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334 地竜討伐 1

「じゃあ、さっきこの街に着いたばかりなんですか?」

 地竜討伐依頼の受注処理を行い、現地へと向かいながら話をしている、『赤き誓い』と『ミスリルの咆哮』一行。

 地竜が現れた場所は、王都から徒歩2時間程度の場所である。王都にいる『赤き誓い』目当てで来た古竜達が待機していた場所なのであるから、近くて当たり前である。

「ああ。宿を取って、ギルド割引を利かせるためにAランクパーティだと名乗ったら、『竜退治の依頼を受けて下さる方々ですか!』って言われて、何のことだか分からんから、とにかくギルドに顔を出したところ、お前達がいたから、様子を見ていたんだが……」

「じゃあ、古竜の件は……」

「古竜? 何だ、そりゃ?」


 マイルの質問に答えてくれたグレンによると、どうやら本当にさっきこの街に着いたばかりで、何も知らないらしい『ミスリルの咆哮』の面々。

 なので、マイルが状況を詳しく説明してやった。


「じゃあ、宿の者が言っていたのは、この依頼の地竜じゃなくて、古竜のことかよ……。

 しかし、何だよ、そりゃ。ここのBランクの連中、その、指名依頼を受けたという奴らを除いて、腰抜け揃いかよ……」

 王都のBランクパーティといっても、上級パーティは長期依頼で遠出していたり、鍛錬のために旅に出ていたり、専属契約を結んでいたりして、ギルドに常時出入りしている数は、そんなに多くはない。なので、たまたま顔を出さなかっただけ、という可能性も、なくはないのであるが。

 事実、たまたま顔を出したあのパーティは、嫌々ではあるが、急な、そして命の危険がある指名依頼をちゃんと受けているのであるから……。


「知恵のある古竜ならばともかく、地竜なんざ、ただのデカいトカゲに過ぎん。大したことはないのになぁ……」

 そう、グレンが言う通り、地竜は、名が古竜に似てはいるものの、その能力には天と地程の差があった。ブレスは吐くものの、あくまでもトカゲ並みの知能しかなく、外皮も普通の強度であり、別に魔力で強化されているわけではない。あの、岩トカゲが巨大化したもの、とでも考えればいい。

 つまり、ただデカくて力が強いというだけであり、罠にもかかるし、大勢で少しずつ削っていけば、倒すのにそう苦労するわけではない。……Bランク以上のパーティが複数いれば。

 少しでも効果がある攻撃であれば、しつこく続ければそのうち倒せる。

 しかし、全く効果がない攻撃しかできなければ、いくら攻撃を続けても、何の意味もない。

 だから、Cランク以下のパーティだけで地竜討伐を受注するのは愚かな行為なのであった。


(駅の立ち食い蕎麦そばも、蕎麦。神田まつやの蕎麦も、蕎麦。でも、そのふたつは、たまたま名前が同じだっただけで、全然別の食べ物だ。それと同じで、古竜と地竜も、たまたま『竜』という同じ名前が付いているだけで、全くの別物だよね……)

 ぼんやりと、そんなことを考えているマイル。


「そういえば、地竜って、どんな奴なの?」

「お前ら……」

 レーナの質問に、呆れたような顔の『ミスリルの咆哮』の面々。

「普通、依頼を受ける対象については、その特性や弱点等を調べて、攻略法を……、って、まぁいい。今回は急な受注だったからな。

 しかし、滅多に出くわさないヤツについても、常日頃から、ギルドの資料で最低限の勉強はしておくもんだろうが……」

 グレンにそう言われ、少し顔を赤くして俯くレーナ。怒鳴り返さないところをみると、少しは反省しているのか。そして、少しは成長しているのか……。


「まぁ、勿論俺達も、実際に出くわすのは初めてだがな。

 古竜は勿論、地竜だろうが火竜だろうが、そうそう出くわすようなもんじゃねぇからな。ハンターの中でも、生きている竜種を見た奴なんか、殆どいやしねぇよ。勿論、俺達も含めてな。だから、俺達もただ資料を読んで知ってるだけだ。

 あ、飛竜ワイバーンは別だぞ。あいつらは空を飛ぶから、目撃しやすいからな。

 でも、それもただ『飛んでいるのを見た』ってだけで、実際に討伐した奴なんか……、って、ここにいやがったか……」

 そう言って、他の5人と共に、がっくりと肩を落とすグレン。


「まぁ、とにかく、地竜ってのは岩トカゲをデカくしたような感じで、鈍感だから、急所や顔面等への攻撃以外は、少々の攻撃じゃあ痛みを感じないらしい。だから、とにかく強力な攻撃を、弱点に叩き込み続ける必要があるわけだ。だから、飛び抜けた攻撃力があるパーティがいないと、苦戦どころじゃねぇ。下手すりゃ、全滅だ」

