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349 山に潜むもの 5

 ある日、どこからかやってきた、怪しい男達。

 どこが怪しいかと言うと、服装も装備も年齢もバラバラで、マントだけが、お揃いの黒いマント。

 剣士や槍士等の前衛職と魔術師との混成で、あまり連携が取れているようには見えなかったらしい。

 そして、そのくせそこそこ強く、ゴーレム達とかなりまともに戦えていたらしい。

 その男達は、執拗にゴーレムと戦い、子供達の存在にも気付いてはいるのに、別に手を出そうとすることはなく、逆に、時々、引き揚げる時に余った食料を置いていってくれたりするらしい。


「何よ、それ! いい奴らなんじゃないの!」

「うん、僕たちにとっちゃあ、いい人達だよ。でも、ゴーレム達も、僕たちにとっちゃあ、恩人だからね……」

「あ、そうか……」

『人』ではないが、『恩ゴーレム』である魔物と、自分達にちょっとした厚意を示してくれる、怪しい男達。

 いや、『怪しい』とは言っても、魔物であるゴーレムと戦うならば、それは、世間一般では『良い行い』である。ハンターも、たまにはゴーレムと戦うことがある。

 普通は、ゴーレムが人里に降りてくることはないし、肉や毛皮が採れるわけでもないし、唯一の換金部位である関節部の球体も、重くて運びづらい割には買取価格が低くて効率が悪いし、そしてその割にはかなり強いため、岩トカゲ狩りの連中がたまたま出会って戦闘になる以外には、腕試しの若手ハンターくらいしか挑む者がいない。


「個人個人はそこそこ強いのに、連携がうまく取れていなくて今ひとつ、というならば、そこを鍛えるための訓練に来ているんじゃないのかい?」

「「「あ!」」」

 メーヴィスの指摘に、ぽん、と手を打つレーナ達。

 確かに、それならば納得できる。

 ゴーレムであれば、練習台としてたくさん倒しても、生き物っぽくないから罪悪感もあまり感じずに済むし、そこそこ強くて頑丈だから、練習相手としては最適である。ゴーレムの生息地にはハンター達もあまり近付かないから、他の者に迷惑を掛けたり生態系を崩す心配もない。……既に、ゴーレムの存在そのものが周辺地域の生態系を崩してしまっているのだから。


「じゃあ、何も問題はないんじゃないの? 子供達には危害は加えず、ゴーレム相手に戦いの訓練をしているだけの、真っ当な連中なんだから。ゴーレムにとっちゃあ、まぁ、迷惑かも知れないけれど、魔物なんだから、そりゃ仕方ないでしょ」

「う~ん、まぁ、そうだよねぇ……。とりあえず、私達の依頼任務は完了かな。状況と、子供達に危険はないということが確認できたわけだから……」

 レーナとメーヴィスの言葉に、ポーリンも頷いた。

 ……しかし、なぜかマイルが難しい顔をしている。


「う~ん、お揃いの黒いマントで、そこそこ強いくせに、連携や駆け引きはあまり上手くない。

 ……何か、どこかで聞いたような……」

 マイルが首を捻るが、どうにも思い出せない。

「あ……」

 すると、マイルの独り言を聞いていたポーリンが声を上げた。

「あれです、ファリルちゃん誘拐事件の時の……」

「「「あああああああっっ!!」」」

 そう、確かにそれは、あの時の怪しい宗教団体の連中の特徴であった。

 服装や装備の全てを統一するほどのことはしておらず、黒のマントだけをシンボルとして統一していた、あの、人間至上主義の邪神教徒達。

 そういえば、確かに彼らは、あの宗教の発祥の地はずっと東方の国だと言っていた。そしてここは、あの国、ヴァノラーク王国から見ると、かなり東になる。充分、『ずっと東方の国』である。


「そう言えば、確かにあの連中は、獣人であるファリルちゃんには冷たかったけれど、人間であるお友達の女の子、確かメセリアちゃんだっけ、あの子には危害を加えたりしなかったのよねぇ。

