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346 山に潜むもの 2

「……で、何の用よ?」

 食事が終わっても、あくまでもレーナはマイペースである。村長如きに敬語を使うような女ではない。

 別に、敬語を使えないというわけではない。父親と一緒に行商をしていた頃は、お客さんに対してはちゃんと丁寧な話し方をしていた。しかし今のレーナが敬語を使うのは、貴族相手、それも、自分達に敵対する者を除いて、くらいであろう。

 まぁ、ハンターの多くがそんな感じであるので、仕方ない。特に虚勢を張らざるを得ない者、自分に自信がない者ほど、強い態度に出たり、乱暴な言葉を使ったり、そして偉そうな話し方をしたりするものである。


「あ、ああ、まずは、話を聞いてくれ」

 他の客達も食事を終え、食堂には、『赤き誓い』と村長達だけである。宿泊客以外は、夕食の開始時間になるとすぐに来る常連客くらいであり、マイル達より後に来た客はいなかった。

 そして当然ながら、この宿の者達は村長の顔を知らないわけがなく、『赤き誓い』のテーブルに隣席の椅子を寄せて座った村長達に水が入ったカップを出し、ごゆっくり、と言って厨房の奥へと引っ込んでいた。

 そして、村長と名乗った老人が話し始めた。どうやら、強い態度に出て主導権を握ろうとする作戦は断念したらしく、普通に初対面のハンターと話すような口調である。

 そして、その話によると……。


 この村から、街道と垂直方向に数時間歩いたところに、とある山がある。

 いや、勿論、山間部であるこのあたりは全周が山々であるが、その山は、少し問題がある山であった。

 その山は昔から、ゴーレムが出る山なのであった。

 他の場所と同じく、ゴーレムはその山を含む一定範囲から出ることはなく、その数が増える様子もないことから、それは村人達にとっては何の問題もなかった。周り中が山である村にとって、ひとつの山に近寄らないことくらい、何のデメリットもない。しかも、それがかなり離れた場所となると、本当に、欠片ほども困ることはなかったのである。

 別に、その山にしかない資源があるとか、特別な薬草や獲物が獲れるというわけでもなく、ありふれた、ごく普通の山なのであるから。


 そこに、ある日、子供達が住み着いた。

 いわゆる、浮浪児というやつである。

 本当は、橋の下であろうが河原の草むらであろうが、同じ場所で寝泊まりしているならば、それは『浮浪児』ではなく『ホームレス』というらしいが、まぁ、細かいことは気にしない。

『孤児』と言うと孤児院の子供達と混同してしまうためか、このあたりでは皆、子供達だけで暮らしている者達のことは、定住しているかどうかとは関係なく『浮浪児』と呼ぶのが通例らしい。まともな住居ではなく、廃屋か掘っ立て小屋、もしくはただの草むらや木の下で寝起きしている連中を指す言葉として。


 とにかく、縄張りに入っているはずなのに、なぜかゴーレム達に襲われることなく暮らしている子供達もまた、村人達にとっては、何の迷惑をかけるわけでもない、無害な存在であった。子供達が採取したり狩ったりする程度の山菜や小動物くらい、村人達には何の影響も与えないし、そこは元々村人達が近付かない場所なのであるから……。

 そして村人達の中には、不要となったものをわざわざその山まで『捨てに行く』者もいるらしかった。


 そんな『特異ではあるが、特に問題ではない山』が、最近、何やら不穏な状況らしいのである。

『不要になった衣服や鍋、固く焼き過ぎたパンなどを捨てるために』、いつものようにその山を訪れたお人好しの村人が見たという、数人の怪しい男達。

 そしてこちらから攻撃を加えるか、縄張りに近付かない限り襲ってこないはずのロックゴーレムがその連中と戦い、男達が撤退したという。


「あの山は、ロックゴーレムが住み着いているから、獰猛な魔物はあまりいないのだ。いるのは、自分からはあまり人間を襲ったりしない、温厚であったり動きが遅かったり草食だったりの、まぁ、比較的安全なものが多い。岩ウサギとか、岩蛇とかな。