 グレンの説明に、こくこくと頷くレーナ達。

 まぁ、『赤き誓い』にとっては、問題ないが。


「そして、大抵は、洞窟とか大きな岩の裂け目、地面の裂け目なんかの奥に住んでいる。それと、空を飛べないことから、『地竜』と呼ばれているわけだ。飛べないだけの竜種なら、他にも色々といるからな」

 再び、こくこくと頷くレーナ達。

「そして、弱点は……」

「「「「弱点は?」」」」

「首を落とせば、死ぬ」

「「「「当たり前だあああぁ!!」」」」

 さすが、脳筋のグレンであった……。

 他のメンバー達が、馬鹿で申し訳ない、というような顔で、少し頭を下げている。


 さっきから、『ミスリルの咆哮』側は、パーティリーダーであるグレン以外、あまり口数が多くない。別に『赤き誓い』に隔意があるわけではないようであるが、少し、ぎこちない様子である。

 しかし、それも仕方ないであろう。何しろ、まだCランクになる前の、ハンター養成学校卒業前の学生達に負けた、当時Bランクだった剣士と魔術師達である。その、自分達が敗北した、20歳にもならぬ新米の小娘達に対して、どう接して良いのか戸惑とまどっているのであろう。

 特に、下手をすればレーナを殺していたであろうあの魔術師は、かなり挙動不審であった。

 あの時、もしレーナが到底養成学校の学生とは思えない程の実力を持っていなければ、確実に殺していたのであるから。レーナから見れば、卒業検定如きで自分を殺しかけた、殺人未遂犯である。それは、話し掛けづらいであろう……。


 大先輩として偉そうな態度を取るには、あの敗北の記憶が大きすぎる。かといって、こんな小娘達に下手したてに出たり対等な態度で喋るのも、何だかしっくり来ない。なので、そんなことは全く気にしないグレン以外は、自然と口数が少なくなってしまうのであった。……それも、無理もないことである。

 なので、決して、『赤き誓い』を悪く思っているわけではない。それどころか、超期待の新人パーティとして、その誕生に立ち会えたこと、そして自分達が関われたことを嬉しく思ってさえいた。

 ……ただ、ちょっと気まずくて話しづらい。それだけのことである。




「……で、修行の旅に出てから、どんな面白いことをしでかした? いいから、ちょっとおじさん達に話してみな?」

「「「「えええええ~……」」」」

 今から竜種と戦いに行くというのに、緊張感の欠片もなかった。


     *     *


「……で、じゃれあっていた古竜達に、『ちょっとした用事で来ただけで、人間達に迷惑をかけるつもりはない。もう里に帰るので、人間達にそう伝えてくれ』と言われまして……」

「「「「「「…………」」」」」」

 修行の旅に出てからの、魔族との戦い、貴族家との関わり合い、妖精狩り、誘拐団に盗賊団、変異種のオークやオーガ等についてのマイルの説明に、あんぐりと口を開いた『ミスリルの咆哮』の面々。

 これでも、ちゃんとアスカム領での話や古竜との戦い等、マズい部分は全て省いたし、話した内容も、真実ではなく、ギルド報告用に加筆修正、ちゃんと推敲し、編集済みの筋書きなのであるが……。勿論、書き下ろし短編や、特典SS等は付けていない。


「……お前らなぁ……」

 がっくり。

 それ以外の表現が思い付かないくらいの、がっくり中のがっくり、という様子のグレン。

 そして、それとは逆に、なぜか少し元気になったかのような若手剣士とふたりの魔術師達。

 ……どうやら、『こんな奴らになら、不覚を取っても仕方ない。決して、自分達が弱かったというわけではなく、コイツらが異常だっただけなんだ。……なんだ、そうだったのか!』という、よく分からない安堵感を覚えたようであった。



5日(月)、『ポーション頼みで生き延びます!』コミカライズ最新話、更新されました!


カオルもセレスも、その残念さで、アウト!

ダブルプレイで、ゲッツー!

ということで、『ゲッツー曜日』で覚えよう、『ポーション』の更新日は、月曜日!(^^)/

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