361 出発大作戦 4
(((((うまくやりやがって……)))))
他の若手ハンター達の、羨望の視線。
(((((お前達が死んででも、その子達に傷ひとつ付けさせるんじゃねーぞ!!)))))
年配のハンターやギルド職員達からの、刺すような視線。
まぁ、無理もないであろう……。
それらの視線を受けながら、テーブル席に座り、軽い顔合わせを行っている『ワンダースリー』と、少年達のパーティ、『真名の雫』。
「俺達は、Cランクパーティ、『真名の雫』だ。といっても、まだCランクになったばかりだけどな。重戦士、軽戦士、剣士、槍士、弓士兼軽戦士、という構成で、魔術師が欲しいと思ってるんだよねぇ……」
そう言って、物欲しそうな顔で『ワンダースリー』の面々を見るパーティリーダーであるが、修行の旅の途中である『ワンダースリー』がこの街に留まることはないであろうと、半ば諦めてはいる。
しかし、ここは地方都市ではなく、ティルス王国の王都なのである。彼女達が本拠地をここに移すという目も、全くないわけではないだろう。
そして、魔術師3人というのは、ずっとパーティを続けるには明らかに無理がある。他のパーティと合体するか、ばらばらになってそれぞれ気に入ったパーティに入るべきである。魔術師を欲しがっているパーティは多いのであるから。
……そしてそれが、自分達のパーティ、『真名の雫』であってはいけないという理由はない。欠片ほども。
「『ワンダースリー』、同じく、Cランクに成り立てですわ。魔法の腕でスキップ登録、同年代の貴族の女性の密着警護を専門にやってポイントを稼ぎましたので、魔物相手の戦闘は、他パーティとの合同でコボルトとゴブリン相手に数回のみ、ですわね……」
「「「「「あ~……」」」」」
マルセラの説明に、なる程、と合点がいった様子の、『真名の雫』の面々。
それとなく耳を傾けていた他のハンターやギルド職員達も納得がいった様子で、うんうん、と頷いて……。
「「「「「「そんなので修行の旅に出たら、死んじまうだろうがあああああっっ!!」」」」」」
ワンテンポ置いて、ギルド中に怒号が響き渡った。
* *
「全く、一体、何を考えて……。そもそも、所属支部のギルドマスターは、どうして黙って旅に出させたんだよ! まさか、黙って出たわけじゃあるまいな!」
あの後、ギルド職員が慌ててギルドマスターを呼びに行き、事情を聞いたギルドマスターに自室へと連れていかれた『ワンダースリー』は、なぜかこってりと絞られていた。
「そもそも、どうしてコボルトとゴブリンを合同で数回討伐しただけで、Cランクになってやがるんだよ! 大体、年齢的にもおかしいだろうが! ええ!!」
そんなことを言われても、困る。
確かに最低年限をギリギリでクリアした後、すぐにあの『ちょっぴり脅迫的な単語が入っていたような気がしないでもない、ギルマスとの話し合い』があり、Cランクになれたのであるから。
スキップ制度でDランクから始まったことと合わせて、普通の……、つまりスキップの要件を満たせるだけの特殊技能も、養成学校もない場合には、こんなに早くCランクになれる者など、そうそういるものではないだろう。
……実際には、ここのギルド支部にはマイルという前例があるのだが、それはこの国には養成学校があるためであり、比較対象にはできなかった。
しかし、『ワンダースリー』には、オリアーナがいる。オリアーナが、こういった事態を予測し、その対策をしていないはずがなかった。
「……これを」
そう言ってオリアーナが背負い袋の隠し物入れから取り出して、ギルマスに差し出したのは……。
「こ、これは……」
そう、それはブランデル王国王都支部のギルマスに書いて貰った、『ワンダースリー』のメンバーが全員Cランクであることの証明書であった。ちゃんと、ギルマスの署名と、ギルド支部印が押してある。……もしこれが偽物であれば、とんでもない重罪である。
そして、ただ単にCランクであることの証明だけでなく、その理由、つまり貴族や富裕層に対する重要案件を大量に、高評価でこなすことによりギルドに対して多大な貢献をしたこと、こと『身分の高い少女の密着護衛』に関しては非常に秀でていることが記されており、ここのギルマスに文句を言われる筋合いはない、ということを証明するには充分であった。