 あの子の口を塞いでおけば、犯行が発覚するのを大幅に遅らせることも、目撃証言をなくすこともできたというのに……」

「はい、つまり、人間に対しては結構誠実で、そう悪い人達ではない、ということに……」

「いやいや、何言ってるんだよ、ヒト種である人間、エルフ、ドワーフだけでなく、獣人や魔族も、今じゃみんな同権だよ! 獣人であるファリルちゃんを生け贄にしようとした連中が、誠実だったり悪い人達じゃなかったりして堪るもんか!!」

 レーナとポーリンの話の方向に、大声で異議を唱えるメーヴィス。マイルも、ぶんぶんと首を縦に振っている。


「「あ……」」

 メーヴィスの抗議に、レーナとポーリンが、バツが悪そうな顔をした。

 ふたりは、決して他の種族を下に見る、いわゆる人間至上主義者などではない。それでも、あの連中が他の種族の者を生け贄にすることは躊躇わなくとも、人間の子供には自分達が不利になることを承知で危害を加えることを避けようとしたという点は、つい良いように評価してしまうのであった。

「……『不良が野良猫に餌をやる現象』ですね……」

 マイルが何やら言っているが、勿論、他の者には理解できないため、スルーされた。


「とにかく、状況が変わりました。もしここに来ているのが『あの連中』の一味であった場合、ここであの儀式をやろうとしているのかも知れませんし、同様の他の悪事を企んでいるのかも知れません。それに、あまりゴーレムに喧嘩を売り続けられると、ゴーレム達が人間全体を敵だと認識してしまい、子供達が襲われるようになる可能性もないわけではありませんし……」

 マイルの言葉に、子供達が顔色を変えた。

 確かに、ゴーレム達が人間をどのような枠組みで分類し、線引きしているのかなど、誰にも分からない。子供達と、自分達を襲う大人達は全く別の集団だと認識しているのか。それとも、同じ『この山に存在する人間』として一纏めに認識しているのか。

 もし、後者であるならば……。

 マイル達も、向こうのことを『この山にいるゴーレム』としか認識しておらず、ゴーレムの中にも派閥や種族があって、中には自分達に味方してくれるグループもあるかも、などと考えたりはしていない。ならば、向こう側もそうであっても、何の不思議もない。


「とにかく、このまま帰るわけにはいかなくなったわね」

「はい、その人達に会って、あの連中の一味かどうかと、ここで何をしようとしているのかを確認する必要がありますよね。でないと、本当にこの子達が安全なのかどうかは判断できませんから……」

 レーナとポーリンの言葉に、マイルとメーヴィスも頷いた。そして、ふたりの言葉に続いて……。

「もし連中の一味だとすれば、私達には、圧倒的に有利なことがありますしね」

「ああ。私達は連中のことを色々と知っているけれど、」

「「「「向こうは、そのことを知らない!!」」」」


 そう、自分達の一派がヴァノラーク王国でヘマをしでかして一網打尽になったこと、重要な儀式が大失敗に終わったことくらいは当然知っているであろうが、それに関わったふたつのハンターパーティのことや、その片方が今、ここにいるということなど、連中の仲間達は知る由もない。

 なので、子供達の支援を依頼されてたまたまやってきただけの新米少女パーティ、ということで、偶然を装って接触すれば、純血の人間ばかり、それも半数は未成年(に見える)の少女達は、彼らにとっては自分達の立場を不利にしてでも守るべき存在なのであろうから、楽勝である。

 それに、今の彼らは、別に違法行為をしているわけではない。なので彼らは、たまたま山中で出会ったからといって、とても盗賊には見えない少女達を過度に警戒する必要はないはずである。


「あ」

 突然、ポーリンが何やら声を出した。

「どうしたのよ?」

「いえ、その人達が連中の一味ならいいんですが……」

「いいのかい!」

 メーヴィスが突っ込んだが、ポーリンはそれをスルーして話を続けた。

「全く関係のない、ただの山賊とか裏社会の者達が戦闘訓練をしているだけで、そこに妙齢の美少女達がのこのこと現れたら……」

「「「あ……」」」


 その時、子供達のひとりが、みんなに問い掛けた。

「お姉ちゃん達、結構図々しい?」

「「「「うるさいわ!!」」」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結構じゃなくて、か〜な〜りです。子どもも気を遣うんですよ。餌をくれる人間にはね。例外は1人いますけど。(メーヴィス)
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