351 山に潜むもの 7
「ぜぇぜぇぜぇ……。みんな、無事か!」
「はい、全員揃っています。ひとり、足を挫きましたが、大したことはありません。治癒魔法で痛みも治まっています」
何とか4体のゴーレム達から逃げ延びた男達は、やっと休憩してひと息入れていた。
元々ここのゴーレム達は、自分達に気付いて逃げる者はあまり深追いしないという習性を持っていたようである。全てのゴーレムがそういう習性を持っているというわけではないが、この地域のゴーレムは、どうやら少々変わっているらしかった。
「今まで1体ずつしか現れなかったのに、どうして4体も一度に出てくるんだよ! 話が違うだろうが、話が!! くそっ!」
男達のひとりがそう言って毒づくが、それを言っても仕方ない。いくらゴーレムが群れることなく単独行動する魔物だといっても、この男達が大勢で1体ずつ狩りまくったせいで、対応策をとったのであろう。
「……魔物が、それも、何も考えていなさそうなゴーレムが、対応策、しかも他のゴーレムと共同で、だと……」
信じられない、という表情でそう呟く、ひとりの男。
「たまたま、ということは……」
「いや、今まで、戦闘中に他のゴーレムが現れることはあったが、あれは、偶然とか、戦闘の音に惹かれて寄ってきただけだ。最初から複数で、それも4体もが一緒に行動しているゴーレムなんか、聞いたことがない。
やはりこれは、俺達が1体ずつ狩りすぎたせいで……」
「「「「「…………」」」」」
が~ん、という様子の、男達。
無理もない。以後の計画が、完全に狂ってしまったのだから。
そして途方に暮れた男達に、突然声が掛けられた。
「あれ、ハンターの皆さんですか?」
そう、それは、充分な間隔を空けて、探索魔法を使いながら追跡してきた『赤き誓い』の面々であった。
「魔物が少ないここにこんなに大勢で来られたということは、ゴーレム狩りですか?
凄いです、あの固くて耐久力があって馬鹿力のゴーレムを狩れるなんて……」
最初に声を掛けたメーヴィスに続き、マイルが感心したようにそう言うと、男達は少し気を良くしたようである。
こんな若い、そして美少女揃いで身綺麗にした盗賊なんか、いるはずがない。
そして、もしそんなものがいたとしても、商人相手ならばともかく、14人もの武装した者相手にわざわざちょっかいを掛けるとはとても思えない。高価な荷物を運んでいるというわけでもないのに……。
そういうわけで、この少女達が自分達に敵対したり危害を加えたりする可能性は皆無、と判断した男達は、全くの無警戒であった。
「あ、いや、ハンターというわけではないが、自分達の鍛錬のためにな。それに、この辺りを縄張りにしている魔物を減らせば、少しは周辺住民のためになるかと思ってな……」
このグループの纏め役らしき男が、少し照れながら、そんなことを言ってきた。
可愛い少女達に絶賛されて、いい気分にならない男はいない。特に、普段あまりモテない男達は……。
((((チョロい!))))
ポーリンの作戦案に従い、レニーちゃんの宿で鍛えた『お客さんヨイショ接客術』を駆使した『赤き誓い』に、敵はない。
そして、男達をジロジロと眺めるポーリン。
「……この中に、純粋な人間じゃない人はいますか?」
「……え? いや、いないが……」
少し警戒したような顔になった纏め役の男が、様子を窺うようにそう答えると、横からレーナが説明した。
「よかった! 私達、人間以外の似非ヒト族であるエルフやドワーフは勿論、獣人や魔族とか、大嫌いなのよね。神が自ら創りたもうたのは人間だけで、他の種族は、人間を模して悪魔が創った穢れた種族なのよね……」
マイルが、それまでに集めた情報からそれらしくでっち上げた新説であり、一部の人間至上主義者や差別主義者以外の者が聞けば、眉をひそめる言葉である。
そして、それを聞いた男達は……。
「「「「「おおっ!」」」」」
喜びに、眼を輝かせていた。
世間で公に口にすれば非難される自分達の教義に、ごく普通の女性達が自力で辿り着き、それを堂々と口にしている。何たる英知、何たる勇気!