 ……岩オオカミもたまに出るが、そんなに多いわけではない。気性の荒い魔物は、すぐにゴーレム達が追い払うらしいしな。

 それでまぁ、何が言いたいかと言うとだな……」

 そう言って、村長は『赤き誓い』に対して頭を下げた。

「不審な男達と、人間を襲い始めたらしきゴーレムについて調査し、やっと居場所を見つけたらしい浮浪児のガキ共に危険がないか、確認して貰いたい、ということだ」

 そう言って、『赤き誓い』の4人の顔を順に睨み付ける村長。


「ロックゴーレムと戦っていたという男達の目的が分からん。あそこには金目の物など無いし、子供達を攫って違法奴隷に、というつもりも無さそうだ。

 しかし、ロックゴーレムが人間を敵とみなして子供達を襲い始めるとか、戦いに巻き込まれるとか、考えられる危険はいくらでもある。

 だが、事情も状況も分からないのでは、ハンターギルドに依頼を出すこともできん。

 もし今の状況で依頼を出すとしても、街から遠いここで、危険度も分からない依頼など、どれだけの報酬を出さねばならぬことか……。

 村に危険があるわけでもないのに、無関係の浮浪児達のために大事な村の資金を使うことはできん。なので、たまたま立ち寄ったハンターに安い報酬額で調査を引き受けて貰うことしか出来ぬのだ……。

 銀貨53枚。これで、引き受けて貰いたい!」

 どうやら、村長が皆を睨むように見ていたのは、悪意からではなく、歯を噛みしめながら感情を押し殺していたためのようであった。




 ある場所に街ができるには、それなりの理由がある。

 街道が川と交わっている地点だとか、主要街道が交差している場所、有名な観光地、港、鉱工業その他の産業が盛んな場所、防衛上重要な地点、そして主要街道の一定間隔にできる、宿場町。

 旅客馬車が1日に進む間隔、同じく荷馬車が1日に進む間隔でそれぞれ小さな町ができ、その両方が重なる場所には少し大きな町ができる。

 ここは、それらから外れたルート、外れた地点にある、まぁ、言ってみれば『ド田舎の村』である。交通量が少なく、道幅は狭く、待避場所を使わなければ馬車がすれ違うこともできない。

 それでも、山奥の限界集落とかの小村に較べれば、遥かに『文明圏』ではあるが……。

 本当の『田舎の小村』というものを、舐めてはいけない。本当の本当に、とんでもない場所があるのである、世の中には……。


 大きな街道を進むだけでは、大きな街や宿場町とかの、比較的栄えたところのことしか分からない。街と街の間、つまり小さな村々や未開の地のことも知るためには、たまに主要街道から逸れて、森や山地の村に寄り道するのも、修業の旅には必要なことであった。

 そしてそういう時に、ギルド支部がある街まで遠いから、あるいはお金がないためギルドに依頼を出せずにいる村に行き当たることがあり、それらを安い依頼料で解決し、颯爽さっそうと去っていくのが、『修業の旅』の醍醐味なのである。


 新人ハンターが心から感謝されることなど、普通の街では滅多にあることではない。なので、若手の新人ハンター達は、たまにはそういう依頼をやりたいと考えるものなのである。……日々の生活に追われ、金にならない依頼を受ける余裕などない中年の万年Cランクハンターとなって心を磨り減らしてしまうまでは……。