ちなみに、『ワンダースリー』は、国を出るに際しては、別にギルマスに報告したり許可を得たりしたわけではない。
当然である。これは女性近衛第1分隊特捜班の隊員としての、第三王女殿下からの命令による特別任務なのである。ギルマス風情に報告する義務も、許可を得る必要もない。この証明書は、『依頼の遂行中に出会った、私達のことを知らないハンターにおかしな絡み方をされた時のために』と言って書いて貰ったものである。……まぁ、どうせすぐに王宮から調査のために人が行って、とっくにバレているであろうが。
しかし勿論、そんな余計なことを、ここのギルマスに言う必要はない。
「……なる程、そういうわけか……。それで、立派な一人前のCランクパーティとして、修行の旅に……、って、死ぬわ! 死んでしまうだろうがああああぁっっ!!」
そう、その証明書には、『彼女達は子供の護衛特化のCランクパーティであり、対人戦は外見で油断させての一撃、対魔物戦は少数のコボルトとゴブリン以外は経験なし』と、明記してあった。大事なことなので、繰り返して。
つまり、その証明書には、『ワンダースリー』がまともな戦闘能力は殆ど有していない、と書いてあるわけである。
「お前達には、当分の間、採取と雑用、そしてコボルトとゴブリン数匹の討伐以外の依頼は受けさせん!」
「「「えええええ!!」」」
突然、とんでもないことを言いだした、ギルドマスター。
そんなことにされたら、稼ぎはともかく、技量と経験アップが図れなくなってしまう。
「横暴ですわよ! ギルドマスターにそんな権限は……」
「……あるんだよ。馬鹿なハンターが身の程を弁えず無謀な依頼を受けようとした場合、その受注を拒否する権限がな。お前達の討伐実績じゃあ、もし不服申し立てをしたところで、この支部のギルド職員会議もこの国のギルマス査問委員会でも、俺の言い分が通るのは、まず間違いないぞ」
「「「くっ……」」」
討伐実績。
それが『ワンダースリー』の最大の弱点であり、だからこそ、早急にそれを何とかしようと考えているのだ。なのに、それを禁止されては、どうにもならない。
「悪く思うなよ。これは、経験のない若手ハンターが無駄死にするのを防ぐための処置であり、そのためにギルドマスターに与えられた権限だ。
……お前達のためを思ってのことなんだから、そんなに睨むな……」
がるるるる、という顔をしてギルマスを睨むマルセラであるが、ただ可愛いだけで、何の迫力もない。
マルセラとモニカが、何とか反撃の方法はないものかと必死で考えている時、オリアーナは、何も考えていなかった。……いや、とっくに考え終わっていた。
「そういうことならば、仕方ないですよね……。あの依頼は、諦めましょう」
「「え?」」
あっさりとそう言うオリアーナに驚く、マルセラとモニカ。そして、『3人のうちのひとりは、何とか納得してくれたか。あとのふたりも、もう少しで……』と考えている、ギルマス。
しかし、オリアーナは気弱でおとなしそう、かつ思慮深く見えるが、その実、言い争いにおいてはかなり辛辣であり、平然と即死攻撃を放つことができた。……楽しそうな顔をして。
「なので、仕方なく、常時依頼のゴブリン討伐と、通常の素材採取にしましょう。それらであれば、事前に受注処理をすることなく、事後処理と素材の販売だけで済みますからね。
ゴブリンを探している時にオークやオーガが出てきて自衛のために戦ったり、販売用の素材としてオークを狩ったりすることになるかも知れませんが、それは別に『通常依頼』とは関係ありませんからね。
そして、私達がオークやオーガに襲われて大怪我して、母国の登録支部のギルマスや職員の皆さん、ハンターの皆さんに『どうしてそんなことに……』と聞かれたら、『ちゃんと前衛主体のパーティと合同で依頼を受けようとしたのですが、ギルドマスターに禁止されたため、仕方なく自分達だけで……』と説明することに……」
「やめんかああああぁっっ!!」
未成年の少女達に向かって、真っ赤な顔をして思い切り怒鳴ってしまった、ギルドマスターであった……。