……そして、若くて可愛い。
「ちょ、ちょっと、ゆっくり話をしていかないか?」
* *
「そう、そうだとも! 我らを見捨てたもうて姿をお隠しになられた神々に代わり、新たな神々をお迎えし、加護を願うのだ! 分かっておるではないか、わはははは!!」
マイルがアイテムボックスから出して提供した、酒精の強い蒸留酒と美味しい料理、そして可愛い少女達のお酌と持ち上げに、武器防具を身に着けたまま山の中を全力で走るという激しい運動をした直後である男達は、急速に酔いが回っていた。
「うむ、穢れた者共を贄として、異界より新たな神々をお迎えし、その褒美として眷属に加えて戴き、我らの価値に気付くことなく冷遇しおった愚民共に思い知らせて……」
((((あ~、あの連中の一味だわ~……))))
確実であった。
あとは、情報を収集するのみ。
「ゴーレムを倒すの、鍛錬以外の目的もあるんでしょう? どんな崇高な目的なのか、聞きたいなぁ……」
ポーリンが、遂に勝負に出た。
胸を強調した仕草での、カマかけ。
きっと、今夜はこれを思い出して、恥ずかしくてのたうち回り、眠れないに違いない。
(ポーリンさん、無茶しやがって……)
マイルは、心の中で、そっと涙を拭った。
そして、酔いの廻った男は、簡単に口を滑らせた。
他の男達も、マイル達を完全に同志のように思っているため、それを止めようとはしない。逆に、自分達の株を上げようと、喜んで説明に加わった。
今のところ、別に犯罪行為を行っているわけではないし、自分達は正しいことをしていると信じているのだから、自分達の話を喜んで聞いてくれる女の子達に話してはいけない理由はない。
「ああ、実は、仲間達が他国で行った重要な儀式が失敗しちまってなぁ。次の儀式までにその原因を究明すべく、お亡くなりになった教祖様が悟りを開かれ、神々をお招きする呪文を授かったとされる聖地の場所を必死で探し、ようやく辿り着いたのが、ここ、ってわけだ。
そうしたら、目的の場所にゴーレム共が住処を作っていやがるもんだから、追い払うか殲滅するかしかなくてなぁ……」
ぴこ~ん!
((((情報収集、完了~~!))))
あっさりと完了した。
あとは、この連中を追い払うのみ。
いや、別に犯罪を犯したわけでもなく、魔物であるゴーレムと戦っただけ……今回はそれさえもしていないが……の連中を、攻撃したり捕縛したりするわけにはいかない。そんなことをすれば、こちら側が犯罪者である。
なのでここは、穏便にお引き取り戴くしかない。
「今回は、4体ものゴーレムが出たんですよね? もし私達が出会っていたら、全滅間違いなしでしたよ。皆さんが戦って追い払って下さったので、本当に助かりました。皆さんは、私達の命の恩人です!」
「ふ、ふはは、何、大したことはない。あれくらい、軽いものだ」
「そうだぞ。いつでも我々に助けを求めるがいい。信条を同じくする同志であれば、すぐに助けに参上するぞ!」
「勿論だとも!!」
皆、いい具合に酔いが回っていた。
「はい、今回は、本当にありがとうございました! でも、私達はもう引き揚げますし、皆さんもお酒を召して酔いが回られておりますから、今日はもうお引き揚げになって、また後日来られては如何でしょうか?」
「う……、うむ、それもそうだな。皆、少々飲み過ぎたようであるしな……。よし、今日はこの良き出会いのみで充分な成果であるとして、引き揚げるか!」
「「「「「「おお!!」」」」」」
男達は、酔ってはいても、4体のゴーレムと戦うのは真っ平だと思っていた。しかし、このまま逃げ帰るのは矜持的に忸怩たる思いであったが、期せずして、堂々と引き揚げられる恰好の理由が提供されたのである。内心、大喜びであった。
なので、ポーリンの言葉に満場一致で賛同した。
* *
「「「「計画通り……」」」」
お前達も気を付けて帰れよ、との言葉を残して引き揚げる男達の後ろ姿を見送りながら、にやりと嗤うマイル達。
「しかし、これ、どうしましょうか……」
そう言って、困ったように手の中の紙束を見るマイル。他の3人の手の中にも、同じような紙束が握られている。大半は質の悪い紙であるが、中にはかなりの上質紙や、羊皮紙も交じっている。
……そう、男達が、『いつでも連絡しなさい』と言って、自分の連絡先を書いて渡してきたのである。
ひとりがそうすると、俺も俺もと、全員が真似をして、それぞれが書いたものを無理矢理4人の手に押し付けたのであった。
「……ま、何かあった時には、容疑者達のリストに使えるから、いいんじゃないの?」
そして、レーナの言葉にこくこくと頷く、ポーリンとメーヴィスであった……。
来月、2月10日(日)に幕張メッセで開催されます、『ワンダーフェスティバル2019年冬』において、こみの工房様から『マイルフィギュア』(前回、2018年夏にデビューした作品の再販)に加え、新作、『カオルフィギュア』が登場!(^^)/
ひとつひとつ製作するため、数は僅かです。
……眼は、自分の好みで塗ろう!(^^)/
その他、スペースマミー、マッキー1号~3号等、ウルトラメカも多数あり!
そして、『平均値』コミックス、1~3巻、全巻の重版が決定!
じわ売れが続いており、既刊まとめて重版です!(^^)/
これも、読者の皆さんのおかげです。ありがとうございます!m(_ _)m