 そして勿論、『赤き誓い』も、そういう依頼を受けたいお年頃であった。……特に、メーヴィスとか、メーヴィスとか、メーヴィスとかは。


「お任せ下さい! 我らが……」

「考えさせて下さい」

 ふたつ返事で引き受けようとしたメーヴィスを、ポーリンが遮った。

「返事は、明日……」

「引き受けるわ」

「「え?」」

 そして更に、返事を引き延ばそうとしたポーリンの言葉を遮り、受諾の返事をしたレーナ。

 ポーリンとメーヴィスは驚いたような声を上げたが、マイルは平然としていた。レーナがそう言うのが当然だと言わんばかりに……。


     *     *


「どうして即答したのですか! 銀貨53枚なんて、相場の半額以下ですよっ! そりゃ、少しは安くしてあげてもいいですけど、世の中には、適正な相場というものが……」

 必要な情報を全て聞いたあと、正式に『自由依頼』としてハンターギルドを通さずに直接依頼を受けた、『赤き誓い』。

 村長達が帰った後で、勝手に依頼を受けることにしたレーナに対して、ポーリンが食って掛かっていた。いつもは比較的温厚なポーリンであるが、ことお金が絡むとなると、かなりうるさいのである。


「そもそも、相場よりあまりにも安く受けるハンターがいると、他のハンター達全体に迷惑がかかるんですよ! ここは、いくら値引きしても、せめてひとり当たり小金貨3枚、4人合計で小金貨12枚は貰わないと……」

「いくら交渉したって、そんなに出ないわよ」

「え?」

 修業の旅では、困っている田舎の村には少しサービスするもの。

 ポーリンも、それくらいは分かっている。しかし、銀貨53枚は、あまりにも安すぎた。そのため、せめてもう少し交渉しても、と考えたのであるが……。


「銀貨53枚って、如何にも中途半端でしょ。3枚減らして、銀貨50枚。そして、金額の提示には『小金貨5枚』って言うんじゃないの、普通なら」

「は、はい、それは確かにそうですけど……」

 レーナの指摘に、納得の言葉を返すポーリン。

「それってつまり、『銀貨がジャラジャラと53枚ある』ってことでしょ。そして、切りのいい金額にするために3枚減らしたりせず、あるだけ全部、ってことよね。

 そして更に、さっき村長が言っていた言葉。『村に危険があるわけでもないのに、無関係の浮浪児達のために大事な村の資金を使うことはできん』……」

「あ……」

「つまりそれは、村の予算じゃない、ってことよね?」

「村人達が出し合った、寄付金か。そして、ピンハネなしの、その全額……」

 レーナの言葉に、メーヴィスがそう呟いた。

「じゃあ、仕方ありませんよね。一に友情、二に信義。三に義侠ぎきょうで、四から七まで金儲け!」

「「「「それが我ら、『赤き誓い』!!」」」」

 マイルの言葉に続き、大きな声で唱和する4人。


 ……勿論、マイル、メーヴィス、ポーリンの3人には分かっていた。

 レーナが、マイルほどあからさまにではないが、立ち寄る街でいつも孤児や浮浪児達のことを気に掛けていることを。そして、なぜレーナが孤児や浮浪児達のことをそんなに気に掛けるのかという理由も。

 ……もしレーナが父親を失った時、ハンターパーティ『赤き稲妻』に拾って貰えなければ。

 そしてもし、『赤き稲妻』のみんなが殺された後、魔術師としての才能と『赤き稲妻』のみんなに教え込まれた知識と技能がなければ、レーナがどういうみちを辿っていたかということを。


 そう、『浮浪児のひとりになっていたかも知れない、ひとりの少女』にとって、現金収入に乏しいくせに、村人でもない浮浪児達のために銀貨を出し合う馬鹿達も。そのために、ハンターの小娘如きに頭を下げるお人好しも。

 皆、レーナに手を差し伸べてくれた、あの人達と同じなのであった……。



適当さん制作の、銅貨の破片捜索ゲーム『ポーリン推参ショー』が、皆さんの御意見を取り入れてバージョンアップ!

仙草探しになり、得点によりランクを表示する等、皆さんの御要望を反映!(^^)/

http://samidare.is-mine.net/noukin/02-2.html

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― 新着の感想 ―
[良い点] レーナいい子やなぁ 泣ける(T_T)
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