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345 山に潜むもの 1

「じゃあ、出発するわよ!」

「「「おお!」」」


 というわけで、次の街へと出発する『赤き誓い』一行。

「私達の戦いは、まだ始まったばかりだ!」

「はいはい……」

「私達はようやくのぼりはじめたばかりですからね、このはてしなく遠いハンター坂を……」

「うんうん……」

 マイルの台詞を、軽く流すポーリンとメーヴィス。レーナは黙殺である。

 それは、以前マイルの『にほんフカシ話』に出てきたことのある、物語の締めの台詞であった。


 ハンターギルドから支払われた、土竜の『暫定的な、最低保証買取額』の半分を受け取った『赤き誓い』は、正式な販売額が確定して残金が用意されるのを待たず、さっさと王都を出発したのである。

 全ての素材が売れて金額が確定するにはまだまだ日数がかかるため、既にこの街を出るつもりであった『赤き誓い』にとり、そのような待ち時間は『無駄な時間』なのである。

 そう、乙女の時間は短いのである、無駄にすることは許されないのであった。


 なので、最終的な精算は、まだ暫くはこの街に滞在するらしい『ミスリルの咆哮』に丸投げして、『赤き誓い』の取り分の残金は、ハンターギルドのパーティ口座に振り込んでおくよう頼んでおいた。そうすれば、『赤き誓い』のパーティ登録場所であるティルス王国の王都支部に送金されるのである。

 これは、毎回ギルド関連の全てのお金が直接現金で輸送されるわけではなく、月に1回、互いの支部同士の金銭の遣り取りを集計して、その差額分だけが実際に現金で運ばれるのである。その他は全て、数値情報が遣り取りされるだけであり、実際の支払いは互いに相殺されるのである。

 いくらギルドに喧嘩を売るような盗賊はいないとは言っても、毎回多額の現金を運ぶというような、無駄な危険を冒す必要はない。

 そのため、月に1回の現金輸送を待たずとも、入金と送金の情報が相手側の支部に届いた時点で、お金を引き出すことが可能なのであった。


 以前、マイルが『どうしてそこで、ナノちゃん達が手伝って、「不思議なギルド間情報ネットワーク」とか「キャッシュカードとして使える、謎のギルドカード」とかを普及させていないのですかっっ!』と詰め寄った時、ナノちゃんは『権限外ですから……』と、残念そうに頭を垂れた。

 どうやら、ナノちゃん達を縛る規則は、そう甘くはないようであった……。




 そして、次の街へと向かう『赤き誓い』一行であるが……。

「大分、東へ来たよねぇ。今回の旅では、どのあたりまで行く予定なんだい?」

 何となく呟かれた、メーヴィスの言葉に……。

「え? それはリーダーであるメーヴィスが考えているんじゃないの?」

「あれ? いつも、行動予定は幼い頃から旅慣れているレーナが決めることになってるんじゃあ……」

「え? 聞いてないわよ!」

「ええ?」

「「「「えええええええっっ!!」」」」




「……で、結局、『修行の旅』に出た目的は、何でしたっけ……。いえ、勿論、修行と名前を売る、というのはありますが、その他には……」

「そ、それは、そもそも、私がひとりで旅に出て、物見遊山ものみゆさんのついでに古竜達の目的の調査を、とか考えていたら、皆さんが一緒に行くって……」

 ポーリンの疑問に、マイルがそう答えたところ……。

「「「ああ、そうそう! そういえば、そんな話があったような……」」」

 ……完全に忘れ去られていたようである。

「が~~ん……」

 どうやらマイル、かなりのショックだったようである。少なくとも、自分で擬音を口にするくらいには……。


「な、何ですか、それは……」

 ぷんぷん、と頬を膨らませて怒るマイルに、慌ててメーヴィスがフォローに入る。

「ごめんごめん! そうだねぇ、もう王都を出てからかなり経つよねぇ……」

 勿論、途中で1週間くらい立ち寄ったのは、ノーカウントである。あれは、ただ『旅の間に立ち寄った街のひとつ』という扱いなので、皆は、最初の出発からの日数で考えている。

「……じゃあ、そろそろ反転して、ティルス王国に戻りますか?」

 ポーリンがそう言うが……。


「確かに、色々と経験を積んだし、勉強にもなったわ。そろそろ国に戻って、地元でしっかりした活動をする時期かも。でも……」

 そう言って、マイルの方を見るレーナ。

 確かに、旅の発端となったマイルの目的である『謎の調査』は、全く進んでいない。何の成果もないのに、無理矢理くっついてきた自分達が勝手に旅の終了を宣告するわけにはいかない。

 それは、メーヴィスとポーリンも同じ考えらしく、どうしようかと考え……る前に。

「じゃあ、そろそろ戻りましょうか!」

 マイルの元気な声が響いた。

「「「えええええ~~っ!」」」

 そして、何じゃそりゃ、という顔の、レーナ達3人。


「あ、あんた、そんなに簡単に……。いいの、あんたが旅に出たがっていた目的とやらは……」

「え? ええ。あの時、言いませんでしたっけ? 古竜の寿命から考えて、何百年、何千年単位の話かも分からないのに、人間如きがどうこうしても始まらないし、本当に興味本位で、旅のついでの暇潰し、程度のつもりでしたから。別に、それを目的にしてどうこう、なんてつもりは全くありませんよ?」

