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358 出発大作戦 1

「いよいよですわ。おふたりとも、覚悟はよろしいですわね?」

 マルセラの言葉に、こくりと頷く、モニカとオリアーナ。

 そう、明日はいよいよ、彼女達の卒業式であった。

 ……そして更に、彼女達の女性近衛分隊入隊式の日でもあった。

 午前中がエクランド学園の卒業式。そして午後が、近衛分隊の入隊式なのである。

 そう、今は、『決行前夜』。彼女達にとって、この学園の寮で過ごす最後の夜なのであった。


 既に、彼女達の部屋には、元々あった備品以外のものは殆ど残されていない。マルセラとモニカの私物の殆どは、既にそれぞれの家人が昼間のうちに運び出している。

 オリアーナは、この3年で買い揃えた安物の私物は元々使い捨てていくつもりであり、その大半は平民出の後輩達に譲り、その他のものは廃棄処分とした。そんな安物を田舎の実家まで送るくらいなら、ここで捨てて、実家近くの街で買い直した方が、余程安上がりである。


 こうして、彼女達の部屋に残されているのは、明日の卒業式の後で返却する制服一式と、私服ひと揃い、そして背負い袋ひとつに収まる程度の荷物だけであった。

 ……ちなみに、卒業時には、制服等は全て返納することになっている。元々、『貸与』としての支給品なのである。

 記念に買い取りたい、という者も毎年かなりの人数となるが、制服が悪用されるのを防ぐため、それらは一切許可されない。

 なので、マイルが持ち出した2着については、本当はかなり問題なのであるが、事情が事情であるため不問とされた。……というか、回収が不可能であるため、黙認する以外にどうしようもなかったというだけであるが。


 今まで、3人で何度も検討を重ねた作戦である。今更、どうこういうことはない。

 3人は、再度頷き合うと、明日に備えて充分な睡眠を取るためにそれぞれの部屋へ戻った。

 話す機会は、いくらでもある。

 そう、明日からの、長い旅路の間に……。


     *     *


「私達は、新たな世界へと出発します!」

「「「「「「出発します!!」」」」」」


 ありふれた、卒業式。

 それも、王族や上級貴族の子女、下級貴族の跡取りや大規模商家の子女が通うアードレイ学園ではなく、下級貴族の跡取り以外の者や、中規模商家の子女、そして奨学金特待生である貧乏な平民等が通う、エクランド学園の卒業式である。来賓も父兄も、殆ど参列することはない。

 ……例年であれば。


 そう、『例年であれば』、である。

 今年は、何故か、来賓席も父兄席も満席である。

 それはなぜか。

 おそらく、来賓席に国王夫妻、両王子、その他大臣やら上級貴族のお歴々が鎮座ましましているからであろう。


『例の少女』の親友にして、女神に愛されし奇跡の少女達。

 美少女揃いで、攻撃魔法の使い手で、第三王女の親友にして、初の試みである王女護衛のための特別親衛隊、『女性近衛分隊』の創設メンバー。しかも、その中のひとりは、両王子がかなりの興味を持っているという、将来の王太子妃第一候補である。

 そしてその卒業式に、国王夫妻と両王子、その他国の重鎮達が出席すると聞いて、その少女達のクラスメイトや同学年の者達の親が、出席しないわけがない。

 顔繋ぎができる可能性があり、また、後々彼女達と話す機会があった時に、話題にもできる。こんな機会を逃すような貴族や商人がいるはずがなかった。


 そして、式次第は粛々と進み、卒業式は終了した。例年の如く、何事もなく……。


     *     *


「行きますわよ!」

「「はい!」」

 卒業生代表とか、答辞とかをやらされたマルセラとオリアーナであるが、これからのことに較べれば、そんなもの、欠片ほどの緊張すらしなかった。完璧にそれらをこなし、次は近衛分隊の入隊式に向かわねばならないのである。

 近衛の制服は、ここにはない。王宮へ行き、そこで受け取って着替えねばならないのである。

 採寸は終えているので、ぶかぶかの制服を渡されるようなことはあるまい。着付けも、先輩達が手伝ってくれることになっている。

 ……今まで女性のみの近衛分隊はなかったが、別に、女性の近衛兵が全くいないわけではない。数は少ないものの、男性達に交じって活躍している女性近衛兵は存在し、そのおかげで今回の女性近衛分隊創設もハードルがかなり低かったのである。これが、男性のみの役職であったなら、こうはスムーズにはいかなかったであろう。


