352 山に潜むもの 8
「さて、じゃあ、次はゴーレムの方ですか……」
マイルの言葉に、こくりと頷くレーナ達3人。
「勿論、あの連中のように、戦って追い払ったり、殲滅したりはしませんけどね」
こくこく
「それに、そもそも、ゴーレム達があとからその『聖地』とやらを占拠したわけじゃないでしょうからね。多分、そこは元々ゴーレム達がいた場所だと思うんですよねぇ、私の推測だと……」
こくこ……
「詳しく聞かせて貰おうかしら、あんたのその『推測』とやらを……」
レーナに催促され、マイルは3人に自分の推測を話した。今までに得ていた情報に、先程男達から聞き出した情報を加えて考察した、その推測を……。
「多分、ここはあの、魔族達が調査していた岩山と同種のものです」
「……と言うと、地下にゴーレム達がいる遺跡がある、ということかい?」
メーヴィスの質問に、こくりと頷くマイル。
「元々、ゴーレムは魔物としては異質なんですよ。他の魔物達は、『魔物』という区分に入れられているだけで、まぁ、言ってみれば、普通の動物です。大きさや強さに違いはあっても、血肉があって、仔を産んで増える……。
でも、ゴーレム、そしておそらくスカベンジャーも、身体は血肉ではなく、そして『修理』により修復される……。つまり、それは……」
「「「それは?」」」
「作り物です。そう、メーヴィスさんの左腕と同じく、高度な技術によって作られたものです」
レーナ達には、マイルの言う『高度な技術』というのは、魔法技術のこととしか思えなかった。
しかし、別にそれでもいい。それらが、『魔物ではなく、知的生命体によって作られたもの』だと認識してくれれば、マイルが説明しようとしていることを理解するには充分である。
「人間、もしくは人間以上に優れた者達によって作られた、生物のように動く作り物。それがゴーレムです。そして、戦闘を担当するゴーレムに対して、その整備や修理を担当する、技師に相当するのが……」
「スカベンジャー、だね?」
剣士であるが基礎素養は高いメーヴィスが、その先を答えた。
……というか、以前の遺跡でゴーレムを修理するスカベンジャーをみんなで目撃したのであるから、分かって当然であった。
「だから、色々なものを修理したり製造したりするために、金属が必要、と……」
「はい、ロックゴーレムは胴体中心部の球体以外は岩で作られていますが、それはおそらく、製造や修理に金属資源をあまり必要としないから、消耗品としての戦闘機械には都合が良いからでしょう。そして貴重な金属は、中心部の球体や、他の用途に……」
「そして、ゴーレムは他の魔物と対立している、ってわけね?」
レーナも、さすがに状況を理解したようである。
「はい。まぁ、『他の魔物』と言っても、ゴーレムはそもそも魔物じゃないでしょうけどね」
「それで、ゴーレムは常にスカベンジャーと一緒にいるわけですか……」
「というか、スカベンジャーが一緒にいないゴーレムは、人間や魔物との戦いで壊れたり、経年劣化や摩耗とかでしだいに数が減って、数百年もすれば全滅するんじゃないですかねぇ? だから、結果的に、スカベンジャーが一緒にいて修理設備があるところ以外にはゴーレムは現存していないのではないかと……」
「あ、なるほど……」
ポーリンも、マイルの説明に納得したようである。
「どうやら、ここのゴーレムは敵対行動を取ったり向こうの重要区画に無理矢理侵入したりしなければ急に襲い掛かってきたりしないようですから、そのあたりに注意しつつ、そろりそろりと行きましょう!」
「どうしてそんなに楽観視できるのよ!」
マイルのあまりの暢気さに、呆れた様子のレーナ。
しかし、マイルはそれに軽い調子で返した。