「あ、あんたは……。そりゃ、確かにそんなことを言っていたけど、それは私達に気を使わせまいとしてそう言っただけかと思うわよ! まさか、本当にその程度のことで私達と別れて……、って、じゃああんた、その程度のことで私達と別れようとしたってこと?」

「あ、いえ、その……」

 飛び火した。


 その後、少々揉めた『赤き誓い』であるが、結局、もう少しだけ東へ進み、次の滞在地で帰路について検討しようという話に落ち着いた。

「レニーちゃん、お風呂はうまく切り盛りしてるかなぁ……」

「仕切り板も付けたし、お風呂のすぐ隣に井戸まで用意してあげて、それでうまく回せていなけりゃ、宿屋を経営する資格なんかありませんよ。さっさと潰れりゃいいんですよ、そんな宿屋は!」

 マイルの何気ない呟きに、やたらと突っかかるポーリン。……どうやら、先程の件で、少々御機嫌斜めらしかった。

(((あ~……)))

 そう、『ポーリン置いていかれそうになった事件』を思い出したのであろう。……不機嫌になるのも、無理はなかった。

「「「ごめんなさい……」」」

 そして、素直に謝る3人であった……。


     *     *


「……ということで、やってきました、新進シャンソン歌手新春山村シャンソンショー!」

「……意味が分からないわよ……」

「というか、よく舌を噛まずに言えるよねぇ……」

「どこの言葉ですか……」


 そう、この国の言葉で言っては意味がないため、マイルは後半部分は日本語で喋ったのである。レーナ達に意味が理解できるはずがなかった。

 ……とにかく、そこそこの規模の山村に到着した、『赤き誓い』であった。

 そこそこの、というのは、宿屋らしきものと飯屋らしきものがある、という意味である。

 小さな、となると、外部からの客は村長の家に泊めて貰うが、勿論、たまたま立ち寄っただけの旅人やハンターとかは『お客様』ではないため、怪しい風体の者は泊めて貰えないし、そうでない場合も、お金を払う必要がある。


 とにかく、宿屋がない村には、基本的に『赤き誓い』が宿泊することはない。その村からの依頼を受けて、お客様待遇で扱われる場合を除いて。

 宿屋でもない民家にお金を払って泊めて貰い、厄介者扱いされるくらいならば、森で野営をした方がよっぽどマシである。……少なくとも、『赤き誓い』にとっては。

 他のハンター達にとっては、また判断基準が異なるのであるが、それは言っても仕方がない。

 とにかく、ここには宿屋があり、街からかなり遠いこのあたりの状況も把握し勉強するために、この村に2泊する。それが、皆の判断であった。


 そして、当然のことながら村にひとつしかない宿に部屋を取り、同じく村にひとつしかない飯屋……勿論、宿の1階部分……で夕食を摂っていると、『それ』がやってきた。

 日本でならば、初老。この世界でならば、結構な年寄り。そう判断される男性が、40歳前後の男性と共に宿の食堂部分へやってきて、真っ直ぐ『赤き誓い』のテーブルへと近寄ってきた。

 このような村で、家族持ちがそうそう外食するわけもなく、客は、『赤き誓い』以外の宿泊客であるほんの数人と、村の若者らしき男性ひとりだけであり、空きテーブルはたくさんある。

 ということは……。


「頼みたいことがある」

((((やっぱり……))))

「儂は、この村の村長の」

「「「「話は、食事が終わってから!!」」」」

 当たり前である。


「おい、この方は、この村の村長の……」

「うるさいわよ! 食事中に、ちゃんとした挨拶もなく偉そうに一方的に話し掛けてくるような奴のために、せっかくの料理が冷めるのを許容してまで相手をしてあげるような馬鹿でもお人好しでもないわよ! 出直すか、私達の視界外で待ってなさいよ!」

 何もそこまで言わなくても、と思わないでもないが、考えてみれば、『レーナの食事を邪魔した』わけである。食事には人一倍拘る、あのレーナの。


 普通であればメーヴィスが宥めそうなものであるが、こればかりは仕方がないのか、メーヴィス、ポーリン、マイルの誰もが、ただ、うんうんと頷くばかりであった。

 ……というか、レーナ以外の3人にとっても、食事とは、ただ空腹を満たすだけのものではなく、自分の能力を充分に発揮できるよう体調を保つための重要な行為であり、また、1日に3回しかない大切な楽しみの時間なのであった。


 そして、新米ハンターである小娘達より自分達の方が圧倒的に立場が上だと思っていた村長ともうひとりの男は、唖然とした顔で立ちすくむのであった……。



アース・スターノベルが、「なろう」で、「第1回アース・スターノベル大賞」をやるそうですよ!

賞金100万円、書籍化(複数巻)、コミカライズ、そしてオーディオドラマ化確約とか。

え、オーディオドラマも? 私、作って貰ってないよ!(^^ゞ

詳細は、こちら。(^^)/

https://www.es-novel.jp/esn-award01/


そして、適当さんによる、のうきんゲーム第2弾、『ポーリン推参ショー』リリース!(^^)/

http://samidare.is-mine.net/noukin/02.html

斬った銅貨の回収というより、森での薬草採取の時のような気も……。(^^ゞ

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― 新着の感想 ―
[一言] つまり規則がなければカードを作るつもりだったんですね…。ナノちゃんの残念そうな表情が目にうかんできます。
[一言] 男坂は、有名なエンディングしか見たことがないです
[一言] いーや、マイルはも一つ言ってました。いい男が見つかったら、そこで結婚して住み着こうかなと思って……。成人してないのに、ナンタルチアと思った覚えがあります。
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