 各自の部屋で私服に着替え、脱いだ制服をベッドの上に置くと、背負い袋を背負い、急いで王宮へと向かうマルセラ達。昼食は、抜きである。

 来賓や父兄達が昼食会で交流を深めている間に、入隊式の準備やリハーサルをしなければならないので、時間がない。昼食会に出ている人々のうち、かなりの人数が午後の入隊式にも出席する人達なのである。

 ……但し、マルセラとモニカの両親は、入隊式には来ない。

 当たり前である。学園の卒業式はともかく、就職先の入社式に親がついてきては、堪らない。

 そしてオリアーナの両親は、卒業式にも来ていない。卒業式くらいで田舎から王都に来るほど、お金に余裕がないからである。地方の農民としては、ごく当たり前のことであった。


     *     *


「こんなものかしらね……」

 先輩の女性近衛兵に手伝ってもらい、何とか支給されたばかりの制服を身に着けたマルセラ達。

 今日は式典なので、実戦用の装備ではなく、華美でカッコいい女性用の制服である。

 そして周囲には、マルセラ達以外の女性近衛分隊入隊者である少女達もいる。皆、貴族や高級軍人の子供達であり、幼少の頃から、あるいは今回の女性近衛分隊の話が出てから大慌てで、武術や攻撃魔法等の訓練を行い、少なくとも自らの身をもって王女殿下を護り、男性近衛が駆け付けるまでの数秒間を稼ぐだけの意思と技術を身に付けた者達である。……そのはずであった。


 マルセラ達は、制服と、それに付随する品々の他に、ふたつのものを支給されていた。

 剣。……そして短剣。

 レーナやポーリン達、ハンターの魔術師の大半は、魔法を使うことが中心であり、詠唱に集中したままで何も考えずに振り回して自分の身を護れるよう、使用武器にスタッフを選択している。

 しかし、『出番が来ることなど滅多になく、そしてその時には自分の命を護る必要はなく、護衛対象を護ることと敵を倒すことに全てを懸ける』というならば、殺傷力が大きい剣を装備するということに、何のおかしなところもない。

 ただ呪文にのみ集中し、呪文が間に合わないか、魔力が尽きた後は、ひとり一殺。武器が剣であれば、敵のひとりと刺し違えることくらいできるかも知れないのだから。


 近衛兵の仕事は、自分が生き延びることではない。護衛対象を護り、生き延びさせることであり、そのためであれば、自分の身体も命も、使い捨ての投げナイフのように消費する。それが、『近衛』というものであった。

 毎日のように戦うハンターや、大勢の敵と戦い続ける普通の兵士であれば、『自分の身を護り、自分が死なない』ということが最優先であるが、近衛兵はそうではないのである。


 短剣は、剣の予備サイドアームとして。

 剣を振り回すには狭すぎる場所で、あるいは水中等の剣では戦いづらい場所での戦いに備えて。

 一般的に剣士が剣が折れた場合に備えて予備に持つ短剣よりはずっと短いが、ナイフと呼ぶには明らかに長すぎるその短剣は、マルセラ達にとってはそこそこの長さであった。……剣に至っては、『少し』どころではなく、明らかに長すぎた。

 しかし、それも仕方あるまい。

 他の女性達は16~20歳くらいであるが、マルセラ達3人は、まだ13歳になってからそれほど経っていない、未成年の少女達なのであるから……。


「さ、行きますよ!」

 そして、先輩の女性近衛兵に率いられ、入隊式の会場へと移動する新人女性近衛兵達であった……。



『ワンダーフェスティバル2019冬』、終了致しました。

そして、カオルフィギュア(3Dプリンタによる市場調査用試作品)5個、開場から8分で瞬殺。

マイルフィギュア15個(前回からの通算、16~30個目)、残、2個。

皆様、ありがとうございました!


マイル「87パーセントなら、完売も同然ですよ! 30パーセントで『全滅』、50パーセントで『壊滅』なんですから!」


カオル「戦闘部隊の損耗率とは違うでしょ……」


マイル「うるさいですよっ! 私1体の、6分の1の価格だったくせに!」


カオル「な、なっ……」


ミツハ「まぁまぁ、ふたりとも、落ち着いて……」


マ・カ「「フィギュアを造っても貰えなかったヤツは、引っ込んでろ!!」」


ミツハ「な、ななな……。夏フェスには! 夏フェスには!! うわああぁ~~ん!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] アデル(マイル)×カオル×ミツハがバトルしたら、世界を選ばないミツハが一番有利なんじゃないでしょうか? アデル(マイル)はナノマシンが居ないと近接戦でしか勝ち筋がなく、カオルもセレスの管理(…
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