「だって、教祖様とやらが呪文を授かった、ということは、何らかの記録があるところまで行けたということですよね? ゴーレムやスカベンジャー達が本拠地をガラ空きにするとは思えませんから、ゴーレムも教祖様も無事だったということは、それはつまり、戦うことなく目的の場所に行けた、ということなのでは?」
「「「あ……」」」
こういう方面では、マイルの思考は明晰であった。
「……ま、全部、推測の積み重ねに過ぎないんですけどね!」
「「「あ~……」」」
せっかくの今までの話が、台無しであった。
「でも、それは確認すればいいだけのことだろう?」
さすがメーヴィス、リーダーだけのことはある。
「とりあえず、子供達のところに戻って状況を説明してから、ゴーレム達がいる方へ行くとしよう」
皆、メーヴィスの言葉に頷いた。
もしゴーレムと戦いになったとしても、今の『赤き誓い』であれば、無傷で現場から離脱できるはずである。……おそらく。
* *
「……来ます、前方から、ゴーレム4体!」
あれから子供達のところへ戻り、『男の人達と仲良くなって、酒盛りして、帰した』と言ったら、『何だよ、そりゃあああ!』と呆れられた、マイル達。
いや、嘘は言っていないし、大真面目なのであったが……。
そして、4人だけで、再び出撃したのであった。
「動きは、ゆっくりと。杖は軽く握るだけで、力を込めずに……」
ゴーレム達がそのあたりをどこまで認識するのか分からないが、用心するに越したことはない。
杖はマイルの収納に、と考えなくもなかったが、万一の時、杖の有無が生死を分けるかも知れないと考えると、皆、レーナとポーリンは杖を持ったままの方が良いと判断したのであった。
ゴーレムを杖で殴っても攻撃効果はないが、向こうの打撃を受け流したり、杖で受けて、その力を利用して後方に飛ぶことにより被害を局限する等、杖があると無いでは大違いである。
そして、木々の間からゴーレム達が姿を現した。
「マイル!」
「はい!」
レーナの指示で、マイルが収納から金属製のものを取りだした。例によって、盗賊の錆びた剣とか、鍋とかである。マイルは、いったいどれくらいの盗賊の剣と鍋を持っているのか……。
そして、地面に置いたそれらのものを、ずいっとゴーレム達の方へと押し出して。
「ちちちちち……」
「小鳥かっっ!」
レーナに頭を叩かれるマイル。
「怖くない、怖くない……」
「真面目にやんなさいよっ!」
再び、レーナに頭を叩かれるマイル。
マイルにこんなに余裕があるのは、ゴーレム達が停止しているからである。さすがのマイルも、ゴーレムが接近を続けていたら、こんな時にそんなボケはかまさない。
そしてゴーレム達が停止してからしばらく経つと、アレがやってきた。
そう、『シャカシャカ様』こと、スカベンジャーである。
スカベンジャーは、マイルが差し出した金属類を4本の手で掴むと、マイル達をじっくりと眺め、そして反転して去っていった。そしてゴーレム達も、すぐにその後に続く。……但し、あっという間に姿を消したスカベンジャーとは違い、ゆっくりとした歩みで。
「ついていきますよ!」
「「「おお!」」」
そして、ゴーレム達のうしろについて歩く、『赤き誓い』の面々。
「「「「…………」」」」
自分達についてくる『赤き誓い』に気付いてはいるが、特に気にした様子もないゴーレム達であるが、それも、しばらくの間のみであった。
ある場所まで行くと、ゴーレム達が立ち止まり、振り向いて、『赤き誓い』に対して威嚇するように腕を振った。
「どうやら、ここまでのようですね……」
ポーリンが困ったような顔でそう言ったが、マイルは平然としていた。そして……。
「はい!」
どん!
収納から穴の空いた鍋や錆びた剣を取りだして、地面に置いた。
いったい、どれだけ溜め込んでいるというのか。錆びた盗賊の剣はともかく、焦げ付いて穴の空いた鍋を……。
そして……。
ずいっ!
自分達の方へと押し出された金属類を見て、ゴーレム達が動きを止めた。