍手続きをするパーティ。
偶然大手柄を立てて、そこのギルド支部にスカウトされて。
地元の者と恋仲になって、そこに住み着いて。
怪我や病気、その他の理由でハンター稼業を引退して。
……そして、命を落として。
アデルが、そう簡単に死ぬとは思えない。
しかし……。
「知能レベルを下げて、常識を脇に退けて、『うっかり』を5倍にして……」
謎の呪文を唱え、モニカとオリアーナの手を握る、マルセラ。そして……。
「「「スーパー・アデル・シミュレーター!!」」」
少女達の奇行を、ぽかんとして見ているギルド職員とハンター達。
そして……。
「次は逆方向、東方へ! 戻ってくるつもりでしょうけど、もしいい男を見つけたら、そこに居座る!」
「その推測に、同意!」
「同じく!」
皆の意見が一致したようであった。
「行きますわよ! 『ワンダースリー』、出撃!」
「「おお!!」」
そして、急ぎ足でハンターギルド、ティルス王国王都支部を後にする、3人の少女達。
「……何だったんだ、あいつら……」
「「「「「「…………」」」」」」
その問いに答えられる者は、ひとりもいなかった。